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2021年04月23日 (金)
脱炭素化
解説

カーボンニュートラル化の鍵を握る海運と航空輸送の脱炭素化

現代の物流は、多かれ少なかれハブアンドスポーク方式を物流システムに内包しており、ハブ間の物流には大型の輸送手段が用いられる。特に国境や大陸を隔てた輸送には、大型の航空機、船舶、鉄道、貨物自動車が使われている。
国や企業がカーボンニュートラルを達成するために最大の課題の1つとなるのが、輸送手段における脱炭素化である。物流の末端でのカーボンニュートラルを達成しても、ハブ間の大型輸送で二酸化炭素を削減できなければ、サプライチェーン全体でのカーボンニュートラルは達成できない。

 

選択可能な技術や代替燃料は複数あるが、商業的に普及させるためには、未だ多くの課題が残されている。現時点では、サプライチェーンのコスト削減と技術条件の双方を満たして商業化できる解決策は、まだ目途が立っていない。この問題は、この分野で先行する欧州でも、「輸送手段を製造するメーカーだけでは対応できない、包括的な対策を要する問題」として認識されている。


例えば、航空機に搭載するエンジンをバイオ燃料で対応しようとしたとしても、農作物からバイオ燃料を製造し供給するサプライチェーンがなければ、実現することはできない。個別のプロジェクトはあっても、包括的に捉えた場合、全体の動きが遅いのが現実となっている。

しかし、法律を含む様々な規制は進みつつあり、また、いくつかのプロジェクトも行われている。本稿では、特に企業のサプライチェーンの脱炭素化に関わる航空と海上輸送部門の事例について紹介する。なお、中・大型のトラック輸送の対応については、別の機会にレポートする。

(欧州の運輸部門における脱炭素化の流れについては、本サイト2020年12月18日の記事をご参照ください。)


航空
EU政府は、2020年に持続可能な航空燃料イニシアチブ、通称 ReFuel EU Aviationイニシアチブを発表し、2021年4月~6月を目途に規制(法)案を出す予定となっている。
現在議論されているのは、持続可能な航空燃料(Sustainable Aviation Fuel: SAF)を2025年に2%、2030年に5%、2035年に20%、2040年に32%、2050年には63%使用することを義務化し、違反時の罰則も課す、という内容である。持続可能な航空燃料とは、主にはバイオ燃料である。これに加え、電気分解等から生成される「e-fuels」の使用義務も検討されており、2030年に0.7%、2050年までに25%に増加する可能性がある。
この規制がEUを発着する大陸間フライトにも適用されるのか、EU域内の短距離輸送に限られるのかは議論されており、法案を待つことになる。
これらの方針に対し、国際航空運送協会(IATA)は、SAFの義務化の大陸間フライトへの適用を急ぎすぎると、「意図しない結果が生じる可能性がある」と警告している。具体的には、SAFの価格が十分に下がらなければ、 EU以外の航空会社に有利になる可能性がある、ということである。

 

一方で、100%SAFを使用するためのプロジェクトもスタートしている。
エアバス社、ドイツDLR研究センター、ロールスロイス社、SAF生産メーカーであるネステ社は、4社で協力して100%SAFを使用するための「代替燃料の排出と気候への影響」(ECLIF3)というプロジェクトを開始しており、2021年4月から実際に飛行放出試験が行われる予定である。

エアバス社のA350-900にロールスロイス社製のトレントXWBエンジンを搭載し、燃料は100%SAFを利用する。燃料は、「HEFA( Hydro-processed Esters and Fatty Acids:水素化処理エステルおよび脂肪酸)」という「HVO(Hydrotreated Vegetable Oil:水素化処理植物油)」の一種のバイオ燃料で、さまざまな植物油脂から製造できるという特徴を持っている。
同プロジェクトでは、HEFAで製造された100%SAFの使用時と、化石燃料をベースとしたジェット燃料使用時とを比較する予定となっている。比較する項目は主に、運用上の互換性、排出ガスの詳細、粒子状物質の排出量、飛行機雲、その他環境への影響、とされている。
エンジンメーカーであるロールスロイス社は、昨年より既にエンジン単体でのテストを行っている。

ただし、SAFの価格低減やサプライチェーンの様々な問題に加え、農業作物をベースとしたバイオ燃料に対する環境団体の抵抗が強くあり、農業作物をベースとしたバイオ燃料のSAF規定には一定の基準が設けられることが予測されている。そのため、単一の農業作物から作られるバイオ燃料ではなく、さまざまな植物油脂から製造できる燃料を作る技術の開発が急がれている。

航空部門には、既にEUの排出量取引制度(EU ETS)が適用されているため、今後排出権取引価格が上昇する見込みの中で、SAFの価格がマッチすれば、需要は高まることが予測されている。

機体やエンジンの改良といった技術的な面では、徐々に目途が立ちつつあり、今後、商業ベースで実行可能になるかどうかは、排出権の取引価格とSAFのサプライチェーンに大きく依存することになりそうである。


船舶・海運
海運部門は、EU全体の温室効果ガス発生量のおよそ13%を占めている。
既に、欧州の船舶では燃料を重油からLNG(液化天然ガス)へ転換する動きが始まっており、供給港湾施設も少しずつ増えてきている。しかし、LNGによる温室効果ガスの削減量は、およそ20%に過ぎず、将来は、別の燃料やシステムへの切り替えが必要になる。

航空機同様、船舶にもFuel EU Maritimeイニシアチブが存在し、バイオエタノールやバイオディーゼルといった持続可能な代替燃料、もしくは水素やアンモニア等炭素が発生しない新燃料への移行が推進されている。特にアンモニアは、水素エネルギー密度が高いこと、液化によるハンドリングが比較的容易であることなどから、有望な新燃料候補と見られている。ただし、難燃性であることから、内燃機関に使用するためにはまだ技術開発が必要な段階である。

このような中、代替燃料や内燃機関の新技術以前に、長い間議論の焦点となっているのが、EUの排出量取引制度(EU ETS)を海運(Shipping Industry)にも適用するか、という問題である。先述のとおり、航空部門には既にEU ETSが適用されているが、海運部門には、未だ適用がされていない。

EUではエネルギー転換やサーキュラーエコノミーを促進するために、温室効果ガスの排出キャップ条件を厳しく設定し、二酸化炭素の取引価格を上げるという目論見がある。そのため、海運部門へのEU ETS適用は、避けられない規定路線となりつつある。

EUの司法裁判所は、EU ETSに海運を含めることは国際法に準拠していると判断している。さらに、EU議会もEU ETSを海運に適用することを認めており、現在は、2023年頃から適用が開始される見込みであると報じられている。

この動きに対し、海運業界は長い間猛反発している。理由は、代替技術の実用化が困難なことと、大幅なコスト増を招き、海運事業者の利益を大幅に圧迫することからである。
海運業界は、全世界のCO₂発生量のうち海運によるものはわずか2-3%であり、さらに国際海事機関(International Maritime Organization: IMO)が定める温室効果ガス削減規制にEU ETSが準拠しないという主張や、両方の規制を管理する2重規制問題を議論の核として、抵抗し続けている。

 

このような流れの中、国際的な海運事業者としては最も環境対応に力を入れているデンマークのマースク社(Maersk)は、独自の先行した取り組みを発表している。

同社は、①2050年までに自社事業からのCO2排出量をネットゼロにすること、②2030年までに商業的に実行可能な、温室効果ガスの発生がネットゼロの船舶を就航させること、③2030年までに2008年レベルと比較してCO₂排出量の60%を削減すること、の3点を既に発表している。

さらに最近では、コペンハーゲン・インフラストラクチャ・パートナーズ社(Copenhagen Infrastructure Partners :CIP)と共に、ゼロエミッションに向けてヨーロッパ最大のグリーンアンモニア生産施設の設立計画を発表している。グリーンアンモニアとは、温室効果ガスを発生させずに製造するアンモニアのことである。

同社は、メタノールとグリーンアンモニアの両方を燃料として使用できるエンジンの開発に力を入れている。メタノールは、バイオメタノール、もしくは、電気的な分解などの処理で生成されるe-メタノールを利用する、としている。
しかし、燃料の違いによる着火点や燃焼効率の違いなど、様々な技術的課題が残されていることと、燃料そのものの価格の問題があり、本当に実用化できるのかは、まだ明確になっていない。

 

また、これらとは別に、欧州委員会による「Horizon 2020」という研究プログラムが資金を提供し進められている。その1つに、「Current Direct」というプロジェクトがある。

同プロジェクトは、3年間の研究およびイノベーション・プロジェクトで、海上コンテナ輸送船のディーゼルエンジンを、交換式のリチウムイオン2次電池とモーターに変更するものである。リチウムイオン2次電池の製造コストを50%まで下げること、電池をモジュール交換式にするEnergy-as-a-Service(EaaS)というプラットフォームを構築すること、革新技術で投資と雇用を創出すること、を目的に掲げている。
しかし、こちらもあくまで研究プログラムに過ぎず、実用化に向けた動きはほとんどない状態である。

 

このように、海運部門については、未だに燃料のサプライチェーンと技術革新を見据えた包括的な動きが見られない。今後、マースク社の取り組みの成否が、1つの指標になると考えられる。


解説
欧州では、航空業も海運業も、各々の産業の脱炭素化は「包括的な問題」である、と繰り返し発言されている。
背景となる理由は、規制や法制度の設計が、実現可能な技術やエネルギーのサプライチェーンを十分に考慮されていないということにある。
例えば、農作物を原料にしたバイオエタノールやバイオディーゼルの供給には、ますます厳格化されるデューデリジェンス規制の問題がある。燃料需要の増加のために、新たに森林を伐採して農地化することは困難である。

現時点では、多くの欧州企業が、実用化の方向性を模索している、というのが本音である。先述のとおり航空産業では、SAFの供給網整備や機体のアップデートが必要になるが、新型コロナウイルスの影響もあり、投資意欲は高くない。

一つ明確なことは、EU ETSによる将来の二酸化炭素の価格上昇が、次のステップに投資する動機づけになる、ということであろう。

 

【参考資料】
S&P Global Plattsの試算によるEU ETS適用後の海運業の収益変化

グリーゼ財団によるコンテナ海運業者の持続可能性ランキング

EUによるCurrent Directプロジェクトの内容

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