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サーキュラーエコノミーへの道のりを再考する【第3回】

 本稿の第1回目と2回目は、サーキュラーエコノミーの現状と6つの課題についてそれぞれ紹介した。最終回となる今回は6つの課題に対応するためのアクションについて紹介する。

<サーキュラーエコノミーへ移行するための政策措置>

 サーキュラーエコノミーを成長させるためには、市場における供給側の課題の解決策として政策的介入が必要となる。政策によりサーキュラービジネスの競争性を高めることで、新たなビジネスチャンスが生まれ、結果的に市場参加者がよりサーキュラリティ―を求めるようになる。

アクション1.「負の外部性」への価格付け

 製品を製造する際の環境に与える影響が価格に反映されておらず、バージン素材を使用したほうが費用が安くなっているのが現状だ。リニア型とサーキュラーエコノミーの競争条件を平等にするためには、環境破壊に関連するあらゆる費用を含んだ「環境コスト」を市場価格へ内部化することが必要だ。そうすることによって環境にやさしいグリーン製品に対する環境コストが高い製品の相対価格が上昇し、グリーン製品の購入やイノベーションが活発化する。サーキュラー製品はリニア型と比べて環境にやさしいものが多いことから、外部性への価格付けはサーキュラーエコノミーにとっても有利に働くことになる。

最も効果的なものに課税する

 外部性の問題を解決する政策手段として、課税、補助金、規制がある。以下は、一般的に最小の費用で効果があるとされる方法である。

 汚染活動へ課税することにより、汚染を回避するために製造者はより低価格な解決策を探るようになる。規制も製造者が順守する場合のみ効果があるが、違法行為やずさんな管理などにより、汚染を減少させる効果は薄い。

 環境コスト分の価格が商品に上乗せされても、消費者行動が変わらず、消費者が価格に影響を受けない場合がある。このような場合、規範または禁止令等の規制が効果的である。ただし禁止令を導入する場合、対象となる製品の代替品がより環境に悪影響を及ぼさないことが重要だ。過去の事例として、オゾン層保護のために禁止されたクロロフルオロカーボンだが、その代替品として温室効果ガスであるハイドロクロロフルオロカーボンの使用の発展につながったことがある。

 環境にやさしい代替品へ助成金を出すのではなく、汚染活動へ課税するほうが効果的である。代替品へ助成金を出すことにより、現製品を含めた全体の需要が上がるケースがあるため、環境へプラスとなる影響は限られてくるのだ。

 最終消費者から税を徴収するのではなく、汚染を起こした企業を対象にその影響分に対し徴収する。

しかし理論を実践するのが複雑な状況

・環境の外部性を市場価格に組み込むのは難しい:外部性の費用が適切に把握できておらず、予測がかなり不確実なためである。

・有効性とコストのバランス:商品の原料や最終製品と比べると、汚染物質を出す汚染者に環境コストを直接負担させることは、汚染者の監視や評価が難しく、コストもかかる。汚染者への課税は効果的であるが、政策の効果と行政のコストバランスが悪くなるのだ。

・協働はより効果的だが複雑である:今や多くのバリューチェーンが国際化しているという事実から、国内の消費に関連した外部性は、海外に影響を与えるため、一ヶ国のみの課税政策は効果的ではない。もう一つの欠点としては、国内レベルの政策のみの場合、環境に対する規制がより緩い国でビジネスを広げようとする企業が出てきてしまうことにある。国際的に定められた環境政策は、より効果的ではあるが、一方で、導入に時間がかかり複雑であるという一面がある。

アクション2.サーキュラーエコノミーのコストを低減するイノベーションを促進する

 サーキュラーエコノミーの取引・運営コストが高いという課題があるが、国の政府機関、自治体、国際機関において政策の策定・施行に関与する政策立案者が、そのコストを低減するイノベーションを後押しすることにより解決できる。以下はその例である;

・プラットフォーム技術で情報コストを抑える。ITのプラットフォーム技術により、余分な廃棄物の流れと再利用素材や製品の需要をマッチさせることで、情報収集や分析などにかかるコストを抑えることができる。

・ブロック工法の製品デザインで取引コストを低減する。ブロック工法とは、製造時にいくつかのパートに分けて製造し最後に組み立てるという製造方法である。この方法を製品のデザインに取り入れることで製品のパーツごとの再利用性を高め、取引コストを低減することができる。

・新たなビジネスモデルがサーキュラー戦略のインフラを向上させる。例としてオランダの国際的なプラットフォーム「Mafaster」がある。この会社は不動産分野において、資材の再利用を促進するために、使用した建築資材をデータ化し追跡する「マテリアル・パスポート」を発行し、その図書館的な役割を果たしている。この新たなプラットフォームにより、不動産分野での材料の起源を追跡するコストを削減することができる。

ミッション重視のイノベーション

 経済学者であるマリアナ・マッツカートは、企業がイノベーションを起こす際の、政府の構造的な役割を強調している。政策立案者が明確なサーキュラーミッションを定義することにより、コストを低減する新たなアイデアが企業から生まれるという。ここで重要なのは、ミッションに目標を達成するための指標がはっきりあるということだ。さらに、条件付きの補助金や融資等の金融の手法と、行政と民間が連携して質を向上させる官民連携(PPP=Public Private Partnership )やサーキュラーエコノミーの調達基準の制定等の金融以外の手法がイノベーションを発展させるために必要である。

バリューチェーンの協働を促進

 サーキュラーエコノミーにとって、バリューチェーンやバリューチェーン間でのサプライヤーの協働は鍵となる。政策立案者は、分野ごとではなく、問題に焦点を当てたミッションを明確にして、バリューチェーンの参加者がお互いに協働するよう促すことが必要となる。例えば、2030年までに100%カーボンニュートラルな自動車の製造を目指すより、100%カーボンニュートラルな社会を目指すという目標のほうが、自動車産業だけでなく、複数の分野が協働できる目標となる。

アクション3.知識の普及と「ナッジ」

 環境税や改革政策を導入するにあたり有効性を高めるため、消費者と生産者の間でサーキュラーエコノミーの知識を普及させることが重要である。サーキュラーエコノミーの概念は現状サステナビリティ専門家の分野だけで、一般的に広まっているとは言えない。消費者の興味や認識が欠けていたり、企業のサーキュラーエコノミーに対する姿勢が消極的な場合、サーキュラーエコノミーの市場規模は小さいままにとどまってしまう。

 さらに、人々を望ましい行動へと誘導する行動経済学の手法である「ナッジ」も重要になってくる。「ナッジ」は人々を特定の方向へと導くが、選択の自由はその人々にある。例を挙げると階段へと誘導する足のマークがそうだ。マークを描くことで階段の利用を促しているが、階段の利用は強制ではなく自発的なものになる。この知識の普及と「ナッジ」がサーキュラーマーケットを開くための需要拡大へとつながる。そしてビジネスにとってはサーキュラービジネスのビジネスチャンスへとつながる。

<サーキュラーエコノミーへの融資を促進する政策措置>

アクション4.スタートアップ企業へのリスクキャピタル

 従来のビジネスモデルと比べると、サーキュラービジネスはこれまでの実績がないため、イノベーションリスクが高くなる。そこで、政策立案者はサーキュラーエコノミーのスタートアップ企業への投資資金である、リスクキャピタルを増加することで、二つの方法でサーキュラーエコノミーへの融資を促進することができる。

・サーキュラーエコノミーの民間融資もしくは投資に対して保証を与え、間接的に融資を促進する方法。

・サーキュラーエコノミーへ直接融資する、もしくはサーキュラーエコノミーのスタートアップ企業へ直接投資する方法。サーキュラーエコノミーにおけるイノベーションは、例えばビジネスモデルや組織の改革など、ソフトである場合が多い。そのため現在ある公的なイノベーションファンドの条件が、技術改革(ハード)のみの場合、見直す必要がある。

アクション5.リスクモデルに環境やリニア型経済の側面を組み込む

 リニア型のリスクと環境に与える問題は金融機関の意思決定に完全に組み込まれておらず、これらリスクに対する既存の評価手段を改善することが必要となる。そうすることで、サーキュラーエコノミー系ベンチャー企業に対する金融機関の関心を高め、融資を促進することができる。

・ポートフォリオの調整:配分比率をリニア型からサーキュラー型へと大きくシフトすることは環境負荷を減らすことにつながり、リニア型による環境負荷が業績に及ぼす悪影響を低減することになる。

・個別の投資判断:サーキュラービジネスは従来のビジネスと比べて、風評リスクにさらされることが少ない。また、環境に関する法律が厳しくなる中、サーキュラービジネスにはその法的なリスクもほとんどない。

リニア型リスクモデルのデータへの投資を推進する

 金融機関が環境を考慮したリスクモデルを構築しない理由に、データの少なさがある。政策立案者は、例えば企業に対して環境面の開示要請を広げるなどし、情報開示やデータの質への投資を促進することでこの問題に対処することができる。例としては、近年欧州委員会によるサステナビリティ情報の開示要請の導入がある。

視点を長期へシフトさせる

 リニア型リスクを投資判断に組み入れることを促すもう一つの施策として、短期主義的な金融機関の視点を長期へと向けるガバナンスの調整がある。例えば、保険会社が保険金の支払いという役割を適切に行うために、保険会社に対して行う監督をソルベンシー規制というが、EU諸国では長年議論されていた保険業に関する規制の調和(ソルベンシーⅡ)が2016年から施行され、より長期的な投資を可能にした。

 また、貸し手にリニア型ビジネスの法的なリスクを考慮させることによって、環境規制の将来的な厳格化の可能性を視野に入れ、長期に焦点を当てることを促すのも一つの方法だ。

アクション6.金融機関はPaaSモデルの個別のソリューションを開発する必要がある

 PaaSモデルでは、政策ではなく金融機関による新たなソリューションが必要となる。サーキュラービジネスの5つのモデルの内、PaaSモデルの金融リスクは従来の販売型モデルと全く違うものとなる。前項で述べたPaaSのリスクを扱うための、新たな金融ソリューションを開発する必要がある。特にPaaSビジネスにおける使用リスクは前例が少なく、これらのビジネスに融資する重要な壁となる。

使用リスクを軽減するソリューション

 PaaSビジネスへの融資において考えられるソリューションは企業間取引(B2B)と一般消費者を相手にした取引(B2C)で異なる。

・B2Bでは、将来のキャッシュフローへ担保を与える法的な「契約」によって使用リスクを軽減できる。この契約によって会社にではなくプロジェクトへ融資することでプロジェクトベースの融資モデルを当てはめることができるのだ。この融資モデルでは企業評価の際に、過去の財務状況ではなく、将来見込まれる収益に注目した、キャッシュフロー予測をベースとすることとなる。契約から得られる将来のキャッシュフローの担保は、より長期の契約の方が高くなり、B2Bでは長期契約が主流なことから、プロジェクトベースの融資モデルはB2BのPaaSモデルのソリューションとなる。

・B2Cでは、短期の契約が主流となっており、将来のキャッシュフローへの担保が限られている。この場合は「保証」がソリューションとなり得る。例えば、資産の製造者がPaaSの事業者によって売れなかった資産を買い戻すという合意を取り付けることにより、その契約が保証となる。

 PaaSビジネスの融資は個別のアプローチが必要であり、より労力やコストがかかるため、過去の経験や関連性のある類似モデルを特定するのも一つの方法である。また、融資する上でサーキュラーエコノミーに関する知識は不可欠なため、従業員のトレーニングとエンパワーメントも必要となる。金融セクターはサーキュラーエコノミーへと移行する際に必要となる協働を確立させるために、サーキュラーエコノミー成長の触媒として機能し、バリューチェーン内およびバリューチェーン間の広範なネットワークにより、循環型バリューチェーンへの移行を促進することができるのだ。

 全三回にわたりサーキュラーエコノミーへの移行に関するハードルやアクションを紹介してきた。今後移行を加速させるためには、サーキュラーエコノミーとリニア型経済の競争条件を平等にするための政策の役割、そして企業や金融セクターによる、サーキュラリティへの協働の取り組みが不可欠となる。

【参考資料】

Rethinking the road to the circular economy, ING Economics Department