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EV進化の1つの切り札となり得る表面波通信技術

本稿では、自動車のEV化における画期的な通信技術の1つである「SurFlow」について言及する。

EVの要である銅

欧米でCセグメント以上のミドルクラスの内燃機関乗用車で使用される銅の重量は、およそ22Kg、ハイブリッドで40Kg、プラグインハイブリッドで55Kg、100%電気とモーターで駆動するEV車の場合は、80Kgに達する。商業用バスを完全なEVとした場合は、サイズにもよるが250Kg以上の銅が使われる。これには充電ステーションやその送電網は含まれておらず、バッテリーを含む車単体での量である。

車の電動化による銅需要の飛躍的な増加は、既に欧米の多くのシンクタンクが様々なデータを報告している。

2021年1月の銅の月間平均価格は1トンあたり7,972.15ドルで、およそ10年ぶりの高値圏で推移している。EV化とそれに伴うエネルギー転換が進む過程では、銅価格は下がりづらく、車の全体価格に大きな影響が出ることになる。

モーター、バッテリー、さらに駆動用の配線に使われる材料は、電気伝導性や耐久性能の厳しい条件が要求されることから、今のところ、銅に代わる材料は実用化できるものがほとんど無い。わずかな部分で、アルミが代替材料としての役割を果たすのみである。

また、快適装備、安全装置、各種センシング機能の拡充により、制御や通信用の信号線は増加の一途をたどっており、いわゆるワイヤーハーネスと呼ばれる細い被覆銅線の束は、EV化によって、車1台あたり1.6Km長を超える総延長になるといわれている。

このワイヤーハーネスは、車のリサイクルにおいて、銅回収にコストがかかる部分である。ハーネスは細長く、1本では銅の量が少ない上に、コネクタが付いている。また、リサイクルの工程上、廃プラスチックと混ざり、銅だけを取り出すとなると、コストがかかってしまう。
ワイヤーハーネスのみを取り出すためには、人の手で1つ1つ細かく解体する以外に方法がない。個別に取ることができない分は、車の車体骨格と共にシュレッダーで破砕され、プラスチックと混ざることになる。

EVで大量に銅を使うモーターには磁石があるため、シュレッダーで破砕する前に磁石を脱磁するか取り除くのが一般的である。リサイクルにはひと手間とコストがかかってしまう。
リチウムイオン二次電池の極に使われる銅も、廃電池の安全なリサイクルを行うためには、同じくコストがかかる。

このように、EVで使用量が大幅に増えることが予測されている銅は、リサイクル過程におけるコスト削減が今後の大きなテーマになることが、容易に想像できる。

銅を減らす技術

リサイクルで問題となるワイヤーハーネスを車体側で減らす技術として、プリント基板を使うことや、EtherCAT Pのような通信とパワーを1つのケーブルで行う技術がある。しかし、基板の場合は物理的な制約や設計上の複雑さの問題があり、EthereCAT Pの場合は、車載通信機器を全てEtherCATにする必要があるなど、実用化に対する課題が未だに多い。

このような背景の中で、接合技術とエンジニアリングで世界有数の研究機関であるイギリスのTWIは、金属を使わない通信技術「SurFlow」を開発している。
TWIはあまり知られていないが、新幹線のアルミボディーを摩擦攪拌接合する技術を開発していることで知られている。

SurFlowの現在の主なアプリケーション開発は、航空機と自動車である。技術の詳細は物理学的に専門性が高い内容になるため本稿では概略のみで割愛するが、リンク先の映像をいくつかご覧いただきたい。

SurFlowは、表面波(材料に沿って移動する電磁エネルギー)を通信手段として利用する技術で、プラスチックを含む複合材料(コンポジット材料)などの不活性材料を媒体として使用できることが最大の特徴である。
使用される複合材料は、片側に誘電体層を持ち、反対側に導電性層を持つものが必要であるが、これは、一般的なガラス繊や炭素繊維のコンポジット材料に、構造および使用する材料が非常に近い。

そのため、車体骨格をSurFlowに適した炭素繊維コンポジット材料で作れば、車体そのものが通信媒体になり、通信用のワイハーハーネスを削減できる。
現在の研究課題は、既存の飛行機や自動車の製造で使用されている複合素材に極めて近いものを開発することである。既存の製品製造工程をそのまま利用できるからである。

通信速度は最大3ギガビット/秒でデータパケットを伝送可能である。この速度は、通常の有線またはWi-Fiネットワークのものを大幅に超える。自動運転に対するデータ量の増大にも対応可能で、さらに、車内で大量の通信システムが作動しても、十分に対応できる通信容量を持つ。
TWIは、5GとSurFlowの組み合わせによる大きなブレークスルーを開発の目的としている。

ワイヤーハーネスの場合は切れてしまえば通信が途絶えて不良を起こすが、SurFlowの場合は表面全体が通信手段のため、一部が破損しても、他の部分で通信が可能である。

EVは電池が重いことから、車体骨格や電池の土台に炭素繊維コンポジット材料の利用が検討されている。その点も、SurFlowを採用する条件に近い。

今後、エネルギー転換によるインフラで大量に使われる銅は、価格が下がりづらく、ますますリサイクルが重要になるだろう。そして、EVのような大量の銅を使うコンシューマー製品への価格影響力は、大きくなっていくことが予測されている。

銅の代替材料や削減技術への需要は既に高まっており、この分野の技術のブレークスルーには、常にアンテナを張る必要が生じている。

【参考資料】

SURFLOW: SECURE, ROBUST, INTEGRATED DATA TRANSFER THROUGH COMPOSITES