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ネットゼロ投資へのマネーの潮流の変化

世界のネットゼロ投資に今何が起こり、どのような潮流の変化が示されているのか、またその背景には何があり、今後どの方向に向かうのか?本稿では、最新のグローバルの動向を分析し、今後の方向性を示すとともに、企業は何をすべきかについて解説する。

目次

  1. 2025年におけるネットゼロの大変革
  2. 世界的なネットゼロ投資減速の状況
  3. 直近の資本フロー
  4. ネットゼロ資本の再配分:EUへの資金流入と米国からの後退
    4-1.再配分の規模と仕組み
    4-2.グローバル金融機関の対応
  5. 政治情勢:EUにおける右翼と中道右派の影響
    5-1.EUでも始まった政治的リスク
    5-2.政策攻撃と右派政党への迎合
  6. 現実的なネットゼロへの影響
    6-1.グローバル投資戦略への影響
  7. ネットゼロ投資への変化を乗り越える
  8. 重要な洞察とポイントまとめ

1. 2025年におけるネットゼロの大変革

かつて投資の急速な増加と強力な政策支援によって推進されていたネットゼロ排出への世界的な取り組みは、2025年現在、大きな変化の時を迎えている。記録的な額の投資が進んでいる一方で、資本流入に関して根本的な減速がみられており、資本の再配分が急速に進んでいる。この動きは、世界的な気候変動への「野心」を脅かし、今後数十年に渡って競争環境を大きく変える可能性がある。特に、最大の資本流入市場 である欧州連合(EU)の政治的な右派・中道右派の台頭と、米国の政策転換によって、機関投資家は、ネットゼロ投資における方針転換を急速に実施している。

2. 世界的なネットゼロ投資減速の状況

クリーンエネルギーや気候変動対策への投資は表面的には堅調に見え、多くの報道もそうした立場を変えていない。しかし、ネットゼロ目標に向けた世界の資本流入のペースは劇的に鈍化している。2024年の世界のエネルギー転換投資は前年比11%増の2兆1,000億ドルとなり、一見すると順調だが、2021~2023年の年率24~29%の成長からみれば急激に減速した。

現状の投資額は2050年までにネットゼロ達成に必要な水準のわずか37%に過ぎず、不足額は年間約3兆5,000億ドルにのぼる。資金調達のギャップは投資流入よりも速い勢いで拡大し、ネットゼロへの移行がさらに無秩序で高コスト、かつ遅延する懸念を高めている。
新たなネットゼロ技術(例えば水素、クリーン産業、炭素回収)は特に苦境にあり、昨年比20%以上の投資減少となっている。水素と炭素回収投資はそれぞれ40%、50%の減少、原子力は342億ドルで停滞し、政策や市場の不確実性が続いている。

3. 直近の資本フロー:2025年第2・第3四半期はより急激な調整

直近3ヶ月(2025年6月~8月) では、特に米国の主要市場でより急激な 投資減少が顕著となっている。米国のクリーンエネルギー投資は第2四半期に680億ドルに留まり、前年比わずか1%増、2024年後半の政権交代後、3四半期連続の減少が続いている。
中でも製造業が最も大きな変化をみせており、クリーン製造投資は前期比15%減、前年同期比19%減となり、電池製造は22%縮小、太陽光発電製造は25%も減少した。

最も注目すべき点は、ネットゼロ投資が開始されて以降初めて、プロジェクトのキャンセル額が新規発表額を上回り(50億ドル対40億ドル)、産業の脱炭素化、実用規模の電力・製造業など、主要全産業で新規プロジェクトが縮小したことである。政策頼みのネットゼロ投資は、不利な政策環境や不確実性に直面した市場から、急速にマネーを引き上げている。

世界全体では、2025年上半期に再生可能エネルギー投資が3,860億ドルと過去最高となったが、規模の大きい太陽光・風力発電の資産融資は13%減少した。公益規模の太陽光投資は19%減、プロジェクトファイナンス比率は2006年以来最低水準である。このような統計は、マクロ的な資本流入と現場でのプロジェクト実行の間に歪みと断片化が生じていることを示している。
地理的な資本再配分では、米国の再生可能投資が2024年下半期から2025年上半期にかけて36%減少しているのに対し、EUの投資は同期間に63%急増している。これは、総合エネルギー企業(トタルエナジーズ、RWE、CDPQ等)が米国政策変動への対応としてEUと北海への資本重視を明言し、洋上風力発電の開発業者が米国沿岸よりもEU海域へとプロジェクトの優先順位を移したことが背景にある。

4. ネットゼロ資本の再配分:EUへの資金流入と米国からの後退

4-1. 再配分の規模と仕組み

米国からEUへのネットゼロ資本シフトは明確に示されている。EUは2025年上半期に再生可能エネルギーへ約300億ドルの追加投資を行い、米国はこれに伴う資本流出により200億ドル以上を失った。EUでは洋上風力発電は大きな投資先であり、EU政府の確実な支援によって北海への投資が急増した。一方で、米国での展開は政策転換と契約リスクのため停滞している。

かつて米国インフレ抑制法(IRA)により活性化していた製造業投資も、現在は5,170億ドルの未払い投資が、税額控除や調達制限等の政策変更リスクに晒される状況になった。企業発表や投資家の戦略転換からも、法的な気候中立義務、グリーン国家援助、カーボンプライシング、長期的産業政策目標を持つ管轄区域が、より評価されていることが明らかである。

【投資先の特徴】
・洋上風力発電:2025年上半期に330億ユーロ超(2024年全体の260億ユーロ)の投資を集め、北海プロジェクトは加速、米国沿岸は政策リスクにより停滞
・製造業:米国の新規プロジェクト発表は2024年比44%減、EUは内容要件や財政措置強化によりサプライチェーンを厚くする
・投資の動向:米国は3四半期連続の投資縮小、2025年第1四半期・第2四半期には記録的キャンセルが発生、全セクターで新規発表の減少が続く

4-2. グローバル金融機関の対応

ネットゼロ投資の最大の変化はグローバル金融機関の対応にあり、機関投資家が将来のハイリターン投資からほぼ撤退したことである。投資家は現在、収益の安定性や政策の信頼性を最重要視しており、変動する米国や新興市場よりも、唯一グリーン政策を維持しているEUへの資本流入を加速している。規制の「揺れ」が投資先からの撤退を決定する最も大きな要因となっている。

5. 政治情勢:EUにおける右翼と中道右派の影響

5-1. EUでも始まった政治的リスク

一方、EUのネットゼロ投資環境も、米国同様に政治的右傾化というショックに直面している。2024年EU議会選挙では、加盟国の過半数で極右と中道右派が政権や連立の中心となり、中核気候政策に反対する立法同盟が形成されている。極右政党はフィンランド、スウェーデン、オランダ、イタリア、クロアチア、さらにはオーストリア、ポルトガル、スロバキア等で政府の一部を形成するようになった。EU最大会派のEPP(欧州人民党)は、重要気候政策でこれら勢力と連携を強めざるを得ない状況となっている。

5-2. 政策攻撃と右派政党への迎合

特に 極右といわれる派政党や会派は、「ネットゼロ法」撤廃を政策として掲げている。ドイツの極右政党であるAfD(ドイツのための選択肢)は、国内外の全気候法を廃止し「グリーンディール阻止」を掲げている他、フランス国民連合指導部は「EUグリーンディール破棄」を訴え、EPPの幹部の間でも「ネットゼロルール撤廃」「内燃機関の2035年廃止反対」(自動車投資4,000億ユーロの行方)を主張している。

立法攻撃は自然保護にも波及しており、自然回復法や2040年炭素90%削減目標への反対は、生物多様性・産業の脱炭素への投資基盤を直撃している。中道右派の政策迎合がこれら右翼の影響をさらに増幅しており、ポーランドは親EU政権下でもグリーンカー税を縮小かつ自然保護に反対、スペインでは人民党が極右政党のVoxと連携し、移行予算や低排出ゾーンの削減を進めている。また、オランダでは農業を優先し、農家に対しディーゼル割引や保護地域縮小への転換等の政策を推進している。

6. 現実的なネットゼロへの影響

産業別・地域リスクとして下記の3点が挙げられる。グローバル投資戦略への影響として、米国、EUの状況について説明する。

【産業別・地域リスク】
・クリーン製造:極右論調がネットゼロ産業法支持を後退させ、2030年目標(EUクリーンテク需要の40%)に必要な1,000億ユーロの国内投資が危機に瀕している
・重要原材料法:右派多数議会なら許認可保護が緩和され、サプライチェーン・投資リスクに波及するおそれがある
・地域インフラ:自治体・地方が送電網拡張や充電・建物改修を妨げる力を強め、移行支出の大半がこのレベルで起こっている。地域の政治的な変化の影響が顕著に表れ始めている。

6-1. グローバル投資戦略への影響

米国、EU、その他間の政策安定性・政治コミットメント格差が、気候投資全体と明らかな正比例を示すようになった。EU投資の拡大と米国からの資本転換は周期的ではなく根本的な変革を示している。

【米国】
現政権下での政策転換(短縮された税額控除、海外調達規則新設、契約不確実性、オーステッド・レボリューション・ウィンドへの作業停止命令等)は、気候技術・製造業のネットゼロのリーダーシップを棄損し、座礁資産の増加、グリーン移行のイノベーションの競争力低下のリスクを増している。ベンチャーキャピタルとプロジェクト資金は米国からEUへの資金流入を加速している。一方で、民主党を主体とする地域は政策支援が追い風となっている。

【EU】
EUで2050年までに必要な29兆ユーロ投資が、政策の不安定化と構造的矛盾により、今後の結果を読みにくくしている。右派論調が続き、現在の気候コンセンサスを損なえば、2030年までには、すでにある1,800億ユーロの投資ギャップ(ネットゼロを遂行するために必要な投資と現実の投資のギャップ)はさらに拡大すると考えられる。
一方で、一貫した政治的なコミットメントと法的気候保証を持つ地域は、長期資本を呼び込み続けている。

7. ネットゼロ投資への変化を乗り越える

世界的なネットゼロ投資の減速、大規模なネットゼロ資本再配分、政治的なボラティリティの加速──これら金融動向の変化は、ネットゼロ移行に決定的な転換をもたらしている。特に産業界の経営陣は、技術力や資源の可能性だけでなく、規制の安定性や政治の動向に注目する必要に迫られている。グローバル企業の幹部の多くが、2025年に注目すべきは「政治」と声高にいうのは、地政学を含め、このような背景があるからである。

EUは右派・中道右派の台頭により、短期投資だけでなく、数十年に及ぶ気候変動対策の基盤そのものが脅かされている。主流政党が極右の考え方に寄り添うことで、不確実性がさらに強まり、政策の一貫性を損ない、欧州がリードしてきたネットゼロ投資の統合的市場環境が危機に陥るリスクを秘めている。
金融動向が新時代の到来を告げる中、すべてのステークホルダーは、迅速に適応する必要がある。

8. 重要な洞察とポイントまとめ

本稿の内容をまとめると、ネットゼロ投資への重要な洞察とポイントは下記の7つとなる。

・世界のネットゼロ投資は減速しており、記録的な投資額にもかかわらず、年間成長率は2024年に11%(過去数年は24~29%)。現状では必要資本の37%しか投入されていない
・米国政策の不確実性とEU規制の安定性比較により、米国資本のEUへの大規模な再配分が起こっており、2025年上半期は米国投資36%減少に対し、EU投資は63%増
・産業別では、製造業・洋上風力発電が最大の影響を受けている。米国ではプロジェクトキャンセルが新規発表を上回り、EUプロジェクトが新資本の大半を獲得
・EUの右派・中道右派台頭が政策安定性を脅かし、財政・規制上の逆風、長期投資信頼の低下で2030・2050年気候目標達成に影響している
・投資家が重視するのは規制の予測が可能であることと政策の明確さであり、これがクリーンエネルギー投資配分で最重要要素となっている
・EUは2030年までに1,800億ユーロの投資ギャップに直面している。これ以上の政策分断・弱体化は、赤字拡大と世界競争力低下を招く恐れがある
・政策ボラティリティの高い地域への投資は、座礁資産リスクを生む

ネットゼロ投資の新時代は、バランスシートだけでなく、政治、市場、社会的コンセンサスが交錯する場で、すでに始まっている。資本フローの構造的変化、グローバルサプライチェーンの強靱性、ネットゼロに向けたインフラ構築力は、2025年中の選択によって大きな影響を受ける可能性がある。
企業は、実現可能性の高い脱炭素関連調達の構築・再調整を急ぎ、外部への優れた開示により、これらの外部環境の変化に対応する必要がある。

【参考資料】

Global Renewable Energy Investment Still Reaches New Record as Investors Reassess Risks | BloombergNEF
Investments in clean energy shifting from US to EU
Investment in clean manufacturing is slowing down | Latitude Media
Governments with clear net-zero policies capitalize on global business investment, new report finds | WBCSD
An investment strategy to keep the European Green Deal on track
Record Renewable Energy Investment in 2025: Three Things to Know | BloombergNEF

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