Carbon &
Circular Portal

カーボン&サーキュラーポータル

CARBON &
CIRCULAR
PORTAL

カーボン&サーキュラーポータル

マイクロ波によるケミカルリサイクル技術動向

本稿では、ケミカルリサイクルにおけるモノマー化プロセスの中でも、マイクロ波技術の解説および商業化動向について紹介する。

※廃プラスチックを樹脂原料となるモノマーまで戻す方法。

廃プラスチック(以下、廃プラ)のリサイクルにおいて、選別工程が多く処理可能な廃プラの種類が限られるマテリアルリサイクルに比べ、合成ガス生成やモノマー化を行うケミカルリサイクルは、より多くの種類の廃プラを一括処理可能な傾向にある。近年さらなる技術開発が進んでおり、いかにCO₂排出の少ないプロセスを構築できるかに注目が集まっている。

ケミカルリサイクルにおけるマイクロ波技術

マイクロ波とは電磁波の1種であり、家庭用電子レンジや通信分野において汎用的に使用され、物質を直接かつ選択的に加熱できる特徴がある。ケミカルリサイクルにおけるガス化・モノマー化には、一般的に燃焼プロセスが使用されるが、通常は電気炉のような外部の反応器から、熱伝導により加熱される。対して、マイクロ波は前述の通り対象物質へ直接エネルギー照射するため、昇温・反応時間の短縮や収率向上といった様々な面で効率よい処理が可能となっている。
ただし、現在一般的に用いられる加熱技術では、物理および化学の融合分野であるマイクロ波への応用は通用せず、マイクロ波の利用は、工業用としては乾燥に使用される程度のため、大規模な商業化には一定の時間を要すると考えられる。一方で、マイクロ波自体は電気から生成されるため、再生可能エネルギーを併用すれば大幅なCO₂排出削減につながるとして、廃プラのケミカルリサイクルに留まらず、総合的な期待値は高い。

代表的な組織の動向

以下に、マイクロ波の技術開発に関連する代表的な組織の最近の動向を紹介する。

DEMETO
ヨーロッパにおけるPETサプライチェーンの企業で構成されるプロジェクトで、EUからの資金提供を受けている。PET素材のみが対象となるが、後述のGR3N社のマイクロ波解重合技術がコアとなる。デモプラントは現在、イタリアのキエーティにおけるNextChem社の敷地内で建設段階(2021年4月)にある。規模はPET投入容量60kg/h、設置面積は約400㎡となる。
将来的には、DEMETOの技術を導入した企業で計100万トン以上の取扱量と、段階的に1000プラントの設立を目指している。

GR3N社
マイクロ波解重合技術のライセンサーおよびエンジニアリング企業であり、DEMETOのコア技術を保有する。アルカリ加水分解反応にマイクロ波を使用する方式で、現在はPETおよびポリエステルを対象としているが、綿の場合は最大50%、ポリウレタンの場合は30%までであれば、複合材でも処理可能とされている。なお、アルカリ反応による塩の副生成物は、電解により再度アルカリと酸に戻すという、循環型の総合システムが構築されている。

PYROWAVE社
カナダのスタートアップであり、廃ポリスチレンを対象としたマイクロ波技術によるモノマー化に関する技術供与およびエンジニアリングを行っている。製品純度はバージン材と同様でありながら、再生収率は98%と業界最高水準となっている。フランスのタイヤ大手MICHELIN社と技術提携しており、2023年までに産業デモ機を開発予定である。スチレン系に特化していることもあり、今後は他のタイヤメーカーとも提携が広がる可能性がある。

マイクロ波化学社
日本のスタートアップで、マイクロ波技術のライセンサーおよび共同事業を行っており、下記2つのような協働の事例がある。対象としては無機/有機/医薬品といった幅広い化学品製造のスケールアップ実績がある。廃プラのケミカルリサイクルに応用したものがPlaWaveTMであり、単素材だけでなく混合材料についても検証を進めている。

①三菱ケミカル社・三菱ケミカルメタクリレーツ社(アクリル樹脂)
アクリル樹脂であるポリメチルメタクリレート(PMMA)のケミカルリサイクル共同実証について同社と協働しており、特に三菱ケミカル社では2024年稼働の設備建設を検討している。リサイクル品は通常品と同水準の性能を保つとともに、製造工程におけるCO₂排出量をバージン材よりも70%以上削減できると見込んでいる。

②三井化学社(難リサイクルのASRやSMC)
難リサイクルの廃プラであるASR(自動車シュレッダーダスト)やSMC(熱硬化性シートモールディングコンパウンド)のケミカルリサイクルの実用化において同社と協働しており、マイクロ波化学社のPlaWaveTM技術を使用している。21年度内にベンチ設備検証を進め、今後実証試験を開始する予定である。

総括

廃プラリサイクルの期待値は、いかにMIX廃プラを省プロセスで処理し、かつ高純度製品化できるかにかかっており、公開情報だけで判断すると、GR3N社とマイクロ波化学社が商業化への技術的リーダーに見受けられる。一般的な加熱プロセスと比較すると、広範囲の廃プラ種類を一括処理するレベルには至っていないようだが、廃プラ問題に対してはこれまでにないほど課題解決の機運が高まっているため、今後スピーディな実証が進み、商業化も遠くはないだろう。

【参考資料】
DEMETOホームページ

GR3Nホームページ

PYROWAVEホームページ

PYROWAVEインタービュー

MICHELINプレスリリース

マイクロ波化学ホームページ(各プレスリリース・技術解説)