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CDPとは?概要と質問書回答に向けた対応方法

現在の企業が、自社の持続可能な未来を築くためには、環境情報の開示が不可欠である。その中でもCDPは、気候変動や水資源、森林保全に関する情報を収集し、分析するための重要なプラットフォームとして知られている。しかし、CDP質問書への対応は多くの企業にとって負担であり、どのように適切に準備すべきか悩んでいる企業も多い。企業はCDP質問書に正確に対応することで、持続可能性への取り組みを強化し、ステークホルダーからの信頼につながる。本稿では、CDPの概要から質問書の回答方法、スコアリングの基準、社内での具体的な対応策について詳細に解説する。

目次

  1. CDPについて
  2. CDPとの主な関連イニシアチブとの関係
  3. CDP質問書に回答するメリットとデメリット
    3-1.メリット
    3-2.デメリット
  4. CDP質問書の概要
  5. スコアとスコアリング基準
  6. CDP質問書回答に向けた社内対応
  7. 回答から開示までのスケジュール
  8. まとめ

1.CDPについて

CDPは、企業や都市に対して環境への影響に関する情報開示を求める国際的な非営利団体である。2000年に設立されたCDPは、気候変動、森林破壊、水資源の利用など重要な環境問題に関するデータを収集し、分析している。その目的は、企業や自治体が持続可能な環境管理を促進し、投資家や消費者が持続可能性を考慮した意思決定を行えるようにすることである。CDPは、毎年金融機関からの指名を受けた企業や時価総額等を基準に選定された企業に質問書を送っている。日本においては、2022年よりプライム市場上場企業全社に気候変動質問書を送付している。CDPは企業の環境対策を評価し、スコアリングを行う。世界の700以上、運用資産規模142兆米ドル超の金融機関が、ESG投資やリスク評価の意思決定のためにCDPを通じて各企業の開示内容・評価やスコアリングを参照している。CDPによると、その企業数は2万3,500社以上にのぼり(2024年時点)、全世界の時価総額の約67%を占めている。

CDPに参加する企業や自治体の数は年々増加しており、CDP2024では全世界約24,800社(前年比7%増)、国内2,172社(前年比9%増)が回答した。なお、2025年質問書の提出は9月中旬だったため、2025年回答企業数は本稿公開時点では未だ公表されていない。

CDP総回答企業数および環境テーマ別回答企業数

図1:CDP環境テーマ別回答企業数
(出典:CDP『Charting the Change: Disclosure Data Dashboard』)

2.CDPとの主な環境関連イニシアチブとの関係

CDPは、企業や都市が環境リスクを管理し、持続可能な未来に向けた行動を促進するための情報を主に金融機関に提供することを目的としており、様々な国際的なイニシアチブと連携し、相互に補完的な役割を果たしている。

国連グローバル・コンパクトとは、推奨されている持続可能で社会的に責任あるポリシーの採用の実施状況をサポートする重要な要素として、CDPの情報が活用されている。また、日本企業が環境情報開示で参照してきたGRI(グローバル・レポーティング・イニシアティブ、以下、GRI)とも連携している。2024~2025年には「気候変動」や「エネルギー」分野のデータ要求事項で連携を図り、企業がGRI、CDPいずれのフレームワークに対しても同じ情報で対応できる仕組みをつくり、企業の環境開示負担を低減を図った。GRI以外の開示フレームワークでは、IFRS S2(国際財務報告基準)、ESRS(欧州サステナビリティ報告基準)、TNFDとも設問が連携・統合されている。CDP質問書やスコアリングの基準は、国際的な排出量算定の標準であるGHGプロトコルに期待される手法に準拠、企業が科学的根拠に基づいた温室効果ガス削減目標を設定することを支援するSBTiは、CDPのデータ開示がその基盤として活用されている。また、RE100は企業が100%再生可能エネルギーを使用することを目指すイニシアチブであり、CDPの開示情報は再生可能エネルギー使用達成度を評価するための貴重なデータ源である。

これらのイニシアチブとの協力により、CDPは環境関連の情報開示を標準化し、金融機関や企業に対して信頼性の高いデータを提供することを目指している。

3.CDP質問書に回答するメリットとデメリット

CDP質問書に回答するメリット・デメリットは主に以下である。

3-1.メリット

ESG投資を受けやすくなり、資金調達に有利となる
・自社の環境課題を可視化でき、経営戦略やリスク対応の水準を上げることができる
・金融機関や取引先等への情報公開により、自社企業イメージや信頼が向上する

3-2.デメリット

・回答事務費用を支払う(※)
・専門的な設問やデータ収集に社内調整や時間・工数がかかる

※日本企業の場合、「Foundation level fee(31万円)」または「Enhanced level fee(74万円)」のプランから選択。選択プランによって評価やスコアに差は生じない

CDP質問書への回答は資金調達や社外評価、環境経営の高度化に効果的な一方、回答のための費用や手間がかかる側面があることに留意されたい。メリットは企業の環境への取り組みを示す重要な手段として、ステークホルダーとの信頼関係が強化され、ビジネスの持続可能性が向上する。CDPのスコアは、企業の環境パフォーマンスを評価する指標として認知されており、高スコアは資金調達や競争優位性の確保に役立つ。ただし、プロセスには専門知識やデータ収集体制の整備が必要であり、これが企業の成長に貢献する可能性がある。

メリットとデメリットをふまえ、企業は自社の状況や目指す方向性に応じてCDP質問書への回答を戦略的に考える必要がある。中長期的な視点で、総合的に評価して最適な対応を検討することが、今後の自社の持続可能な成長に繋がるといえる。

4.CDP質問書の概要

CDP質問書は2024年版に大きな改訂が行われ、テーマ別に分かれていた質問書を1つに集約・統合された。その結果、環境テーマや経営体制やリスク管理等の関連する設問をまとめたそれぞれのセクションをモジュールとしてまとめている。

環境課題別のテーマは2025年版では、気候変動、フォレスト、水セキュリティ、プラスチック、生物多様性の5つがある。気候変動は対象企業全て、プラスチックと生物多様性は中小企業版(SME)をのぞく全ての対象企業が回答の対象となる。フォレストと水セキュリティは、CDPが定めた4条件のうち、いずれか一つを満たしている場合、回答の対象となる。なお、スコアリングの対象は、気候変動、フォレスト、水セキュリティである。中小企業版では気候変動のみスコアリング対象である。

CDPモジュール別の構造図

図2:モジュール別の構造図
(出典:CDPCDP2025コーポレート質問書における主な変更点』)

テーマ別に求められる回答の主な概要・設問内容・開示情報については以下の通り記載する。

気候変動
気候変動回答書は、温室効果ガス(以下GHG)排出量やその削減目標、自社の気候変動によるリスクや機会に関連する事項について回答を求めている。

・フォレスト
フォレスト回答書は、木材、大豆、パーム油、畜牛品など7つのコモディティ(原材料やそれを使用した商品)の調達状況やそれらのサプライチェーン全体の把握、森林減少なしの目標設定の有無や、持続可能な調達の認証の有無について回答を求めている。                                                

・水セキュリティ
水セキュリティ回答書は、水消費量や、水不足へのリスク対策、持続可能な水利用について目標と共に回答を求められている。地域ごとの水資源への配慮もポイントである。

・プラスチック
プラスチック回答書は、使用するプラスチックの量やリサイクル・削減活動等、循環型経営の実践状況の回答が求められている。

・生物多様性
生物多様性回答書は、生物多様性にとって重要な地域での事業活動に関する情報の回答が求められている。

テーマ 概要 主な設問の内容例 主な開示情報(具体的な例)
気候変動 排出量およびエネルギー管理・気候リスク対応 排出量(スコープ1/2/3)、削減目標、取組み、リスクと機会分析 年間GHG排出量データ、削減目標値、再エネ使用比率、TCFD・IFAS  S2開示内容
フォレスト コモディティ調達リスク・サプライチェーン管理 認証品調達、森林破壊リスク、調達方針、サプライヤー状況 コモディティ量・認証取得率(RSPO/FSC等)、サプライヤー監査実施数
水セキュリティ 水資源リスク把握・削減戦略 取水・使用・消費・排水量、リスク評価、削減策、地域別リスク・目標 水取水・使用・消費・排水量(m³)、水削減目標達成度、リスク地域マップ、水関連目標
プラスチック 利用実態・循環型戦略 使用量、削減・再利用率、目標、回収体制、サプライヤー指導 年間プラスチック使用量・リサイクル量、削減率、素材別割合
生物多様性 生態系への影響評価・管理 影響評価、保護区・絶滅危惧種配慮、リスク管理、プロジェクト活動 影響評価件数、保護区隣接事業所数、リスク削減施策例、取組成果


5.スコアとスコアリング基準

CDPスコアは、企業がどの程度効果的に環境課題に対して取り組み、公開しているかを評価する指標である。評価基準は多岐にわたり、情報開示の質と透明性、環境リスク管理の有効性、環境戦略の具体性と実行度合いなどである。さらに「エッセンシャルクライテリア」と呼ばれる必須要件を設けた上で大きく分けて5段階のスコアで評価を行う。具体的には、スコアの高い順に以下の通り記載する。

レベル 評価 概要
Leadership(リーダーシップ) A、A- 業界をリードする先進的な取り組みを行っている
Management(マネジメント) B、B- 環境リスクを管理し、戦略や計画を持って行っている
Awareness(認識) C、C- 自社の環境課題やリスクを認識し始めている
Disclosure(開示) D、D- 自社の基本データの公開を始めた段階
Failed to provide information(無回答) F 回答しなかった


スコアリングにより、企業は自社の環境パフォーマンスを客観的に見直すことができ、改善点を特定する機会を得られる。また、投資家をはじめとした様々なステークホルダーにとっても、企業の環境への取り組みを評価するための重要な指標となる。例えば高いスコアは、環境対応が進んでいる客観的評価につながり、ESG投資を受けやすくなったり、さらに情報開示を通じた社会的信頼やブランド価値向上にもつながる。一方で、スコアが低い企業は、環境への取り組みが不十分であると見なされる可能性がある。CDPのスコアは、企業向けの評価ツールであり、気候変動対策の一環としてGHG排出量を削減し、持続可能な環境ビジネスを構築するために必要なデータを収集・分析し開示するレポートプラットフォームでもある。

6.CDP質問書回答に向けた社内対応

CDP質問書への回答は、オンライン回答システム上で行われる。回答するにあたり、社内で「回答に向けた体制づくり→情報・データの正確な収集と回答→レビュー→CDPポータルへの提出」というサイクルを回すことが大事である。初めて回答する企業と、既に回答したことがある企業で以下の点で異なる。

初めて回答する企業の場合、経営層の意思決定や全社的な体制づくりが重要である。自社の環境基本方針やガバナンス体制・リスク管理体制を整理し、環境担当、調達、経理、IRなどの部門横断での連携をして情報収集可能な体制を構築する。また、状況に応じて自社の温室効果ガスデータを算定・収集も行った上で回答を行う。もし自社でTCFD提言に基づく開示を行っているのであれば、開示内容を基にCDP質問書に回答を行うことを進め、バリューチェーンとのエンゲージメント等、TCFDの開示項目にない設問について情報収集し、回答を行う。
既に回答したことがある企業の場合、過去の回答内容やスコアリング結果をレビューして、点数が低かった設問や改善点を特定する。また、科学的根拠に基づくGHG排出量削減目標、サプライチェーンも含めた対応強化、第三者検証や保証の取得など、より高度な取り組みを検討していく。加えて省エネ・再エネ推進に関する新規目標設定や進捗状況把握を行い、開示に反映していく。
企業は自社の回答経験に応じた社内対応を実践することにより、年々CDP回答の品質を高め、自社の環境に対する真摯な取り組みを示すことに繋がる。

7.回答から開示までのスケジュール

企業はCDPから送られてくる質問書に対して、2023年版では4月から7月、2024年版以降では6月から9月の間にオンライン回答システム上で質問書に回答した。期限までに提出された回答は、CDPのスコアラーと機械的な自動採点システムによって採点が行われて評価される。この評価プロセスは数ヶ月にわたり、企業の環境に対する取り組みの成熟度や効果性を評価するためのスコアリング基準に則って行われる。評価の過程では、企業が提供した情報の正確性や、環境への影響削減に向けた具体的な行動計画が重視される。
CDPはスコアの開示について、2024年版では2025年2月頃にメールで企業各社に個別通知をした後、CDPの公式ウェブサイトで一般公開を行った。2025年の回答は12月10日に回答企業に個別通知が届き、2026年1月にCDPウェブサイトにて一般公開される。回答期限やスコア開示のスケジュールは後ろ倒しになる等の変更も多々あり、CDPの動向については今後もより丁寧な情報収集が必要となってくる。

8.まとめ

CDPは、企業が環境への取り組みを透明性を持って開示するための重要なプラットフォームである。国内外の多くの企業がこのプラットフォームを利用し、気候変動や水資源、森林保護等に関するデータを報告して持続可能なビジネスを実現しようとしている。CDPに関する情報を理解し、質問書に対応することは、企業の信頼性を高め、資金調達に有利になるだけではなく、不確実性の高い将来のリスク管理にも役立つ。

本稿ではCDPの概要や質問書への回答方法について解説した。CDPへの取り組みを始めるには、まず自社を取り巻く社会状況を確認した上で環境戦略を見直し、必要な要素を明確にすることが肝心である。その上で、実際にCDPの質問書に取り組み、自社の情報開示を正確に行うことから着手されたい。

【参考資料】
Charting the Change: Disclosure Data Dashboard – CDP
CDP_2025_Corporate_Disclosure_JP_June_2025.pdf