Carbon &
Circular Portal

カーボン&サーキュラーポータル

CARBON &
CIRCULAR
PORTAL

カーボン&サーキュラーポータル

企業のバリューチェーンを変える欧州の改正包装指令と進行中のプラスチック国際条約

2022年3月 、ケニア共和国の首都ナイロビで開催された第5回国連環境総会 ( UNEA-5.2 ) にて、「プラスチック汚染を終わらせる:国際的な法的拘束力のある手段に向けて」と題する決議案が可決された。決議では、廃プラスチックによる汚染(特に海洋汚染)に焦点を当てた日本案ではなく、生産、流通を含むプラスチックのライフサイクル全体への規制に焦点を当てたルワンダ/ペルー案が採択された。

この議決では、前文で「プラスチック汚染にはマイクロプラスチックが含まれる」ことが確認され、さらに、プラスチック汚染を終わらせる「法的拘束力のある国際条約」のための交渉が開始されることが決定した。

その後、国際条約のための草案を作成するために「政府間交渉委員会(INC : Intergovernmental Negotiating Committee)」が組織され、2022年11月末から12月初頭にかけて第1回目の交渉が行われた。第2回目の交渉は 2023年5月にフランスのパリで開催される予定である。交渉は、2024年末までに計5回が計画されており、国際条約の草案を提示することを目指している。

現在、プラスチックの国際条約に関しては、概要と指針のみが示されている段階で、具体的な数値目標や規制の範囲については交渉を経て決まる予定である。

2022年9月、国連環境計画や欧州の環境政策に影響を与え続けているエレンマッカーサー財団と世界自然保護基金 (WWF)は「国際プラスチック条約のためのビジネス連合(The Business Coalition for a Global Plastics Treaty)」を立上げて企業の招集を開始した。

2023年3月、パリで5月に予定されているINCの第2回目の交渉を前に、国際的な政策に強いロビー力を持つ世界経済フォーラム (WEF)は、立て続けにプラスチック関連のレポートをHP上に掲載し、政策提言を行っている。
3月8日にはマイクロプラスチックへの明確な規制を呼びかけるメッセージをHPで展開し、翌週の3月15日には、「世界のプラスチック廃棄物を取引する主要国」というレポートを掲載した。その中で、日本は世界第2位、アジア最大のプラスチック輸出国と紹介され、その他の主な輸出国としてマレーシア、ベトナム、タイ、韓国が記載されている。2020 年、日本が 8 億 2,100 万kgのプラスチック廃棄物を輸出したことにも触れている。

2022年11月30日、欧州委員会は、こうした野心的な一連の流れの中で、「EU包装及び包装廃棄物指令の改正案」を提示した。この改正案は、プラスチックに特化したものではないが、プラスチックの国際条約に先駆けた野心的なものとなっており、欧州の企業を含む利害関係者の間で物議を醸している。

改正案におけるプラスチック関連で主要なポイントは以下となる:

• 2030年までに全ての包装品や包装材がリサイクル可能となるよう設計すること
• 2035年までに「大規模にリサイクル」できるよう包装品や包装材を設計すること
• 2018年と比較して、 2030年までに包装廃棄物 を1人あたり5%、2035年までに10%、2040年までに15%まで削減すること
• 2025年末までに、プラスチックの50%、アルミニウムの50%、ガラスの70%、紙と板紙の75% を含む、すべての包装廃棄物の65% (重量) をリサイクルすること
• 2030年と 2040年のプラスチック包装に含まれるリサイクル材料の最小値を規定。数値は、包装材のプラスチックの種類や包装される内容物により異なる。最終的には委任法などにより細かく規定される見込み
• プラスチック包装のリサイクル内容のラベル表示を変更すること。消費者が使い捨て包装と明確に区別できるよう、再利用可能な包装であることをラベル表示すること
• 拡大生産者責任が強化されること

拡大生産者責任の強化

最も重要な点として、拡大生産者責任(EPR: Extended Producer Responsibility)が強化されることが挙げられる。この指令における拡大生産者責任の特徴の1つは、包装生産者に「リサイクルの可能性」によって料金(fee)を課すことである。これは、リサイクル不可能もしくは一定のリサイクル材料を含まない全てのプラスチック包装に課税する「プラスチック包装税」とは異なり、「リサイクの可能性を評価すること」によって段階的に課金されるように制度が設計されているというものである。

具体的には、包装品や包装材について「リサイクルの可能性評価(The recyclability assessment)」を行うことで、リサイクル性能等級(A~Eで評価)を決めることになる。この評価は、欧州委員会が今後委任法など別の立法手段で設定するもので、リサイクル設計 (DfR: Design of Recycling) 基準に基づいて行われるものである。これらは、「拡大生産者責任料金」として定義されている。例えば、リサイクルの可能性評価で「E」評価となる包装は、2030年1月1日からはリサイクル不可能とみなされるため、EU 市場では使用そのものができなくなる。ただし、医療機器および体外診断用医療機器の包装(内容物との接触に敏感なもの)には即時には適用されず、特例として、適用外となる。

プラスチックの国際条約とEU包装及び包装廃棄物指令の改定には、「ライフサイクル全体」と「生産者や主要な流通業者の役割」という2つの重要なキーワードがある。これらのキーワードは、数年前からプラスチックのサーキュラ―エコノミーを推進しているエレンマッカーサー財団が掲げているもので、同財団が2021年8月31日に国連に向けて「拘束力のあるプラスチックの条約」を提案した白書でも、明確に定義されていた。

解説

ほとんどの製品は流通時や販売時に包装されており、それら包装材には多くの種類のプラスチックが利用されている。現在、プラスチックを取り巻く世界的な政策の方向性は、使い捨て製品を禁止し、製品には基本的にリサイクル可能もしくはたい肥化可能なものを利用し、また、使用量を削減し、廃棄物の越境輸出を禁止する、というものである。ライフサイクル全体での規制は、より生産者や主要な流通業者に負担がかかるような仕組みとなりつつある。

例えば、ガスバリア性能が高く、酸素を通さないことから食品や化粧品等の包装に一般的に使われているエチレンビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)は、機械的なリサイクルが困難なプラスチックの一例である。将来、EUの包装指令のように新製品に一定の割合のリサイクル材料を含有することが義務化された場合、現在の技術では、リサイクルとリサイクル材の利用を進めれば非常にコストが上がってしまう。そのため、代替品の開発やリサイクル性能を上げた製品の開発に投資が向き始めている。
このような変更の必要性は、ライフサイクル全体に焦点を当てたプラスチックの国際条約が発効した後には、包装材だけでなくあらゆるプラスチック製品に適用される可能性が高いと考えられる。

企業は、先行するEU包装及び包装廃棄物指令の改正案をよく精査し、同じ方向性で交渉が進められているプラスチックの国際条約への準備を進める必要がある。国際条約は国内法に優先するため、国が条約を批准すれば、その条件を満たす行動を即座に取る必要が生じるからである。

———————————————————————————————————————————————————————————

株式会社ブライトイノベーションは、企業の環境情報開示支援、気候関連課題への対応、サーキュラーエコノミー構築など、環境分野のコンサルティングサービスを提供しています。
以下のフォームより、お気軽にご相談・お問合せください。

無料相談申込フォーム
お問合せフォーム

またX(旧Twitter)では世界の脱炭素経営とサーキュラーエコノミーに関するニュースをタイムリーにお届けしています。
ブライトイノベーション 公式X