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ネイチャーSBTs|企業向け自然関連目標設定のポイント

Science Based Targets for Nature(以下、ネイチャーSBTs)は、企業が自然への影響を評価し、優先順位を付け、科学的根拠に基づいて目標を設定・実行するためのフレームワークである。本稿では、ネイチャーSBTsの5つのステップやガイダンスの公開状況、これらをふまえた企業が自然関連目標を設定する際のポイントを中心に、その全体像について解説する。

目次

  1. ネイチャーSBTsとは
  2. ネイチャーSBTsの5つのステップ
    2-1.ステップ1:評価
    2-2.ステップ2:解釈・優先順位付け
    2-3.ステップ3:計測、設定、開示
    2-4.ステップ4:行動
    2-5.ステップ5:追跡
  3. ネイチャーSBTsガイダンスの公開状況
  4. TNFDとCDPとのネイチャーSBTsの整合
    4-1.TNFDとの整合
    4-2.CDPとの整合
  5. 自然関連目標設定のポイント

1.ネイチャーSBTsとは

ネイチャーSBTsとは、Science Based Targets Network(以下、SBTN)が提供する自然への影響を評価し、優先順位をつけ、目標を設定し、行動をおこしていくための科学的根拠に基づいたフレームワークである。Science Based Targets(SBT)は、「利用可能な最善の科学に基づいて、測定可能で実行可能な期限付きの目標」と定義され、目標設定者がプラネタリーバウンダリー(地球の限界)と社会の持続可能性目標に沿って行動できるようにするものである。気候に関するGHG排出量の削減目標についてはScience Based Targets Initiative (以下、SBTi)がガイダンスなどを公開し推進しているが、気候を除く自然に関する目標についてはSBTNによって推進されている。SBTNは、企業が適切な場所・時間軸・行動で、2030年までに自然損失を食い止め、ネイチャーポジティブを実現し、2050年までに完全な回復を達成することを目指している。自然の領域は淡水・土地・海洋・気候に分かれ、それらを統合する生物多様性がある。気候に関してはSBTNではなくSBTiのガイダンスを参照し目標設定を行うこととされている。自然への圧力(影響)として主な8つの圧力カテゴリがあり、企業の上流および直接操業における経済活動が、どのような圧力を自然に与えているのかを特定し、目標を設定する。
ネイチャーSBTsの対象となる自然の領域と圧力
図1:ネイチャーSBTsの対象となる自然の領域と圧力
(出典:SBTN『ネイチャーSBTs企業マニュアル』)

2.ネイチャーSBTsの5つのステップ

ネイチャーSBTsには目標を設定し達成するための5つのステップがあり、そのうちの目標設定までのプロセスであるステップ1、2、3は申請を行い、各種要件を満たすことでアカウンタビリティ・アクセラレーターによって認定される仕組みがある。各ステップの内容については以下の通りである。
ネイチャーSBTsの5つのステップ
図2:ネイチャーSBTsの5つのステップ(ブライトイノベーションにて作成)

2-1.ステップ1:評価

8つの圧力カテゴリに基づき、自社の直接操業および上流バリューチェーンにおける経済活動のうち、目標を設定するうえで重要な活動を特定する。特定された活動に絞り、活動の詳細や場所などの情報を整理しバリューチェーン全体をマッピングする。また、自然への圧力を定量化し、事業・調達地域の自然の健全性も評価する。

2-2.ステップ2:解釈・優先順位付け

各圧力カテゴリに対する目標バウンダリ(対象範囲)を定め、該当する活動や場所を整理する。また、自然の健全性を評価する環境指標を統合して各場所の圧力と自然の状態を比較し、行動優先度のランク付けを行う。さらに、そのランク付けに対して、そのほかの社会的優先事項やステークホルダーの意見、自社の戦略的優先事項をふまえ、最優先で取り組むべき場所を最終決定する。

2-3.ステップ3:計測、設定、開示

現状のネイチャーSBTsでは、淡水に関する2つ目標、土地に関する3つの目標、海洋に関する3つの目標が存在する。ステップ1、2で自然への影響を評価し優先順位を付けた後、どの課題に対して目標を設定すべきかが明確になり、ステップ3にて目標の計測、設定、開示を行う。手順は淡水・土地・海洋のそれぞれで目標設定の詳細な方法論が提供されている。
淡水・土地・海洋における目標
図3:淡水・土地・海洋における目標 (ブライトイノベーションにて作成)

2-4.ステップ4:行動

アクションフレームワーク「AR3T」に沿って行動を起こすことが推奨されている。「AR3T」とは、自然損失の直接原因を回避(Avoid)・削減(Reduce)し、自然の再生(Restore)・復元(Regenerate)を促し、企業が関わる基盤システムを変革(Transform)する行動を指す。企業は各行動を通じて目標に効果的にアプローチする。

2-5.ステップ5:追跡

MRV活動と呼ばれる、測定(Measuring)・報告(Reporting)・検証(Verification)に重点が置かれ、企業の説明責任と目標の透明性を確保するため、企業は進捗を追跡し、報告する。

3.ネイチャーSBTsガイダンスの公開状況

2023年にステップ1とステップ2のテクニカルガイダンス、および淡水と土地に関するステップ3のテクニカルガイダンスが最初に公開された。その後、パイロット企業17社による検証が実施され、2024年に更新された各種ガイダンスが公開された。さらに、今年にはステップ1とステップ2のアップデートおよび海洋に関するステップ3のテクニカルガイダンスも公開された。ステップ4とステップ5に関して、ロードマップ上では今年にガイダンスが公開される予定であるが、現状は公開されていない。そのほか、日本語に翻訳されている資料として、企業向けマニュアルや認定提出フォームなども公開されているが、2025年12月時点では最新のアップデートは反映されていないため、参照する際にはウェブサイトで公開されている原文の最新情報と併せて確認していく必要がある。
ネイチャーSBTsガイダンスの公開状況
図4:ガイダンスの公開状況
(出典:SBTNウェブサイト)

4.TNFDやCDPとのネイチャーSBTsの整合

4-1.TNFDとの整合

TNFDとSBTNが協働で作成したネイチャーSBTsに関するガイダンスによると、TNFDとネイチャーSBTsには8つの共通のアウトプットがあるとしている。一例としては、企業活動と自然の接点の明確化、依存と影響に基づく環境フットプリントの推定、そして自然の状態と企業の影響に基づいた優先的に行動するべき場所のリストの作成などがある。また、ステップ4:行動で紹介した「AR3T」の考え方をミティゲーション・ヒエラルキーとして採用し、企業の行動はこの考え方を原則とすることを求めている。そのほか、SBTNが提供する生産が自然に重大な影響を与える商品や製品のリスト「ハイインパクトコモディティリスト」の参照や、企業の経済活動の圧力カテゴリを特定する「マテリアリティ・スクリーニング・ツール」の使用が推奨されている。

4-2.CDPとの整合

CDPではネイチャーSBTsと関連する質問が複数あり、例えば、バリューチェーン内の優先地域を特定したか、水ストレスのある地域から取水はしていないか、水質汚染や取水量など水に関連する目標はあるかどうか、などである。「2.ネイチャーSBTsの5つのステップ」で紹介したネイチャーSBTsのプロセスに従って分析や評価、目標設定を行うことで企業はこれらへの回答が可能となり、既に回答している企業はさらに充実した回答が可能となるだろう。

5.自然関連目標設定のポイント

企業の行動を加速させるため、前項の通りネイチャーSBTsはその他のサステナビリティ関連イニシアチブと相互に補完・強化し合っている。そのため、SBTNのガイダンスに沿ってデータなどを準備することは、組織がTNFDやCDPなどの他のフレームワークに対応する準備を前進させることにつながる。また逆も同様で、既に他のフレームワークにおける開示のためにステップ1、2のような手順を踏んでいる場合には、ネイチャーSBTsの認定取得に向けた準備が始まっているといえる。ネイチャーSBTsでは、あらゆる情報が完璧に揃っている必要はない。現実的な視点から、全社ではなく特定の事業ユニットや、データが入手しやすい部門、関連性の強い部門に優先して分析を行うことが認められている。また、上流工程のデータが揃っている拠点から目標を設定し、追跡できない拠点についてはトレーサビリティの向上に取り組むことも可能である。自社の自然関連目標設定における課題を明確化しつつ、定量的な目標を設定して確実に進捗させるうえで、ネイチャーSBTsは企業にとって有効で信頼できる指針となるだろう。
【参考資料】
What are SBTs?
Nature Positive Guided by targets, companies take action that contribute to nature positive outcomes so nature, people and business can thrive.
SBTs for nature How do they relate to other sustainability initiatives?
Our target-setting process
FAQs
ネイチャーSBTs 企業マニュアル
Guidance for corporates on science-based targets for nature
TNFD提言