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アルミニウムが象徴する「EU重要な原材料法」が必然となる背景

2023年3月、欧州委員会は、すでに存在していた「EU重要な原材料リスト」を法律に格上げし、法的根拠に基づく取扱いを行うための「EU重要な原材料法案」を発表した。同法案では、新たに「戦略的原材料リスト」を設けたことに加え、重要な原材料リストに「銅」「マンガン」「電池グレードのニッケル」等が加えられた。しかし、その時点では、アルミ二ウムをリストに加えることは見送られていた。

アルミニウムは入手が容易で、生産国も多く、また欧州域内でサプライチェーンや生産技術も確立しており、特に重要な原材料になるとは考えにくい金属である。

しかし、6月30日、欧州理事会は、3月に提案されたEU重要な原材料法案の原材料リストに、アルミニウムを加えた(正確には、ボーキサイト/アルミナ/アルミニウム)。同時に、20以上の原材料のリサイクルと加工目標を引き上げた。

EU重要な原材料法案では、対象となる原材料に関して以下を求めている。

 

• EU の年間消費量の少なくとも 10% が EU での採掘による
• EUの年間消費量の少なくとも40%がEUの加工品による
• EUの年間消費量の少なくとも15%を域内のリサイクルから得る
• この法律で新たに設定された「戦略的原材料」は、加工の段階の中間材を含め、単一の第三国からの供給は、EUの年間消費量の65%以下でなければならない

 

重要な原材料にアルミニウムが含まれたことは、以下の理由により「必然」であった。
Eurometauxなどの非鉄生産の業界団体は、アルミニウムをEU重要な原材料リストに含める必要性を強調していた。

欧州理事会は、EU重要な原材料リストにアルミニウムを加えると発表したのとほぼ同時期に、評議会を通じて「EUチップ法」と呼ばれる法律を承認した。この法律は、欧州の半導体生産システムを強化するための規制で、EUの半導体の世界市場シェアを、現在の10%から2030年までに少なくとも20%にすることを目標としている。

中国商務省と中国税関は、7月3日、国家安全保障と国益の保護を目的に、希少金属のガリウムおよびゲルマニウムの関連製品を8月1日から輸出管理の対象に加えると発表した。
ガリウムは、半導体、光ファイバー、衛星用太陽電池の生産に不可欠な原材料であるが、その生産量は、中国が世界シェアの94%を占めており、EUの需要の80%を供給している。ガリウムはアルミナをアルミニウムにする工程で生成される副生成物の 1 つ(アルミン酸ソーダ溶液)であるため、アルミ二ウムの生産がない地域では供給が限定的になる。

過去、中国産のアルミニウムに価格で歯が立たなくなった多くの先進国では、多くのアルミ二ウムとアルミ二ウムが使われた製品を中国から輸入するようになり、必然的に中国でのガリウムの生産も増え、価格も低下していった。

欧州のアルミ業界団体であるEUROPEAN ALUMINIUMは、7月3日に中国政府によるガリウムとゲルマニウム製品の輸出規制の発表当日に、この重大な問題についてを即座にSNSで発信Tweetし、欧米の半導体メーカーも一斉に原料確保と調達の不安払拭の声明を発表している。

アルミ二ウムの生産は、副生物が半導体チップの製造に重要なガリウムを含むため、地政学的な問題から、いずれは欧州に戻らざるを得ない背景がすでにできつつあった。

ロシアのウクライナへの侵攻以降、制裁により、欧米はロシアからのエネルギーや資源の購入を事実上停止した。欧米の需要家は、批判を避けるため、ロシア産のアルミニウムの購入を避け、それ以外の産地のものを巡る競争が起きていることが伝えられた。 しかし、非鉄の国際指標となるロンドン金属取引所(LME) では、様々な批判の中でもロシア産の金属の取引市場での取扱いを継続しており、2023年7月には、LMEの倉庫にあるアルミの80%はロシア産となった。

産業と社会のグリーン化に必要不可欠な金属である「銅」「ニッケル」「リチウム」「天然黒鉛」「希土類」「コバルト」「白金族金属」については、供給リスクを低減するために、需重要な原材料リストに加えられてきた経緯がある。しかし、アルミ二ウムを加えたことで明らかになったの事は、欧州政府が、地政学的なリスク要因のを排除する事を優先し始めたことである。

欧州は、重要な原材料リストにある原材料やエネルギー資源調達の多くを、特定の1ヶ国又は2ヶ国に依存してきた。そして、それらの国が民主主義と自由貿易を推進しない国であることから、政治的に非常に脆弱な状態に陥る危険があることは、前々から指摘されてきた。

例えば、歴代の米政権は、ロシアから直接ドイツに天然ガスパイプラインを引いた「ノルドストリーム2」に関して一貫して反対してきた。結果として、地政学リスクを犠牲にして経済効率を優先した欧州政府の目論見は、完全に裏目に出て、欧州でエネルギー危機が起こってしまった。この出来事は1つの例であるが、大きな教訓となり、政策的な方向性が転換した。

EUは、2020年には、希土類の 99 %、希土類永久磁石の 約 98%、マグネシウムの93%、天然黒鉛の50%を、中国1ヶ国から購入していた。

EUの対中貿易赤字は2023年までの10年間で3倍以上に増加し、ほぼ4,000億ユーロに達している。

何度か延期をくり返した後、6月30日、欧州理事会は、対中国の公式戦略を発表した。公式戦略では、中国経済とEUを「切り離す(Decoupling)」のではなく、EUは、中国からの「リスクを取り除く(De-risking)」という目標を表明した。米国のような Decoupling(デカップリング)政策を取るのではなく、貿易戦争で起きる直接的な経済的ダメージをできるだけ和らげ、時間的な余裕を持つ方針を掲げた。これは、上記のように、産業や経済が多くの面で中国に「依存」しているEUが取った現実的なアプローチと評価された。

公式戦略の発表時、欧州委員会は、電気自動車バッテリー、半導体、その他多くの重要な製品用の化学物質のサプライチェーンが、中国との関係断絶に対して特に脆弱であるとの見解を示した。また、サプライチェーンを含む重要な依存関係と脆弱性の削減を継続し、必要かつ適切な場合にはリスクの回避と多様化を図る、と述べ中国への依存の解消を継続する強い意志を示した。

しかし、中国企業は、欧州政府が対中戦略を延期している間に、すでに、ポーランド、スロバキア、ハンガリー、欧州や米国とFTAを結ぶ北アフリカのモロッコに、様々な巨額の投資計画を発表し、実行に移し始めている。結果的に、中国企業は「欧州経済圏内部」に入ることで競争力の維持を図っているのである。

こうした経緯から、欧州政府が指定した「重要な原材料」を法律で管理下課に置く必要が生まれているのである。

鉄と同じく最も入手性が高い金属であるアルミ二ウムが「重要な原材料」に選ばれたことは、まさに、それを象徴しているのである。

そして今後も、こうしたの動きは継続するとみられている。欧州の鉄鋼生産者の団体である欧州鉄鋼生産者協会(EUROFER)は、鉄スクラップでさえ、EU重要な原材料のリストに加えるよう、非常に強いメッセージを欧州の政策担当者に投げかけているのである。

 

【参考資料】
欧州理事会のプレスリリース(”Critical raw material act: Council adopts negotiating position”) 2023年6月30日

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