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2021年02月12日 (金)
脱炭素化
考察

脱炭素で産業界のリセットを促すグリーンメタル【後編】 

 

前編で記載したように、グリーンメタルの問題は、サプライチェーンを含む全ての分野でエネルギー転換を要求することになる。システムの構築には通常、最低でも10年以上が必要であり、コストも数百兆円単位の巨大な額になる。カーボン・フットプリント、調達デューデリジェンス法、そして炭素国境調整メカニズムは、エネルギー転換における産業競争力維持に不可欠な政策ツールなのである。

 

欧州政府は、投資を含むあらゆる産業のグリーン化とそのロードマップを構築しつつあり、産業全体を網羅してシステマチックにグリーンディールを推進している。グリーンメタルがエネルギー転換に伴うゲームチェンジャーになることは、間違いないと考えて良いであろう。

 

カーボン・フットプリントの開示によるサプライチェーンの「見える化」

鉄鋼製品に関しては、恐らく10~15年後には、原子力発電の急速な発展とともに、世界で最もコストの安い大量のグリーンスチールを製造できる唯一の国が、中国になる可能性が高くなっている。

欧州はブロックの産業を保護するために、中国に対しカーボン・フットプリントと炭素国境調整メカニズムの導入を急いでいる。カーボン・フットプリントには輸送時の二酸化炭素(以下、CO₂)量が含まれるため、大陸間輸送で船舶や航空機に使われる化石燃料は、大きな非関税障壁として機能するからである。この問題を早期に解決する目途は、まだ立っていないのが現実である。

 

グリーンメタル全体でいえば、グリーンスチールに限らず、将来的にはグリーンアルミニウムやグリーンステンレス、グリーンカッパーも需要が増すと考えられる。これらの需要の増加に伴って、再生可能エネルギーによるコスト増、原子力発電、そしてカーボン・フットプリント拡大の3要素が、金属材料と製品市場の秩序を変え、そして産業界全体に影響を与えると推測される。そして、前編からも記載しているとおり、その動きは既に始まっているのである。

特に早い段階で実用化の見込みがあるグリーンアルミニウムと、電気炉生産のグリーンスチールの到来は、製造業の事業モデルの在り方を変える可能性がある。

本サイトでも、2020年11月9日にEV用リチウムイオン2次電池メーカーのノースボルト社の戦略について報告したが、欧州において2024年7月1日から始まるリチウムイオン2次電池のカーボン・フットプリントの情報開示義務は、同社が最重要事業戦略に予め織り込んでいるテーマである。これは、他社にとっては頭の痛い問題となっており、同様のことが金属産業にも起こる。LMEがLEMパスポート のプラットフォームを構築する理由は、グリーンメタルの登場後も国際的な非鉄先物取引市場の絶対的地位を維持するために他ならない。

ただし、これらの事例を知るだけでは、「木を見ているだけで、森全体を見ていない」といえるであろう。グリーンメタルを1つの例として、カーボン・フットプリントやエネルギー転換が何を狙いにしているのかを明らかにすることが、これらの問題について考える時に最も重要である。

 

カーボン・フットプリントの情報開示が義務化されれば、調達や製造における全ての流れが、(デジタルアーカイブ情報として)CO₂情報と同時に記録され、「見える化」されることになる。

記録情報には、最低でも場所、企業名、お金の流れ、CO₂の各情報が入ることになり、これはリサイクル材も同様で、誰が・いつ・どこで回収し・リサイクルし・材料化し・販売し・輸送したのか、各々の過程でCO₂情報と合わせて記録する必要が生じることとなる。

CO₂排出量情報の開示が義務化されれば、結果として企業間のモノとお金の流れ、そしてサプライチェーン全体が、ガラス張りになるのである。

(別途、機会を見て解説するが、欧州で始まっている「調達デューデリジェンス法」は、まさにカーボン・フットプリントの不足情報を埋める補完的役割を果たすことになる。)

欧米の大手IT企業であるビッグテックが現在持つ個人情報のデータ量は、既に計り知れない規模(ビッグデータ)になっている。同じように、企業活動もCO₂情報に付随してビッグデータ化されるということであり、1つめの狙いは、ここにあると考えられる。

サーキュラーエコノミー全体をデジタルで見える化し、「膨大なデータを管理」する。欧州が「グリーン」と「デジタル」を政策の最重要目的としているのは、このためであり、欧州だけでなく先進国全体で同じ動きがみられ始めている。

 

世界のお金の流れを変える

そしてもう1つの狙いは、「お金の流れを変える」ことにある。

2000年代以降、各国の中央銀行をはじめとする金融機関も機関投資家も、保有資産が大幅に増加し続けている。先進国のマネーは、長引く低金利と低インフレから、民間の設備投資に向けられるよりも、債券や一部の株式、不動産やジャンク債市場にまで流れてきた。安定したリターンの望める長期的なエネルギーインフラ投資は、一部の資源国に限られ、そこに資金が集中してきたのである。そのため、大気と海洋の汚染、自然破壊の問題を引き起こし、地政学的なパワーバランスの不均衡が各地で問題化してきた。

もう1つの狙いとは、これらの膨大な資金を、エネルギー転換とそれに伴う様々な環境関連産業投資に向けることである。

再生可能エネルギーへの投資は、膨大な保有資産と高い技術を持つ先進諸国が、自国やその地域にお金を落とすことになるため、雇用と景気浮揚を促す効果があり、各国の政策もそれを実現できるよう推進力を高めている。欧州政府が、国際的な投資機関による強力なロビー活動を受けて構築している「タクソノミー」の設計思想は、まさにそこにあるのである。

事実、直近の欧米の金融機関の設備投資向けのうち40%近くが環境関連になっていると伝えられており、インパクト投資は2年で2.5倍以上に伸びている。金融機関にとっても、政治の強力なバックアップと補助金政策のある環境関連事業は、魅力的なリターンを期待できる投資先となっている。

 

このように、グリーンメタルはいずれ金属産業と製造業のパワーバランスを変える震源地となり得る要素を秘めているのである。

現在のこのような状況の中で、「脱炭素問題」を単に“環境問題に伴う個別産業のテーマ”と捉えては、全体像が見えず、事業戦略で失敗する可能性さえある。脱炭素問題の本質の一部が、「脱炭素を軸にした産業テンプレートの書き換え」にあるということは、全ての産業が認識しておくべきことといえる。そして今後、この認識を持たないと、今まさに引き起こされつつある「グレートリセット」の波に、簡単に飲み込まれてしまうであろう。

 

【参考資料】

Global Impact Investing Network(グローバル・インパクト・インベストメント・ネットワーク)

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