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2021年08月27日 (金)
脱炭素化
解説

EU炭素国境調整メカニズム概説

2021年7月14日、欧州委員会は、炭素国境調整メカニズム(Carbon Border Adjustment Mechanism :CBAM。以下、「CBAM」)を含む、複数の気候変動対応に関する法案パッケージを発表した。この政策パッケージは、欧州が2030年までに1990年比で温室効果ガス発生量を55%削減し、2050年までに気候に中立な大陸となるための「グリーンディール」の重要な要素である、としている。

 

提案されたCBAMの概要

EUで製品製造やサービスを提供する企業は、世界の他の地域よりも高い温室効果ガス(以下、「炭素」)削減のコスト負担が求められる。そのために、炭素削減にかかるコストが低いもしくは全くない地域に活動をシフトさせる、いわゆる「炭素リーケージ(Carbon Leakage)」につながる可能性がある。「炭素リーケージ」の具体的な例としては、EU域内の鉄鋼生産企業が、EUと比較して炭素排出規制の緩やかな国にある鉄鋼メーカーを買収し(あるいはその国に工場を建設して生産を行い)、生産した鉄鋼製品をEU域内に輸入して販売することなどが挙げられる。このように炭素リーケージは、結果として炭素排出量の増加を引き起こすことになる。

 

この炭素リーケージを防ぐため、CBAMでは、対象となる製品輸入に炭素価格(Carbon Price)を設定し、輸入時に支払いを求めることとしている。
支払いは、電子証明書である「CBAM証明書」を購入する形で行われる予定である。この炭素価格は、輸入品によりEU生産者が不利にならないようにするために、EU ETS(EU Emission Trading System:欧州排出権取引制度)の排出割当(Allowance)がオークション市場で取引される価格と同等の価格に設定される予定である。また、炭素価格の決定には、EU ETSにおける無償排出割当(Free allowance)も考慮される予定となっている。無償排出割当とは、政府が炭素を排出する企業や業界ごとに排出枠(量)を設定した上で、一定量の排出枠(排出量=権利)を、事前に割り当てるものである。通常、排出枠(量)を設定された企業は、排出量を超過した際に不足分をオークション市場より購入するが、その不足分を無償排出割当によって補える場合には、排出枠を新たに購入する必要がない。炭素リーケージのリスクのある企業や業種に対し、この無償排出割当が与えられている。

 

ただし、提案では、製品の原産国ですでにCBAMにおける炭素価格と同等の炭素価格が支払われている場合は、輸入者はCBAM証明書の購入が免除されるとしている。その場合、輸入者は、炭素価格が原産国で支払われていることを示す情報を提出する必要がある。

 

提案では、炭素リーケージのさらなる対策のため、EUが第三国(原産国)との部門別協定を締結する可能性も示されている。協定が締結された場合、第三国はCBAMに対応する炭素価格決定メカニズムを構築する際に、内容を独自に決定するのではなく、価格や内容について欧州委員会と交渉することとなる。

 

提案されたCBAMの概要

 

対象となる産業

炭素リーケージのリスクが高いとされる産業セクターであるセメント、電気、肥料、鉄鋼、アルミニウム及び発電(電力)。その後、他の産業セクターに拡大していく予定である。

対象国

原則として、EU加盟国以外のすべての国や地域。ただし、EU ETSに参加している、又はEUにリンクされた排出権取引システムを有する第三国には適用されない。 対象外の国・地域には、アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、スイス等が含まれる。

申告と証明

2023年1月1日以降、輸入者は、対象製品の炭素排出量(Embedded carbon emission)の所管官庁への報告が必要となる。 さらに2026年1月1日以降は、輸入者は毎年5月31日までに、前年の下記1)~3)について、所管官庁への提出が必要となる。

1)輸入した各製品の種類と総数

2)輸入品の各炭素排出量と総量

3)輸入製品の炭素排出量に対応し購入した全CBAM証明書

EU加盟国は、CBAMを実行する権限のある機関を自国内で指定し、製品の輸入は、当局によって承認された申告者(多くの場合は「輸入者」)によってのみ行うことができる。

申告者の承認と輸入許可の申請は誰でも行うことができるが、税関法やその他税法の重大な違反及び刑事犯罪歴がないこと、財政的支払能力があることが条件となる。

執行とペナルティ

輸入者が毎年5月31日までに、必要な手続き(前年のCBAM証明の提出等)を行わなかった場合、または虚偽の情報を提出した場合、ペナルティの対象となる。

また、上記のような違反が発生した場合、罰金を支払ったとしても、輸入者としてCBAM証明書を購入する承認が取り消される可能性がある。さらに加盟国は、輸入者が規則に従ってCBAM法を遵守しなかった場合、罰金に加え行政上または刑事上の制裁を課すことができる。

 

CBAM証明書の発行と炭素価格
CBAMにおける炭素価格は、EU ETS割当オークションの週平均価格に基づいて計算される。週平均価格は、欧州委員会のウェブサイトで翌週の最初の営業日に公開されている。
CBAM証明書は、上記で決められる炭素1トン当たりの価格に対し、輸入する製品の炭素排出量分を購入する必要がある。
従って、CBAM証明書の価格設定はEU ETSのオークション価格に相当するが、CBAM証明書はEU ETSとの相互利用は出来ず、CBAMのみで利用が可能である。
輸入者は、本人もしくは代理人を通じて、CBAM証明書を購入できるEU各加盟国の所管官庁に登録する必要がある。各国の所管官庁は、CBAMシステムへの輸入者(申請者)の登録及び申告(Declaration)の検証と承認を行う。
これにより、製品は所管官庁によって承認された申告者によってのみEUの税関地域に輸入することができる。


移行期間
提案では、2023年1月1日をCBAM申請の開始日として3年間を移行期間とし、2026年1月1日より完全に実施する予定であるとしており、輸入品の「炭素調整税の支払」(=CBAM証明書の購入)は、2026年1月1日から開始されることとなる。
移行期間中は、CBAMは炭素排出量の報告義務として適用されることとなり、企業は、輸入品の炭素量を計算し証明する方法を開発する必要がある。

また、移行期間が終了する前に、欧州委員会は欧州議会と理事会に報告書を提出し、特に、輸送を含む炭素リーケージのリスクがある他の部門に規制の範囲を拡大する可能性について、評価を行う予定である。


炭素国境調整メカニズムとEU 排出権取引(EU ETS)システムの関係
CBAMはEU ETSのような「キャップ・アンド・トレード」システムではないが、EU ETSを補完する役割を果たすものである。CBAM証明書は、前述のとおりEU ETSの炭素価格を反映したものとなり、輸入製品にEU内製造製品と同じ炭素コストを課すことになる。
EU ETSでは、特定の産業(施設)から放出される温室効果ガス排出量に上限が設定されており、企業はETSの取引市場で、不足する割当を購入する必要がある。また、同じく炭素リーケージを防ぐため、EU政府は特定の産業に一定数の無償排出割当を設定している。これらの無償排出割当は、当該産業セクターにCBAMが導入されることで、2026年から段階的に廃止される予定である。

 

いくつかの問題点

欧州委員会は、CBAMの対象となる産業には、将来的にEU ETSにおける無償排出割当を与えないことを明らかにしている。ただし、EU ETSが、その他の特定の産業や製造業者に現在与えている無償排出枠割当がいつまで発行され続けるのかについては明確にしていない。CBAMにおける炭素調整(課税)と、EU ETSの無償排出割当が二重に実施されれば、他国からは保護貿易主義と認識される可能性が高いであろう。

また、前述のとおり原産国での炭素価格支払いを証明することでCBAM証明書の購入を免除できる可能性を示しているが、どのタイプの炭素クレジットが許容されるのかまでは定義されていない。EUの主要な貿易相手国である米国と中国はどちらも排出権取引システムを持っているが、CBAMがこの2ヶ国の排出権取引システムによってどのような影響を受けるのかについても、現時点では明確にされていない。

 

新興国や途上国との貿易の問題も残されている。例えば、インドの鉄鋼、モザンビークやカメルーン等のアフリカ諸国からのアルミニウム、ギニアからのボーキサイト(ギニアは世界最大の埋蔵量を持つ)は、CBAMによって大きな影響を受ける。これらの国々は、過去の炭素排出量が欧州各国に比べ少なく、CBAMにより現在の市場から炭素価格を値付けすることは、それらの国々の人々の生計そのものに影響を及ぼす可能性が高い。このように、公平性の観点からもCBAMを一律に適用することには問題があるといえる。

 

WTO規則への準拠も残された課題の一つである。
WTOには、加盟国からの輸入製品を自国の製品と同様に扱うことを規定する、いわゆる「無差別の規則」がある。CBAMにより輸入時に他国の製品が自国の製品と同じように取り扱われることがどのように担保されるのか、議論の余地が残っている。また、正当な理由なしに外国製品を国内製品よりも不利に扱う規制を制定することはできない。さらに、CBAMによる輸入品への炭素調整額(税)が、WTO協定で合意された関税の上限額よりも、高くなる可能性も残されている。

 

解説
上記に記載したCBAMの概要は、あくまで欧州委員会による法案の内容であり、現時点ではEU内で議論と評価が行われているため、まだ最終段階のものではない。WTO規則への準拠を含め、未解決の課題も多くあり、最終的なEU CBAMには様々な見直しが入る余地が残されている。
ただ、CBAMの対象となる製品を輸入する企業は、CBAMに掛かるコストの影響を理解し、ペナルティを回避するためにも正しい手続を確認することが求められる。
ロシア、トルコ、中国、英国の企業は、EUへの製品の供給量が多いことから、CBAMの開始により最も影響を受けると予想されている。
炭素削減を推し進めEU ETSを拡大・強化しているEU政府にとっては、炭素リーケージを防ぎ(すなわち雇用を維持し)、輸入製品とのバランスを取るためにも、CBAMは必ず実現しなければならない政策となっている。

 

【参考資料】
EU委員会によるCBAM Q&A

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