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考察:欧州大手飲料メーカーのrPET戦略の背景

欧州の飲料メーカーで、野心的なペットボトルのリサイクルとリサイクル材料(rPET)の製品への利用を推進しているのは、コカ・コーラ・ヨーロピアン・パートナーズ、ペプシコ・ヨーロッパ、ネスレの3社である。本稿では各社の代表的な取り組みを挙げ、その背景について考察する。

コカ・コーラ・ヨーロピアン・パートナーズは、2025年までに販売するすべての缶またはボトルを回収し、2023年までにペットボトルの製造に使用するリサイクル材料の割合を50%以上にする、としている。

2020年9月、同社は、2020年10月からオランダで生産される同社ブランドの飲料製品を100%rPETに、また2021年前半中に、ノルウェーで生産する飲料製品についても100%rPETにすると発表した。

既に、スウェーデンで生産される同社製品には、2020年第一四半期中より100%rPETが使用されている。
スウェーデンでは、飲料製品のペットボトルにあらかじめ少額のデポジット(預託金)を課し、ペットボトルが返却される時にデポジットが返金される取り組みをReturpack社が担い、1994年から制度が開始されている。飲料製品のアルミ缶については、ペットボトルの10年前、1984年からデポジット制度がスタートしている。現在、スウェーデンでは85%以上の飲料用容器が回収されリサイクルされている。
Returpack社は、スウェーデン醸造協会が50%を所有し、スウェーデン食品小売業者連盟と食料品店協会がそれぞれ25%を所有している。デポジット制度は、スウェーデン議会によって決議されたものだ。

2020年11月にはペプシコ・ヨーロッパが、欧州の9ヵ国で、段階的に飲料用のペットボトルを100%rPETにする、と発表した。

具体的には、2021年末までに、ドイツ、ポーランド、ルーマニア、ギリシャ、スペインの各市場で、100%rPETを達成する。続いて2022年末までに、フランス、イギリス、ベルギー、ルクセンブルク市場でも100%rPETになる。これは、同社が所有するボトラーとフランチャイズ・ボトラーの両方に適用される。

同社は、もともと、欧州市場において2025年までに45%rPETを暫定目標、2030年までに50%rPETを達成する、としていた。これは、Pepsi、Pepsi MAX、7Up、Tropicana、Nakedを含む、ペットボトルを使う全ての飲料ブランドに適用される。

ネスレも、同社のミネラルウォーターに使用するペットボトルにリサイクル材を利用する取り組みを進めている。
2020年2月、スイスでHenniezブランドのミネラルウォーター用のボトルに75%のリサイクル材を利用すると発表した。ベルギーではValvertブランド、フランスではVittelブランド、イギリスではBuxtonブランドのミネラルウォーター用のペットボトルを、それぞれ2021年末までに100%rPETにする、としている。

同社はまた、2025年末までに、全てのパッケージに使われるプラスチックをリサイクル可能か再利用可能なものに切り替える事をコミットしている。

上記各社の動きの背景を以下に解説する。

1.EU指令による規制数値の設定と廃棄ペットボトルの回収スキームの拡充

背景の一つとして、EU指令2019/904(DIRECTIVE (EU) 2019/904)の存在がある。同指令の中で、飲料用容器の回収率とリサイクル材の使用率の目標が設定されている。具体的には、以下の通りである。

・2025年までに飲料用ペットボトルに25%のリサイクル材料が含まれること
 これはEU加盟国市場の全てのボトルの平均値として計算され、2030年までに同規制値を30%とする。

・飲料用ボトルの回収量を、2025年までに77%、2029年までに90%とすること
 これらは、デポジット制度または拡大製造者責任スキームに基づく個別の収集目標を構築する事で達成するとしている。

上記飲料メーカーが高い数値目標を設定できる背景には、EU指令に基づく回収スキームの進展がある。デポジット制度は、EUのいくつかの国では制度化されているが、それ以外にも、製造者、業界団体、自治体による回収スキームが大きく進展し始めている。

上記大手3社とも、具体的な廃棄ペットボトルの回収ルートやリサイクル技術、工法については、ほとんど開示していない。
欧州でペットボトルのリサイクル用の機械を開発している会社への取材を通じて得た情報では、rPET用に再利用する廃棄ペットボトルは、ほぼ全てが、特定の場所に設置された回収機か、デポジットを含む指定の廃棄物収集ルートで回収されている。また、それら以外から回収されたものを混入させない仕組みを確立している。

ペットボトルを機械式でリサイクルする場合、回収された廃棄ボトルは、ボトルの状態で色や種類別に選別して破砕工程に送る。その後の工程と工法は様々だが、最新の技術では、湿式破砕を行い、比較的大きな状態のフレーク(12㎜角以上)を、ラマン分光分析を用いてレーザー選別する方法があり、導入が進んでいる。
ほとんどの場合、飲料メーカーが直接リサイクルを行うのではなく提携する指定のリサイクル会社がリサイクルを行い、ペット樹脂のペレット化まで行う。
リサイクル材料は飲料容器向けに高い品質が要求されるため、工程と品質管理のレベルが高く、大きなコスト負担となっている。現在欧州では、バージン材に比してリサイクルPET材料の一般的な取引価格は1.3~1.6倍である。

また、熱分解による化学的なリサイクルも導入が進められてきたが、初期投資や加工コストが大きく、現在はまだ一部に限られている。

2.プラスチックによる環境汚染へのブランドとしての対応

また、上記3社がEU指令の数値を超えて野心的な取組みをするその他の理由には、3社とも、3年連続で世界のプラスチック汚染ブランド(会社)のトップ5に入っている、という背景がある。

世界に約15,000人のボランティアを配し、55か国でプラスチック廃棄物の調査を行っている環境団体Break Free From Plasticは、毎年、世界中の多くの場所で、どのブランド(会社)の製品が廃棄物として回収されずに自然界に投棄されているかを調べ、年次監査報告書を出版している。

Break Free From Plasticの年次監査のウェブサイトでは、動画とプレゼン資料の両方で、ブランドや会社名を直接挙げている。その概要は、毎年、一般紙やプラスチック関連のサイトで報道され、順位の高いブランドは、批判の対象となっている。


これに対し飲料メーカーの一部の幹部からは、汚染(投棄)の絶対量は販売数と市場数の大きさによるものである、というメッセージが発された事があった。しかし、この発言が環境活動家に責任の回避と受け止められ、一層攻撃が増したという経緯があった。

欧州では、世界中で回収及びリサイクルされない膨大な量のプラスチック廃棄物(投棄物)について、販売した製品の容器であっても消費者に責任の全てを任せず、製造者が回収とリサイクルの責任を持つ必要がある、という論調が、徐々に浸透しつつある。企業側も、その責任を負うという認識を持ち始めている。

Break Free From Plasticの2020年の年次監査によるプラスチック汚染上位5社は、コカ・コーラ、ペプシコ、ネスレ、ユニリーバ、そしてモンデリーズインターナショナルだ。
ネスレとユニリーバは欧州の会社で、コカ・コーラとペプシコは、ともに欧州法人がリサイクルとrPETを推進している。

ユニリーバは飲料メーカーではなく、生活用品と食料ブランドを多数持つイギリスの多国籍企業だが、プラスチック廃棄物削減とリサイクル材の利用には力を入れている。前CEOのポール・ポールマン氏時代からサステナビリティーを事業戦略の柱の一つとしていた。しかし2018年のBreak Free From Plasticの年次監査報告で、同社は、プラスチック汚染ブランドのトップ10以内に、2019年版ではトップ5以内に入っていた。

2019年、ユニリーバは、2025年までに、プラスチック包装の量を10万トン以上削減し、再生プラスチックの使用を加速する事で、バージンプラスチックの使用を半分程度にする事を発表した。
2020年10月末、その方針のマイルストーンを公表し、再生プラスチック(PCR)の使用量を約75,000トン増やしたと伝えた。2025年までに製品包装や容器に25%以上のPCRを使用するという目標に向かって順調に進んでおり、今後12ヶ月でPCRの使用を2倍にする、としている。

飲料メーカーに関わらず、欧州企業にとってESGによる評価の重要性は増している。欧州が進めているタクソノミーのガイドラインによって、投資にも影響する。また、上記トップ5の会社の販売する市場規模と絶対数量から言えば、今後も投棄物量の上位から、なかなか外れる事が難しいと予測できる。
製造に使用するプラスチック量を減らし、廃棄物の回収比率を高め、かつrPETを高い比率で使用する事ができれば、ブランドの環境イメージ棄損の回避に大きく貢献する。

欧州の飲料メーカートップ3が野心的なrPETの数値コミットメントを相次いで発表している背景には、主に上記2点のような理由がある。

上記のリーディング飲料メーカーが100%rPETをコミットする市場を広げる事で、商品の環境イメージで差別化を生みだす事ができる。

rPETに未対応または比率が低い他のメーカーは、環境対応でのブランドイメージ棄損が、いずれ避けられなくなる。rPETはコストが掛かるが、そのコストを下げる技術や工法がいくつか出始めている。今後のESG戦略の一環として、rPETは、早期に取り組むべき課題となっている。


【参考資料】
Break Free From Plasticのプラスチック汚染監査報告ページ
Break Free From Plasticによる2019年のプラスチック汚染監査報告