5月17日、三菱UFJファイナンシャル・グループ(MUFG)は邦銀として初めて、2050年までに投融資ポートフォリオの温室効果ガス排出量をネットゼロにする「カーボンニュートラル宣言※1」を公表しました。また、同行は昨年度、2040年に石炭火力発電向けプロジェクトファイナンス残高をゼロにする目標を掲げていましたが、今回の発表では事業に占める石炭火力発電の比率が高い企業への与信残高目標を開示する方針を明らかにし、コーポレートファイナンスに関する削減目標についても初めて言及しました。国内大手銀行では12日に三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)、13日にみずほフィナンシャルグループが同様に脱炭素化に向けた方針を公表しており、国内3大メガバンクの足並みがそろった形になります。
これまで邦銀の脱炭素化に向けた取り組みは世界から後れを取っており、特に石炭火力発電への積極的な投資姿勢が問題視されていました。パリ協定の1.5℃目標を達成するためには石炭火力からの早期脱却の重要性が指摘されており、Climate Analyticsが2019年に公表した報告書※2では、世界全体で2040年までに、OECD諸国で2030までに石炭火力を全廃する必要があるとしています。これらの懸念を無視する形で石炭火力へのプロジェクトファイナンスを継続する銀行が環境NGOなどから批判を受けるケースが増えており、国内でもパリ協定の目標に沿った投融資を行うための計画を決定・開示することを求めた株主提案が環境NGOや個人株主によって提出される事例が見られました。
今回の各行の融資方針の見直しは、グローバルな脱炭素化の潮流に加え、株主をはじめとするステークホルダーからのサステナブルな投融資への転換を求める強い要請に対応した結果であると言えます。ただし、ファイナンス先の排出量に関する短中期の削減目標の設定が先送りとなっている、炭素集約的な石油・ガスセクターや森林・泥炭地破壊に関するコミットメントが示されていないなど、未だにパリ協定の目標に整合していないとする見方も少なくありません。 今後は短中期目標の設定や石炭火力をはじめとするセクター方針の具体化などの対応が各行で進んでいくことが予想され、国内銀行の脱炭素化に向けた動きが益々加速していくことが想定されます。