サーキュラーエコノミー

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2020年11月05日 (木)
サーキュラーエコノミー

考察:欧州サーキュラーエコノミーと政策的背景

 

 EUのサーキュラーエコノミーは、欧州のグリーンディール政策を行う為の重要な政策プログラムの1つである。

 既に日本語でも様々な情報が整理・報道されているので、具体的なサーキュラーエコノミーの行動計画や個々の規制・数値については、本稿では割愛させて頂く。

 初回の今回は、政策としてのサーキュラーエコノミーをどのように捉え、そして対応すべきか、参考になるべき考察を、まずは総論的な観点で提供する。

 

 EU委員会(EU Commission)のウェブサイトには「戦略」(Strategy)というページがある。そのページに「EU委員会の優先事項」(The European Commission's priorities)が掲載されており、トップに「欧州グリーンディール」(European Green Deal)が記載されている。*1

 欧州委員会は、グリーンディールを以下のように定義している。

The European Green Deal is our plan to make the EU's economy sustainable. We can do this by turning climate and environmental challenges into opportunities, and making the transition just and inclusive for all.

「欧州グリーンディールは、EU経済を持続可能なものにするための計画である。 これは、気候と環境の課題をチャンスに変え、すべての人にとって公正かつ包括的な移行を行うことで実現する。」

出典元:EU Official Website - A European Green Dealより

 

 では、この「気候と環境の課題をチャンスにし公正かつ包括的な移行を行う事」とはどのような事なのか。

 具体的には以下の3点に集約できる。

 

  • 現在の経済活動を循環型経済へ移行する為に刺激する。
  • それによりグローバル競争力を高める。
  • 持続可能な経済成長を促進し、新しい雇用を創出する。

 

 一言で言えば、「環境保護を軸にした産業転換、経済成長、そして雇用創出」である。

 政策や制度の設計は、環境保護のみを目的に作られていない、という事をまず理解する事である。

 

 分かり易いように、具体的に1つの例で説明する。

 現在、海洋に投棄、あるいは地中に埋め立てされるプラスチック廃棄物は世界的に大きな環境問題になっている。サーキュラーエコノミーの政策や制度の設計は、この「環境問題の解決」を長期的な最終目標にして、プラスチックの製造、流通、利用、回収、リサイクル、廃棄、そして再生・再利用の全ての産業を包括的に変化させることで、独自の競争力を高め、経済成長を促し、雇用を創出する事にある。

 サーキュラーエコノミーでは、政策の1つの柱である「再生・再利用」の具体的なアクション(行動計画や規制)が明確化され、それにより循環型への産業転換を刺激する。

 

 環境保護が政策の絶対的な第一目標でれば、温暖化に対する二酸化炭素の方針と同様、総量規制をする事が、即効性の高い効果がある。具体的には、プラスチックの原料となるポリマーの総生産量(あるいは流通量)を1990年比で20XX年までにYY%削減する、とする事である。欧州でも一部の科学者は、ポリマーの種類を限定し、個別の生産量を規制する事が環境対策として最も効果がある、と訴えている。しかし、欧州の政策担当者は、こうした意見を具体的な政策に落とし込んでいない。

 何故なら、総量規制では、関連産業及び企業の収益は伸びず雇用が生まれないからだ。むしろ逆効果だ。経済発展の為に二酸化炭素削減を受け入れない国がある事実と、同様である。

 その為、サーキュラーエコノミーのアクションプランは、今後、ポリマーは何倍作っても構わないが、政策の1つの柱である再生・再利用、つまりリサイクルされた原料の使用率を徐々に高めるように設計されている。

 その間に、よりリサイクルし易い原料や製品の開発、リサイクル技術の向上、リサイクル施設の増加、再生エネルギーの利用、法規制を含む回収スキームや税制度の拡充を図る、というものだ。

 包括的に産業を転換する為に時間軸を長くとり、制度を拡充させながら徐々に行う方が、社会の安定を損なう事が少ないからである。

 

 このような制度設計ならば、雇用が創られ、単位(重量/エネルギー)あたりの環境負荷は減る。そして、環境技術分野での競争力が増す。徐々に産業全体の変化が促され、高い競争力のある環境技術は、輸出の大きな武器になる。さらに輸入に対する非関税障壁としても役立つ。

 これが、政策の狙いであり、サーキュラーエコノミーの制度設計に反映されている重要なポイントだ。

 

 ほんの少しだけ深堀すれば、今後、石油だけでは収益が上がる見込みの少ない(特に欧州)石油メーカーが、より石油化学製品に収益源をシフトしているという事も、ポリマー生産に規制が掛かりにくいという背景だと推測できる。

 単純に「環境負荷」だけを考えた場合、リサイクルを含む全体量が増える為、エネルギー消費は増え、全体熱量は変わらないか、むしろ増える可能性がある。その部分の科学的根拠や証明は、政策の中ではあまり明示されていない。

 欧州のサーキュラーエコノミーとは、産業のパラダイムをシフトさせることで雇用を維持・創出する事が目的の重要な1つである。その為の政策の軸に「環境負荷低減/環境保護」が置かれ、「再生・再利用」のアクションを具体化する事で、実現を促す、と理解できる。

 

 では、欧州以外の個別企業がどのように対応すべきか、という点を考察してみたい。

 欧州の政策の制度設計が資金援助や法制度を含め産業全体に対し包括的に行われている為、1企業が個別の規制値に対応するたけでは、競争にならない。まず、この認識が一番重要である。報道で強調されがちな野心的な規制値だが、まずは、その数値を達成するための制度設計全体を精査する必要がある。

 例えば、欧州でプラスチックボトルのリサイクル材の使用率が2030年から30%と制定されているが、それを欧州域外の個別企業が単独で商業的に成功させる事は、現状では、ほぼ不可能に近い。回収スキーム、税制、技術援助、システムの構築、社会的な環境教育を含め、全てを政策的に網羅して達成しようとしている欧州とは、競争できる環境にない。

 まずは、包括的な視点で個別の案件に関わる欧州の政策・制度設計を精査し、かつその背景と意図を考察して、取り組めるポイントにナローダウンする事が手順である。

 具体的には、政策的な理解と現在欧州で当該産業が置かれている状況、さらに包括的に制度設計を調べ上げ、その上で判断する事である。必ず方法論はある。

 失敗し易いのは、欧州の野心的な規制や数値だけにとらわれ、特定の新しい技術や方法だけを軸に対応しようと考えてしまう事だ。

 環境という事で社会的圧力は強いが、欧州の制度設計を深く理解すれば、当該産業の置かれた状況や政策的意図まで含め冷静に考察できる。

 この視点での情報が少ない為、今後は、もう少し具体的な分野に絞りながら考察を進めていきたい。

 

*1EU Official Website - Strategy

 

 

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