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2020年12月18日 (金)
脱炭素化
解説

欧州の運輸部門における脱炭素化の流れ

 

本稿では欧州の運輸部門における脱炭素化について、代替燃料に焦点を当てて紹介する。

 

いまだ増加傾向にある運輸部門の排出量

欧州委員会によるグリーンディール政策において、最も困難な取り組みとして運輸部門における脱炭素化が挙げられる。欧州では船舶や航空を含む運輸部門の温室効果ガス排出量が全体の4分の1を占めている。その中でも特に道路輸送の排出量は運輸部門の70%を占めており、都市部では大気汚染の一番の原因となっている。自動車の燃費効率は向上しているにも関わらず、移動や貨物運送のための車両の需要は依然として高く、運輸部門では他部門のように排出量を削減することが未だできていない。

 

欧州の道路を走る3億台のうち、大部分を占めているのは内燃機関を有するガソリン車やディーゼル車である。欧州自動車工業会(ACEA)の統計によると、2019年に販売された車のうち97%が内燃機関を有している。また、欧州連合(EU)の気候目標・計画の影響調査では、2030年も80%の車両が内燃機関を搭載しているという見通しを立てている。

 

欧州で進むクリーンモビリティへの動き

EUは、パリ協定におけるコミットメントを果たすことを目的として、2016年に①輸送システムの効率向上、②代替エネルギーの促進、③ゼロエミッションへの移行という3つの柱を中心とする、広範囲な分野での戦略「低排出モビリティに向けたEU戦略」を発表した。その翌年にはクリーンモビリティを普及させるための長期戦略「Europe on the Move」を発表し、8つの立案とともに具体的な施策を打ち出した。この施策は3段階にわたって公表され、2018年に公表された第3次パッケージでは、EU内での自動車用バッテリーの開発・製造の戦略的行動計画と、ネットワーク接続や自動運転に関する戦略などが盛り込まれ、電気自動車を用いた成長戦略と脱炭素化を明確に示している。

 

こうした流れの中、EUは二酸化炭素排出量の規制を強化し、これまで130gCO₂/km以下とされてきた新車(乗用車)の企業別平均CO₂排出量を、2021年までに95gCO₂/km以下とする新たな目標を設定。この規制は段階的に開始され、2021年1月から全ての新車乗用車が対象となる。

 

代替燃料

欧州では代替燃料に関する規制が定められている。EUの燃料品質指令(FQD)は、運輸部門の温室効果ガスの排出削減量を定めたものである。EU加盟国は2020年までに2010年の化石燃料の温室効果ガス排出量を基準として、最低6%削減することを目標としている。この排出量は、Well-to-Wheel(油井から車輪までという意味で、燃料となる資源の採掘から走行時までのエネルギー効率)の指標を用いた、ライフサイクルでの排出量の評価を義務付けている。また、再生可能エネルギー指令(RED)は2030年までに再エネが占めるシェアを全体で32%にするというもので、道路と鉄道輸送における再エネの供給の割合を各加盟国で14%以上にすることが求められている。

 

電気自動車

ヨーロッパ各国では、2030〜2040年に内燃機関自動車(ガソリン車/ディーゼル車)の販売を禁止し、電気自動車(EV/プラグインハイブリッド車(PHV))の販売に限定する方針を打ち出している国が多い。減税や公共の駐車場を無料で使用できるという特権まである地域もある。さらに2019年にはヨーロッパで電気自動車の生産やバッテリーへの投資額が、2018年から19倍と跳ね上がり、官民合わせて600憶ユーロ(約7.5兆円)に上っている。ドイツが大半を占めており、その多くはヴォルクスワーゲンとテスラによるものだ。EUは、2030年の自動車の二酸化炭素排出量を2021年比で37.5%減らす規制案をまとめており、燃費改善だけでは達成できる見込みがないため、電気自動車の普及が加速するとみられている。

しかし、インフラ設備の遅れや車両価格の高さの問題により、電気自動車が主流となるのは2030年以降と予測される。その間、道路ではガソリン車やディーゼル車が走り続けることとなり、欧州ではより現実的な政策が必要となる。

 

バイオ燃料

欧州自動車工業会(ACEA)と欧州の代替燃料生産者と供給者であるUPEI(欧州の独立系燃料供給事業者組合)、液体ガスヨーロッパ(欧州のLPG関連産業組合)、ePURE(欧州再生可能エタノール協会)、EBB(欧州バイオディーゼル委員会)は、排出量を削減するためにエタノール、バイオディーゼル、バイオガス、液化石油ガス(LPG)など、温室効果ガス対策に一定の効果が認められている代替燃料の必要性を強調している。これら代替燃料は、すでに商用化されており、電気自動車のような大幅なコスト負荷がなく利用でき、喫緊の課題である気候変動への対応に現実的なアプローチであるとしている。

バイオ燃料は生産規模が少ないという課題があるものの、既存の燃料補給のシステムやインフラのまま直ちに使用することができ、長距離輸送にも向いている。ちなみに、バイオマス燃料はサトウキビやトウモロコシなどの作物からできているが、その生産は土地利用の変化を引き起こし、結果的にライフサイクルGHG排出量を増加させてしまう可能性がある。バイオ燃料用作物の生産により、食用として栽培されていた作物が別の土地で栽培されることを「間接的土地利用の変化(ILUC)」と呼ぶ。EUではREDに基づき、この食用作物を原料とするバイオ燃料を再生可能エネルギーとしてカウントできる割合に7%の上限を設けた。そしてILUCリスクの高い原料を2030年にゼロにするため、2024年以降徐々に減らしていく予定だ。食用作物以外から生産されたバイオ燃料については、2030年までに割合を3.5%まで引き上げる目標が設けられた。

再生可能エタノールはガソリンと比較して平均72%も温室効果ガス排出量を削減し、バイオディーゼルはディーゼルと比較して50~90%の大幅な削減をもたらすという。バイオ燃料のガソリンに投入する混合比率は最大10%程度までなら、自動車メーカーによって支障がないと保証されるケースが多く、運輸部門における温室効果ガスの排出量削減手段として、バイオ燃料は即効性があると言える。EUでは現在、第2世代のバイオ燃料(食用作物以外から生産)の開発、市場への促進、流通や管理システムの改善が進められている。

 

水素燃料電池

EUは今年7月、欧州グリーンディールの一環として「欧州の気候中立に向けた水素戦略」を発表した。水素の二酸化炭素排出量はほぼゼロであるものの、一般的な製造方法において化石燃料から水蒸気を用いて水素を生産するため、自動車に使用する際には結果的にディーゼルの2倍の二酸化炭素を排出することになる。今回の水素戦略では再生可能エネルギーを使用して生産された水素を対象としているが、この方法だけでは十分な水素を生産できないため、化石燃料由来の水素でも、その生産過程で温室効果ガスの一部を回収する過程を含めば推進対象となる。水素戦略の2050年までのロードマップでは、再生可能な水素の電解槽の設置規模と再生可能な水素の生産量を、2024年までに少なくとも6GWと100万トン、2030年までに40GWと1,000万トンに、それぞれ引き上げることを目標としている。2030年以降は航空や運送業などの脱炭素化が難しい部門に大規模に展開していく予定だ。道路交通においては、現時点では電気の方が効率的なため、充填時間が短い燃料電池は長距離トラックやバスの代替燃料として考えられている。

 

代替燃料供給のインフラ整備

運輸部門で代替燃料を普及させるにあたり、インフラ整備が課題となっている。EUでは2014年に施行された「代替燃料供給インフラの展開に関する指令(AFID)」を改定する方向で動いている。AFIDはEU共通の枠組みを定めたもので、十分な数の代替燃料供給・充電ポイントを利用可能にするための計画を加盟国に求めたものである。しかしインフラは未だ発展段階となっており、各国によってばらつきがみられていた。

 

欧州グリーンディールでは、EU内における2025年までのゼロエミッション車または低排出ガス車の普及は1,300万台と予想しており、そのために100万カ所の供給所や充電ポイントが必要になるとしている。しかし、2019年の時点で、電気自動車用充電ポイントは167千カ所、天然ガス自動車用の供給所は3,727カ所、水素自動車用の供給所は113カ所となっており、今後の拡大が急がれる。このインフラの拡充により、低排出車両の更なる普及へとつながる。

 

今年5月に発表された新型コロナウイルスからの経済復興計画では、欧州グリーンディールを中心とした脱炭素化に重きが置かれている。低炭素モビリティの促進や代替燃料インフラの拡張も含まれており、運輸部門における脱炭素化が更に進むと期待される。

 

【参考資料】

■Alternative fuels are essential to delivering the Green Deal

■Electric road vehicles in the European Union (European Parliament)

■EVシフトを加速させ経済成長につなげるEUの取り組み (EU MAG) 

■Clean mobility: New CO2 emission standards for cars and vans adopted (EU)

■Record €60bn investment in electric cars and batteries in Europe secured last year (T&E)

■EUにおけるバイオ燃料政策 (農林水産省)

■Towards a revision of the Alternative Fuels Infrastructure Directive (European Parliament)

■International Transport Forum https://www.itf-oecd.org/sites/default/

■欧州委、水素技術の実用化と普及に向け戦略を発表(JETRO)

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