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発表された欧州の自動車排出基準ユーロ7案の概要

11月10日、欧州委員会が自動車の排出規制の新基準であるユーロ7規制案を発表した。
今後、欧州議会の承認とその他の立法手続へと進むことになる。本稿では、提案された規制項目のうち、乗用車とバンが対象となる主要なポイントを挙げて記載する。

*別途記載がない限り、本稿では、乗用車は欧州の車輛カテゴリのM1(乗用車8席以下、最大重量が3.5トン未満)及びバンは同N1(貨物輸送用車両で、最大重量が3.5トン未満)を対象としている。


規制適用開始時期
2025年7月1日から全カテゴリーの乗用車とバンが規制対象となり、2027年7月1日からは、全カテゴリーのトラックとバスにも適用される予定である。
年間生産台数が 10,000台未満の小規模メーカーへの適用は、2030年となる。これは別名フェラーリ条項と呼ばれ、欧州に多い超高級ブランド自動車メーカーへの配慮とみなされている。

統合と統一基準の原則
乗用車とバンに適用されているユーロ6(Regulation(EC)No 715/2007)及びトラックとバスが対象となるユーロVI(Regulation(EC)No 595/2009)を統合し、ユーロ7とする。
また、ユーロ7では使用技術や燃料などによる区別を設けず、同じカテゴリーの車であれば、全てに1つの基準を適用するという方針に基づいている。つまり、ガソリン車、ディーゼル車、ハイブリッド車、プラグイン・ハイブリッド車、電気自動車に同じ排出制限が適用されるということである。

主な規制値

車輛、エンジン、有害物質排出管理システムの耐用年数
(有害物質排出管理システムは交換したものを含み、乗用車は8座席以上で最大重量5トン未満の全ての車輌(=M1&M2)が対象となる)

主な耐用年数:8年又は走行160,000 kmのいずれか早く到達する方
追加の耐用年数:10年又は走行200,000 kmのいずれか早く到達する方

この耐用年数とは、メーカーが製品を設計・製造する時に、上記の期間・走行距離内でユーロ7の排出及び性能条件を満たす必要がある期間の定めである。

内燃機関車の排気パイプからの排出量
小型乗用車及びバン: 
*( )内は出力質量比35kW/t未満のバンが対象

窒素酸化物NOx  60mg/km (60mg/km)
微小粒子状物質PM 4.5 mg/km (4.5mg/km)
粒子数PN10     6×1011/km (6×1011/km)
一酸化炭素CO      500mg/km (630mg/km)
全炭化水素THC    100mg/km (130mg/km)
非メタン炭化水素NMHC  68mg/km (90mg/km)
アンモニアNH3 (新規) 20mg/km (20mg/km)

 

ブレーキからの微小粒子状物質PM10排出量
2034年12月31日まで:7mg/km
2035年1月1日以降:3mg/km  

タイヤからのマイクロプラスチックの排出
これは、今回新規に採用された規制で、具体的な数値は今回の提案では発表されていない。
欧州委員会は、2024年末までにタイヤの摩耗限界(この限界に達したら交換が必要、という摩耗に起因する許容限界の数値)を提案するため、測定方法と最新技術を検討し、タイヤの摩耗に関する報告書を作成する予定である。

乗用車のバッテリー性能要件(容量%)
対象:OVC-HEV(車外電源充電式ハイブリッド車)及びプラグイン電気自動車PEV(完全電気自動車とプラグインハイブリッド車)
5年もしくは100,000km のいずれか早く達成した時点: 80%
8年もしくは160,000kmのいずれか早く到達した時点: 70%

バンのバッテリー性能要件(容量%)
5年もしくは100,000km のいずれか早く達成した時点: 75%
8年もしくは160,000kmのいずれか早く到達した時点: 65%

各団体の反応

*参考資料のAutomotive News Europeより抜粋・要約

欧州自動車製造業者協会ACEA:
ユーロ 7 の提案による環境へのメリットは、自動車のコスト上昇に比べて「非常に限定的」である。 乗用車は2025年7月、大型トラックは2027年7月実施とあるが、それまでに開発、設計、テスト、型式承認が必要な膨大な数の車両モデルとバリエーションを考えると、非現実的である。

欧州自動車サプライヤー協会CLEPA
提案は前進であるが、技術開発とテストを可能にするために、まだ決まっていない技術的な規定の詳細を早期に完成させる必要がある。法律が承認された後、実施には少なくとも24ヶ月のリードタイムが必要である。

触媒コンバーター協会AECC
規定の詳細が未決定なため、それらの詳細を含む「最終パッケージ」が早くに必要である。ユーロ7採用のプロセスの遅れが、新しい基準の実施と大気汚染改善の遅れにつながるとしたら、残念である。

ドイツの自動車産業協会VDA
ユーロ7を、小型車には2025年7月から、大型トラックには2027年7月から導入することは「ほとんど不可能」である。タイヤのマイクロプラスチック条項等が2024年末に制定される予定のため、最終版の規制の完了からわずか1年のリードタイムで適切な開発及び承認をすることは、実現不可能である。

解説
上記の各欧州自動車産業団体の反応が、端的にユーロ7に対する業界の評価を示している。
現在の欧州製造業は、超高インフレ、エネルギー危機、高金利での資金調達難が重なり、非常に困難な状況に直面している。さらに世界経済の低迷もあり、生産台数も販売台数も落ち込んでいる。
電気自動車用のバッテリーに関しては、特に原材料のリチウムとコバルト、さらにロシア産ニッケルの一部欧州企業による排除もあり、近い将来の供給不足の懸念と価格高騰が確実視されている。また、銅も世界の鉱山開発の遅れから2024年には供給不足が起こると予測されている。メーカーにとっては、既存技術と設備の枠内で事業を立て直すことが急務となっている。
そうした中での今回のような大幅な規制強化は、メーカーをより苦しい立場に追い込むことになりかねない。


欧州議会の環境委員会や欧州委員会は、環境ロビーに対し非常に寛容であり、産業にとっては厳しい選択をとる傾向が続いている。この傾向は、インフレや雇用に影響を及ぼしており、結果として欧州各国の選挙で右派政権が誕生するという事態まで発生させている。

ユーロ7は、欧州自動車業界の問題にとどまらず、欧州産業界が抱える課題のひとつを浮き彫りにしている。

【参考資料】
EUの車輌定義

ユーロ7 Q&Aとダウンロード(欧州委員会)

欧州の業界団体の反応(Automotive News Europe)

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