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プラスチック廃棄物のケミカルリサイクル神話

ロイターによる特別レポート「リサイクル神話」

2021年7月末、ロイターが「リサイクル神話(THE RECYCLING MYTH)」という特別レポートを発表した。
同レポートは、世界各地で行われているプラスチック廃棄物の高度なリサイクル(以下「ケミカルリサイクル」)の実態を調査したもので、その調査対象は、先進リサイクル企業20社による30のプロジェクトである。さらに、石油化学系の業界関係者、リサイクル企業のエグゼクティブ、科学者、政策立案者、アナリストを含む40人以上にインタビューした結果をまとめたものである。

詳細については同特別レポートをお読み頂きたいが、ポイントは次のとおりである。

プラスチック廃棄物のケミカルリサイクルプロジェクトのほとんどは、国際的な大手石油・化学系メーカー、またはプラスチックを多く利用する家庭用品メーカーが、小規模な新興リサイクル・テクノロジーメーカーと提携し、その技術を利用して公的援助を受けて実施されてきた。しかし、そのうちほぼ全てが商業ベースでは成功しておらず、ほとんどのプロジェクトは規模を拡大できずにいるか、中止されている、というのである。


CHEM Trustによるレポート「ケミカルリサイクルの現状」

また、ロイターのレポートが発行される半年前の2020年12月、英国とドイツの共同慈善団体であるCHEM Trustが、プラスチック廃棄物のケミカルリサイクルの研究レポートを発表している。このレポートの調査と作成は、英国の環境コンサルタント会社Eunomiaによって行われたものである。このレポートの内容は、欧州連合のライフ・サポート・プログラムによってサポートを受け、欧州のプラスチック政策の立案にも影響力のあるゼロ・ウェイスト・ヨーロッパ(Zero Waste Europe(ZWE))によっても大々的に報じられた。

研究レポートは「ケミカルリサイクルの現状(Chemical Recycling: State of Play)」という表題で、74ページに及ぶ詳細なものとなっている。レポートでは、現在行われている3種類のプラスチック廃棄物のケミカルリサイクル技術について、科学および商業的な見地から調査されており、主な趣旨は以下のとおりである。

まず、溶剤を利用して廃棄プラスチックを精製する技術(solvent purification)は、PVCやPS等の非常に限られた種類のプラスチック廃棄物にのみ有効である、としている。この技術では、プラスチック廃棄物から特定の有害化学物質を除去することができる。ただし、再生材料となるプラスチックを劣化させやすく、複数回のリサイクルにより製品の品質劣化が起こる可能性が高い。また、リサイクル工程でのエネルギー消費が非常に多いという課題がある。

次に、プラスチック廃棄物を「化学的に解重合」する技術(Chemical de-polymerisation)は、PET やポリエステルのリサイクルでは有用となる可能性がある。しかし、高効率でリサイクルするためには、クリーンで均質な廃棄物を投入する必要があり、さらに事前の機械的選別と洗浄によりエネルギーを消費するという課題がある。PETボトル等は、預金返還基金システムで均質な廃棄物を収集する仕組みと機械的リサイクルがすでに確立されつつあり、この化学的な解重合によるリサイクルが商業的に競合できるエリアは、非常に限定的になると考えらえる。

プラスチックのケミカルリサイクルで最も一般的な方法である「熱解重合(いわゆる「熱分解」:thermal de-polymerisation 又は pyrolysis)は、「油化」を行うための方法としては確立している。しかし、油化したプラスチック廃棄物=「熱分解油」をプラスチックの原料として使用するには、幾つかの精製工程が必要になるか、または混合比を調整して未使用の石油原料と混合する必要がある。精製工程で発生する廃棄物には有害物質が含まれる可能性が高く、処理費用にコストが掛かる。混合プラスチック廃棄物は熱分解で処理できる、という主張は「理論的には正しい」が、熱分解油をそのままプラスチック製造に再利用することはほぼ不可能で、歩留まりや製品の安全性は精製工程に依存する可能性が高い。そのため、熱分解する前に機械的なリサイクル(選別)により廃棄物の均質性を上げ、さらに洗浄する工程が必要になる。したがって、この方法もまた多大なエネルギーを必要とする。

結論として、「プラスチックのリサイクルに革命を起こす」と言われることが多いこれらのケミカルリサイクル技術は、実際にはかなりのエネルギーを消費する上、均質なモノを投入するために事前に機械的な選別を必要とし、さらに有害化学物質を取り除くための工程が必要となるなど、解決すべき様々な問題を抱えていることを伝えている。


大手企業によるケミカルリサイクル参入が続く背景

こうした課題があるにも関わらず、大手の石油や化学メーカーのケミカルリサイクルへの参入が続いている。

2021年の第3四半期だけでも、米国の大手石油会社であるエクソンモービル(Exxon Mobil Corp)によるテキサス州での大規模なケミカルリサイクル工場の計画、フランスの大手エネルギー会社であるトタル(Total Energies)による子会社Synovaを通じた PPのケミカルリサイクル倍増の計画、さらに米国の大手化学メーカーであるダウ(Dow)による、総投資額30億ドル(約3,300億円)をかけたケミカルリサイクルを主とした高度リサイクル施設の米国と欧州での設立計画など、大手企業によるケミカルリサイクルに関する大規模な計画の発表が続いている。

では、先述のように商業的成功が困難で、かつ課題の多いプラスチック廃棄物のケミカルリサイクルに、なぜ大手の石油・化学メーカーが投資を加速させているのか、この点を理解することが重要となる。

理由は大きく分けて3つある。
1つ目は、投資家を満足させ(すなわち企業価値を上げる)、さらに公的補助金を得るためという資金面の理由、2つ目はリサイクル材料の利用による温室効果ガスの削減、そして3つ目は、企業のサステナビリティ戦略である。

これら3つの要素は、それぞれが緊密に関連しており、ESGやサーキュラーエコノミーの機運の高まりの中、企業価値向上のための最重要課題となっている。プラスチック廃棄物のケミカルリサイクルには確かに課題が多いが、その課題を超える投資価値があると企業は認識しているのである。さらに、石油化学系のメーカーにとっては、よりケミカルリサイクルしやすいポリマーの開発が行えるという利点もある。

様々な研究論文により多少数値が異なるが、2021年8月の最新調査によると、2030年の世界のプラスチック樹脂の市場規模は2020年の6,825億米ドルから約9,600億米ドル、年率 4.7%のペースで成長すると予測されている(出典:Precedence Research)。

さらに、今年9月に発表されたScience誌のデータによると、2030年の世界のプラスチック廃棄物排出量(Plastic Emission)は、現在の6倍に達するとして警告し、欧米の様々なメディアで取り上げられている。

石油・化学系の多国籍企業は、成長するプラスチック樹脂市場で今後もプレゼンスを維持し利益を出すためには、増加の一途をたどるプラスチック廃棄物、とりわけ機械的リサイクルだけでは対応が難しく、埋立されたり投棄されるプラスチックを大量に処理できる、ケミカルリサイクルを行わざるを得ない、という立場に置かれている。

ロイターもEunomiaのレポートも、大手石油・化学系メーカーや、プラスチック包装を大量に製品に使用する生活用品メーカーが行っているケミカルリサイクルの発表は、「神話」や「誇大広告」であると定義しているが、それを行う必要に迫られているということである。
つまり、神話や誇大広告を作り出してアピールしなければ、企業価値を維持し投資家の満足と市場の理解を得られない立場にある、ということでもある。

プラスチックリサイクルを実際に行った経験がある方は十分にご存知だと思うが、リサイクル材の品質をバージン材と同じ品質レベルまで高めるには、相当複雑で長い工程と多額のコストが必要となる。不純物の除去だけでなく、熱による変色、匂いの除去、複数回のリサイクルで起こる品質劣化等、バージン材料を製造する以上に困難な課題も多い。そのため、現在欧州で販売されているrPET やrPPは、バージン材の1.5倍以上の価格となっている。

余談だが、欧州で昨年から始まっている100%rPETで現在問題化しつつあるのは、4回から5回目のリサイクルで起こる、リサイクル材の「透明度」の低下である。加熱のステップを細かく調整することで対応したり、着色したボトルに利用したりしているが、今後リサイクルが10回、20回と繰り返された場合については、まだ課題すら見えていない。

また、これらの課題については、現在盛んに取り沙汰されているバイオプラスチックも、材料確保やコスト面での課題が未だ多く、早急な解決策にはなっていない。


プラスチック廃棄物による汚染の対策は可能か?

Science誌が提起しているプラスチック廃棄物による汚染への対策は、研究者らが自ら「ありそうもない」と言及しているが、対策があるとすれば、それは「プラスチック樹脂そのものの全体生産量を劇的に減らすこと」である。同じ主張は欧州でも一部の科学者が提唱しており、量以外にもプラスチック樹脂(ポリマー)の種類を非常に少なく限定することも提唱されている。しかし、プラスチック樹脂を販売して利益を得ている石油・化学系のメーカーがそれを受け入れられるはずもなく、その対応策としてのプラスチック廃棄物のケミカルリサイクルへの投資、と見るのが妥当であろう。欧米の政策による環境規制には、温室効果ガス以外の総量規制は、ほとんどないのが現状である。

いずれ技術やノウハウの構築、事前の高度な機械的選別技術によって商業的にも損益分岐点となる可能性はあるかもしれないが、バージン材よりもコストを安くすることができるかについては、懐疑的な見解が多い。

後発の企業がプラスチック廃棄物のケミカルリサイクルに参画する場合、高度な機械的リサイクル(選別)技術およびノウハウを持つリサイクラーと、石油・化学系メーカーの開発・製造部門が一体となった「すり合わせ」によりリサイクルの最適化を行うことが、最も効果的であると筆者は考えている。

欧米企業のケミカルリサイクルプロジェクトを調査してみると、その多くがプラスチック廃棄物なら何でもリサイクルできるという「画期的な新興技術」に投資しており、大々的な宣伝をしつつも具体的な成果が上がっていないものばかりである。これは、原材料の品質が安定している「動脈産業」の考え方に基づいている場合が多い。

本当に必要なのは、廃棄物収集から事前の機械選別処理によって、より均質でクリーンな状態のモノをケミカルリサイクル工程に投入し、ケミカルリサイクル工程で発生する中間生成物の品質評価を細かく行い、収集・機械選別工程にフィードバックできるような「すり合わせ」を高度なレベルで可能にすることである。

環境問題の政策や報道は一方の側面から切り取られたものが多いが、実態を知りバランスのとれた視点から深く調査することが、まずは重要となる。

【参考資料】

ロイターによる「リサイクル神話」の特別レポート

CHEM Trustによりケミカルリサイクルの現状レポート