サーキュラーエコノミー

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2023年02月28日 (火)
サーキュラーエコノミー
解説

持続可能なビジネスモデルへの転換が急務となる繊維・ファッション産業

2018年の国連の報告によれば、繊維・ファッション産業は、農業、製造業、輸送業、化石燃料を原料とする化学物質のそれぞれを利用することで、世界の温室効果ガスの約10%を排出している。
温室効果ガス発生量が多い理由は、長いサプライチェーンとエネルギー集約型の生産が原因である。繊維・ファッション業界のエネルギー消費量は、世界の航空と海運を合わせたものよりも多く、ジーンズ1本で使用される綿約1キロを農場で育てるには、平均すると1万リットル近い大量の水を必要とし、さらに、バリューチェーン全体で発生する排水量は、世界の廃水の約 20% を占めると報告されている(*1)。

 

現在、繊維・ファッション業界は、年間約1,000億個の製品を生産しており、一方で、廃棄される繊維製品は毎秒トラック1台分にもなるといわれている。製品の約85%は使用済み後、最終的には埋め立てられるか、再利用可能な状態のものも、多くが焼却されている。実は、繊維・ファッション業界は、非常に環境負荷の高い産業であることが報告されているのである。

ファッション業界による繊維生産は、2000年から2015年の間にほぼ2倍になり、衣料品と靴の消費量は 今後、2030年までに63%増加すると予想されている。この要因の1つは、経済成長と人口増加以外に、ファストファッションが国際的に一般化したことである。

 

このような背景があり、2022年3月、欧州委員会は2030年までに繊維・ファッション産業を持続可能なものとするための包括的な戦略を発表した。これは、「持続可能で循環的な繊維のための EU 戦略」と題して採択された規制の概要である。この戦略では、繊維製品のライフサイクル全体を対象とするいくつかの対策案が提起され、2023年内には具体的な規制が発表される予定で進められている。それらの提案には、下記が含まれている。

 

• EUデジタル製品パスポートへの採用
• EU拡張生産者責任 (EPR) 規則との調和
• 繊維・布地からの(意図しない)マイクロプラスチック流出対策
• リサイクルの必須値を含む設計要件
• グリーンウォッシングの厳格な管理
• 2030年の目標を達成する移行期間の方法

 

これらの提案について、現在、関係する規制が整備されている。最近の例では、2023年2月24日に「繊維製品表示規則の改正」に関するアップデートが掲載され、7月の議会での上程が計画されている(*2)。

大きな影響があるものには、以下が含まれる。

 

EUデジタル製品パスポート(DPP:Digital Product Passport)
今後の規制によって、製品の「デジタル製品パスポート」が繊維・ファッション産業にも採用される予定である。繊維・ファッションの各企業(ブランド)は、現在行われている「自主規制」から、自社製品の影響を測定する法的責任を負うことになり、より厳しい対応が必要になる。情報はQRコードに格納され、製品の起源、製品の移動履歴、水の使用量、構成要素、修理、二酸化炭素排出量、リサイクル条件、さらにはデューデリジェンスに伴う工場の従業員の状態などを含む多数の情報を、消費者と企業の両方が追跡可能とする計画である。

 

拡大生産者責任 (EPR)
EPR は、製品のライフ サイクル全体の生産者責任を規定するものである。今後、廃棄物の回収やリサイクルにより環境影響を軽減する規定が盛り込まれると伝えられている。EPRは、既にフランスとドイツで施行されており、他のEU諸国でも今後施行される予定である。

 

EUデューデリジェンス指令
現在も指令案を協議中であるが、企業に対し、事業活動およびサプライチェーンの全ての段階で、環境、人権、統治機構に対する公平性を担保することを求めるものである。繊維・ファッション産業では、特に綿花の生産や衣料の製造における人権や環境負荷が問題視されている。

 

企業持続可能性報告指令 (CSRD)
2023年1月5日に発行したCSRDは新しいEU規制で、大企業が対象となり、気候変動やその他の持続可能性の問題から生じるリスクを評価する情報を、企業が投資家に提供するものである。財務諸表のように、定期的に報告書を発行する義務が生じる。報告は、European Sustainability Reporting Standards (ESRS) に従って作成する必要がある(*3)。

 

EU 産業排出指令
EU の化学関連施設約 3,000ヶ所、繊維産業関連工場300ヶ所を対象としたEU 産業排出指令の、新しい基準値の規制である。繊維産業に関する変更は、特に、撥水性などの特性を繊維に備える為の漂白、染色、仕上げ処理を含む、繊維の湿式加工に関係しており、ホルムアルデヒド、全揮発性有機化合物 (TVOC)、粉塵、大気又は金属排出のためのアンモニアを含む20以上の大気・水汚染物質を対象としている(*4)。

上記は欧州の規制であるが、米国のニューヨーク州でも「ファッションの持続可能性と社会的説明責任に関する法律(通称「ファッション法」)」が2022年1月に発表され、複数の州で徐々に規制が進む傾向にある。


解説
2023年2月22日、スウェーデンの多国籍ファッションブランドH&Mグループは、ドイツの廃棄物管理大手企業 Remondis SEと、不要な衣類を収集、分類、販売する合弁会社Looper Textileを設立すると発表した。この動きは、欧州で今年繊維・ファッション業界を襲うといわれる、上記のような厳しい規制に対応し、ビジネス・リスクを事前に回避する為の施策の1つである。

 

プラスチックのサーキュラ―エコノミーの事実上の民間デファクトスタンダードを提供し、国連環境計画とも歩調を合わせている英国のエレンマッカーサー財団も、一昨年より繊維・ファッションのサーキュラ―エコノミーを集中して特集し続けてきた。今までほとんど持続可能性への規制が行われてこなかった繊維・ファッション産業にとっては、多岐にわたり複雑な規制の網が掛けられることになり、業界の各企業にとって大きな負担となることが予想されている。

中でも、今後最も影響を与える規制は、拡大生産者責任(EPR)といわれている。欧州で政策担当者がサーキュラーエコノミー規制の切り札として常に言及し、業界団体と対立してきたこのEPRは、採用を機にメーカーのバリューチェーン全体の再構築を促すことになる。

 

2023年2月2日、米国ワシントンDCのNGOであるThe Recycling Partnershipは、世界の7地域(法域)と米国の 6 つの州における 包装廃棄物のEPRの 影響についての調査結果を発表した。調査結果は、EPR の実施がリサイクル率を大幅に高めることを示していた。
これは、欧州でのサーキュラーエコノミーの切り札がEPRである、という政策立案者の立場を後押しするものになっている(*5)。

欧州の繊維・ファッション業界は、持続可能なビジネスモデル創出によるサーキュラーエコノミーへの対応が、喫緊の課題となっている。

 

【参考資料】

UN Helps Fashion Industry Shift to Low Carbon(国連)(*1)

Revision of textile labelling Regulation(European Economic and Social Committee)(*2)

Corporate sustainability reporting(欧州委員会)(*3)

New EU environmental norms to make chemical and textile industry plants greener(欧州委員会)(*4)

Study of Extended Producer Responsibility Policy Across 7 Jurisdictions Worldwide Shows it Dramatically Increases Recycling Rates(*5)

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