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欧州が実践するサーキュラーエコノミー【第1回】

本稿は、以下の3回の内容に分けて、欧州が実践するサーキュラーエコノミー(circular economy:循環経済、以下CE)について詳説する。

第1回:CEを実践するための3つの構成要素
第2回:欧州のCE関連規制の建付け
第3回:欧州企業のCEへの対応事例

CEは、経済および社会モデルの1つの概念である。経済や社会をCEモデルに移行するために、先行する欧州では実際にどのようなことが行われているのかを知ることは、CEを考えるあらゆる企業や団体にとって重要なポイントであると考えられる。

 

サーキュラーエコノミー(CE)を実践するための3要素

CEを実践するためには、規制、資金、技術の3つの要素が必要である。

CEの対局として、現在一般的となっているリニアエコノミー (linear economy直線型経済、以下LE)がある。LEは、「採取、製造、廃棄」というリニア(一方向に直線的) な産業プロセスである。

LEでは通常、人々は自身にとって利便性の高い物やサービスに対価を払う。また、企業は利益を追求することから、高付加価値で最も効率を追求したビジネスモデルが普及することになる。しかし、この利便性や利益の追求が最も悪影響を与えるものの1つは、自然環境への負担である。これは、将来負の遺産として人類全体に残される普遍的な問題である。

規制当局が何もしなければ、利便性や利益の追求に変化を起こすことは困難であり、CEは具現化しない。そのため、まず必要となるのは規制である。

大企業が自主的にCEを実践する場合があるが、それだけでは社会全体としてのCEの実践には至らない。社会全体をCEにむけて移行するためには、当局による規制が必要不可欠となる。

CEの規制が施行された場合、特に移行期には、個人や企業はそれらの規制に対応するために、現在よりも多くの費用を支払う必要がある。それらのコスト増は、補助金として社会全体で支払う場合もあり、個人や企業が負担する場合もある。いずれにしても、CEの移行には、多額の資金が必要不可欠な要素である。

そして、CEの移行に向け規制や資金と並び重要な要素、技術である。技術とは、テクノロジー(科学技術)とエンジニアリング(工学)の両方が含まれる。例えば、あるペットボトルを100回繰り返しリサイクルしペットボトルに戻す場合と、1回のみリサイクルして別の包装材にする場合では、使われる技術(科学技術)と設備(工学)は異なる。現時点での技術では不可能な場合もあり、新しい技術開発や設備の開発も必要となる。

 

3つの必要要素が網羅される欧州のCE

欧州のCEでは、モノを設計・製造する時の「エコデザイン指令」、大企業のサプライチェーンを含む事業活動報告が規定されている「CSRD」、汚染者負担と拡大生産者責任を方針に含めた、最上位の廃棄物規則である「EU廃棄物フレームワーク指令」およびほぼ全ての規則や指令等に、「持続可能性要件」が盛り込まれている。

詳細は第2回に解説するが、欧州では、企業がモノ(やサービス)を設計し、調達し、自社の廃棄物を処理する全ての段階で、CEを考慮して活動せざるを得ない規制がすでに網羅されている。

資金については、欧州委員会が欧州循環経済関係者プラットフォーム(European Circular Economy Stakeholder Platform)を開設し、CEに向けた資金提供を行っている。このプラットフォームでは、CEへの移行を支援するために、欧州構造投資基金、Horizo​​n 2020、LIFE プログラムなど、大小9つ以上の資金プログラムを提供している。特にHorizo​​n Europe は、予算955億ユーロの史上最大の研究補助金プログラムで、主にCE移行とカーボンニュートラルのイノベーションに向けられている。

技術開発については、上記のHorizon Europeプログラムの資金提供を軸に、産学官での共同開発とテストが現在も行われている。

欧州での技術開発の1つの例として、リサイクル材の利用が困難なポリスチレンのリサイクルプロジェクトPS Loopがある。このプロジェクトでは、オランダの工場建設にEUの資金提供プログラムであるLIFEからの支援を受けており、技術開発では、ドイツのFraunhofer研究所等が参画している。5年間の開発プログラムを終了し、現在は量産を開始している。

 

欧州委員会によるCEの指針

2014年、欧州委員会は、廃棄物をリサイクル又は再利用できる「資源」とみなすCEへの移行を行うため、「循環経済パッケージ (Circular Economy Package) 」を提案した。この提案が発端となり、様々な議論が進められ、既存の規制の改訂ごとに持続可能性の要件が徐々に盛り込まれていった。

2020年3月、欧州委員会は、新しい循環経済行動計画 (Circular Economy Action PlanCEAP)を採択した。これは、欧州グリーン ディールの政策の1つである。
過去3年の欧州のCEは、2020年3月のCEAPを実践するために、欧州委員会が提案し、欧州議会が修正した様々な規則や指令を施行するということに焦点を当ててきた。
CEAP採択後に、電池規則や廃棄物輸送規則など、CE移行に向けた野心的な規則が次々と採択されてきたのである。

 

解説
欧州でCEが政策的に導入された直接的な出来事は、2013 年に、 エレン・マッカーサー財団の委託を受け、マッキンゼー・アンド・カンパニーが作成したレポート「循環経済に向けて: 加速された移行のための経済とビジネスの理論的根拠(Towards the Circular Economy: Economic and Business Rationale for an Accelerated Transition)」である。この報告書は、CEへの移行によりEU全体で経済的に大きなメリットがあることを詳説している。

翌年の2014年には、前述した「循環経済パッケージ (Circular Economy Package) 」が提案され、CEモデルへの経済の移行を進める本格的な政策提言が行われた。

欧州のCE政策の背景には、2000年代から台頭し、世界の原材料産業をコントロールする中国やロシアの存在がある。 2000年から2010年代初頭にかけて、EUは一次原材料の多くを中国やロシアに依存するようになっていた。2008年から2009年にかけて起きた世界的な経済危機、さらに中国によるレアアース材料の管理の強化、2014年に起きたロシアによるクリミア併合などを経て、欧州はCEへの移行の動機を強く持つようになっていったのである。

経済・社会モデルを移行するためには、規制が必要不可欠であり、資金援助と技術が伴わなければならない。欧州政府は、CE移行に向け、特に2018年以降、上記の3要素を急速に整備してきたのである。

第2回は、CEを実践する上で最も重要となるEUの規制について、規制のヒエラルキーや個々の特徴を具体的に説明する。

【参考資料】
欧州委員会が欧州循環経済関係者プラットフォーム

 

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