自社以外のバリューチェーン全体における排出量は、一般的に、自社における排出量に比べて格段に多いといえます。自社以外のバリューチェーン全体における排出量を「スコープ3排出量」といいます(参考:「スコープ1排出量」は自社における化石燃料の使用に伴う直接的排出量、「スコープ2排出量」は自社における他者から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接的排出量)。スコープ3排出量は、自社以外からの排出であるが自社が影響を及ぼしている範囲からの排出といえます。例えば、委託した物流からの排出量、販売された製品からの排出量、原材料の調達先における排出量、製品の廃棄処理段階における排出量等が該当します。スコープ3排出量を網羅的に把握している企業は極めて少なく、ほとんどの企業は把握する範囲の拡大に努めている状況です。
ある企業のスコープ1、2、3排出量は下記の通りです。スコープ3排出量については一部のみの集計となっているにも関わらず、多くの企業においてスコープ1排出量とスコープ2排出量の合計に比べて格段に多い状況となっています。
【企業の温室効果ガス排出量(例)】
単位:t-CO2
企業 | スコープ1 | スコープ2 | スコープ3(一部のみ) |
自動車A | 2,787,000 | 4,823,000 | 8,869,000 |
化学B | 643,800 | 339,600 | 6,784,900 |
食品C | 132,656 | 99,597 | 2,165,412 |
小売D | 157,117 | 3,463,431 | 189,901 |
出所:各社ウェブより作成
企業活動によるバリューチェーン全体への責任の重要性や長期的経営リスクの視点で、多くの情報開示制度や評価制度において、バリューチェーン管理に関する重要性が増しています。例えば、主要なサステナビリティ評価制度(例:CDP, Dow Jones Sustainability Index)において、ますます重要な評価指標となりつつあることや、科学的目標(用語集または別コラム参照)の設定の際、スコープ3排出量の排出割合が高い場合には(全体の40%以上)、意欲的な目標設定が推奨されていること等が挙げられます。
社会的ニーズをふまえ、バリューチェーンにおける高い目標を設定する企業も増えてきています。先進的な企業の事例は下記の通りです。
【企業の温室効果ガス排出削減目標(例)】
企業名 |
国 |
業種 |
内容 |
トヨタ自動車 |
日本 |
自動車 |
● 2050年グローバル新車平均走行時CO2排出量を2010年比90%削減 ● 2050年グローバル工場CO2排出ゼロ ● 将来的にライフサイクル視点で、材料・部品・モノづくりを含むトータルでのCO2排出ゼロ |
ソニー |
日本 |
電気機器 |
● 2050年までに自らの事業活動および製品のライフサイクルを通して環境負荷をゼロにすることを目指す |
リコー |
日本 |
電気機器 |
● グループライフサイクルCO2排出総量を2050年までに2000年度比87.5%削減、2020年までに30%削減 |
大林組 |
日本 |
建設 |
● 自社施設の低炭素化や低炭素型の施工など直接的な貢献で2050年までに85%削減 ● 技術や資材の開発、省エネ建設の提案など間接的な貢献で2050年までに45%削減 |
Kellogg |
米国 |
食品 |
● 排出原単位(食品生産あたりCO2排出量-Scope1,2):2015年比2020年までに15%削減 ● 排出量:2015年比2050年までに65%削減 ● バリューチェーンにおける排出量(Scope3):2015年比2030年までに20%削減、2050年までに50%削減 |
NRG Energy |
米国 |
電力 |
● 2030年までにScope1,2,3排出量を2014年比50% 削減 ● 2050年までにScope1,2,3排出量を2014年比90%削減 |
今後、バリューチェーンマネジメント及びバリューチェーンにおける温室効果ガス排出削減の必要性はますます高まります。バリューチェーンにおけるカーボンマネジメントの手順について、今後順次、本カーボンアドバイザーに掲載していきます。