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ESG情報の英語開示と翻訳品質|海外投資家の信頼獲得に必要な5つの改善策【2025年最新調査】

ESG(環境・社会・ガバナンス)情報開示における高品質な英語翻訳は、海外投資家との信頼関係構築において重要な役割を果たしている。東京証券取引所が2025年4月にプライム市場企業を対象として導入した決算情報と適時開示情報の日英同時開示義務にもかかわらず、翻訳品質の根本的課題により多くの日本企業が投資機会を逃している。本稿では、ESG・CSR情報の英語開示における具体的な課題、海外投資家の評価への影響、そして企業価値を最大化するための実践的改善策を、2025年最新データとともに詳細に解説する。

目次

  1. 英語版ESG情報開示に対する日本企業の現状
  2. 英語版ESG情報開示の品質問題の深刻さ
  3. 課題の根本的な要因
  4. 海外投資家の投資行動に与える具体的影響
  5. 翻訳業界の取り組みと現在の対応策
  6. まとめ:規制動向と今後の展望

 

1.英語版ESG情報開示に対する日本企業の現状

東京証券取引所プライム市場企業は、2025年4月から決算情報と適時開示情報の日英同時開示が義務化されたが、翻訳品質における構造的課題は解決されていない。この問題は、グローバル市場における日本企業の競争力に深刻な影響を与えている。
ロイター通信が2024年4月に実施した調査によると、日本企業の91%が英語開示要件を負担と感じており、多くの企業がコスト削減を優先して翻訳品質を十分に確保できていない。海外投資家の75%が英語資料の公開遅延と品質低下に強い不満を持ち、特にESGやCSRなどの非財務開示情報においてこの問題が顕著に表れている。
プライム上場企業の99%が英語開示を実施している一方で、品質格差が市場の非効率性を生み、投資判断に悪影響を及ぼしている。東証の調査データは、開示実施率の高さと品質の低さという矛盾した状況を明確に示している。

ESG開示における品質問題が企業評価に与える直接的影響
海外投資家の40%が日本企業の財務情報を「理解しにくい」と評価し、多くが「日本語から英語への逐語訳で、英語としてビジネス文脈が伝わりにくい」と指摘している。この問題は、外国法人の日本語ESG・CSR関連文章が翻訳調で不自然なケースと類似している。

 

2.英語版ESG情報開示の品質問題

ESG情報開示における翻訳品質の問題は、複数の具体的要因により構成されている。問題の核心は、セクター固有の専門用語の欠如、プロフェッショナルレビューの不足、そして投資判断への直接的悪影響の3点に集約される。

セクター固有の専門用語と国際基準への対応不足
業界基準や国際規格(GRI、SASB、TCFD等)に準拠した用語が使用されず、単なる日本語の英語置換に留まっている点が最大の問題である。企業の66%が外部翻訳サービスを利用しているが、品質管理体制が不十分なケースが目立ち、重要なビジネス文書であるにもかかわらず適切な専門性が確保されていない。
ESGレポートやサステナビリティ文書において、セクター固有の表現や海外基準に準拠した定型句が採用されないことで、英語圏読者にとって不自然で理解困難な内容となっている。担当者や一般翻訳会社による翻訳が広く行われ、プロフェッショナルなレビューを経ていない点が問題解決を困難にしている。

投資判断における現在のESG情報の重要性
現在の投資判断で重視されるESG情報の品質低下が、日本企業の国際的評価を著しく損なっている。サステナビリティレポート、統合報告書、気候変動開示など、相当数の文書が英語圏投資家にとって理解困難な翻訳となっており、投資意思決定プロセスに負の影響を与えている。

 

3.課題の根本的な要因

ESG情報開示における翻訳品質問題は、複数の構造的要因が複雑に絡み合って生じている。根本原因の理解は、効果的な改善策立案の前提条件となる。

日本語と英語の言語構造における根本的相違
日本語は文化的背景に大きく依存する「高文脈言語」であり、英語は「低文脈言語」として直接的な表現を重視する。日本のビジネス文化で不可欠な敬語表現、間接的コミュニケーションスタイル、文脈依存の意味伝達を、直接的な英語ビジネス表現に変換することは本質的に困難である。
この言語構造の違いにより、単純な単語置換や機械翻訳では、ESG開示に求められる正確性と専門性を確保できない。特にステークホルダーエンゲージメント、マテリアリティ分析、サプライチェーンマネジメントなどの概念説明において、文化的文脈の違いが理解の障壁となっている。

コスト削減優先による品質犠牲の実態
新規開示義務によるプレッシャー下で、多くの日本企業が品質よりもコストを重視した翻訳手法を選択している。言語構造の違いから日本語と英語の変換が本質的に困難であるにもかかわらず、機械翻訳ツールの不適切な利用が散見される。
コスト削減圧力により、セクターや基準・規格に精通したネイティブスピーカーの活用が不足している。優秀な英語ネイティブ翻訳者は数が限られる中、英語力が限定的な社内スタッフへの翻訳委託や、不十分な品質チェック体制での情報公開が実態となっている。

専門ネイティブスピーカーと業界知識の不足
これらの手法はコスト面で有利だが、海外投資家から見て専門性に欠け、理解困難な内容を多く含む結果となっている。ESG投資の専門用語、規制要件、業界ベストプラクティスに関する深い理解を持つ翻訳者の不足が、品質問題の主要因となっている。

 

4.海外投資家の投資行動に与える具体的影響

英語開示の品質問題は、測定可能な市場影響を生んでおり、投資家行動の変化として明確に現れている。東京証券取引所が2023年に実施した海外投資家調査は、翻訳品質が投資判断に与える具体的影響を数値で示している。

投資評価と投資対象除外の実態データ
調査結果によると、海外投資家の41%が不適切な英語開示を行う日本企業の評価を引き下げ、35%がそうした企業を投資対象から完全に除外している。さらに28%が英語でのコミュニケーションが不十分な日本企業のポートフォリオにおける比重を戦略的に削減している。

東証調査

図1:英語での情報開示不足が投資活動に与える影響
(出所:Results of the Survey of Overseas Investors on English Disclosure by Japanese Companies)

これらのデータは、英語開示品質が単なる情報提供の問題ではなく、資本配分の意思決定に直接影響する重要ファクターであることを示している。投資家の75%以上が何らかの形で英語開示品質を投資判断に反映させており、企業価値への影響は無視できない水準に達している。

ESG投資における深刻な競争劣位
ESGの観点が投資判断で重要性を増す中、サステナビリティレポートの英語翻訳品質低下により、日本企業が世界のESGファンドや責任投資ポートフォリオから低評価を受けるリスクが高まっている。特に欧米の大手機関投資家は、ESG情報の理解可能性を投資適格性の重要基準としている。

質の高い英語開示を行う企業が海外資本獲得において優位に立ち、品質格差は中小型株企業で特に顕著である。英語開示が限定的または実施していない企業は、グローバル投資家のスクリーニングプロセスで早期に除外される傾向が強まっている。

市場の非効率性と情報の非対称性
翻訳品質の格差は市場の非効率性を生み、日本企業の適正評価を妨げている。優れたESG実績を持つ企業でも、英語開示品質が低いことで海外投資家に適切に評価されず、資本コストの上昇や株価の過小評価につながるリスクがある。

 

5.翻訳業界の取り組みと現在の対応策

翻訳業界では、企業開示市場に特化した専門サービスが急速に発展している。国際基準や規格(GRI、SASB、TCFDISSB等)に準拠した英語開示サービスを提供し、「海外投資家にとって魅力的で理解しやすい財務・非財務情報」の作成を実現する企業が増加している。

段階的品質管理プロセスの実装
最も効果的とされるアプローチは、三段階の品質管理プロセスである。第一段階では、ESG・サステナビリティ分野の専門知識を持つ翻訳者が初期翻訳を実施する。第二段階では、高度な英語力と業界知識を備えた日本人チェッカーが文脈と正確性を検証する。第三段階では、金融・ESG分野のネイティブスピーカー編集者が最終レビューを行い、自然で説得力のある英語表現を確保する。
このプロセスにより、専門用語の正確性、文化的適切性、ビジネス文脈の明確性が同時に確保される。ただし、こうした高品質ソリューションは依然として高コストであり、すべての上場企業への普及は段階的にならざるを得ない。

技術とエキスパートの最適な組み合わせ
AI翻訳技術の進歩により、初期翻訳の効率化が可能になっているが、ESG開示の最終品質確保には必ず人間の専門家による監修が必須である。セクターに精通し、法規制・基準・規格などの専門知識を持つエキスパートによる最終レビューなくして、投資家の信頼を獲得できる開示は実現できない。

最先端のソリューションでは、AI支援による効率化と専門家の品質保証を組み合わせ、コスト効率と品質を両立させるハイブリッドアプローチが採用されている。

 

6.まとめ:規制動向と今後の展望

東京証券取引所は、企業支援のための実用的なハンドブックやサンプル書式の改訂版を継続的に公開し、英語開示要件の改善を進めている。現在の焦点は主に開示のタイミングにあるが、今後は品質基準への対応も規制要件に含まれる可能性が高まっている。
今後、いくつかの動向が状況を変える可能性がある。

カテゴリ 内容
市場からの圧力 海外投資の拡大に伴い、優れた英語コミュニケーション能力を持つ企業が高評価を受け、品質向上への市場インセンティブが強化される
規制の発展 将来的な規制改正では、開示のタイミングや範囲だけでなく、品質基準についても対応が求められる可能性がある
日本企業の対応 ESGやCSRを含む開示情報の品質管理への投資は、競合他社との差別化を図り、海外資本へのアクセスを効果的に強化する戦略的機会となる
海外投資家 海外投資家は、デューデリジェンス評価において、英語開示の品質を経営陣の能力や国際的な取り組み姿勢を考慮する傾向にある

翻訳サービス

AIが進歩する中、セクターに精通し、法規制、基準、規格など様々な分野で専門知識エキスパートによる監修が必須となっている

 

企業が取るべき具体的改善アクション
英語開示の品質問題は単なる翻訳の課題を超え、日本企業の国際的ビジネスコミュニケーションに対するアプローチの根深い課題を示している。これらの問題に積極的に取り組む企業は、世界の投資資本獲得において大きな競争優位を確立できる。

推奨される改善策として、ESG・サステナビリティ専門の翻訳パートナーの選定、段階的品質管理プロセスの社内への導入、セクター固有のESG・CSR専門用語集の整備、そしてネイティブスピーカーによる最終レビュー体制の構築が不可欠である。品質管理への投資は短期的にはコスト増となるが、中長期的には投資家の信頼獲得、資本コストの低減、株価評価の向上というリターンをもたらす。

まとめ:ESG英語開示の品質向上が企業価値創造の鍵
ESG情報の英語開示品質は、海外投資家との信頼構築と資本獲得において重要な要素の一つである。2025年の日英同時開示義務化により開示実施率は向上したものの、品質面での課題が依然として残っている。

海外投資家の41%が低品質な英語開示を行う企業の評価を引き下げ、35%が投資対象から除外している現実は、品質問題が企業価値に直結することを示している。専門的な翻訳パートナーの選定、段階的品質管理プロセスの導入、そしてESG専門用語への対応により、日本企業はグローバル市場での競争力を強化できる。

品質への投資は、単なるコストではなく、海外投資家の信頼獲得と資本コスト低減を実現する戦略的投資である。この課題に早期に取り組む企業が、2025年以降のグローバル資本市場において優位性を確立することは明らかである。

 

【参考資料】
・Japan firms see English disclosure requirement as a burden, poll shows | Reuters
・【AIによる即応体制で解決!】【英文義務化における課題と展望】東証プライム市場、IR担当者100名に聞いた翻訳ツールの三大課題「正確性」「専門性」「安全性」 | 株式会社メタリアルのプレスリリース
・The good, the bad and the ugly—ensuring quality in Japanese‑to‑English translation – Honyaku Plus Language Services
・Quality Control | Over 17,522 Translation Projects Completed by Human Science
・Japanese companies rush to up English-language disclosures in 2025 – The Japan Times
・uorii500000011ot.pdf
・英文開示実践ハンドブック | 英文開示 | 日本取引所グループ