サーキュラーエコノミー(Circular Economy、以下CE)への移行が求められる中、企業はどのように指標と目標を設定すればよいのだろうか。
経済産業省が策定した成長志向型の資源自立経済戦略では、日本が目指すマイルストーンとして、2030年にCE市場の創出が掲げられている。言い換えれば、2030年まではCE市場が創出されていない状態ということになる。
『欧州が実践するサーキュラーエコノミー【第1回】』(2024年4月18日)で解説したように、CEを実践するためには規制、資金、技術の3つの要素が必要である。とりわけ、法規制は企業に強制力を持った行動を求めることで強制的に市場を創出することがある。カーボンニュートラル(CN)に関しては、2050年度までに温室効果ガス排出の実質ゼロを目指すという国際的な目標が明確であり、それを定量的に捕捉し、削減するための方法論が確立されている。これに法規制やCDP、SBT等のESG評価イニシアティブが連動しており、企業が取り組むべき動機が明確である。
一方で、CEはそのような社会的背景がまだできあがっていない。法規制や国際標準の整備・議論が進行中ではあるが、社会実装にはまだ時間がかかると考えられる。2024年時点においては、このような曖昧なビジネス環境の中、企業はCEに向き合わざるを得ない。
本稿では、2023年9月に公表されたWBCSD(World Business Council for Sustainable Development)のCircular Transition Indicator(CTI)v4.0を取り上げ、企業が自社の環境目標を検討・設定する上で参考になる「指標」に焦点を当て、解説する。なお、2024年5月にISO59020(サーキュラリティの測定と評価)が正式発行されているが、サーキュラリティ指標の主な内容は、CTI等が参考にされている。
〈目次〉
1.CTIの概要
WBCSDが作成したCTIは、企業がサーキュラリティ(循環性)を測定する方法論をまとめたツールである。WBCSDとは、持続可能な開発を目指す企業約200社のCEO連合体である。参加企業は、政府やNGO、国際機関と協力し、企業が持続可能な社会への移行に貢献するために協働している。CTIは、企業の「自社はどれぐらいサーキュラリティがあるといえるのか?」「改善目標はどのように設定するのか?」「サーキュラー活動による改善をどのようにモニタリングするのか?」といった疑問に答えるものである。
2.方法論
CTIでは企業全体のマテリアルフローに基づき、資源採取と廃棄素材の最小化に向けた目標を設定・評価する。
出典:WBCSD “Circular Transition Indicators V4.0”
評価のプロセスには、大きく分けて「インフロー」と「アウトフロー」の2つの要素がある。上図の左半分がインフロー、右半分がアウトフローを示しており、左から右に直線的に流れる灰色の部分がリニアエコノミー、左から右に弧を描いてU字型に流れる緑色の部分がCEにおけるマテリアルの流れを示している。これら全体を評価する指標として、CTIでは「マテリアル・サーキュラリティ率」を用いている。
マテリアル・サーキュラリティ率は、3つの指標から構成される。一つ目は、調達に関わる「サーキュラーインフロー率」で、調達した資源、素材、製品、部品のサーキュラリティがどの程度かを表す。二つ目は、設計に関わる「資源循環可能性率」である。これはリサイクル性や生分解性など製品の持続可能性のためにどのような設計をしているかを表す。三つ目は、廃棄に関わる「実際の資源循環率」である。これは事業活動で排出する、製品、副産物、排水などの資源循環率を表す。すでに一般的な指標である、リサイクル率もこの資源循環率に当てはまる。このように、マテリアル・サーキュラリティ率では、調達、設計、廃棄の各段階を評価する。
3.指標
企業のサーキュラリティを評価する主な指標としては、大きく分けて次の3つがある。それは、資源(マテリアル)の循環性、水の循環性、再生可能エネルギーである。
一つ目の資源の循環性には、インフロー率とアウトフロー率がある。サーキュラーインフロー率とは、バイオマス原料など再生可能原料含有率、またはリサイクル原料など非バージン原料含有率のことである。例えば、自動車製造に再生プラスチックを重量比で25%使用したとすると、サーキュラーインフロー率は25%となる。アウトフロー率は、先ほどの資源循環可能性率(リサイクル性等)と実際の資源循環率を掛け合わせた割合である。
二つ目の水の循環性でも同様に、インフロー率とアウトフロー率がある。インフローでは使用する水の全体量に対して、循環型の水をどれぐらい使用しているか、アウトフローでは、排水の内、どれぐらいを循環利用に回しているか、という点が計測、評価される。
三つ目は再生可能エネルギー率である。事業活動について、再生可能エネルギー消費量をエネルギー合計で割ることで求める。
また、他にも製品寿命延長に関する指標などがあるため、関心のある方はCTIについて詳しくご覧いただきたい。
4.評価の7つのプロセス
では、どのようなプロセスで指標を選択し、評価すればよいのか。
CTIでは、評価のための7つのプロセスが紹介されている。一つの評価サイクルを回すために、7つのステップがあるということである。このサイクルをPDCAのように定期的に繰り返すことで、企業はCEへの移行に向けた進捗状況をモニタリングすることができる。
出典:WBCSD “Circular Transition Indicators V4.0”
<評価のための7つのステップ>
1)「適用範囲」:そもそもの評価の目的は何か、という質問から始め、評価の対象は会社全体か、事業単位か、生産拠点単位か、または製品ラインなどの特定部分か、時間軸はどうするか、何を含め何を除外するかといったバウンダリーを決める。
2)「選択」:CTIの指標を参考に、適切な指標を選択する。
3)「収集」:情報源を特定し、データを収集する。
4)「算定」:実際に収集したデータを元に算定を実行する。
5)「分析」:意思決定に向けた結果の解釈を行う。
6)「優先順位付け」:リスクと機会を特定し、改善ロードマップを作成する。
7)「適用」:具体的な計画策定と行動を実行する。
5.日本におけるCE目標数値
2024年8月、第5次循環型社会形成推進基本計画が閣議決定された。循環型社会形成推進基本法とは、2000年に公布された、日本が循環型社会の形成を推進するために目指すべき姿と基本方針を定めた法律である。5年ごとに基本計画の見直しが行われる。第5次計画では、循環経済への移行を前面に打ち出すとともに、本計画が国家戦略に格上げされた。この計画の中で、2030年度に向けて日本全体として目指すべき指標と目標数値が設定されている。下表はあくまで日本全体で目指す数値ではあるが、指標と数値目標のレベル感は企業の目標設定でも参考になると考えられる。
出典:循環型社会形成推進基本計画~循環経済を国家戦略に~令和6年8月
特に、企業にとって参考となると考えられる指標については下記のとおりである。
①入口側の循環利用率(上表4行目):循環利用量 /(天然資源等投入量+循環利用量)
経済社会に投入されるものの全体量のうち循環利用量(再使用・再生利用量)の占める割合を表す指標
②出口側の循環利用率(上表5行目):循環利用量 / 廃棄物等発生量
廃棄物等の発生量のうち循環利用量(再使用・再生利用量)の占める割合を表す指標
③最終処分量(上表6行目)
最終処分量は廃棄物の埋め立て量であり、廃棄物の最終処分場の確保という課題に直結した指標
CEへの取り組みが重要かつ不可欠であることは、もはや誰もが同意するところだろう。一方で、法規制等の社会的背景が十分に整っていない状況では、CEへの取り組みはコスト増となることがある。CE市場の成長を時間軸でどのように捉え、攻めと守りの取り組みをどのように進めていくか、企業は難しい舵取りが求められる。
なお、経済産業省は2025年までにCTIやISO59020を参照したCE指標ガイドラインの作成を検討している。いずれにしても、目標設定とそれに基づいた何らかの取り組みが必須となる流れであることは、間違いないといえるだろう。
———————————————————————————————————————————————————————————
株式会社ブライトイノベーションは、企業の環境情報開示支援、気候関連課題への対応、サーキュラーエコノミー構築など、環境・サステナビリティ分野のコンサルティングサービスを提供しています。
以下のフォームより、お気軽にご相談・お問合せください。
またX(旧Twitter)では世界の脱炭素経営とサーキュラーエコノミーに関するニュースをタイムリーにお届けしています。
ブライトイノベーション 公式X