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大きく動き始めた廃棄物のエネルギー利用

欧州では、都市や産業から出る廃棄物のエネルギー利用(一般的には、Waste to Energy(WtE)もしくはEnergy from Waste(EfW)と表記される)は特に目新しいことではなく、以前から行われている。「廃棄物発電」または「ごみ発電」とも呼ばれ、発電だけでなく熱の利用も含まれている。

しかし、廃棄物発電は、欧州の再生可能エネルギー指令に基づく持続可能なエネルギー源として規定されておらず、カーボンニュートラルとして認められない。そのため、電力のエネルギー源として、FITやFIP等の制度化された補助金の対象になることはほとんどなかった。

投資家にとっても、長期に補助金が得られることで景気や電力卸売価格に左右されない他の再生可能エネルギーと異なり、廃棄物発電は安定した利益を上げられるビジネススキームを持たないため魅力的な事業(=投資先)と言えず、メディアに登場することもほとんどない状況であった。また、燃焼によりエネルギーを得ることから、脱炭素化の手段としてのイメージも、あまり良いものではなかった。

廃棄物発電の主な収益源は、廃棄物の処理料金や電力の卸売り販売である。そのため、季節要因や、景気による廃棄物の量や内容の変化、また電力卸売価格によって、事業が影響を受ける。燃焼ガスの処理、環境対策、灰の処理を含め、インフラ投資や後工程における仕組み作りが課題となっており、プロジェクトもこれまでは限られた中で行われてきた。

逆に、膨大な額の投資と長期間の補助金が伴う風力発電や木質バイオマス発電は、カーボンニュートラルとして認められたクリーンなエネルギー源として認知され、多くの国際金融機関や資産運用会社によって、積極的に投資が行われてきた。プロジェクトの規模も、廃棄物発電とは比較にならない。

しかし、ここ2年ほどで、欧州でも風向きが変わりつつある。
欧州政府と欧州廃棄物発電プラント連合会(Confederation of European Waste-to-Energy Plants:CEWEP)は、長年の協議の末2019年12月に、エネルギー回収を伴う廃棄物燃焼システムについて新たな基準を発表している。

また、特に2020年から、いくつかの理由が重なることにより変化が起き始めている。大きな理由としては3つあるが、それは後述する。


廃棄物のエネルギー利用の新規事業例

まずは、代表的な新規事業について下記に例を挙げる。

Wheelabrator Technologies社(英国)
2020年7月、イギリス南部のケント州ケムズリーで稼働した廃棄物発電と熱回収の商業プラント(Wheelabrator Technologies社)が、英国での同事業として初めて、「差金決済取引制度」(Contracts for Difference clean energy subsidy:通称CfD)という補助金制度の認可を受けた。発電能力は、最大44 MW(ネット)で、工場への廃棄物の投入量は年間55万トンになる。さらに、廃棄物投入量の拡大許可を申請しており、申請が許可された場合、65万7,000トンの廃棄物が投入されることになる。同社は、既にイギリスのウェストブロムウィッチ(廃棄物投入量:年間40万トン)とヨークシャー(廃棄物投入量:年間41万トン)でプロジェクトを進めており、2021年内には工場を着工予定である。

Paprecグループ(フランス)
2021年3月24日にはフランスでも、大手リサイクルグループのPaprecが、廃棄物エネルギー市場への事業のさらなる拡大を目指し、Dalkia Wastenergy(旧Tiru社)の買収のため、Dalkia社との交渉を開始したことを発表した。Dalkia Wastenergyは、フランス、英国、ポーランドで計27の廃棄物管理サイトを持ち、うち16はエネルギー回収用の工場である。

Idex社(フランス)
フランスの大手エネルギー会社の Idex社は、スペインとアイルランドの合弁会社で、主に廃棄物やバイオマスをガス化しエネルギーに利用する技術を持つ「EQTEC plc」のプロジェクトに出資を検討していることが報道されている。これはイングランド北東部に位置するティーサイドで進行中の廃棄物発電プロジェクトであり、廃棄物処理量は年間20万トンで、発電量は25MWを見積もっている。同社は現在、13の廃棄物エネルギー施設を所有している。

PMAC Energy社とLow Carbon Ltd社(英国)
イギリスのPMAC Energy社とLow Carbon Ltd社は、同じくイングランドのティーサイドで、年間45万トンの廃棄物を発電に利用するプロジェクトを進めている。最大49.9MWの電力を発生する予定で、この発電容量で、近隣のおよそ10万世帯分の電力をまかなうことができる、としている。施設は、2025年に稼働予定である。


廃棄物のエネルギー利用活発化の背景

廃棄物のエネルギー利用が活発化している理由は、主に3つある。

1)廃棄物の輸出禁止
1つ目の理由として、2021年1月1日から、イギリスおよびEU加盟国で、OECD非加盟国に対しても廃棄物の輸出が禁止されたことが挙げられる。昨年までは、リサイクルすることができない廃棄物の一部が中古品や有価物として海外に輸出されていたが、それができなくなったのである。
島国であり、BrexitでEUから離脱したイギリスで、廃棄物のエネルギー・プロジェクトが多い理由の1つは、このためである。リサイクルできない廃棄物の処理に、エネルギー利用は必要不可欠になっている。
イギリスをはじめ欧州の先進国では、廃棄物由来の最終残渣や灰の埋め立てを削減するための規制が年々厳しさを増している。「ゼロ・マイニング(埋立ゼロ)」と呼ばれる運動も徐々に社会に認知され始め、廃棄物の利用先として、熱もしくは熱を通じたエネルギー回収が有効な手段であることが、少しずつ理解され始めている。

2)再生可能エネルギーが抱える課題
2つ目の理由は、再生可能エネルギー、特に風力発電や太陽光発電にかかるコストの問題である。これらには発電装置だけでなく、蓄電装置や送電網などのインフラ設備にもコストがかかる上、需要が増している非鉄や希土類の材料価格が高騰し続けているという背景もコスト増につながっている。
さらに、再生可能エネルギーにはコストがかかるだけでなく、供給が安定しないという問題点もあり、安定したベースロード電源用のエネルギー源が必要となっている。

ドイツは、一時的にではあるが、2019年6月におよそ5年ぶりに電力の輸入国になった。当時、ドイツエネルギー産業協会(BDEW)は、EU排出量取引システム(ETS: European Union Emissions Trading System)におけるCO₂価格の上昇に伴い、ドイツで石炭火力発電所の廃止が相次いで行われたことが原因、としていた。すでに再生可能エネルギーの比率は大幅に増えていたものの、電力供給が安定しないという欠点があるため、化石燃料による発電システムが停止したことによって、結果として国外から電力を購入することになったのである。
アメリカのカリフォルニア州もまた、再生可能エネルギーの発電「容量」はアメリカの全ての州で1位だが、同時に、州外から電力を購入している量も、アメリカ全土の州の中で1位である。たとえ発電「容量」が多くても、再生可能エネルギーの発電力は、自然環境に大きく影響を受けるのが実情である。
このように、人口の少ない一部の国や水力発電能力の高い地域を除き、今後しばらくの間は、原子力や、燃焼を伴う安定したエネルギー源が必要なのである。

3)「森林バイオマス発電」の社会問題化
3つ目の理由として、特に森林を管理して再生林から木質ペレットを作り燃料化する「森林バイオマス発電」への補助金が、社会問題になってきた、という背景がある。
この問題は以前から存在していたが、欧州で徐々に社会問題になり始めている(詳細については、2020年12月4日2021年3月23日の本サイトでの解説をご覧ください)。
2020年2月には、オランダ議会が、計画中の森林バイオマス利用プロジェクトに対し補助金の一時停止を決議したことが伝えられている。また、2021年6月には、欧州政府が「改正再生可能エネルギー指令(RED II)」の見直しを行う予定となっており、見直し内容として、「再生可能エネルギー」としての森林バイオマス燃料が、カーボンニュートラルであるかということと、生物多様性や自然破壊への影響の再検討が挙げられている。
イングランド北部で最大級の木質バイオマスエネルギー発電事業であるMGT Teesideは、上記のような理由から、補助金が得られないことにより事業採算に問題を生じ、工場完成から1年以上も商業稼働ができない状況が続いている。

このような背景から、動き出したのが廃棄物のエネルギー利用なのである。

昨年末には、オーストラリアの国際的な資産運用会社First Sentier Investors(FSI)社が、前述したイギリスで廃棄物管理と廃棄物によるエネルギー開発事業を行うWheelabrator Technologies社の英国部門を買収した。
欧州で、脱炭素とサーキュラーエコノミー関連で巨額の資金を運用している国際的な金融機関や資産管理会社が、投資ポートフォリオの1つとして廃棄物のエネルギー利用分野を組み込み始めたのである。彼らが動き出したということは、これは次の潮流となると言えなくもないであろう。

廃棄物のエネルギー利用は、低炭素なエネルギー源というだけでなく、地域循環型であること、埋め立てる廃棄物量の低減や自然環境保全の側面からも、社会に貢献する事業として、改めて脚光を浴び始めている。

【参考資料】
欧州政府による「廃棄物焼却に利用可能な最良の技術」のリリース

Wheelabrator社 Kemsley工場の「差金決済取引制度」のリリース

‘Dutch to limit forest biomass subsidies, possibly signaling EU sea change'(オランダ議会の決定と再生可能エネルギー指令の見直しを伝えるモンガベイの報道)

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