本稿では、サーキュラーエコノミーの現状と課題、そしてサーキュラーエコノミーを加速させるために必要なアクションについて、3回に渡り紹介していく。第1回目は、サーキュラーエコノミーの現状について紹介する。
<サーキュラーエコノミーの必要性>
資源を入手して製品を製造し、使用した後は捨てる、という一方通行の経済はリニア(直線)型と呼ばれているが、このリニア型経済によって引き起こされた問題の解決策になるのがサーキュラーエコノミーである。
1.資源不足の解決
資源不足によって希少資源の市場価値は上昇する。その結果、資源効率を高め、希少資源を代替しようとするサーキュラーエコノミーの機能が必然的に必要となる。
2.資源の供給リスク低減
輸入資源への依存は、サプライチェーンが寸断された場合、政治的緊張にもつながり、また逆に政治的理由で資源の供給が絶たれることもある。この地政学的な動向は予見しにくいことから資源の高騰につながり、天然資源の純輸入国であるヨーロッパなどは大打撃を受けることになる。
日本でも次図の通り鉱物資源はほぼ全て輸入に頼っていることからこの問題は非常に大きいといえる。
出典:世界の産業を支える鉱物資源について知ろう(資源エネルギー庁)
新たな代替物や資源のリサイクルが主流となるサーキュラーエコノミーに移行することで輸入への依存を低減することができる。
3.環境負荷の低減
サーキュラーエコノミーを取り入れるべき最も大きな理由は、環境への負荷を低減することだ。現在、環境への負荷は資源の採掘やその使用行程によるものであり、最も緊急性の高い環境問題である、生物多様性の損失、渇水、温室効果ガス、大気汚染は資源の使用により急激に加速している。国連の国際資源パネルによる報告書「世界資源アウトルック2019」によると、実際、資源の採掘と加工は、生物多様性の損失と水ストレスの90%以上、温室効果ガス排出量の50%を引き起こしており、さらには健康被害の1/3が大気汚染によるものであると述べている。
<サーキュラーエコノミーが最良の解決策でないケース>
しかしながら、サーキュラーエコノミーは環境への負荷を減らすための手段であり、目的ではない。そして最善の方法ではない場合もある。
1.別の方法がより効果的な場合
例えば農業部門において、動物から植物ベースのたんぱく質への切り替えが気候変動対策に不可欠だとされている。この場合、家畜生産にサーキュラリティを求めるより、植物ベースのタンパク質への切り替えのほうがより効果的だ。
また、エネルギー部門では、温室効果ガスを減らすために電気化や再生可能エネルギーへのエネルギーの切り替えが効果的な対策である。例えば、自動車で考えた場合、サーキュラーエコノミーの概念では鉄鉱石の需要を減らすため現在のガソリン車をより長持ちさせる策を講じることになるが、全てを電気自動車に切り替えた方が効果的であるというケースだ。
このように環境に大きな負荷を与えているエネルギーや農業部門にとってはサーキュラリティによる対策は最善とは言えない。
2.費用対効果が低い場合
サーキュラリティ戦略にかかる費用がその利益を上回る場合がある。例えば地方自治体のプラスチックリサイクルでは、収集、分別、再利用にコストをかけ最大レベルでリサイクルするよりも、資源ごみの市場価値に見合う最適レベルでリサイクルされている。最適レベルを超えるとコストがかかり、利益が少ない上に環境へ還元される効果は小さい。この最適レベルを上げるには、リサイクル技術の発展によるコスト低減と、品質を向上させリサイクル資源の市場価値を上げることが必要となる。
3.環境負荷を助長させる場合
- サーキュラー製品が現製品の代替として機能を果たさず、新たなマーケットを作る場合がある。例えば中古のスマートフォンは新品と比べ競争性がない。その代わり、本来スマートフォンを購入しなかったであろう低所得者に比較的安い中古のスマートフォンが売れるというケースだ。
- 更に、もしサーキュラーエコノミー活動によって既存の代替品である、リサイクルされた原材料の供給が増加した場合、既存品の価値が下がり、結果、両方の需要が増加してしまうというケースもある。モノの生産が廃棄物の増加につながるが、両方の需要が高まることでモノは減るどころか倍増してしまう。
<サーキュラーエコノミーの現状>
2050年までに地球人口は現在の77億人から97億人に増加するといわれ、環境負荷もさらに高まると予想される。そんな中サーキュラーエコノミーが緊急的に求められるが、現状はサーキュラリティ―からはほど遠く、目標が定まっていない国や地域がほとんどだ。
1.低下するサーキュラリティ
- サーキュラリティ―を測る特定の指標はないが、サーキュラーエコノミーを推進する団体「Circle Economy」によると、地球経済のサーキュラリティ―は9%としている(リサイクルされた資源から算出)。地域別でみるとEUではこのシェアが12%と高い。
- 別の団体は人類の生活を維持するためには地球1.75個分が必要としており、世界の約1/3の食料が廃棄されていることが主な原因だと述べている。
- 製品の使用期間の長さはサーキュラーエコノミーの指標の一つとなっている。しかし消費者による衣類の購入は2000年から2014年にかけてなんと60%も増加、しかもファストファッションの流行などにより衣類の保持期間は半減しているという統計がある。
2.真逆に向かう 2つの需要動向
- 経済成長
経済成長により個人が経済的に豊かになり、消費が増え、持続可能でない消費が進むという動向。GDPが高い国ほど再使用をしない傾向にある。
- 利便性の高まり
例えば調理済み食品、カット野菜・果物など、包装された状態で販売されている便利な食材への需要が高まっている。また、近年のネット通販の拡大は梱包資材の消費増加につながっている。このようにインスタント食品やネット通販などの利便性の高まりにより、パッケージの使用、廃棄が増加している。
<政策への適用が限定的>
この2つの逆風からも分かるように、サーキュラーエコノミーを推し進めるためにはアクションが必要だ。適切な政策がない限り2050年までに年間の資源使用は2倍、ゴミは70%上昇するとも言われている。
世界の政策立案者はサーキュラーエコノミーの潜在的な役割を環境問題の対策だとみており、例えば国連はサーキュラーエコノミーによってSDGsのいくつかの目標やパリ協定の気候目標に達成することができると認識している。
しかし、サーキュラーエコノミーを取り入れた政策は限定的な状況である。例えばサーキュラーエコノミーへの移行は、製品のデザイン、製造、再利用の方法と、全ての行程を変える必要があるが、ヨーロッパのサーキュラリティ―目標はリサイクルと廃棄物という、製品の最終ステージにのみ焦点を当てている。デザインや製造方法の変更は目標指標には組み入れられていないのだ。
また、現在、政策の立案にサーキュラーエコノミーを適用している地域はヨーロッパと中国のみである。ヨーロッパは2020年に気候変動対策である「グリーンディール」の中でサーキュラーエコノミーの新たな政策案を発表し、EU内の数か国は補足的なサーキュラー目標を持っている。ちなみに欧州と比べると具体策に乏しいが、日本においても2020年5月に経済産業省が今後の循環経済政策が目指すべき方向性を示す「循環経済ビジョン2020」を発表している。
サーキュラーエコノミーへの移行は環境負荷を低減するための手段であるが、経済の需要動向は真逆へと進み、経済のサーキュラリティ―度合いを低下させているのが現状だ。次回はサーキュラーエコノミーの課題について紹介する。
第2回はこちら:【第2回】サーキュラーエコノミーへの道のりを再考する