現在、世界では食料生産量の3分の1にあたる約13億トンの「まだ食べられる食料」が毎年廃棄されている。これらの食品ロスは、食品関連企業がビジネスを通じて対応すべき重要な社会課題となっている。本稿ではサーキュラーエコノミーのテーマのうち、「食品ロス」に焦点を当て、EUで検討が進む食品ロスや食品廃棄物に関する政策や法的枠組みについて解説する。
用語の定義
食品ロスの定義は国連と日本で異なるため留意が必要である。国連の定義では、フードサプライチェーンの生産、加工、流通段階で発生するものを食品ロス/フードロス(Food Loss)、小売・飲食、消費段階で発生するものを食品廃棄物(Food Waste)と区別している。一方で日本の定義では、サプライチェーンの段階では区別しておらず、まとめて食品ロス(Food Loss and Waste)としている。EUでは、食品ロスおよび食品廃棄物の定義は、国連のものを採用している。
項目 |
生産 / 加工 / 流通 |
小売・飲食 / 消費 |
国連の定義 |
食品ロス/フードロス(Food Loss) |
食品廃棄物(Food Waste) |
日本の定義 |
食品ロス(Food Loss and Waste) |
食品ロス(Food Loss and Waste) |
EUの政策の経緯と概要
EUにおける食品ロスおよび食品廃棄物に関する主な政策は下記のとおりである。
1.「食品ロスと食品廃棄物に関するEUプラットフォーム(FLW)」を設立(2016年~2021年12月)
2.「EU食品および廃棄物防止ハブ」を設置(2019年~)
3.「ファームトゥフォーク戦略」を策定(2020年5月発表)
4.「食品廃棄物削減目標」を策定(~2023年末)
これらの最上位概念として、2015年9月に採択されたSDGs(持続可能な開発目標)12.3がある。SDGs12.3は、2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食品廃棄物を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品の損失を減少させるという目標であり、各国の政策はこれとリンクしている。EUにおいては、2016年にEU機関、EU諸国の専門家、国際機関、公募で選出された利害関係者による会議体(上記1、食品ロスと食品廃棄物に関するEUプラットフォーム)が設立された。さらに、2019年には、食品廃棄物に関する関係者と利害関係者が利用するためのハブ(上記2、EU食品および廃棄物防止ハブ)が設置され、研究、イベント、ニュース、ガイドライン、教材、データ等を開示している。これらの流れを受けて欧州委員会は、農場から食卓までの食料システム全体を持続可能なものに移行するための政策「ファームトゥフォーク戦略」(上記3)を2020年に発表している。最新動向としては、欧州委員会が2023年末までに、EU全体の食品廃棄物を削減するための法的拘束力のある目標(上記4)を提案する予定である。
2つの法的枠組み
EUの「食品廃棄物削減目標」は、具体的には以下2つの枠組みの中で整理される予定である。現在、2つの法的枠組みとそのそれぞれの下位の規制の設計、およびその改正が同時進行で検討されている。EUにおける廃棄物規制の最上位概念である「EU廃棄物フレームワーク指令」においては、廃棄物発生への規制強化により食品ロスを防止する方向性が示されている。もう一方の持続可能なフードシステムの法的枠組みは、ファームトゥフォーク戦略の主要な一部として、消費者への食品情報に関する規制(FIC)の改正が検討されている。FICは当初、2022年第4四半期に欧州委員会により改正案が提示される予定だったが、業界の調整がつかず遅延している。
規制 |
ポイント |
目論見/実施 |
備考 |
EU廃棄物フレームワーク指令の改訂 |
食品廃棄物発生の防止 廃棄物フレームワーク指令における食品廃棄物は食品ロスを含む |
廃棄物発生への規制強化により食品ロスを防止する |
廃棄物フレームワーク指令とは、欧州の全ての廃棄物規制の最上位概念 |
持続可能なフードシステムの法的枠組み提案 |
「ファーム トゥ フォーク戦略」の主要な一部 消費者への食品情報に関する規制(FIC)の改正 |
食品消費者情報規程の改正 |
フードシステム全体を網羅する法規制だが、現在個別で進んでいるものは、既存の持続可能性ラベリング フレームワークの一環である食品表示の改定 |
食品表示
前述のFICの改正と同時進行で、食品消費者情報規定の改正が進行中である。具体的には以下のような内容が検討されている。
1. パッケージ前面栄養表示を導入し、栄養プロファイリング基準を設定
2. 特定の製品の必須の原産地または来歴情報の拡大
3. 日付表示に関する規則の改訂(「使用期限」および「賞味期限」の日付) により、消費者による「賞味期限」を過ぎた食品の不必要な廃棄の防止
4. アルコール飲料の成分リストと栄養表示の必須表示を導入
5. 動物愛護表示が可能なオプションを提示
EUではグリーン志向の高まりから、企業が独自基準で食品表示(ラベリング)を行っているが、「賞味期限」や「使用期限」などについても独自の基準が乱立していることで、正確な情報が消費者に届かないことが課題となっている。また、企業に独自の基準で食品表示させることがグリーンウォッシングを助長しているのではとの議論も起きている。欧州委員会によると、「グリーンの主張」のある食品表示の40%は全く根拠がなく、残り50%以上についても、曖昧で誤解を招く表現が用いられていると推測されている。
解説
EUでは食品ロスや食品廃棄物の法的枠組みの整備が進んでいる。食品ロスを含む食品廃棄物は、バリューチェーンの各々の部分で削減することが求められるだけでなく、システム全体を持続可能なものにするための法的要件を満たす必要が生じてくる。これらの取組は、表示法等の個別の対応だけでなく、関連する法規全体を理解しながら進めることが肝要になってくる。そのため、食品関連企業は、これら枠組みの具体的な要件をよく理解し、時間的に十分な余裕を持って対応することが必要である。
【参考資料】
EU Platform on Food Losses and Food Waste(欧州委員会)
EU Food Loss and Waste Prevention Hub(欧州委員会)
Farm to Fork strategy(欧州委員会)
Food waste reduction targets(欧州委員会)
Sustainable EU food system –new initiative(欧州委員会)
食品ロス削減ガイドブック(消費者庁)
aff 2020年10月号「食品ロスの現状を知る」(農林水産省)