企業の事業活動は、購入や販売を通じてサプライチェーンで繋がっており、そこに大きな削減ポテンシャルが存在する可能性があるが、事業者自らの温室効果ガス(GHG)排出量の把握だけでは削減ポテンシャルが明確にならず、サプライチェーン・マネジメントによる排出削減のインセンティブが働かない。そのため、排出量の把握・管理のためには、自社の排出量に加えてサプライチェーン上流・下流におけるGHG排出量把握することが重要である。
前回の記事では、GHGプロトコルの概要、Scope1とScope2の算定方法を紹介した。今回はそれ以外の排出量であるScope3の算定方法について、環境省の「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン (ver.2.6)」をベースにポイントを整理し、Scope3の上流と下流それぞれのカテゴリについて、2回わたりGHGプロトコルとの違いなどを含めて説明する。前編となる本稿では、Scope3のうち上流のカテゴリであるカテゴリ1から8について解説する。
目次
- はじめに
- Scope3算定
2-1. カテゴリ1 購入した製品・サービス
2-2. カテゴリ2 資本財
2-3. カテゴリ3 Scope1,2に含まれない燃料およびエネルギー関連活動
2-4. カテゴリ4 輸送、配送(上流)
2-5. カテゴリ5 事業から出る廃棄物
2-6. カテゴリ6 出張
2-7. カテゴリ7 雇用者の通勤
2-8. カテゴリ8 リース資産(上流) - まとめ
1.はじめに
企業活動は、自社からのGHG排出のみならず、サプライチェーン上流・下流におけるGHG排出に大きな影響を及ぼしている。多くの企業では、サプライチェーン上流・下流におけるGHG排出量(Scope3排出量)が、自社からのGHG排出量(Scope1,2排出量)を大きく上回るため、企業のScope3排出量の削減に対する社会的圧力が増している。そしてScope3排出量の削減のためには、サプライチェーン上流・下流におけるGHG排出量のタイムリーかつ的確な把握が重要であるため、その算定の必要性が急速に高まっている。Scope3は、自社以外の間接排出を対象に15のカテゴリに分類され、各カテゴリで算定方法が異なる。例えば、購入製品の排出量は供給者ごとの物量データに基づき算出するほか、出張や通勤における排出量の場合は、移動距離や交通費から推計する。これから算定を始める企業にとっては、すぐに全てのカテゴリを算定することは困難であるため、環境省のガイドライン等を参考に、算定可能な範囲から少しずつでも算定を進めることが推奨される。
2.Scope3算定
Scope3の算定対象は、Scope1、Scope2以外の間接排出であり、自社事業の活動に関連する他社の排出である。GHGプロトコルでは、Scope3を15のカテゴリに分けて算定することとしており、それぞれのカテゴリにおける算定方法や留意点を以下にまとめる。
表 Scope3カテゴリ一覧
|
カテゴリ |
算定対象 |
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上流 |
1 |
購入した製品・サービス |
原材料・部品、仕入商品・販売に係る資材等が製造されるまでの活動に伴う排出 |
2 |
資本財 |
自社の資本財の建設・製造に伴う排出 |
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3 |
Scope1,2に含まれない燃料およびエネルギー関連活動 |
他者から調達している燃料の調達、電気や熱等の発電等に必要な燃料の調達に伴う排出 |
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4 |
輸送、配送(上流) |
①報告対象年度に購入した製品・サービスのサプライヤーから自社への物流(輸送、荷役、保管)に伴う排出 |
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5 |
事業から出る廃棄物 |
自社で発生した廃棄物の輸送、処理に伴う排出 |
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6 |
出張 |
従業員の出張に伴う排出 |
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7 |
雇用者の通勤 |
従業員が事業所に通勤する際の移動に伴う排出 |
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8 |
リース資産(上流) |
自社が賃借しているリース資産の操業に伴う排出(Scope1,2で算定する場合を除く) |
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下流 |
9 |
輸送、配送(下流) |
自社が販売した製品の最終消費者までの物流(輸送、荷役、保管、販売)に伴う排出(自社が費用負担していないものに限る) |
10 |
販売した製品の加工 |
事業者による中間製品の加工に伴う排出 |
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11 |
販売した製品の使用 |
使用者(消費者・事業者)による製品の使用に伴う排出 |
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12 |
販売した製品の廃棄 |
使用者(消費者・事業者)による製品の廃棄時の処理に伴う排出 |
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13 |
リース資産(下流) |
賃貸しているリース資産の運用に伴う排出 |
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14 |
フランチャイズ |
フランチャイズ加盟者における排出 |
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15 |
投資 |
投資の運用に関連する排出 |
<算定対象>
購入・取得した全ての製品(原材料・部品、仕入れ商品や販売に係る資材等)およびサービスの資源採取段階から製造段階までの排出
※企業にとっては、原材料調達や各種サービスの購入など、事業活動を行うために調達したものが該当する。
<算定方法>
①購入・取得した製品またはサービスに係る資源採取段階から製造段階までの排出量をサプライヤーごとに把握し、積み上げて算定
②購入・取得した製品またはサービスの物量・金額データに製品またはサービスごとの資源採取段階から製造段階までの排出原単位をかけて算定。上記積み上げによる算定の方が精度は高いが、必要情報の入手が困難であることが多いため、まずは物量・金額データから算定を始めることが推奨される。
(式)CO₂排出量=自社が購入・取得した製品またはサービスの物量・金額データ×排出原単位
<算定対象>
購入または取得した資本財の原材料の製造や輸送等の排出量および建設時の排出量(廃棄物等も含む)
※資本財の「使用」によるGHG排出はScope1 または Scope2 のいずれかに計上。
※資本財…長期間の耐用期間を持ち、製品製造、サービス提供あるいは商品の販売・ 保管・輸送等を行うために事業者が使用する最終製品であり、財務会計上、固定資産として扱われるもの(設備、機器、建物、施設、車両等)
<算定方法>
①購入または取得した資本財別に原材料調達から製造までの排出量を把握し、積み上げて算定
②資本財のサプライヤーの資本財に関する Scope1、2排出量と、原材料の重量、輸送距離、廃棄物の重量等に排出原単位をかけて積み上げたものを加算して算定
③購入した資本財の重量、販売単位、または支出額に排出原単位をかけて排出量を推計。積み上げによる算定が難しい場合には、資本財の購入・建設費用を用いて算定する
(式)CO₂排出量=資本財の価格(建設費用)×排出原単位
2-3. カテゴリ3 Scope1,2に含まれない燃料およびエネルギー関連活動
<算定対象>
・購入した燃料の上流側(資源採取、生産および輸送)の排出
・購入した電気・熱(蒸気、温水または冷水)の製造過程における上流側(資源採取、生産および輸送)の排出
※購入した燃料、電気・熱および自ら製造した電気・熱の使用に伴う排出量については Scope1、Scope2に計上。使用段階より前(上流側)の排出が対象となる。
※送配電損失は、GHGプロトコルではScope3、温対法(温室効果ガス算定・報告・公表制度、『サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン』)ではScope2の算定対象に含まれる。
<算定方法>
【燃料】
(式)CO₂排出量=購入した燃料の物量・金額データ×排出原単位
【電気】
・電源の種類を特定した契約ではない場合
(式)CO₂排出量=電気の入力データ×全電源平均の排出原単位
・電源の種類を特定した契約の場合
(式)CO₂排出量=電源種別の電気の入力データ×電源種類別の排出原単位
【熱】
(式)CO₂排出量=購入した燃料の物量・金額データ×排出原単位
※なお、GHGプロトコルでは、金額データに基づく算定は推奨されていない。
<算定対象>
・購入した製品・サービスの一次サプライヤーから自社への物流(輸送、荷役、保管)に伴う排出
・購入したカテゴリ1以外の自社が費用負担している物流サービス(輸送、荷役、保管)に伴う排出
※自家物流や自社施設での排出はScope1 または Scope2に計上。
※物流センターや荷捌き場のような短時間で荷物が通過していく通過型物流拠点(トランスファーセンター)や流通加工を含む物流センターでの荷役、保管は算定対象外とすることも可。
<算定方法>
【国内輸送】:算定・報告・公表制度における特定荷主の算定方法を適用して算定
(式)(燃料法)CO₂排出量=燃料使用量 × 排出原単位
(式)(燃費法)CO₂排出量=輸送距離/燃費 × 排出原単位
(式)(トンキロ法)
トラック:CO₂排出量=輸送トンキロ×トンキロ法燃料使用原単位×排出原単位(単位発熱量×排出係数×44/12)
鉄道、船舶、航空:CO₂排出量=輸送トンキロ×トンキロ法輸送機関別排出原単位
※海外輸送については、トンキロ法等を用いて算定。
※GHGプロトコルでは、輸送方法ごとの支出金額に基づく算定も推奨されている。
【物流拠点や販売拠点での荷役、保管、販売】
・エネルギーの使用に伴う排出:
(式)(燃料)CO₂排出量=燃料使用量 × 排出原単位(=単位発熱量×排出係数×44/12)
(式)(電気)CO₂排出量=電気使用量 × 排出原単位
・冷凍空調機器使用時の冷媒の漏えいによる排出:フロン排出抑制法の算定方法を適用して算定
※上記の算定が困難な場合には、商品量(容積又はパレット数等)から換算して算定。
<算定対象>
事業活動から発生する廃棄物(有価のものは除く)の自社以外での「廃棄」と「処理」に係る排出量
※廃棄物の輸送に係る排出量は任意。
※廃棄物がリサイクルされた場合の算定対象範囲は、リサイクル後のフローの全てを算定範囲とするのは現実的に不可能なため、一定の範囲で区切ることが必要(リサイクル準備段階まで、リサイクル処理プロセス全て等)。
<算定方法>
①廃棄物種類別の処理方法等の実態把握ができる場合
(式)CO₂排出量=廃棄物種類・処理方法別の廃棄物処理・リサイクル量 × 廃棄物種類・処理方法別の排出原単位
②廃棄物種類別の処理方法等の実態把握が困難なもの
(式)CO₂排出量=廃棄物処理・リサイクル委託費用(量) × 排出原単位
<算定対象>
業務における従業員の移動の際に使用する交通機関における燃料・電力消費から排出される排出量(出張等)
※自社保有の車両等による移動はScope1 または Scope2 に計上。
※出張者の宿泊に伴う宿泊施設での排出量の算定は任意。
<算定方法>
【交通機関の使用(燃料・電力消費)】
①交通機関を使用した際の移動距離または燃料使用量が把握できる場合
・旅客航空機、旅客鉄道、旅客船舶、自動車
(式)CO₂排出量=[輸送モード別]旅客人キロ(=[経路別]旅客数×旅客移動距離) × 排出原単位
・自動車
(燃料法) (式)CO₂排出量=燃料使用量 × 排出原単位(=単位発熱量×排出係数×44/12)
(燃費法) (式)CO₂排出量=移動距離/燃費 × 排出原単位(=単位発熱量×排出係数×44/12)
②上記方法による算定が難しい場合
(式)CO₂排出量=[移動手段別]交通費支給額 × 排出原単位
※交通費が不明な場合については、移動手段別の割合をサンプリング調査等により設定し算定。
※なお、GHGプロトコルでは、交通費に基づく算定は推奨されていない。
【宿泊(任意)】
(式)CO₂排出量=宿泊数 × 宿泊施設の排出原単位
※上記による算定が難しい場合:出張日数×排出原単位、従業員数×排出原単位
<算定対象>
常時使用する従業員の工場・事業所への通勤時に使用する交通機関における燃料・電力消費による排出量
※自社保有の車両等よる通勤はScope1 または Scope2 に計上。
※テレワークによる排出量の算定は任意。
<算定方法>
【交通機関の使用(燃料・電力消費)】
①交通機関を使用した際の移動距離または燃料使用量が把握できる場合
旅客航空機、旅客鉄道、旅客船舶、自動車
(式)CO₂排出量=[輸送モード別]旅客人キロ(=[経路別]旅客数×旅客移動距離) × 排出原単位
自動車
(燃料法) (式)CO₂排出量=燃料使用量 × 排出原単位(=単位発熱量×排出係数×44/12)
(燃費法) (式)CO₂排出量=移動距離/燃費 × 排出原単位(=単位発熱量×排出係数×44/12)
②上記方法による算定が難しい場合
(式)CO₂排出量=[移動手段別]交通費支給額 × 排出原単位
※交通費が不明な場合については、移動手段別の割合をサンプリング調査等により設定し算定。
※なお、GHGプロトコルでは、交通費に基づく算定は推奨されていない。
【テレワーク(任意)】
(式)CO₂排出量=[エネルギー種類別]燃料使用量 × 排出原単位 + 電気使用量 × 排出原単位
※上記による算定が難しい場合:[勤務形態・都市階級別]従業員数×営業日数×排出原単位
<算定対象>
自社が賃借しているリース資産の操業に伴う排出
※算定・報告・公表制度では、リース資産の操業に伴う排出は原則Scope1、2 での算定対象とする(GHGプロトコルでは原則Scope3カテゴリ8に計上)。ただし、短期リースしている車両等については、Scope1、2 の排出とするかScope3の排出とするか判断が必要。
※リース資産の運用に伴う排出を算定する際には、賃貸事業者と賃借事業者において算定した排出量を計上するScopeでダブルカウントが生じないようにする(詳細は『サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン』を参照)。
<算定方法>
①リース資産ごとのエネルギー種別の消費量が把握できる場合
(式)CO₂排出量=エネルギー種別の消費量 × エネルギー種別の排出原単位
②リース資産ごとのエネルギー種別の消費量が不明の場合
(式)CO₂排出量=エネルギー消費量 × エネルギー種別に加重平均した排出原単位
③上記方法による算出が難しい場合
(式)CO₂排出量=リース資産の規模等を表す指標(延床面積等)× 平均的な排出原単位(単位面積当たりの排出原単位等)
※GHGプロトコルでは、賃貸者から収集したScope1、2排出量に基づく算定も推奨されている。
3.まとめ
今回は、環境省の『サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン』を参考にScope3排出量の上流カテゴリ1から8の主たる算定について解説した。次回は、下流のカテゴリ9から15について説明する。
【関連記事】
今さら聞けないGHG算定【GHGプロトコル+Scope1,2算定編】
今さら聞けないGHG算定【Scope3算定編・後編】
【参考資料】
環境省ウェブサイト
全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト
環境省グリーン・バリューチェーンプラットフォーム
環境省 サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン(ver.2.6)
GHG Protocol Corporate Value Chain (Scope3) Standard
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