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2020年12月04日 (金)
再生可能エネルギー
考察

欧州で議論が続く管理再生林を利用した産業用木質バイオマス燃料

 

2018年1月14日、世界の科学者784名が、連名で、欧州議会に対して1通の書簡を発行した。科学者の多くは自然科学やエネルギーを専門とする者である。

書簡の内容は、森林を伐採・植林して(以下「再生林」とする)製造する木質バイオマス燃料への強い懸念を示し、「再生可能エネルギー」として認定するものは、木材廃棄物と残留物に限定するよう求めるものであった。

 

2009年、EUは、最初の再生可能エネルギー指令で、再生林を原料とする木質バイオマス燃料(主に発電用の産業用木質ペレット)の燃焼による二酸化炭素排出については「カーボン・ニュートラル」と規定した。バイオマスに含まれる炭素はもともと大気中のCO2を植物が光合成により体内に固定したもののため、バイオマス資源を燃やしてCO2が発生しても、大気中のCO2収支は変わらない、という考え方による。これにより、欧州では石炭火力発電の多くが、補助金を伴う木質ペレット発電に切り替わる事になった。

 

2017年末、およそ10年間の科学的研究から、国際的な研究組織である世界資源研究所(World Recourse Institute)は、木質バイオマス燃料のうち「再生可能エネルギー」として認定するものは、木材廃棄物と残留物に限定するようレポートを出している。

主な理由は、以下のとおりである。

木は、石炭や天然ガスと比較し単位あたりのエネルギー生成量が低い為、燃焼によって同じエネルギー量を生成する場合、天然ガスの3倍以上、石炭の1.5倍程度の二酸化炭素の排出量になる可能性がある。

木を伐採した場合、伐採しなければ森林に貯蔵されるはずであった炭素の放出がある。木は大気から二酸化炭素を吸収し保持するため、木が伐採された後、植林された木が同じサイズに育つまでの炭素回収が失われる。

伐採するたびに新しい木を植えても、その新しい木が、ペレット化されて燃やされた木から放出された炭素と同じ量の炭素を吸収して酸素に還元する為には何代もかかり、相殺するのに最低でも数十年、長ければ1世紀以上かかることがある。

 

2018年に欧州の再生可能エネルギー指令が改訂された際にも、森林の再生管理を前提として製造された木質バイオマス燃料は「カーボン・ニュートラル」として維持された。

前述の科学者784名の書簡は、この決定を受けてのものであった。

欧州が「再生可能エネルギー」として承認している木質バイオマス燃料は、FSC(Forest Stewardship Council)などの認証を受けた、「公正に管理された」森林から伐採された木を原料とするよう条件づけられている。燃料としては「再生可能」であり、公正に管理されている森林由来のものに限定される。

しかし、木質ペレット製造が伸びている旧東欧諸国では、違法伐採の問題が報じられる事が多い。ラトビア、エストニア、リトアニアの森林伐採量は、木質ペレットの需要増加により過去10年で3倍になっている。

「再生可能エネルギー」の本来の目的は、エネルギー生成時に二酸化炭素の発生を減らす事と生物多様性を含む自然環境の保護にある。科学者の主張は、木質ペレット燃料がその両方の目的に沿わず、補助金の投入は事態を悪化させる、というものだ。

 

このような背景から、欧州では、再生林を原料とする木質バイオマス燃料(特に発電用の木質ペレット)は、「カーボン・ニュートラルの抜け穴(The Carbo-Neutral Loophole)」としばしば称される。

これら一連の動きに対し、EUや英国の政府が再生林木質バイオマス燃料の制限を政策に盛り込む動きは、起こらなかった。むしろ、EU全体の再生林木質バイオマス燃料の需要は増え続けている。

2019年12月12日、第25回国連気候変動サミット(COP25)の記者会見で、米国を拠点とする非営利環境保護・環境科学のニュース・プラットフォームであるモンガベイ(Mongabay)が、EUのエグゼクティブ・バイス・プレジデントであるフランス・ティメルマン氏(Frans Timmermans)に対し、この点を問いただした事があった。

その時のティメルマン氏の回答は、

 

「バイオ燃料の問題は注視する必要がある。バイオ燃料は持続可能であり、(人類社会にとって)害よりも利益をもたらす事を確認する必要がある。」

“The issue of biofuels needs to be looked at very carefully. We have to make sure that what we do with biofuels is sustainable and does not do more harm than that it does good.”

 

という曖昧な回答で終わり、その後に担当者も同じ見解を示しただけだった。

この回答は、当時、政策トップの当事者が、「カーボン・ニュートラルの抜け穴(The Carbo-Neutral Loophole)」が潜在的に存在する問題である事を認めた、と報道された。しかし、その後も実際の政策に反映される事が無い状態が続いている。

 

木質ペレットの発電と補助金について、英国での1つの例をあげる。

米英を拠点とする産業用バイオエネルギーを監視する環境団体のバイオフューエル・ウォッチ(Biofuelwatch)によると、英国の大手エネルギー会社Draxは、2019年に688万トンの木質ペレットを発電所で燃やしている。これは、木材に換算して約1,375万トンになる。木質ペレットは、米国、カナダ、スペイン、ポルトガル、ポーランド、エストニア、ラトビア、スウェーデンから輸入されたものだ。特に米国(460万トン)、カナダ(110万トン)の2か国からが、圧倒的に多い。

英国は2050年までに温室効果ガス排出量正味ゼロを目標に設定しているが、Draxが木質ペレットを燃焼して発生させる二酸化炭素は、温室効果ガス排出量にカウントされていない。

2019年、Drax社は、再生可能エネルギーに関連する補助金として総額7億8,950万ポンド(約1,090億円)を受け取っている。この補助金の一部は、各家庭の電気料金に「サーチャージ」として課金されている。

木質ペレットは石炭に比べ燃焼した時の単位あたりのエネルギー発生量が40%以上少ない。その為、同じエネルギー量を得るには、より多くの木質ペレット燃やす必要がある。輸送における二酸化炭素の発生量も石炭より多い。

前出のバイオフューエル・ウォッチ(Biofuelwatch)は、2020年11月24日を「森林バイオマスに対して世界で行動を起こす日(International Day of Action on Forest Biomass)」と定め、再生林による木質バイオマス燃料に対する補助金を廃止し、その補助金を別の低炭素再生可能エネルギーに向けるよう、英国政府に公開書簡を送った。しかし、この行動も一般の新聞や政府が取り上げる事は無かった。

 

では、なぜこのような事態が起きているのか。

様々な要因があるが、大きな理由は3つあると考えられる。

1つ目は、風力発電、太陽光発電などの再生可能エネルギーは安定しない為、ベースロード電源として安定した燃料が必要である事。冬に日照時間の少ない欧州では、石炭や石油にかわる安定した代替燃料が必要である。二酸化炭素を発生させない原子力発電が70%以上を占めるフランスで、木質ペレット発電が他の欧州先進国に比べ少ないのは、この為である。

2つ目は、再生可能エネルギー比率のEU加盟国の達成率の問題がある。2018年版EU再生可能エネルギー指令では、加盟国が2030年までに再生可能エネルギー比率を32%にする事を義務付けている。これが、2020年に過去最高の木質ペレットの生産と需要を生み出し、現在もまだ増え続けている要因の一つでもある。

3つ目は、複雑に絡む利権と雇用創出の問題がある。長期間安定した補助金によって成り立つ事業は、燃料生産者と需要家の両方に魅力がある。金融機関の投資も行いやすい。需要側の投資は10年前から、燃料生産者側の投資は、過去5年で急速に伸びている。投資活動やインフラの建設・維持により新たな雇用も生まれる。

 

世界最大の木質ペレット製造会社である米国の1社は、各国の需要家による電力の長期固定価格買取制度に基づく木質ペレットの長期売買契約を信用として、2020年だけで1,150億円以上を調達している。資金調達は、いずれも同社の出資団体である投資会社が関連しているようだ。発電用の燃料となる木質ペレットは、生産者と需要家の間で、基本的にほぼ一定価格で長期売買契約が交わされる。その為、景気や市場の変化による影響を受けにくく、投資家にとっては魅力的な業種である。

前述の英国Drax発電所の件では、補助金が無ければ事業として成立は難しく、木質ペレット生産業者も、それは同じである。

英国人にしてみれば、自分達が支払っている電気料金とサーチャージの多くが海外に流出しているのだが、それは、全くと言ってよいほど伝えられていない。伝えられるのは、クリーンなエネルギーである、という事がほとんどである。

 

前述の科学者784名の懸念は、再生林木質バイオマス(木質ペレット)燃料が、広大な森林を伐採し、木材をトラックで何度も輸送し、膨大な電力を使いペレット燃料を生産し、大西洋を越えて数万トンの船で何度も輸送し、さらに巨額な補助金を支払い、同じエネルギーを得るために化石燃料より多くの燃焼を必要とする、という事実を含んでの事である。

今、アジアでも発電用燃料としての再生林木質バイオマスの需要が急速に伸びている。

再生可能エネルギーとして電力の長期固定価格買取制度による補助金のスキームは、欧州と類似点が多い。

前述のEUのエグゼクティブ・バイス・プレジデントであるフランス・ティメルマン氏(Frans Timmermans)の言葉は、先行するEUからの助言と受け止めたい。

「バイオ燃料の問題は注視する必要がある。バイオ燃料は持続可能であり、(人類社会にとって)害よりも利益をもたらす事を確認する必要がある。」

 

【参考資料】

科学者による書簡(LETTER FROM SCIENTISTS TO THE EU PARLIAMENT REGARDING FOREST BIOMASS(updated January 14, 2018))

世界資源研究所によるレポート(Why Burning Trees for Energy Harms the Climate)

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