環境問題への関心が高まる現代において、ライフサイクルアセスメント（Life Cycle Assessment, 以下、LCA）は製品やサービスが環境に与える影響を総合的に評価するための重要な手法である。本稿では、「LCAとは」何かを基礎から解説し、なぜ今対応が求められているのか、その背景と重要性について詳しく解説する。また、カーボンフットプリントやScope3との違いを明確に示すことで、LCAの独自性についても説明していく。
目次
- LCAとは
- LCAが求められる背景と重要性
- CFPやScope3との違い
3-1.CFPとの違い
3-2.Scope3との違い - LCAの実施手順と方法
4-1.ISO14040に基づく手順
4-2.ライフサイクルインパクト評価 - LCAまとめ
1.LCAとは
LCAとは、製品やサービスがそのライフサイクル全体を通じて環境に与える影響を評価する手法である。ライフサイクル全体とは、原材料の採取から製造、輸送、使用、廃棄までのすべての過程の「Cradle to Grave（揺りかごから墓場まで）」を指している。評価は、エネルギー消費、温室効果ガス排出、資源利用、廃棄物生成など、さまざまな環境負荷を数値化し、製品の環境持続性を測定するものである。この手法は国際標準化機構（ISO）のガイドラインに基づいており、科学的かつ客観的なデータに基づく評価を実現する。
LCAの目的は、製品やサービスの環境影響を把握し改善点を見つけることと、環境配慮型設計（エコデザイン）やサステナビリティ戦略に活用することである。LCAは企業が環境に配慮した製品開発やプロセス改善を行う際の指針となり、持続可能な社会の実現を目指すための重要なツールである。また、LCAは環境規制への対応や製品の環境ラベル取得にも役立つ。消費者に対しても透明性のある情報を提供することで、より環境に優しい選択を促進することが可能である。
図：製品とライフサイクル
（出典：環境省）
2.LCAが求められる背景と重要性
LCAが注目される背景には、環境問題の深刻化と持続可能な社会の実現に向けた取り組みが求められていることがある。地球温暖化や資源の枯渇など、地球規模での環境課題が顕在化する中、製品やサービスがライフサイクル全体でどの程度の環境負荷をもたらしているかを正確に把握することは、企業や政府にとって重要である。
さらに、消費者や投資家の意識が高まる中、企業は単に製品を提供するだけでなく、環境への配慮を示すことが競争力の一部となっている。LCAを通じて環境影響を定量的に示すことは、透明性の向上やブランドイメージの向上、さらには法規制への対応を助けることにつながる。
企業にとってのLCAの最も大きな意義は、製品のライフサイクル全体を通じて、資源の消費や廃棄物の発生、温室効果ガスの排出など、さまざまな環境影響を網羅的に評価できる点にある。「環境負荷の全体像」を把握することで、企業は製品設計や製造プロセス、供給チェーン全体にわたる環境改善の機会を特定し、効果的な環境管理を実施することができる。また、製品設計や調達、環境経営の根拠、ESG投資対応や市場競争力強化にもつながる。
3.CFPやScope3との違い
LCAは、製品のライフサイクル全体にわたる環境影響を評価する手法として、CFP（カーボンフットプリント、以下、CFP）やScope3と比較して独自の特徴を持っている。これらの違いを理解することは、企業が効果的に環境戦略を策定し、持続可能性を向上させるために重要となる。LCAは製品の設計や改善に役立ち、CFPやScope3は企業全体の排出削減目標の設定や達成に寄与している。それぞれの手法を適切に選択し、活用することで、環境負荷の低減に向けた効果的なアプローチが可能となる。
3-1.CFPとの違い
CFPは、製品やサービスのライフサイクルを通じて排出される温室効果ガス、特にCO2の排出量に焦点を当てて評価する手法である。一方、LCAは、CO2排出だけでなく、資源消費や廃棄物の発生など幅広い環境負荷を総合的に評価している点に相違がある。CFPはCO2排出量に特化した簡易的かつ分かりやすい指標であり、LCAは環境負荷の全体像を把握するための包括的な評価手法である。それぞれのメリットを理解し、目的に応じて使い分けることが重要である。
・CFP
LCAの一部である「CO2排出量」に特化した手法であり、環境負荷の中でも特に気候変動に関連する影響に焦点を当てている。これにより、企業や消費者がCO2排出量を簡単に理解しやすくなり、カーボンニュートラルや気候変動対策の戦略策定に役立てられている。
・LCA
より広範な環境影響を評価するため、資源の過剰消費や有害物質の排出なども考慮に入れることが可能である。したがって、製品やサービスの総合的な環境パフォーマンスを知りたい場合にはLCAが適している。
LCAとCFPの主な違いは下記の通り。
| 項目 | LCA（ライフサイクルアセスメント） | CFP（カーボンフットプリント） |
| 評価対象 | 製品やサービスの環境負荷全般（資源消費、エネルギー使用、廃棄物、排出ガスなど） | 温室効果ガス（主にCO2）排出量 |
| 評価範囲 | 原材料調達から製造、使用、廃棄までのライフサイクル全体 | ライフサイクル全体のCO2排出量に特化 |
| 評価の目的 | 環境負荷の総合的な把握と改善 | CO2排出削減のための指標提供 |
| 国際規格 | ISO 14040シリーズに準拠 | ISO 14067に準拠 |
| 活用例 | 環境経営、製品設計改善、サステナブル戦略の策定 | カーボンラベルの表示、CO2削減目標の設定 |
3-2.Scope3との違い
Scope3（Scope2以外の間接排出）とLCAは、どちらも企業の環境負荷を評価するための手法であるが、それぞれの焦点や目的に違いがある。Scope3はGHG（温室効果ガス、以下、GHG）排出に特化した評価である一方、LCAは環境影響全般を取り扱うという点で異なる。企業が持続可能性を追求する際、Scope3はGHG削減に向けた具体的な指標を提供するが、LCAはより広範な環境影響を低減するための戦略策定に役立つ。これにより、企業はより包括的な視点から持続可能性へのアプローチを組み立てることが可能となる。
・Scope3
企業のGHG排出を評価するためのフレームワークであり、特にサプライチェーンを含む間接的な排出に関するデータを収集・分析する。これは、企業の直接的な排出（Scope1）や購入した電力による間接排出（Scope2）とは異なり、製品の使用や廃棄、供給業者の活動など、企業活動が間接的に引き起こす排出に焦点を当てている。
・LCA
製品やサービスのライフサイクル全体を通じて、さまざまな環境影響を包括的に評価する。LCAは、原材料の採取から製造、使用、廃棄に至るまでの各段階での環境負荷を評価し、温室効果ガスだけでなく、資源消費や生態系への影響なども含めた包括的な分析を行う。
このように、LCAとScope3は環境負荷の評価という共通点を持ちながらも、その視点や目的、適用範囲が異なるため、企業や環境政策の目的に応じて使い分けることが求められる。
4.LCAの実施手順と方法
ここでは、LCAの実施手順と方法について概要をわかりやすく解説していく。GHG排出量を中心とするCFPと違い、LCAではエネルギー消費、水使用、資源枯渇、毒性・酸性化など多様な影響項目の評価を行う。評価範囲とインベントリ（投入・排出項目）は国際基準（ISO 14040/44等）に基づき設定する。
LCAの環境負荷評価は主に「ライフサイクルインベントリ分析（以下、LCI）」と「ライフサイクルインパクトアセスメント（以下、LCIA）」の2段階で行われる。LCIでは、原材料調達から製造、使用、廃棄までの各段階で使用される資源量や排出される物質のデータを収集・整理していく。次に、LCIAではこれらのデータを基に環境への影響を評価を行う。
4-1.ISO14040に基づく手順
LCAを正確かつ信頼性高く実施するためには、国際規格であるISO14040に基づく手順を理解することから始めたい。ISO14040は、LCAの実施に必要な基本的な枠組みと手順を定めており、これに従うことで評価の一貫性と比較可能性が確保される。ISO14040に規定されるLCAの手順は大きく4つの段階から構成され、各段階は以下の通り。
| 段階 | 内容の概要 |
| 目的と調査範囲の設定 |
評価の目的を明確にし、評価対象の製品やサービスの範囲を決定。評価の対象や境界、機能単位（評価の基準となる単位）を設定する重要なステップ。
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| インベントリ分析 （LCI） |
製品のライフサイクル全体にわたる原材料やエネルギーの投入量、排出物などのデータを収集・整理。環境負荷の具体的な数値を積み上げる段階。
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| 影響評価 |
インベントリ分析の結果をもとに、環境への影響（温室効果ガス排出、大気汚染、資源消費など）を評価。環境負荷の種類ごとに影響の程度を定量化。
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| 結果の解釈 |
分析結果を総合的に評価し、改善策や意思決定に活用できる形で報告。評価の妥当性や信頼性を検証し、結果をわかりやすく伝える。
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4-2.影響評価（インパクトアセスメント）
LCIAは、ISO14040に基づく手順のLCIをもとに、原材料の採取から製造、流通、使用、廃棄に至るまでの各段階での環境負荷を詳細に分析する。LCIAは、LCAの一部であり、環境影響カテゴリを特定し、それに基づいて定量的な評価を行うものである。評価カテゴリには、温室効果ガスの排出による地球温暖化、酸性雨の原因となる酸性化、オゾン層破壊、エコシステムへの影響などが含まれる。これらのカテゴリは、ISO 14044に基づき、各製品のライフサイクルにおける環境負荷を数値化するための基準として使用される。LCIAは、これらの環境影響の潜在的な影響を理解し、改善策を講じるためのデータを提供する。
5.LCAまとめ
本稿では、LCAの基本概念からその必要性、他の環境評価手法との違い、具体的な実施手順までを解説した。LCAは製品やサービスの環境負荷を正確に把握するための強力なツールであり、その重要性は今後ますます高まると考えられる。特に、企業が持続可能な経営を目指す上で、LCAは意思決定における重要な指針となる。CFPやScope3といった他の評価手法との違いを理解することで、適切な評価手法の選択が可能となり、より効果的な環境戦略を策定することができる。また、ISO14040に基づく手順や影響評価の手法の実施を通じて、具体的で実践的なLCAの活用をしていただきたい。
【参考資料】
・EPD（Environmental Product Declaration；環境製品宣言）について｜環境省
・ライフサイクルアセスメント(LCA) – 環境技術解説｜環境展望台：国立環境研究所 環境情報メディア
・European Platform on LCA | EPLCA
