エレン・マッカーサー財団(EMF)が提唱するサーキュラーエコノミー(CE)の3つの原則は、「廃棄物や汚染をなくす」、「製品や材料を継続的に利用する」、「資源を再生する」である。従来の3RとCEの大きな違いは、一つめの「廃棄物や汚染をなくす」にある。これは製品設計そのものを環境に配慮したものに変えることで、大量生産・大量消費・大量廃棄といった直線的(リニア)な流れを上流から食い止め、製品製造における天然資源の投入を削減し、持続可能な原材料で代替することで、循環(サーキュラー)する仕組みづくりを目指すものである。
環境配慮設計の代表的な取り組みとしては、再生原料やバイオマス原料など持続可能な原材料の使用、易解体・易リサイクル性の設計への反映などがある。再生原料は廃棄物から作られるため、企業が原材料の調達で求めるQCD(Quality:品質、Cost:価格、Delivery:納期)のコントロールが難しい。
本稿では、再生原材料の使用において、安全面でとりわけ厳しい管理が求められる食品接触用途の再生プラスチックに焦点を当て、米国食品医薬品局(FDA)のガイドラインの概要、企業の活用事例について解説する。
〈目次〉
1.FDA規制と対象品目
米国食品医薬品局(FDA:Food and Drug Administration)は、米国での食品・医薬品、医療機器、化粧品などの販売・流通を取り締まる行政機関である。規制の対象品目としては、食品・飲料、医薬品、医療機器、放射線放出装置などがある。これらの対象品目を米国に輸出販売しようとする場合、製品カテゴリーごとに決められたFDAへの届出・承認申請が必要になる。仮にFDAへの申請をせずに規制対象の商品(医薬品など)を米国で販売すると、最悪の場合、懲役を伴う刑罰が課せられることがある。
具体的な商品例は下表のとおりである。なお、一般化粧品のFDAへの届け出は義務ではないが、化粧品を製造・梱包・配送する事業者は、商品の市場流通後にFDAの自主登録プログラムへの登録が推奨されている。
対象品目 |
具体的な商品例 |
FDA規制の該非判定 |
食品・飲料 |
・飲料(アルコール飲料を含む) |
該当 |
化粧品 |
・化粧品、乳液、洗顔料などのスキンケア化粧品 |
非該当 |
医薬品 |
・処方薬および市販薬 |
該当 |
医療機器 |
・体温計、絆創膏や包帯、メス、ピンセットなど |
該当 |
放射線放出装置 |
・レーザープリンタ、超音波洗浄機、電子レンジなど |
該当 |
2.再生プラスチックに関するFDAのガイドライン
米国では食品に接触する容器包装については、食品・医薬品・化粧品法(FFDCA:Federal Food, Drug, and Cosmetic Act)により規制されており、再生プラスチックを容器包装に使用する場合も同様である。FFDCAが規定するポジティブリストと規格基準に適合し、かつ不純物の規定を満たさなければならない。この基本的な法規制を再生プラスチックに適用するために、FDAは1992年に「食品包装に再生プラスチックを使用する際に考慮すべき課題:化学的考察」と題する、事業者のためのガイドラインを発表し、ひとつの方法論と判断基準を提案した。本ガイドラインは2021年に改訂版が発行されている。
米国では再生プラスチックの食品接触用途での使用について固有の法制度はなく、その運用は企業の責任に委ねられている。そのため企業は食品接触用途に再生プラスチックを使用する場合、FDAのガイドラインなどに基づき、その材料を自主的に評価し、得られた評価結果をFDAに届け出ている。FDAは、提出された内容を肯定的にレビューした場合、企業に対して「No Objection Letter(NOL)」を発出し、FDAのウェブサイトに掲載する。このように、肯定的にレビューされた内容はHP上で誰でも確認できるため、食品接触用途に再生プラスチックを使用する場合において、FDAのNOLを得ているということは一定の社会的信用力がある。事実、規制されていないにもかかわらず、PETボトルのリサイクル企業がNOLを取得・公表している事例などがある(後述)。下図はNOLが発行される流れの全体像である。
図1 NOL発行の全体像(ブライトイノベーションにて作成)
企業はFDAのガイドラインが推奨する内容に従って、汚染物質を除去する能力を証明するための以下3つの項目に関する資料、試験データをFDAに提出する必要がある。
1)再生工程の完全なる証明書
2)再生工程が汚染物質を除去し得ることを示すために実施された試験の結果
3)再生プラスチックの使用条件を提案する説明書
FDAが審査し、安全と判断すれば個別に、「差し支えない」という返事(上述のNOL)で回答する。その後、FDAウェブサイトに情報が公開される。
3.NOL発行事例
FDAのウェブサイトにはNOLが発行された事例が公開されている。掲載されている情報は、登録番号、NOLの日付、企業名、材料名、使用制限、リサイクルプロセスである。2024年3月28日時点で320件が掲載されている。
樹脂別のNOL発行数(全世界)を見ると、構成比が多い順にPET(65.6%)、HDPE/LDPE(14.3%)、PP(9.7%)、PS(7.8%)、その他(2.6%)となっている。
材質 |
NOL発行数(製品レビュー数)1990.2~2023.12 |
PET |
202 ( 65.6%) |
HDPE |
36 ( 11.7%) |
LDPE |
8 ( 2.6%) |
PP |
30 ( 9.7%) |
PS |
24 ( 7.8%) |
その他 |
8 ( 2.6%) |
計 |
308 (100.0%) |
上記から分かるように、NOL発行事例として圧倒的に多いのがPETボトルである。国内では協栄産業株式会社、株式会社エフピコ、ウツミリサイクルズ株式会社らが再生PET樹脂に関するNOLを有している。
PETボトルのメカニカルリサイクルの代表的な処理フローでは、回収された使用済みPETボトルを選別、粉砕、洗浄(アルカリ洗浄等)して表面の汚れ、異物を十分に取り除いた後、高温下に曝して、樹脂内部に留まっている汚染物質を拡散させ除染を行う。このような高度化されたリサイクルプロセスにより、FDAガイドラインが求める試験をクリアするレベルの再生プラスチックの生産が可能になっている。なお、PETボトル以外の製品では、例えば株式会社コーセーが2022年8月に発売した化粧品容器のキャップに、NOLを有するロッテケミカル社製のメカニカルリサイクルPP樹脂が採用されている。
再生プラスチックに限らず、再生原料を製品に使用する際には、QCDの管理が課題になる。食品接触用途である飲料ボトルや化粧品容器に再生プラスチックを使用する際には、当然、バージン原料同様に品質、とりわけ安全性を説明することが求められる。FDAガイドラインは、企業の再生プラスチック使用時の評価に関するひとつの方法論・判断基準をまとめたものであり、あくまで推奨される内容である。一方で、FDAのNOLに関しては、再生プラスチックの安全性を一定の社会的信用力をもって説明する仕組みとして確立されている。今後、再生原料を製品に使用していく際には、廃棄物としての証明(トレーサビリティ)と、原材料としての安全性の証明(NOLやSDSなど)という2つの要素を満たしていく必要があるだろう。
【参考資料】
FDAウェブサイト:NOL発行データベースFDAガイドライン「食品包装に再生プラスチックを使用する際に考慮すべき課題:化学的考察」
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