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欧州再生可能エネルギー指令改正のポイント

2022年9月14日、欧州再生可能エネルギー指令の改定案が、欧州議会で協議の上投票にかけられ、採択された。

同指令の改定は、今後欧州理事会との協議を経て正式に発行される予定のため、現時点の内容は最終的なものではない。ただし、以下に記載した主要な改正点については、ほぼ議会で採択された案を踏襲するものと考えられている。

なお、改定の詳細については、欧州議会HPのテキスト:Texts adoptedから入手することができる。膨大な量に及ぶため、本稿では主なポイントのみを抜粋して紹介する。


欧州再生可能エネルギー指令改正の主なポイント

再生可能エネルギーの普及率目標を、2030 年までに 45% に大幅に引き上げる。
 この普及率目標は、2022年5月18日に発表された欧州委員会通信「RE Power EU 計画」に沿ったものとなっている。ただし、RE Powe EU計画で提案された、「2030年までに 350億立方メートル の持続可能なバイオメタンを製造する能力を持つ」という目標については除外されている。

・2030 年までに、ピーク時の電力需要を少なくとも 5% 削減する事を最小目標とし、電力システムの柔軟性を高める。
 これは、エネルギー危機やエネルギー価格の高騰により強調された部分である。

・暖房および冷房における再生可能エネルギーの割合を年率平均2.3%増加させる。
 この増加率は、2021~2025年及び2026~203年の期間でそれぞれ計算される。この増加率は、廃熱と冷気を利用する場合は2.8%となり、利用する廃熱と冷熱量の40% は再生可能エネルギーとして換算することができる。

・産業部門で利用する再生可能な資源の割合を、2030年までに、最低でも年間平均1.9%の増加率とする。
 ここでいう再生可能な資源は、エネルギー利用と非エネルギー利用の両方が対象となる。目標値の1.9%は、2024年から 2027年までの3年間と 、2027年から 2030年までの 3 年間のそれぞれの平均値とする。

・総定格熱量(*1)が 5MW~20MWの電気暖房及び冷房を生成する設備については、使用されるエネルギー源や燃料の持続可能性、及び設備が排出する温室効果ガス量について、定められた基準が適用される。
加盟国は、これを保証するための国家検証スキームを確立する。これは、持続可能性基準の厳格化の一環として修正されたものである。
(*1)については、詳しくは従来の運転方法と定格熱出力一定運転(九州電力)をご参照ください。

・水素とその派生物が現時点では主な対象となる「非生物学的起源の再生可能燃料(RFNBO: renewable fuels of non-biological origin)」については、現在はそれらを製造するために専用の再生可能エネルギー設備を追加する必要があるが、改定案ではその条件を除外。
 これは、一般的に使用されている送電網から再生可能エネルギーの電力購入契約があり、再生可能電力であることを保証できれば、追加の専用施設からの給電でなくても良い、ということを意味する。
この修正については、グリーン水素製造用の電解槽が電力を大量に消費するため、貴重な再生可能電力の価格が上昇することと同時に、一般家庭や産業が入手できる再生可能電力への影響が懸念事項として挙がっている。欧州委員会 は 2030年までに1,000万トンのグリーン 水素を生産することを計画しており、生産のために500TWh の再生可能電力が必要となるが、この電力量は、フランス国内の総電力消費量に相当するためである。

・二酸化炭素の回収と貯留などの一定条件を満たさない、発電設備における木質バイオマスからの電力を支援しない。さらに、一次バイオマス(森林から直接伐採された健康な木の幹や根に相当)のエネルギー利用の段階的廃止と使用量の上限を設定する。
 欧州委員会は、本改正指令の発効から 1 年以内に、木質バイオマスのカスケード原則(*2)を適用する方法、特にエネルギー生産のための高品質の丸太の使用を最小限に抑える方法に関する実施法を採択する。さらに、欧州委員会は、2026年までに、生物多様性、気候、環境、及び市場の歪みの可能性を含む、加盟国のバイオマスに対する支援スキームの影響に関する報告書を作成し 「木質バイオマスに対する支援スキーム」の評価を行う。
 ちなみに、当初の欧州委員会案は、一次バイオマスをエネルギー生成のために利用することを全面的に禁止するものであった。しかし、実際の改定案ではその項目の内容が修正され、一次バイオマスのエネルギー生成への利用を全面禁止にはしていない。そのため、一次バイオマスを電力生産のみの施設へ利用する場合には補助金が廃止される方向とはなったものの、実際には、電力のみでなく電力と熱の両方を生成するように設備を改修することは容易であるため、抜け穴が多く、実態はほとんど変わらないのではないかという懸念があがっている。また、「一次バイオマス」の定義についても、害虫被害や森林火災を防止するために健康な木を伐採したものは含まれないなど、その定義に曖昧な点があり、この点も議論となっている。
(*2)については、詳しくは木材のカスケード利用(木質バイオマス研究会)をご参照ください。

・固体バイオマス燃料を利用する暖房、冷房、及び発電設備の生産者に対する、持続可能性及び温室効果ガス削減基準を適用する設備能力の「しきい値」について、現在の 総定格熱入力20 MW以上 から、7.5MW以上に引き下げる。
 ガス状バイオマス燃料の場合は、2MW以上のバイオマス発電の設備がこの改正に含まれる。これは、バイオマスにおける再生可能エネルギーとしての条件の厳格化の一環である。

・一部の食料、飼料用作物からのバイオ燃料が再生可能エネルギーから除外される。
 ディーゼル燃料に混入するバイオ燃料は、食料や飼料で使われる農作物から製造されるものが除外される方針となった。これは、大豆が主な対象であり、パーム油も対象となる可能性がある。ただし、輸送に利用されるディーゼル燃料中のバイオ燃料の混合比率の場合は、最大 7%までは利用可能となっている。
 元々、食料や飼料用農作物からのバイオ燃料の製造は、食料・飼料資源の高騰や飢餓を助長することから反対論も多かったが、一部の農作物を除き、概ね現状が維持された。森林破壊防止法やデューデリジェンス法等の他の法規制を利用して、食糧や飼料農作物からのバイオ燃料製造を規制していくものと見られている。

・統合された再生可能エネルギー発電所 (風力 + 太陽光/蓄電) と2個所以上の場所に接続するハイブリッド オフショア ウィンド ファームの法的定義を設定する。
 これらの定義により、今後、より効率的な複合型の再生可能エネルギーを発展させることが可能である。


解説
エネルギー危機にある欧州では、当初の改定案から、実際の議会での採決時にはバイオマスやバイオディーゼルに関してはある程度妥協を許すこととなった。
また、バイオメタンについては拘束力のある目標としては提示されず、さらに、グリーン水素を製造するために利用される再生可能エネルギーの条件が緩和された。
バイオメタンに関しては、欧州委員会が別途「バイオメタン産業パートナーシップ(BIP)」を立ち上げ対応することとなった。これらは、欧州委員会が計画する「RE Power EU 計画」の目標を達成するために必要な措置として修正されたものである。