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カーボンニュートラルの基本知識|必要性と取り組み事例

カーボンニュートラルは、地球温暖化への持続的な対応策として、世界各国や企業、自治体から注目を集めている。温室効果ガス排出削減の重要性が高まる中、社会全体で再生可能エネルギーの導入、省エネや脱炭素技術の推進、企業のサプライチェーン全体での排出削減など、多様な取り組みが加速している。本稿では、カーボンニュートラルの基本概念やその必要性、今後の展望を解説する。

目次

  1. カーボンニュートラルの目的
  2. カーボンニュートラルの必要性と背景
    2-1.温室効果ガス排出量の現状と課題
  3. カーボンニュートラルに向けた目標
  4. 主な取り組み
    4-1.再生可能エネルギーへの切り替え・省エネ技術の導入
    4-2.カーボンニュートラルに向けた具体的な取り組み
  5. 今後の展望と課題
  6. まとめ

1.カーボンニュートラルの目的

カーボンニュートラルとは、人間の活動によって排出される二酸化炭素(CO₂)等の温室効果ガスの量を、省エネの推進や再生可能エネルギーへの転換などによる排出削減に加え、削減しきれない分については、植林、二酸化炭素回収・貯留(CCS)、クレジット購入等により温室効果ガスを吸収、除去することで排出量を実質ゼロにすることである。

カーボンニュートラルの達成は、地球温暖化の防止と持続可能な社会の実現に不可欠な取り組みである。多くの国や企業が2050年の達成を目標に掲げており、間近の節目として2030年までの大幅な温室効果ガス削減を中間目標とし、具体的な行動計画を策定・実行している。

2.カーボンニュートラルの必要性と背景

カーボンニュートラルが求められる背景には、地球温暖化の進行が深刻化し、環境への影響が増大していることがある。温室効果ガスが大気中に蓄積されることで、地球全体の気温が上昇し、異常気象の頻発や海面上昇、生態系の変化など、世界中でさまざまな環境問題を引き起こす原因のひとつとなっている。

2-1.温室効果ガス排出量の現状

温室効果ガスの排出量は、現在世界的に増加傾向にある。温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)が世界各地の観測データを収集し、それをもとに解析した大気中二酸化炭素の世界平均濃度の経年変化を見ると、右肩上がりに濃度が上昇していることが分かる。

大気中二酸化炭素の世界平均濃度の経年変化

図1:大気中二酸化炭素の世界平均濃度の経年変化(青色は月平均濃度。赤色は季節変動を除去した濃度。)
(出典:気象庁『大気中二酸化炭素濃度の経年変化』)

産業革命以降、石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料を主なエネルギー源として利用した発電、製造業、輸送の急速な発展が、世界経済の成長を牽引してきた結果、温室効果ガスの排出量は大幅に増加している。特に火力発電所や工場では、化石燃料の大量消費によりCO₂をはじめとした温室効果ガスの主要な発生源となっている。また、交通分野では自動車・船舶・航空機の使用が拡大し、さらに土地利用の変化として森林伐採や農地の拡大なども排出量の増加に寄与している。これらの影響によって温室効果ガスの地球規模での累積量は増大し続けている。

3.カーボンニュートラルに向けた目標

国際社会においては、2015年12月にフランスのパリで開催された国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択された「パリ協定」により、「世界の平均気温の上昇を産業革命前から2℃未満、可能であれば1.5℃以内に抑えること」が目標として掲げられている。パリ協定は、地球温暖化対策に関する国際的な枠組みであり、国際的な気候変動対策の枠組みとして非常に重要な役割を果たしている。参加国の自発的なコミットメントに基づいており、先進国だけでなく、発展途上国を含むすべての国が自主的に温室効果ガス削減目標を設定し、その進捗を定期的に報告する義務を負う点が特徴の一つである。

パリ協定の目標を達成するために、各国は野心的なカーボンニュートラルの目標を設定している。例えば、ヨーロッパ連合(EU)は2050年までにカーボンニュートラルを達成することを目指し、2030年までに1990年比で少なくとも55%の温室効果ガス削減を目標に掲げている。また、中国は2060年までにカーボンニュートラルを実現する計画を発表しており、2030年までに温室効果ガス排出量がピークアウトするとの見通しを示している。一方、日本は2021年10月に「2050年までのカーボンニュートラル目標」と「2030年までに2013年比で46%削減」をNDC(国が決定する貢献)として提出しており、2025年2月には、1.5℃目標に整合的で野心的な目標として、2035年度、2040年度において、温室効果ガスを2013年度からそれぞれ60%、73%削減することを目指すことを閣議決定し、2035年度及び2040年度NDC として、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局に提出している。

4.主な取り組み

4-1.日本における温室効果ガス排出量の推移と再生可能エネルギー普及状況

1990年度から2023年度の日本における全温室効果ガス別の排出量推移を下記に示す(図2)。排出推移を見ると、2023年度時点で2013年度比-23.3%となっており、この温室効果ガスの減少は日本の火力発電の効率化や燃料転換、さらに省エネルギー技術の普及や産業・運輸・家庭部門での省エネ対策や気候法制度の強化などによる多面的な排出削減施策の進展の結果である。

なお、温室効果ガス総排出において、CO₂が大きな割合(全温室効果ガス排出の9割以上)を占めており、CO₂の中ではエネルギー起源CO₂が非常に高い割合になっていることが分かる(CO₂のうち8割以上)。
温室効果ガス別の排出量の推移

図2:温室効果ガス別の排出量の推移
(出典:環境省『2023年度の温室効果ガス排出量及び吸収量』)
注)エネルギー起源CO₂:石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料を燃焼してエネルギー(発電、熱供給、輸送など)を生み出す際に発生する二酸化炭素(CO₂)。セメント製造などの工業化学反応や廃棄物焼却に伴って発生するCO₂は「非エネルギー起源CO₂」という。

2023年度における温室効果ガス排出量を産業別に見ると、エネルギー転換部門(発電所等)が最も多く約40.1%、次いで産業部門(工場等)が約24.7%、運輸部門(自動車等)が18.5%、業務その他部門(商業・サービス・事業所等)が5.1%、家庭部門が4.7%、そのほか工業プロセス由来や廃棄物部門が続いている。

産業別で特に排出量が多いエネルギー転換部門において、日本の電源構成比は、石油7.2%、石炭28.4%、天然ガス32.8%であり、化石燃料による火力発電が全体の68.6%を占めており、日本の電源構成としては引き続き火力発電への依存度が高いままである。温室効果ガス排出のない発電方法では、原子力発電が8.5%、再生可能エネルギーが22.9%に達している。原子力発電と再生可能エネルギーを合わせた非化石燃料による発電割合は、2023年度で31.4%であり、全体の3割強にとどまっている。さらなる温室効果ガスの発生の抑制のためにも、非化石燃料による発電比率のさらなる拡大が不可欠である。

4-2.温室効果ガス削減のための取り組み

温室効果ガス削減のための取り組みとしては、再生可能エネルギーへの転換、省エネ施策の推進が中心的な取り組みとして知られているところだが、以下に他のアプローチを紹介する。

脱炭素燃料への転換
水素燃料やバイオ燃料などは、脱炭素燃料の代表例であり、それぞれ異なる特性や利点を持つ。水素燃料は燃焼時に二酸化炭素を排出せず、クリーンなエネルギーとして注目されている。一方、バイオ燃料は、原料となる植物が成長過程で光合成により大気中のCO₂を吸収し、燃料として利用する際に排出されるCO₂は、この吸収分と同量であるため、大気中のCO₂濃度を増加させない「カーボンニュートラル」の原理が成り立つ。

こうした燃料の普及には技術的課題やインフラ整備が不可欠であり、特に水素インフラの構築やバイオ燃料供給チェーンの整備が重要となる。コスト競争力を確立するための技術革新や規模の経済、さらには政府による支援や規制緩和が導入拡大の鍵となる。

また、バイオマス燃料の利用には持続可能性の観点からいくつか注意が必要である。例えば、原料となる植物や木材の大規模生産が森林の減少や生態系の破壊につながる場合や、食料として活用できる資源との競合が懸念されるケースもある。さらに、燃料の収集・運搬や加工工程で追加的な温室効果ガス排出が発生することや、認証制度の整備、農園で従事する従業員の人権など社会的な配慮も不可欠である。

サプライチェーン全体での排出削減
企業の取り組み例としては、サプライヤーと連携し環境基準を引き上げたり、省エネ技術の共同導入を進めるケースがある。また、輸送手段を見直し効率化することで排出量を減らすほか、リサイクル可能資源の活用を推進する動きも広がっている。さらに、デジタル技術を活用してサプライチェーン全体の排出量を可視化し、明確な目標設定や進捗管理を行う企業も増えている。これらの取り組みにより、企業は環境負荷を削減するとともに、持続可能なビジネスモデルの構築にも貢献できる。

カーボンオフセットの利用
カーボンオフセットとは、企業が温室効果ガス排出を相殺する手段であり、再生可能エネルギーの導入や森林保護プロジェクトへの投資により実現する。例えば、製造業は風力発電に投資し、IT企業はエネルギー効率の高いデータセンターを構築している。これらの取り組みはCSRとしても重要であり、ブランド価値向上に寄与する。市場には様々なオフセットクレジットが存在するため、信頼性の高いプロジェクトを選び、適切な監査が必要であり、国際基準に沿ったものを選定することが推奨される。

カーボンプライシングの導入
カーボンプライシングは、炭素排出に価格をつけて排出削減に経済的インセンティブを生み出す制度である。主な手法には「炭素税」と「排出量取引制度(キャップアンドトレード)」があり、炭素税は排出量に応じて税額を課すことで将来のコストを予測しやすい一方、排出量取引制度は許容総量(キャップ)を政府が設定し、企業間で排出枠の売買を行うことで効率的な排出コントロールと市場原理による柔軟な対応を実現する。

炭素税としては、日本では2012年から「地球温暖化対策税(温対税)」としてCO₂排出量1トンあたり289円の税率が課されており、再生可能エネルギーや省エネ促進に活用されているが、ヨーロッパでは国によって40~130ドルと幅がありつつも日本に比べて大幅に高い水準となっている。

排出量取引制度としては、EUでは世界最大級の排出量取引制度「EU-ETS」を導入し、厳格な排出枠の設定と取引を通じて企業全体のGHG排出量を抑制している。こうした制度の導入により、技術革新や環境投資が促進され、持続可能な社会への移行が加速している。「EU-ETS」は2025年現在、1トンあたり60~90ユーロ程度で取引されており、炭素税や市場価格の両方が企業の削減投資を後押ししている。炭素価格の違いは、政策強度や排出削減の進展度にも影響しており、日本の制度強化が今後の課題となっている。

5.今後の展望と課題

カーボンニュートラルの今後の展望としては、技術革新と政策支援が鍵となる。再生可能エネルギーのさらなる普及や既存産業の電化、エネルギー利用の効率向上が引き続き重要な柱となる。一方で、CCS(CO₂分離・回収・貯留)やグリーン水素など次世代技術の普及は、依然としてコストやインフラ整備、社会受容の面でハードルが高く、まずはパイロット事業や地域実証からの漸進的展開が求められる。国際的な連携や、カーボンプライシング(炭素税、排出量取引制度)等による経済的インセンティブの付与によって、企業や市民が持続可能な行動を選択しやすい環境づくりも不可欠である。最終的に、技術・政策・市場・社会意識の複合的な変革によって、2050年以降の脱炭素社会の実現に近づくことが期待される。

6.まとめ

カーボンニュートラルは、地球温暖化対策として国際的に重要視される目標であり、多くの国や企業がその実現に向けて具体的な行動に取り組んでいる。本稿では、カーボンニュートラルの基本概念から、その必要性や温室効果ガス削減のための取り組み、今後の展望などについて解説した。カーボンニュートラルが求められる背景には、地球温暖化による環境変動が我々の生活に与える深刻な影響があり、その対策は急を要する。また、カーボンニュートラルの実現には、個人、企業、政府が協力して行動することが欠かせない。2050年の目標達成に向けて継続的な対応が求められる。

【参考資料】
気象庁 | 大気中二酸化炭素濃度の経年変化
000310243.pdf