欧州では、拡大生産者責任、重要な原材料法、廃棄物輸送規制により、サーキュラ―エコノミーは資源戦略のための政策の一部へと変化を見せ、急速に拡大し始めている。
拡大生産者責任
2020年4月末、欧州委員会は、拡大生産者責任に関するガイダンスの準備についての研究レポートを発表した。このレポートは、コンサルタント会社のEunomiaが作成したものである。目的は、EUの廃棄物規制の上位概念であるEU廃棄物フレームワーク指令の第 8条に規定された、「拡大生産者責任スキーム」を実施するにあたり現状がどのようになっているのか、また、どの分野を優先し、どのような方法論が有効であるかについて調査研究を行ったものである。EU廃棄物フレームワーク指令は、基本方針として「汚染者負担の原則」を採用し、加盟国に大きな裁量を与えているが、「拡大生産者責任」を徐々に追加し、各廃棄物指令の改定ごとに強化している。具体的には、使用済み電池、使用済み自動車、プラスチックを含む包装廃棄物、使用済み電気電子機器が対象となっている。
(参考)
EC Waste Framework Directive EPR Recommendations for Guidance(Eunomia)
Waste Framework Directive(欧州委員会)
EUは、スクラップを含む廃棄物年間約3,300万トンを域外に輸出している。有害廃棄物の20%近くが行方不明となり、多い時には40%弱のELV(使用済自動車)が、システム上で行方が追えていないという現状がある。また、プラスチック廃棄物は年間110万トン以上(2021年)が「リサイクル」という目的でEU域外に輸出され、中国、インド、インドネシア、バングラディッシュ、アフリカの一部諸国で環境問題を引き起こしてきた。ピーク時のプラスチック廃棄物の輸出量は273万トンであったが、2018年に中国が輸入を禁止したことで急減した。
改定バーゼル条約が2020年から実施されプラスチック廃棄物の輸出規制が強化されると、OECD加盟国であるトルコへの輸出が増え、2021年の輸出量は395,000トンにのぼり、トルコ政府の代表団がブリュッセルのEU本部を訪問し解決策を要求する事態が発生した。
欧州政府と加盟国は、これまでも廃棄物管理企業への許可の厳格化や廃棄物の収集、管理、移動に関わる法規制を強化してきた。しかし、示されたデータでは、欧州域内でリサイクル又は処理した場合に経済的に不利益なものは、多くが域外に輸出されてきたという実態がある。
また、産業のグリーン化とその技術に必要不可欠な銅、アルミ、ステンレスを主体とする「非鉄スクラップ」の輸出の多くが途上国向けであることも問題視されている。2018-2019年の平均データによると、リサイクルや再生技術とインフラが比較的整っているOECD諸国には28.9 %しか輸出されておらず、残りの71.1 %は非OECD加盟国に輸出されている。これは、非鉄スクラップは鉄と異なり、磁石による安価な選別が難しく常に不純物が混ざることから、人件費が安く、環境規制が比較的緩やかな途上国で、人手によって一次処理されるためである。
こうした現状から、欧州委員会と委任を受けた専門機関は、廃棄物に「拡大生産者責任」を適用することが最も効果的であると幾度となく発信するようになっていた。
具体的には、電池及び蓄電池指令、包装及び包装廃棄物指令、使用済み自動車指令、廃電気電子機器指令において、現在提出されている改定案及び今後の改定で以下の要求事項を規定することにより、生産者の責任を拡大する方針を示している。
1) 特定廃棄物の回収率
2) 特定廃棄物のリサイクルや堆肥化率
3) 特定製品にリサイクル材料を利用する比率
これらの要求事項は、年を追うごとに厳しくなる制度設計となっている。
特に、リサイクル材料を新製品に使用することは生産者にとって高いハードルであり、製品設計やリサイクル性能、回収スキームを含めたバリューチェーン全体に影響を与える規則となる。
コストを抑えて再資源化するためには、より「汚れの少ない同一種類の廃棄物」を収集しリサイクルする必要があり、バリューチェーン全体の修正が迫られる。つまり、廃棄物は次のステップでの資源としての有効性を、生産者に要求することになるのである。これは、サーキュラーエコノミーを加速させる、大きな力となると考えられる。
重要な原材料法
また、欧州委員会は、2023年3月までに「重要な原材料法(Critical Raw Materials Act)」の原案を公表する予定である。この法律は、重要な原材料の供給を大幅に増やすこと、サプライチェーンを多様化すること、回収とリサイクルによる循環性を強化すること、そして研究とイノベーションをサポートすることの4点を骨子としている。
EUには既に「重要な原材料リスト(Critical Raw Materials List)」が存在し、レアアースを主体に約30の原材料が特定されている。法案では、原材料の種類を増やし、さらに欧州域内での自給率目標が含まれる予定と伝えられている。また、新たなリストには、アルミニウムが含まれる可能性も指摘されている。欧州は、アルミニウムの一次合金の 47% を輸入に頼っている。特にロシア産のアルミニウムの輸入が多く、2021年の金額ベースでは、EUはロシアから26 億 6,000 万ドルものアルミニウム原料と製品を輸入している。
また、この法律では廃棄物に含まれる希土類の回収を増やすことが数値として盛り込まれるといわれており、リサイクルが重要な要素となる。
重要な原材料リストに含まれる金属や原料が使われた製品は、使用後に廃棄物になっても、なお原料としての価値を維持する法的枠組みが整備されつつあるといえる。この法案も、サーキュラーエコノミーを大きく加速させる原動力の1つとなるとみられている。
廃棄物輸送規制
2023年1月17日、欧州議会は「EU廃棄物輸送指令の改定案」を賛成多数で採択した。
本改正の最重要ポイントは、「廃棄物をEU内で資源に変え、EUの競争力を高めること」にある。これは、議会報告を任命されたデンマークの欧州議会議員Pernille Weiss氏が、議会で明確に発言した内容である。
改正の骨子は、廃棄物全般に同一ルールを課すこと、及びEU域外への輸出を大幅に規制することの2点である。
改正案が公表された2021年11月から、欧州リサイクル産業協会(EuRIC)、欧州廃棄物管理協会(FEAD)、ドイツ金属貿易業者・リサイクル業者協会(VDM)、さらに国際リサイクル局 (BIR)などの廃棄物管理及びリサイクル業界団体は、再三にわたり、廃棄物とリサイクルスクラップ(生産工程から出るスクラップやリサイクル選別工程を経た鉄、非鉄、紙、ガラスなどのスクラップ)を分けて規制を課すようにロビー活動を続けてきており、過去1年間、欧州のリサイクル業界ではこの話題が最大の問題となっていた。上記の業界団体は、個別もしくは共同でポジションペーパー(立場表明)を発行して、立法部門に理解を求めてきた。しかし、今回採択された改正案には、「リサイクルされたスクラップ」という個別の定義は盛り込まれていない。
改正では、「廃棄物は、非有害物であり、相手国が同意し、さらに該当廃棄物を相手国側で持続的に処理する能力を実証した非 OECD 諸国にのみ輸出が許可される」ことになる。OECD加盟国には上記の条件は課されないが、監視システムが構築されることになり、目的地で環境問題を引き起こした場合は、輸出の許可が取り消されることとなる。
また、プラスチック廃棄物に関しては、非OECD諸国への輸出は完全に禁止となり、OECD諸国への輸出も4年以内に段階的に廃止となる。これは、プラスチックが不純物の一部として含まれる「非鉄ミックススクラップ」の輸出に対して大きな障壁となり、欧州の非鉄金属スクラップ輸出業者にとっては、事業を揺るがす問題となるとみられている。
産業のグリーン化に欠かせない鉱物資源である銅、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、クロム等の非鉄を含む、リサイクルされた非鉄金属、さらにリサイクルされた鉄、ガラス、プラスチック等は、改定案内では詳細な分類と言及がなく、輸出が禁止される廃プラスチックの混入率や含まれる鉄・非鉄・ガラス分の割合により、一次原料か廃棄物かの定義が決まると考えられている。今後、それらのリサイクルされた原料が含まれる元々の廃棄物の製品が、各種の廃棄物指令に含まれて「拡大生産者責任」の対象となっているか、また重要な原材料法のリストに存在するのかによっても影響を受けることになる。
将来的に、廃棄物とそれを基にしたスクラップ輸出には、煩雑な手続きとトレーサビリティに関する報告が必要となり、現在のような自由な輸出に実質的な制限が掛かることになる。
これにより、EU域内での循環を促進する必要が生じ、本改正もまた、サーキュラーエコノミーを推進する原動力の1つとなるとみられている。
解説
エネルギーと原材料を含む資源戦略は、国の経済成長と雇用に直結する政策的な重要課題である。これは、世界各国で共通の問題である。
EUはロシアのウクライナ侵攻でエネルギーと資源の両方で打撃を受け、サプライチェーンの再構築を余儀なくされる状況となっている。一方、BRICsの全てはロシアへの制裁に参加せず、独自の立場を維持してきた。長年、欧州政府はグローバル化と自由貿易を推進するエンジンの役割を担い、その両方から恩恵を得てきたが、グローバル化や自由貿易を安定させるための法の支配や平等の原則は、複雑な国際政治の中で、ロシアのウクライナ侵攻を機に、その脆さを露呈した。
エネルギーに関しては再生可能エネルギーと供給地の多様化で対応するしかなく、原材料や資源は、供給の多様化に加えて、一次/二次原料だけでなく製品としても、一旦EU域内に入ったものを、廃棄物になっても域外に出さず再生利用する、という方針を明確にしている。
2022年を境に、サーキュラーエコノミーは、クリーンな循環経済から泥臭い資源戦略へ、大きくシフトし始めているといえるのではないだろうか。
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