Carbon &
Circular Portal

カーボン&サーキュラーポータル

CARBON &
CIRCULAR
PORTAL

カーボン&サーキュラーポータル

ESGおよびサステナビリティ報告基準の最新動向

世界のESGおよびサステナビリティ報告を取り巻く状況は2025年も急速に変化し続けており、主要なフレームワークや規制イニシアチブにおいて大きな進展がみられる。本稿では、世界の企業の情報開示慣行を形成している主要な基準と組織の最新の動きを調査・分析した結果を紹介する。

目次

  1. 欧州の規制動向
  2. 標準化機構の動き
    2-1.国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)と国際会計基準(IFRS)
    2-2.サステナビリティ会計基準審議会(SASB)
    2-3.Institute of Business Ethics (IBE)
    2-4.金融安定理事会(FSB)
    2-5.グローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)
    2-6.CDP
    2-7.英国サステナビリティ報告基準(UK SRS)
  3. ASEAN ESG開示の動き
  4. 多国籍企業や大企業による統合ガバナンスアーキテクチャの推進
  5. 今後の展望と課題

1.欧州の規制動向

企業のサステナビリティ報告指令(CSRD)と欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)の役割

欧州財務報告諮問グループ(European Financial Reporting Advisory Group、以下、EFRAG)は、CSRD(ESRS実務ガイド)の段階的改訂を推進しており、この取り組みは業界からのフィードバックに対応する形で進められている。特に、会計指令に基づく要件の拡大の対象となる金融機関からの、報告の複雑さに関する業界の声に対応するものである。EFRAGのアプローチは、欧州グリーンディールの目標との整合性を維持しながらの重要性評価を強調しており、相互運用性を強化するために、2026年までを目途にすべてのESGデータのデジタルXBRLタグ付けを進めている。(XBRLタグとは、財務レポートやサステナビリティ報告内の特定のデータに、コンピュータが読み取り可能な標準化されたタグ(またはラベル)を割り当てるプロセス)

CSRD導入上の課題は依然として残っており、新たな閾値の基準が提案されている。
2025年2月26日の欧州委員会提案によると、CSRD適用対象を従業員1,000人超かつ純売上高5,000万ユーロ超(または総資産2,500万ユーロ超)の企業に限定。これにより約42,000社が対象外となり、報告負担が軽減される。金融機関を含む大企業では、サプライチェーン全体のデータ収集要件が維持されるため、影響評価プロセスの高度化が急務となっている。
2025年4月時点で、欧州委員会は「オムニバス簡素化パッケージ」を通じたCSRD適用範囲の大幅縮小(対象企業80%削減)と報告期間の延期を推進している。EFRAGはESRS改訂の技術的助言を2025年10月31日までに提出する作業計画を確定し、企業の83%がESGデータ監査の準備不足を報告する中、簡素化プロセスでは必須データポイントの削減と国際基準との整合性強化が焦点となっている。

2.標準化機構の動き

2-1.国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)と国際会計基準(IFRS)

ISSBが2025年1月にIFRS S2の改正案を暫定決定し、IFRS財団は以下の取り組みを推進している。
・投融資排出量の開示要件:投融資排出量の開示要件における課題や、GICS(Global Industry Classification Standards)を活用したセクター分類との整合性強化
・ガバナンス強化:気候関連リスクのシナリオ分析において、経営陣の関与プロセスを開示義務化

また、2025年3月に公表された新ガイド『Applying IFRS S1 when reporting only climate-related disclosures』では、以下を提示した。
・IFRS S2に基づく気候情報開示の実務手順を明確化
・IFRS S1の一般要件を限定適用する「気候ファースト」移行措置を導入(初年度は気候情報に特化した報告を許可)
・段階的な報告拡張に向けたタイムライン

これらの改正は、2025年第2四半期に公開草案(Exposure Draft)で正式提案され、2026年1月以降の適用が予定されている。

2-2.サステナビリティ会計基準審議会(SASB)

ISSBが2025年3月に公表した作業計画では、採掘・食品加工・電力部門のSASB基準強化を優先し、計12基準を段階的に改正する方針となっている。この改正は、SASB基準に残る北米固有の規制参照の削除を含む、グローバル適応性強化プロジェクトの一環として実施され、業界横断的な指標整合性を確保しつつ、ISSBの気候優先アプローチ(IFRS S2)との実務的連携を強化することを目的としている。

今後の焦点は、以下のとおりである。
①2025年第2四半期に公表予定の公開草案(Exposure Draft)における具体的変更内容
②食品セクター(畜産・農産物)3基準のグローバル適応性評価手法
③電力部門の再生可能エネルギー指標とIFRS S2の統合
輸送セクターの扱いについては、2025年下半期の第二フェーズ改正で対象となる可能性があるが、現時点では明確になっていない。

2-3.Institute of Business Ethics (IBE)

ビジネス倫理の推進に国際的に取り組む非営利組織であるIBEは、1月に2021-2025戦略の改訂版を発行した。その中で、倫理的判断をESG実践の基盤と位置付け、以下の重点領域を設定した。
・AI倫理ガバナンス:生成AIによるサステナビリティ報告の透明性検証プロトコル
・ステークホルダーエンゲージメント:気候移行計画を含むESG目標の倫理的トレーサビリティ確保
・グリーンウォッシング防止:ISSB基準との整合性評価フレームワーク(SASB指標の倫理的適用を含む)

2025年に入り公表された「人工知能への倫理的アプローチ」いついては、ネットゼロ目標の開示プロセスにおいて以下を義務化し、グリーンウォッシングリスクを定量化する新手法を導入する予定である。
①機械学習モデルのトレーニングデータの地理的バイアス分析
②シナリオ分析アルゴリズムの倫理的影響評価
③外部検証機関との協働プロトコル

2-4.金融安定理事会(FSB)

FSBは、気候リスクをシステミックな金融安定性課題として位置付け、以下を2025年1月に公表している。
・気候関連脆弱性分析フレームワーク:物理的/移行リスクの伝播経路を追跡
・シナリオ分析手法ガイダンス:金融システム全体への増幅効果を評価するメトリクスツールキット(プロキシ指標/エクスポージャー指標/リスク指標)

2025年下半期の作業計画は、以下を含んでいる。
・炭素集約型資産を管理するグローバルシステム重要機関(G-SIFIs)向けに、気候開示の国際整合性確保を推進(ISSB基準との相互運用性強化)
・2023年開始の「気候関連金融リスク対応ロードマップ」の進捗を2025年7月に報告(地域実施課題の分析含む)

今後の焦点
・不動産市場の気候物理的リスク分析(ケーススタディの深化)ケーススタディの深化
・保険業界のアンダーライティングリスク評価手法の標準化

2-5.グローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)

GRIは、2025年を目途にISSB基準との相互運用を推進している。
その中で、人的資本開示については、GRIとISSBの労働慣行基準についての技術的な連携が課題として挙げられている。また、セクター別のガイダンスにおいては、CSRDにはダブルマテリアリティ評価が組み込まれているが、GRIはインパクトマテリアリティに焦点を当てているという点が異なっている。

GRIでは、セクター別基準を含めた多様な指標が設定されており、企業の影響マテリアリティに基づく詳細な報告が可能である。GRIは業種横断的指標に加え、40以上のセクター別ガイダンスを提供する一方、ISSBは投資家向けに89のコア開示項目を設定している。これらの差異は、それぞれのフレームワークが対象とするステークホルダー層や目的の違いによるものであり、GRIは幅広い利害関係者への透明性確保を目指し、ISSBは投資家の意思決定支援に特化している。

2-6.CDP

2025年、CDPは2024年の大規模な見直し後、安定性と洗練に重点を置いている。CDPのアプローチは、継続性、環境テーマのより深い統合、グローバルスタンダードとの整合性を推進するとともに、企業が生物多様性とプラスチックの報告を将来拡大するための準備を進めることを目的としている。主な内容としては次のとおりである。

1. レポーティングの安定性
・2025年の質問書は、コア構造を2024年から継承し、企業は既存のデータフローを活用可能である
CDPの2025年版では、ACT評価手法は基本構造を維持しつつ、CDP活動分類システム(CDP-ACS) を活用した産業セクター別の質問書割り当てを継続する。新たな細分化や改訂は確認されていないが、既存のセクター特化型評価が引き続き実施される可能性がある

2. 統合フレームワーク
・質問書はすでに2024年に統合されており、気候変動、水セキュリティ、フォレストの3テーマが一体化している
・プラスチックと生物多様性テーマは引き続き補足的な内容として含まれているが、採点対象外である
・IFRS S2やTNFDなどの国際基準との整合性がさらに強化される

3. 重点分野
気候変動移行計画:ネットゼロ目標と1.5°Cの道筋に沿った移行計画をより重視する。これらの計画は、将来的にスコアリングフレームワークの一部になる可能性がある
・サプライチェーンエンゲージメント:サプライチェーンにおけるスコープ3排出量の会計処理と脱炭素化戦略に引き続き注力する
・環境依存性:生物多様性、プラスチック、水危機に関連するリスクへの注目を高める

4. グローバルスタンダードとの整合性
CDPは、以下の枠組みとの整合性を推進している。
・IFRS S2
CSRD(ESRSとCDP質問バンクの対応マッピングを2025年3月に公開)

5. 中小企業
・中小企業(SME):2024年に導入された簡素化質問書は2025年も維持され、回答プロセスの簡素化により負担軽減を推進する。導入初年度の参加企業数は増加傾向にある

2-7.英国サステナビリティ報告基準(UK SRS)

英国はISSB基準を採用し、2026年1月以降の適用を目指している。
UK SRSには、以下の特徴がある。
・TPTフレームワークとの連携:ISSB S2とTPT開示フレームワークの整合性を協議中
・上場企業向け開示要件(2026年1月~):
①IFRS S2準拠の気候関連移行計画(NGFSモデルではなくISSB規定のシナリオ分析)
②公正な移行(Just Transition)に基づく労働力適応計画
③SASB指標を参照した業種別気候リスク開示

課題
早期導入企業からは、ISSB S2と既存会社法の報告義務の重複による、監査コスト増加が報告されている。英国ビジネス省は2025年第2四半期に、中小企業向け簡素化ガイドを公表予定である。

3.ASEAN ESG開示の動き

ASEANでは企業のESG開示の実施計画にばらつきがあり、インドネシア企業では税率とESG透明性との間には弱い相関関係がみられる一方で、シンガポール企業では収益性と開示完全性との間に反比例傾向がある。この傾向には文化的・規制的要因も影響している可能性がある。

4.多国籍企業や大企業による統合ガバナンスアーキテクチャの推進

多国籍企業は、以下の要素を統合した次世代ガバナンスアーキテクチャを構築しているところがある。
CSRDダブルマテリアリティ要件:財務的影響(outside-in)と環境的影響(inside-out)の二元評価
ISSB投資家向け指標:セクター中立型気候指標(Sector-Agnostic Climate Metrics)
・地域適応型倫理モデル:EU圏ではIBEプロトコル、アジアではISO 37007準拠の(AI による倫理)枠組み
これらにより、コアデータ要素の標準化(GHG排出量・水使用量等)を通じた収集効率の向上をめざしている。一部の監査法人の調査では(2025年3月)、統合プラットフォーム導入企業は監査時間を4割程削減することに成功している。

課題
スコープ3算定におけるサプライヤーデータ形式の非互換性
・TNFD-ISSB生物多様性指標の解釈差異への対応

5.今後の展望と課題

2025年は、以下の3つが展望および課題として挙げられる。
1. 規制の調和: CSRDの簡素化(緩和措置)と英国のSRSの採用(2026年の報告)の間でタイムラインが一部競合する
2. 保証能力の不足:適格なESG監査人の世界的な人員不足は、2025年第3四半期までに12,000人規模に達すると予測されている
3. データガバナンス:フレームワーク間で生物多様性の報告手法に一貫性がないという懸念が残る

課題や懸念事項もあるものの、以上に述べてきたように、世界ではサステナビリティ報告とそれらの監査における、基準の統合や相互運用化の検討・推進が着実に進んできている。特にグローバルにビジネスを展開する企業においては、引き続きこれらの動きを注視しつつ、適切な情報開示を進めていく必要がある。

【参考資料】
IFRS – International Sustainability Standards Board
SASB
Home | Institute of Business Ethics – IBE
Financial Stability Board – Promoting global financial stability through strong financial sector policies
GRI – Home
CDP
UK Sustainability Reporting Standards – GOV.UK

———————————————————————————————————————————————————————————
株式会社ブライトイノベーションは、企業の環境情報開示支援、気候関連課題への対応、サーキュラーエコノミー構築など、環境・サステナビリティ分野のコンサルティングサービスを提供しています。

ギャップ分析支援 サステナビリティ開示基準とのギャップ分析支援(TCFD/ISSB/SSBJ/CSRD/TNFD)
ギャップ分析は、より効率的で効果的なサステナビリティ報告の実践につながります。
コンサルタントが正確な分析を行うサービスを提供します。


その他のお問い合わせは、以下のフォームよりお気軽にご相談・お問合せください。

無料相談申込フォーム
お問合せフォーム

またX(旧Twitter)では世界の脱炭素経営とサーキュラーエコノミーに関するニュースをタイムリーにお届けしています。
ブライトイノベーション 公式X