地球環境の持続可能性を考える上で、今サーキュラーエコノミーが重要なキーワードとして注目されている。しかし、サーキュラーエコノミーの実現に向けて具体的に何をすべきかを把握するのは簡単ではない。本稿では定義からその必要性、技術の進展、そして取り組み事例など、全体観をつかめるように詳しく解説する。
目次
- サーキュラーエコノミーの定義と目的
1-1.サーキュラーエコノミーの3原則
1-2.サーキュラーエコノミーと3R - サーキュラーエコノミーの必要性と背景
- サーキュラーエコノミーの技術とシステムの構築
3-1.要素技術の開発動向
3-2.システムの構築と評価指標 - 戦略と連携のアプローチ
- 先進的な取り組み事例
- 今後の展望と課題
- まとめ
1.サーキュラーエコノミーの定義と目的
サーキュラーエコノミーとは、従来の「作る、使う、捨てる」というリニア型の経済モデルから脱却し、資源の使用を最小限にしつつ、製品や材料を繰り返し利用することで持続可能な経済成長を目指す概念である。具体的には、製品の寿命を延ばすデザインや、リサイクル、リユース、リペア等の促進を通じて、廃棄物の発生を抑えることを重視する。このモデルは、資源の枯渇や環境汚染といった地球規模の課題に対処するため、経済活動が環境に与える影響を最小限に抑えつつ、社会や経済の健全な発展を促すことを目的としている。

図:循環経済の概要
(出典:wbcsd、『CEOのための循環経済ガイド』)
1-1.サーキュラーエコノミーの3原則
サーキュラーエコノミーの推進を目的として、2010年に英国で設立された国際的な団体であるエレン・マッカーサー財団は、サーキュラーエコノミーの実現に向けて以下の3つの原則を定義している。この3原則は、資源を循環させる循環型経済への移行を実現するための基礎となる考え方である。
・廃棄物や汚染をなくす:製品の設計段階から廃棄物や汚染が発生しないように設計すること
・製品と素材を循環させる:製品や部品、素材を最大限に利用可能な範囲で循環させること
・自然を再生させる:有限な資源ストックを制御し、再生可能な資源フローの中で収支を合わせることにより、自然資本を保存・増加させること
1-2.サーキュラーエコノミーと3R
サーキュラーエコノミーは、廃棄物を最小限に抑えることを中核に据えた社会経済システムであり、廃棄物を削減するための主な方法として、リデュース、リユース、リサイクルの3Rが重要な役割を果たしている。ごみは必ず発生するもの、という考えが前提の3Rに対し、サーキュラーエコノミーの視点は設計段階からごみを発生させない、という点が異なっている。
・Reduce(リデュース): 原材料の使用量を減らし、製品の無駄を削減することで廃棄物を減らす
・Reuse(リユース): 製品や部品を繰り返し使用することで、製品価値の最大化を図る
・Recycle(リサイクル): 使用済み製品を再資源化し、新たな原材料として活用
2.サーキュラーエコノミーの必要性と背景
近年、世界中で資源の枯渇や環境問題が深刻化し、従来のリニア経済モデルの限界が露呈している。リニア経済は持続可能性に欠け、環境への負荷が大きいことが問題視されている。これに対し、サーキュラーエコノミーは資源の効率的な利用と再生を基盤とし、ゴミの削減や環境保護を目指す経済モデルである。このモデルは、資源の有限性に対応し、環境への配慮を重視することで、持続可能な社会の実現を可能にする。
また、サーキュラーエコノミーへの移行は、経済的な側面でも多くの利点をもたらす。例えば、資源の再利用やリサイクルの促進により、新規資源の採取コストを削減できるほか、廃棄物処理のコストも軽減される。さらに、廃棄物を資源として再利用することで、新たなビジネスチャンスの創出や雇用の促進につながる可能性がある。これにより、企業は資源の持続的な利用を通じて競争力を強化し、持続可能な成長を実現することができる。
3.サーキュラーエコノミーの技術とシステムの構築
サーキュラーエコノミーの実現には、資源の循環を支えるさまざまな技術と、それらを統合・管理するシステムの構築が不可欠である。求められる技術は、製品設計から素材の再利用、廃棄物の資源化まで多岐にわたり、環境負荷の低減と経済的価値の創出を両立させる役割を果たす。
特に、デジタル技術の進展はサーキュラーエコノミーの推進に大きな影響を与えており、IoT(モノのインターネット)やビッグデータ解析、AI(人工知能)を活用することで、資源の使用状況や製品のライフサイクルをリアルタイムで把握・最適化することが可能である。システム構築においては、単に技術を導入するだけでなく、社会全体の資源循環を促進するための連携や制度設計も重要である。企業間の情報共有や協力体制の構築、行政や地域社会との連携によるルールづくりが求められる。
3-1.要素技術の開発動向
サーキュラーエコノミーの技術は資源循環の効率化や環境負荷の削減を目的に、リサイクル技術やリユース、アップサイクルの促進、さらにはデジタル技術の活用などがある。以下の表に、主要な要素技術の種類とその最新の開発動向を記載する。
| 技術分野 | 内容 | 開発動向・事例 |
| リサイクル技術 | 使用済み製品や素材を再資源化する技術 | プラスチックの化学リサイクル技術の高度化により、劣化しにくい再生材料の開発が進む。環境省の支援により企業間での技術共有が活発化 |
| リユース・リペア技術 | 製品や部品の再使用や修理を容易にする技術 | 自動車産業ではモジュラー設計が進展するなど、企業の取り組みが拡大 |
| アップサイクル技術 | 廃棄物や不要品を高付加価値な製品に変換する技術 | ファッション業界などで廃棄繊維を活用した新素材開発が進む。スタートアップ企業の参入も増加 |
| デジタル技術 | IoTやAIを活用し、資源の使用状況や製品ライフサイクルをリアルタイムで管理 | ビッグデータ解析により資源管理の最適化が可能に。デジタルツイン技術が製造業での効率化に貢献 |
| バイオ素材・化学リサイクル技術 | バイオエタノールなどの再生可能資源を活用した素材開発や、化学的処理による素材の再生 | 環境省の支援を受けたバイオマス利用技術の研究が活発化。プラスチック代替素材の実用化が進む |
| 自動車産業の技術動向 | 資源循環を考慮した車両設計やリサイクル可能部品の開発 | 自動車リサイクル法に基づきリサイクル率向上の取り組みが進む。電動車のバッテリーリユース技術も注目 |
これらの要素技術は、企業や産業界が推進するサーキュラーエコノミーの基盤を形成している。環境省をはじめとする行政の支援や規制も技術開発を後押ししており、持続可能な社会の実現に向けた技術革新が加速している。
3-2.システムの構築と評価指標
サーキュラーエコノミーのシステム構築は、資源利用の最適化、廃棄物の削減、製品のライフサイクル延長を目指すものである。製品設計から廃棄物処理までのライフサイクルをカバーする包括的なシステムが求められている。このシステムの構築には、デジタル技術の活用が重要な役割を果たす。例えば、IoT技術を用いて資源の使用状況をリアルタイムで監視することで、効率的な資源管理が可能になる。
システムの効果を評価するためには、適切な評価指標の設定が必要である。評価指標は、持続可能性、経済性、社会的影響などの観点から多角的に設定されるべきである。具体的には、資源回収率、リサイクル率、CO2排出削減率などが考えられる。また、システムの導入による経済的なメリットも重要な評価ポイントである。企業や自治体がサーキュラーエコノミーのシステムを導入する際の判断材料となる。評価指標は、システムのパフォーマンスを定量的に把握するための基礎となり、持続可能な社会の実現に向けた重要なステップとなる。
4.戦略と連携のアプローチ
サーキュラーエコノミーの実現には、各企業や組織が独自の戦略を策定することと、広範囲にわたる連携が不可欠である。その戦略は、資源の効率的な利用や廃棄物の最小化を目指すだけでなく、製品ライフサイクル全体を見据えた設計やビジネスモデルの革新を含む。具体的なアプローチとしては、製品設計におけるリデザインや、リマニュファクチャリング、リサイクルのプロセスを最適化することが挙げられる。また、サプライチェーン全体での連携が重要となり、上流から下流までの各ステークホルダーとの協力が不可欠である。さらに、異なる産業間でのシナジーを生み出すためのプラットフォームやネットワークの構築も進められている。これにより、資源の循環利用を促進し、持続可能な発展を後押しすることが可能である。企業はこのような連携を通じて、競争優位性を高め、市場での地位を強化することが期待される。
5.先進的な取り組み事例
サーキュラーエコノミーの具体的な取り組みは、企業の技術革新や製品開発、行政の政策支援、そして社会全体の意識改革が連携することで効果的に推進される。各々の取り組みが相互に補完し合い、資源循環と環境保護、経済成長の三者を両立させる持続可能な社会の実現が期待されている。その事例として、企業や社会が実際にどのような形で資源循環を実現し、環境負荷を低減しつつ経済成長を目指しているのかを下記に示す。
| 事例 | 内容 | 期待される効果 |
| 企業のエコデザインと製品開発 | 製品設計におけるリユース・リサイクル促進、耐久性向上、廃棄物削減を目指した設計 | 資源循環の拡大、製品寿命の延長、企業競争力の強化 |
| 製造プロセスの効率化と廃棄物再資源化 | 製造段階での廃棄物削減、リサイクル技術の導入、コスト削減と環境負荷軽減の両立 | 環境負荷の低減、コスト削減、持続可能な経済成長支援 |
| 行政の政策支援と資金援助 | 補助金・助成金制度の整備、規制緩和、情報発信、技術開発支援 | 企業の取り組み促進、技術革新の加速、社会全体の資源循環推進 |
| 社会全体の意識啓発と行動変容 | 消費者教育、循環型消費の推進、地域コミュニティの参加促進 | 持続可能な社会形成、消費行動の変化、資源循環の拡大 |
6.今後の展望と課題
サーキュラーエコノミーの今後の展望としては、技術革新と持続可能なビジネスモデルの普及が重要な鍵となる一方で、課題も多く残されている。法規制やインフラの整備状況が国や地域ごとに異なるため、サーキュラーエコノミーの実現を妨げる要因となっており、国際的な連携や統一的な基準の策定が求められる。また、既存の経済システムからの移行には、企業や政府が積極的に変革を推進することが必要である。先行投資的なサーキュラーエコノミー型の技術開発や設備導入には資金調達の面でのサポートが必要であり、補助金制度を利用する方法も活用することを推奨したい。
7.まとめ
サーキュラーエコノミーは、従来のリニア経済とは異なり、持続可能な社会を実現するための重要な経済モデルである。本稿では、サーキュラーエコノミーの定義とその目的から始まり、背景や技術的な側面、具体的な事例に至るまで多角的に解説した。現在企業は、限られた資源を効率的に利用し、廃棄物を最小限に抑える取り組みが求められるようになっている。製品のライフサイクル全体を見直し、リサイクル可能な材料の使用や製品の長寿命化を推進することが重要である。また、消費者への啓発活動を通じて、持続可能な消費行動を促進することも企業の役割である。
【参考資料】
・CEO_Guide_CE_JPN.pdf