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2021年01月27日 (水)
リサイクル技術
解説

AIがリサイクルにもたらす新しい価値 

 

2011ドイツ政府によるハイテク戦略の1つのプロジェクトとして製造業のコンピューター化を促進するインダストリー4.0が生まれた。その後、ドイツ発のインダストリー4.0は製造業を中心に世界に拡大し、20161月に世界経済フォーラムの創設者兼会長であるクラウス・シュワブ(Klaus Schwab)グローバル・アジェンダとして第四次産業革命同フォーラムのWEB上で発信しIoTAIを軸としたスマート社会実現へのテーマに昇華させた。日本政府も同じ時期に政策として推進することを発表した。 

 

その後、欧州発の一連のこの流れで、サイバーフィジカル(Cyber-Physical)という概念が浸透し、モノのインターネット(IoT大規模なデバイス間の通信M2Mによって達成され、自己診断と監視機能が大幅に改善、問題を自己分析解決できるスマート・システムが製造やサービス業で相次いで登場した。そこで生成されたビッグデータを活用するビジネスモデルが企業の価値に直結するような世界が訪れつつある。 

その中でAIは、ビッグデータを活用する重要な鍵となっている。 

 

リサイクルの壁 

製造業ではバージン材料を種類使用してモノを製造するがリサイクルでは製造されたモノを複数の材料に戻す必要がある。ほとんどのバージン材料は、金属であれ石油化学製品であれ、熱分解や化学処理によって、同じ結晶や分子構造を持つものに生成される。そして純度と品質の安定はバージン材の最重要条件である。 

リサイクルのスタート地点は、廃棄された製品である。仮に100%全く同一の製品廃棄物が収集されたとしても、その製品を完全に1部品毎に完全分解しなければ、純度が高く品質の安定した材料に戻すことは、ほぼ不可能であるこの方法では大量処理が難しく、また分解費用がかかり、コストに合わない。リサイクル材料の付加価値は製品の付加価値を超えられないからである 

そのためリサイクルでは、製品廃棄物は材料毎に分けやすい大きさにまで破砕され、材料毎の物質特性に合わせて様々な方法で分けられる。これらは機械的リサイクルと呼ばれ、廃棄物処理では、中間処理にあたる。例えば、一番分かりやす例としては鉄で、磁石によって分けることができる。事前に磁石に付きやすい大きさに切断または破砕するのが一般的である 

プラスチック廃棄物は主に比重によって分けられるが、リサイクル材として得られる純度80-95程度となり、バージン材の代替として再利用することはほぼ不可能であるバージン材と同等の純度と品質のリサイクル材を作るには、バージン材と同じような熱分解や化学処理が必要となる。これが、いわいるケミカルリサイクルである。ケミカルリサイクルは設備の初期投資が大きく、採算性を高めるためには大量の廃棄物が必要となるが、プラスチック廃棄物は「軽い」ため輸送コストがネックになり、一般的に長距離輸送には向かない。 

 

いずれの方法でも、現在の技術を利用するかぎり、リサイクル材をバージン材と同等にまで戻すためには、「リサイクルの壁」が存在する。欧州では、この「リサイクルの壁」を打破するために、法律や補助金によって枠組みを作っている。切り札の1つとして「拡大製造者責任」があるが、これは、別の機会に解説する。 

 

AI技術者の発想からもたらされた新しいリサイクルの価値 

こうした「リサイクルの壁」を打破し、リサイクルに全く新しい価値をもたらすことが期待されているのが、本稿で紹介するイギリスのRecycleye社のAI選別技術である 

Recycleyeの技術は、通常我々が使う一般的な安価なカメラ(RGBカメラ)AIソフトを組み合わせたもので、高価なセンサーは存在しない。カメラは人間の目の役割を果たし、AIは人間の脳の役割を果たす。カメラは、廃棄物の形、色、透明度、包装状態、つぶれや汚れ具合を捉えることができる。カメラで捉えた廃棄物の様々な情報から、使われている材料をクラウド上のデータベースと照合してAIが解析・判断する。使われるAIソフトは主に3つのマシーン・ラーニング用のものだ。 

現在は、まず生活用品、食料品、飲料製品のパッケージやボトル向けに開発が進められている。ある程度廃棄物の状態が良く、包装部分が一部でも残されていれば、メーカーと品種まで分けることが可能だ。AIデータが蓄積され工程管理を最適化していけば、大量の廃棄物から「特定メーカー」の「特定種類「モノ」を分けることができる。破砕する前段階で、特定ものを大量の廃棄物から分けることができるのである一番最初の工程で純度を大幅に上げてしまう、という考えである 

技術の概要としては、まず、mlflowというマシーンラーニングのAIソフトを使い、別撮りした製品の複数画像、製品の基本仕様、コンベア上を流れた時の画像を基本データとして作成する。さらに、アマゾンのSageMakerというマシーン・ラーニングAIソフトを使い、様々なコンベアの速度や幅、物体を流す量などのパラメーター学習させる。それらのデータを全て統合し、マイクロソフトのAIクラウドであるAzureに格納する。 

 

現在、Recycleye社がこのクラウドに保存している廃棄物基本データ量は、260万点を超えている。Recycleye社では、このデータベースをWasteNetと名付け、同社の技術を使う顧客に公開する予定である 

Azureに格納したWasteNet廃棄物データは、単なるモノ画像情報ではなくコンベア上を流れた時の「モデルデータとして格納されている。このモデルデータに対し実際の現場でコンベアに流れている廃棄物の画像がどの程度近似値を示しているかをAI自己分析・診断学習していくという機能が、この会社のAI開発の最大のポイントである 

クラウドに格納されたモデルデータは、実際の工場にあるサブコンピュータ(エッジコンピュータ)反映されGitHubという拡張エンコードソフトで指令言語に変換して、ラインでの画像データと照合する 

この一連のAI開発は、全てRecycleyeAIエンジニアが行っているまた、同社はAI開発でマイクロソフト社とも関係を持っている 

国内のリサイクル会社では既に、同社とNDA締結し進捗情報を得ながら、国内への導入を検討している現在画像認識とAI学習の開発についてはほぼ完成しており、ロボットによるピッキングを組み合わせたテスト段階まで進んでいる。 

 

リサイクルにおける「新しい価値」とは、ある廃棄物の一部の画像から、その製品を特定して、メーカーや材料を特定できることであるセンサーや比重による機械的な「材料種類別」の選別とは、そもそもの発想が異なる。ビッグデータAIが無ければ実現は難しく、まさに、AIエンジニア側からもたらされたである 

欧州では、2022-2023前後から、リサイクル材を含まないプラスチック包装製品に対するプラスチック包装税の導入が検討されており、特に、リサイクルでは食品用と非食品用のプラスチックを事前に分ける需要が急増している。食品用の包装材料は、リサイクル材料にも高い品質基準が求められるからだ。 

Recycleye社では、将来顧客が増えること廃棄物データベース(WasteNet)が拡大し、あらゆるメーカーの全ての製品(廃棄)のビッグデータAI内に格納させることを目指している 製品の基礎データと廃棄物になってコンベアを流れた時の現実のデータが世界中のリサイクラーから集められ、それらがビッグデータ化し、AIが学習しながら精度を高めた選別を達成できれば、廃棄物は、原料としての価値を大きく増すだろう。 

大量のプラスチック廃棄物を「ブランド毎」「製品毎」に分ける、という機械的な自動化技術は、今のところ他に存在しない。Recycleye社のAI技術は、この目標をリサイクルの現場で実現化できる一歩手前まで来ている。 

 

非常に似た技術で、カメラとAIデータベースによって精度の高い使用済み「電池の選別機械を開発・製造・販売している企業に、スウェーデンのRefind Technologiesがある。 同社は既に電池の選別機械は販売を開始しており、商業的にも成功を収めている。 現在は、電池以外の廃棄物を製品種類別に分ける機械を開発しており、最終段階にまで来ている。 

Recycleye社との大きな違いは、クラウド上にビッグデータを格納し多数のユーザーのデータを収集するという手法を取っていないことである。ただし、Refind Technologies社のシステムでも、データベースはユーザー間で共有が可能となっている 

同社AI技術者がリサイクル機械システムを開発している点では、 Recycleye社と同じである 

 

3Kから資源開発へ 

リサイクル3Kの仕事と言われて久しい。AIビッグデータにより「ブランド選別」や「特定品選別」が可能になれば、製造者(メーカー)に対する廃棄製品の完全な資源ループの基礎を作ることができる。拡大製造者責任とリサイクル材の使用率が決められている欧州では、いち早くこの動きが産声を上げている。 

こうした完全なループを次々に開発・構築すること、これからのリサイクラーの仕事になる。 

その時に、リサイクラーの仕事は3Kから都市廃棄物を資源に戻す「開発の仕事」に大きく変わるだろう。Recycleye社やRefind Technologies社が目指している最終ゴールは、まさしくそこにある。 

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