サーキュラーエコノミーでは、これまで廃棄物として捉えられてきた多くのものが資源として再定義される。企業はこれらの資源を原料として活用することを前提とした製品の開発や設計、製造のための調達を行う。調達においては、リサイクル原料が廃棄物由来であることの証明、つまりトレーサビリティが求められる。本稿では、リサイクル原材料等の国際的な認証スキームの一つである、ISCC PLUS認証(国際持続可能性カーボン認証)のトレーサビリティの仕組みや国内での普及状況について解説する。
〈目次〉
1.ISCC PLUS認証とは
ISCC(International Sustainability and Carbon Certification)は、ドイツに拠点を置く持続可能性および炭素に関する国際認証協会である。ISCC EUがEU域内のバイオ燃料を対象としているのに対して、ISCC PLUSはEU域外を含む全世界のバイオマス原料・製品やリサイクル原料・製品を対象とし、これらが持続可能であることをサプライチェーン上で管理・担保する第三者認証制度である。 ISCC PLUSでは、GHG排出量の検証は任意であり、アドオンを適用することで追加することができる。
2.ISCC PLUS認証の対象となる素材
ISCC PLUSではサーキュラーエコノミーとバイオエコノミーに貢献するあらゆる種類の農林業原料、バイオ廃棄物/残留物、化石材料を認証することができる。
原材料カテゴリ
*1 Used Cooking Oil。廃棄された食用油のこと。
*2 パルプを製造する際に、パルプ原料を蒸解し、繊維を分別する時に副産物として生成される、脂肪酸・樹脂酸・不けん化物等の混合物。
3.トレーサビリティの仕組み
ISCC PLUSは以下の2つの方法を組み合わせたチェーン・オブ・カストディー(CoC:Chain of Custody*3)でトレーサビリティを担保する。
① 拠点の認証
② 原材料の認証
*3 証拠保管の継続性のこと。
① 拠点の認証
ISCC PLUSの取得を志向する企業は、拠点単位(法人単位ではない)でISCC認証機関(CB:Certification Body)による監査に合格することが必要になる。認証の有効期間は1年間で、更新するためにはCBによる監査を改めて受ける必要がある。監査の手続きや基準はISCCウェブサイトから確認することができる。
ISCCウェブサイト
② 原材料の認証
リサイクル原材料を使用して作られた製品は、その原材料がどこで発生した廃棄物であり、発生後にどのようなルートで回収、加工、運搬、再製品化されたかが把握可能でなければならない。ISCC PLUSはCoCに基づき、①の認証取得拠点間での原材料の取引ごとに「サステナビリティ宣言書(SD:Sustainability Declaration)」を添付することで、モノの動きと情報をセットで管理する。SDは原材料の詳細に関する書類であり、納品ごとに必要になる。受け手は、原材料のサプライヤーが発送日の時点で有効な拠点の認証を保持していることを確認しなければならない。
<サステナビリティ宣言書(SD)の主な内容>
一般情報
- サプライヤー名および所在地
・ 送付先の氏名および所在地
・ 関連する契約番号
・ 持続可能な原材料の発送日
・ 持続可能な原材料の発送地点の所在地
・ サプライヤーの認証番号
・ サステナビリティ宣言の発行日
・ グループメンバーの番号(グループ認証の場合)
・ サステナビリティ宣言の固有の番号
・ ステートメント「ISCC準拠」
製品関連情報
必須情報:
- 製品の種類(例:原料、原油など)
・ 原材料カテゴリ
・ サーキュラー原料の場合:
■ステートメント「原材料は廃棄物または残留物の定義を満たしています」
■ポストコンシューマ/プレコンシューマ/混合
・ バイオ原料の場合:
■ステートメント「原材料は、ISCCシステム文書202「サステナビリティ要件」に規定されたISCC 要件に従いサステナビリティ基準に準拠しています」(www.iscc-system.orgを参照)
・ 適用されるCoCオプションの情報:「物質的分離」または「マスバランス」
・ マスバランスの種類(オプション)
・ マルチサイトクレジット転送が適用された場合
・ リサイクル事業の種類(該当する場合)
リサイクル手法
ISCCでは、メカニカルリサイクルとケミカルリサイクルは熱回収よりも有利と位置づけられている。また、総エネルギー消費量、有害なプロセス排出量の最小化、労働者の社会的および健康的保護、および不均衡なコストの回避を考慮すると、プラスチック廃棄物のケミカルリサイクルと比較してメカニカルリサイクルを優先する必要があると述べている。
マスバランス方式(CoCオプション)
マスバランス方式とは、原料から製品への加工・流通工程において、ある特性を持った原料(例:廃棄物由来原料)とそうでない原料(バージン原料)を混合させる場合に、特性を持った原ヶ料の投入量に応じて、製品の一部に対し、その特性の割り当てを行う手法のことである。一般的に紙(FSC認証)、パーム油(RSPO認証)、電力(グリーン電力証書)などで適用されている手法である。ISCC PLUSではマスバランスは拠点ごとに計算される必要があり、計算期間は最長で3ヶ月である。
4.日本での普及状況
ISCC PLUSの2022年11月30日時点の全世界での有効認証数(Valid Certificate)は2,502件であり、うち85件が日本企業(拠点単位)の認証である。ISCCウェブサイトにて、認証取得企業のリストや証書、監査レポートなどを閲覧できる。
Valid Certificates – Find out who is in the position to handle ISCC sustainable material
拠点の種類
ISCC PLUSの分類に基づく日本の認証取得拠点の種類別構成比は下図のとおりである。Trader(商社)が22%、Trader with storage(保管機能付き商社)が22%と商社系が全体の44%を占める。次いでConverter(加工会社)が16%、Other conversion unit(その他加工装置)が13%、Polymerization plant(重合工場)が11%、Warehouse(物流倉庫)が10%と続いている。業種では総合商社や化学メーカーなどの認証取得の事例が多い。
今後、リサイクル原材料のトレーサビリティのニーズが高まっていくことが予想され、日本におけるISCC PLUSの認証取得企業も増えていくと予想される。
【参考資料】
ISCCウェブサイト
・ISCC-PLUS_V3.3_20082021_final_JA_FIN_NEU2.pdf
・ISCC_EU_203_Traceability_and_Chain-of-Custody-v4.0.pdf
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