高まるサーキュラーエコノミーへの社会要請を受けて、製品メーカーには拡大生産者責任(法規制、社会的責任)への対応、環境配慮型製品の設計・開発、持続可能な原材料の調達とトレーサビリティの確保、製品価値と資源価値を最大化するリユース・リペア・リマニュファクチャリング・リサイクルの複合的なサービス設計、CO₂をはじめとする環境関連データの開示などが求められている。これらの要求を一度に満たすことは不可能なため、サーキュラーエコノミーへの移行に向けた重要課題を設定し、段階的に取り組んでいくことが重要である。本稿では、製品メーカーにとってサーキュラーエコノミーへの取り組みのファーストステップとなる製品の広域収集に焦点を当て、広域認定制度の活用状況と動向を解説する。
サーキュラーエコノミーへのファーストステップとなる製品の広域収集
世界でサーキュラーエコノミーを推進している組織であるエレン・マッカーサー財団(EMF)の「バタフライダイアグラム」は、サーキュラーエコノミーの根幹をなす概念である。
この図においては、一度市場に投入された製品や素材は、リユース・リペア・リマニュファクチャリング・リサイクルなどの適切なルートを通じて徹底的に使い回される。ポイントとなるのは、製品や素材を「高い価値の状態のまま流通・循環させ続けること」という点である。例えば、PCなら中古販売を通じてセカンドマーケットで2次利用できるようにしたり、故障したPCを再整備して3次利用できるようにしたりすることである。まずは「製品」という最も価値の高い状態のまま流通させることが資源効率・環境負荷低減の観点から重要だからである。やがて、製品としての機能を果たさない、あるいはそのまま使い続けることが合理的でないと判断されるタイミングで高度リサイクルを行い、今度は「資源」としての価値の最大化を図る。いずれにしても、これらの出発点となるのがEMFのダイアグラムが示す「Collection(収集)」である。使用済み製品をリユースするにしろ、リサイクルするにしろ、全国に散らばった製品をいかに効率的に収集するかが、最初に取り組むべき課題となる。
製品の広域収集を可能にする広域認定制度とは
2023年2月に経団連が発表した「サーキュラーエコノミーの実現に向けた提言」では、目指すべき3つの方向性、取り組むべき9つの課題が整理されている。課題の一つとして挙げられているのが、資源の効率的な収集である。資源の確保に加え、収集運搬コスト・燃料資源・CO₂排出削減の観点からも資源の効率的な収集を行う必要があり、そのための手段として「広域的な収集」と「動脈物流の活用」が重要である、と述べられている。通常は廃棄物処理法の規制により、収集運搬の許可や積み替え保管の許可を地方公共団体ごとに取得する必要があり、この許認可取得にかかる労力と時間の負担が広域収集のボトルネックとなっていた。そこで環境省は、2003年に「広域認定制度」を設け、製造事業者等(製造、加工、販売等の事業を行う者)が自社製品の広域回収をしやすくする仕組みを構築している。広域認定制度を取得すると、認定計画の範囲において、廃棄物処理法が求める廃棄物処理業の許可が不要となる。これによって、地方公共団体ごとの許可取得の省略、動脈物流の帰り便を活用した効率的な資源回収などが可能になる。経団連の提言は、サーキュラーエコノミーの実現に向けて、広域認定制度の活用が一層促進されるような制度のあり方を検討すべきである、との内容となっている。
対象となる廃棄物
対象廃棄物は産業廃棄物と一般廃棄物で異なる。産業廃棄物については、条件を満たした自社製品を対象廃棄物とすることができる。一方で、一般廃棄物は下表のとおり14品目が指定されている。
分類 |
対象廃棄物 |
認定数 |
産業廃棄物 |
1. 通常の運搬状況の下で容易に腐敗し、又は揮発する等その性状が変化することによって生活環境の保全上支障が生ずるおそれがないもの 2. 製品が廃棄物となったものであって、当該廃棄物の処理を当該製品の製造(当該製品の原材料又は部品の製造を含む。)、加工又は販売の事業を行う者(これらの者が設立した社団、組合その他これらに類する団体(法人であるものに限る。) 及び当該処理を他人に委託して行う者を含む。以下「製造事業者等」という。)が行うことにより、当該廃棄物の減量その他その適正な処理が確保されるもの のいずれにも該当する必要があります。 |
207件 (2024/5/10時点) |
一般廃棄物 |
1. 廃スプリングマットレス 2. 廃パーソナルコンピュータ 3. 廃密閉型蓄電池 4. 廃開放型鉛蓄電池 5. 廃二輪自動車 6. 廃FRP船 7. 廃消火器 8. 廃火薬類 9. 廃印刷機 10. 廃携帯電話用装置 11. 廃乳母車 12. 廃乳幼児用ベッド 13. 廃幼児用補助装置 14. 加熱式たばこの廃喫煙用具 |
46件 |
広域認定制度活用のメリット
前述の業許可不要による効率的な資源回収に加えて、製品メーカーが広域認定制度を活用するメリットは大きく2つある。
- ・ユーザーの廃棄時の処理委託先探しが不要となり、負担が削減される
- ・回収した後機能を回復させることで製品を低コストで再販売できたり、不法投棄や他の業者による不適正処理に巻き込まれるリスクを抑えたりすることができる
認定状況
2024年7月29日時点で環境省ウェブサイトに公表されている情報によると、累計認定取得数は産業廃棄物が207件、一般廃棄物が46件となっている。認定は個社だけでなく、共同申請や業界団体でも可能なことを加味しても、2003年から2023年の約20年間における認定取得数としては、決して多いとは言えないだろう。年度ごとの認定取得数の推移を見ても、産業廃棄物・一般廃棄物ともに認定取得数が最多となった年度は、2003年の制度開始直後の2004年であり、それ以降、ほぼ横ばいが続いていることが見て取れる。認定取得が進まない理由としては、回収対象が自社製品に限定されること(回収効率向上や安定化が困難)、認定取得に向けた企業のインセンティブが弱いことなどが考えられる。
<年度ごとの広域認定取得数の推移>
出所:環境省ウェブサイトを基にブライトイノベーション作成
なお、経済産業省の令和5年度「再生可能エネルギー導入拡大に資する分散型エネルギーリソース」事業では、家庭・業務産業用システム及び系統用蓄電システムの両方において、広域認定制度の取得が補助金上限額のアップや審査時の加点になることが明記されている。このような強力なインセンティブがあることで、製品メーカーの認定取得の促進になると考えられる。
製品メーカーは自社で広域認定を取得する以外にも、すでにある広域認定共同回収スキームを活用する手がある。共同回収スキームとしては、一般社団法人自動車再資源化協力機構(JARP)の車載電池、一般社団法人JBRCの小型充電式電池、一般社団法人パソコン3R推進協会のPC などがある。
製品メーカーがサーキュラーエコノミーに取り組もうとするならば、自社製品の広域回収は、最初に取り組むべき課題となる。制度を活用するかどうかはともかく、一つの手段として把握されておくことをお勧めしたい。
【参考資料】
エレン・マッカーサー財団ウェブサイト
環境省ウェブサイト
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