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CDP2025総括と2026質問書の展望(気候変動質問編)

環境分野において最も著名なグローバル評価制度のひとつであるCDP。2025年は2024年と比べると回答書、回答システム、評価基準における変更は軽微なものにとどまり、Aリスト企業は増加したが、引き続き高スコアを目指す企業は多いのではないかと推察する。本稿では、CDP2025気候変動質問書について、各モジュールの代表的な質問、評価向上のポイントについて振り返り、今後の展望について解説する。

目次

  1. CDP2025結果とESG環境を巡る変化
    1-1.CDP2025結果
    1-2.ESG環境を巡る変化
    1-3.結果が示す企業の動向
    1-4.複雑化する開示規制への対応
  2. CDP2025気候変動質問書 各モジュールの評価向上のポイント解説
  3. CDP2026の変更点(環境テーマ共通)
    3-1.質問書の主な改定ポイント
    3-2.スコアリングとエッセンシャルクライテリアにおける変更点
    3-3.CDPポータルサイトにおける回答の効率化
  4. まとめ:CDP2026に向けた実務対応のポイント
    4-1.2025年のスコアからのギャップ分析
    4-2.方針・体制・データ基盤の強化
    4-3.2026年変更点の早期把握と情報収集
    4-4.ドラフト作成とレビューの高度化

1.CDP2025結果とESG環境を巡る変化

1-1.CDP2025結果

2025年のCDP回答企業数は、全世界22,100社となり、前年比約10%減となった。一方で、Aリスト(最高評価)企業は877社と全体の約3.5%に達し、前年の2%から増加しており、多くの企業で環境情報開示の取り組みが進んでいることが伺える結果となった。
質問書、スコアリング基準については前年大幅な質問の変更やシステムの変更があったこともあり、CDP2024からは大きな変更は見られなかった。

1-2.ESG環境を巡る変化

2025年のCDP回答企業数が全世界22,100社と前年比約10%減になった背景には、ESGを巡る国際的な政治・規制環境の変化もその一因となっていると考えられる。米国では2025年以降、トランプ政権より気候関連の国際枠組(パリ協定・UNFCCC等)からの離脱方針が表明され、欧州では厳格なサステナビリティ関連規制の基準見直しや実施タイムラインの調整が実施された。
一部のサステナビリティ関連規制の緩和などは見られるものの、企業のサステナビリティ情報開示を求める圧力は継続しており、欧州ではCSRD(企業サステナビリティ報告指令)、CSDDD(企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令)が発効し、段階的な適用開始に向かって制度整備が進められている。また、日本ではSSBJ開示基準の策定が完了し、有価証券報告書への適用に向けた府令改正が進行中(2027年3月期以降、段階的)である。

1-3.結果が示す企業の動向

2025年のCDP回答データは、こうした規制環境の変化にもかかわらず、企業がサステナビリティ情報開示に本気で取り組んでいることを示している。具体的には、Aリスト企業が877社と、全体の約3.5%に達し、前年の2%から増加しており、複雑な規制要件を満たしながら高い開示水準を維持する企業が増えているという結果からも明らかである。そのため、回答企業数の減少は、単なる開示ニーズの低下ではなく、”質の向上”へのシフトも示唆しており、形式的なCDP回答だけでなく、実質的なデューデリジェンスやリスク管理に基づいた開示が重視されるようになってきたと考えられる。

1-4.複雑化する開示規制への対応

規制環境が複雑化する中で、CDPISSB(国際サステナビリティ基準委員会)、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)、GHGプロトコル、GRI、CSRD等の国際基準・ガイドラインと連携することで、複数の規制枠組みへの統合的対応を可能にするプラットフォームとしての役割を強化している。
これにより、企業はEUの厳格な開示・デューデリジェンス要件と日本の新基準(SSBJ)への段階的移行といった多元的な要件を、CDPで管理、開示できるようになる。
ESGを巡る政治的な揺らぎがあっても、投資家・ステークホルダーが求めるサステナビリティ関連情報の開示ニーズは本質的に変わらないと考えられる。むしろ、規制が多様化し市場選別が厳しくなる環境では、統合的で高い水準の開示が企業の競争優位性となりつつある。2025年のCDP動向は、こうした企業の現実的な対応が着実に進んでいることを示す、重要な指標となっている。

2.CDP2025気候変動質問書 各モジュールの評価向上のポイント解説

後述するが、CDP2026では一部の設問に変更が見込まれているものの、大きな設問や評価基準の方針については2025年がベースとなると考えられるため、高評価獲得のためには、CDP2025の質問において、評価基準上重要なポイントに加え、各スコアレベル(D~Aなど)に到達するために必ず満たさなければならない必須要件(エッセンシャルクライテリア)を把握することも重要である。
各モジュールにおける評価向上のポイントおよびエッセンシャルクライテリアについて特に重要な点に関して、CDP Guidance & questionnairesを参考に弊社で作成したものを以下に示す。

モジュール1:イントロダクション
回答年の報告年を直近の財務会計年度と整合させるとともに、回答書の報告範囲は財務諸表で使用されている範囲と整合させる
モジュール2:依存、影響、リスク、機会の特定、評価、管理
プロセス全体:気候関連の依存・影響・リスク・機会を特定・評価・管理する一連のプロセスを持っており、公表ツール(シナリオ分析、ENCORE等)を用いて年1回以上、中長期およびバリューチェーン全体での定量・定性的評価を行っている
モジュール3:リスクと機会の開示
モジュール2にて回答した重大な影響を定義する閾値、評価プロセスに則り、各環境課題について定量的な財務影響および財務指標との関連性を開示する
モジュール4:ガバナンス
取締役会のD&I(Diversity & Inclusion)に関する方針があり、各環境課題が定期的な予定議題となっている
・取締役会に各環境課題に対する能力(competency)があり、その能力を維持する仕組みがある(エッセンシャルクライテリアLeadershipレベル)
・上席役員の重要な各環境課題に関する金銭的インセンティブがあり、全体報酬に対する割合が一定以上ある(エッセンシャルクライテリアLeadershipレベル、Aリスト)
パリ協定に整合した政策エンゲージメント活動を行うことのコミットメントや意見表明書(position statement)がある(エッセンシャルクライテリアAリスト)
モジュール5:事業戦略
組織全体で、定量および定性的なシナリオ分析を、短期および長期の時間軸にて行っている
・1.5℃目標に整合した気候移行計画を公開しており、気候移行計画に関して株主からのフィードバックが収集される仕組みがある(エッセンシャルクライテリアAリスト)
・一定以上のサプライヤーを、実効性のある基準を以て評価、分類し重要なサプライヤーを明確にした上で、優先順位を付け一定以上の割合でエンゲージメントをしている
モジュール7:環境パフォーマンス(気候変動
スコープ1、2、3の排出量の報告において、除外がない(エッセンシャルクライテリアAリスト)
 - 例外として、推定除外排出量の割合が全体の5%未満等、「関連性がない」と言える場合も可
スコープ1、2、3の排出量に関して一定の要件を満たした検証/保証を受けている(エッセンシャルクライテリアAリスト)
 - スコープ1、2排出量について、第三者検証/保証を受けており、検証済みの排出量の割合が95%以上
 - スコープ3の排出量に関し、少なくとも1つのカテゴリについて70%以上の排出量に対して第三者検証/保証を受けている
 - 各スコープの排出量について、報告年を対象とし、検証において準拠した国際規格が明記されており、検証を承認する所見が記載されている第三者検証書類を添付している
一定の要件を満たした温室効果ガス(GHG)排出削減目標と達成状況の詳細を開示している
SBTルート(SBT認定目標をもっている場合)】
 - 組織全体を対象としたスコープ1、2の排出削減目標を開示しており、その目標がSBTiによって承認されている
 - 目標の野心度が1.5℃である
CDPルート(SBTi承認目標をもっていない場合】
 - 目標の対象範囲が組織全体であり、スコープ1, 2のカバー率が95%以上
 - 目標終了日が目標設定年の5-10年先
 - スコープ1, 2の年間目標削減率が4.2%以上
【共通】
 - 組織全体を対象としたスコープ1‐3を対象とした長期ネットゼロ目標がある
 - 目標達成率が時間進捗率以上

3.CDP2026の変更点(環境テーマ共通)

CDP2026の変更点としてCDPより2026年1月に公表されている内容を下記に示す。

3-1.質問書の主な改定ポイント

2026年版のCDP質問書では、TNFD、GHGプロトコル、GRIとの整合強化が大きなテーマとなる。TNFDについては、4つの領域(Realm)のうち既存質問では十分に扱われてこなかった「海洋」が新たに環境テーマとして組み込まれ、企業の海洋生態系への影響や依存度を把握・開示する枠組みが整備される見通しである。
GHGプロトコルの面では、土地セクターおよび除去に関するガイダンス(2026年1月30日公表)が反映されることを踏まえ、土地利用や森林減少に伴う排出・吸収の開示項目が、CDP質問書上でも最新のプロトコルに沿って整理される見込みである。水分野では、GRI 303「水と排水」との整合が打ち出されており、水セキュリティの質問書では水使用量や水リスクに関する指標の開示は、GRIの枠組みと揃えた形で問う設問構成が想定される。

3-2.スコアリングとエッセンシャルクライテリアにおける変更点

スコアリングに関する基本的な枠組みとしては、引き続き気候変動・森林・水セキュリティの3テーマにスコアが付与され、プラスチック・生物多様性・海洋に関する情報開示項目は採点対象外となる。気候変動質問書のエッセンシャルクライテリアについてはリスクと機会、インセンティブで変更が見込まれている(下記)。
リスクと機会(2.2.2):
すべての時間軸において、自社の直接操業のみならず、バリューチェーンの上流から下流まで全体を通じてリスク評価を実施する(Leadershipレベルの必須要件)
インセンティブ(4.5、4.5.1):
組織が事業を展開する地域内の法的制限によりインセンティブを経営陣に提供できない場合は、この基準を満たしたとみなす(AリストおよびLeadershipレベルの必須要件)。これは、国が完全にまたは一部を所有している組織は、事業を展開する地域内の法的制限により上級担当者にイン センティブを提供できない場合を想定したものである

フォレストの質問書では、コモディティに関する情報開示の対象範囲を広げる変更の一環として、木材、パーム油、畜牛 品、大豆に加えて、カカオ、コーヒー、天然ゴムのスコアリングが開始される。
また、SME版質問書に回答する組織については、CDPでは、中小企業における気候リーダーシップを認める新しい採点基準を導入される見込みである。

3-3.CDPポータルサイトにおける回答の効率化

CDP2026においては、回答企業が自社データを直接アップロードしたり、過去に報告した情報を再利用したりできるよう、既存のコピーフォワード機能を補完する形でデータ取り込み機能が強化される見通しである。また導入時期は調整段階にあるものの、CDPはAIアシスタント導入に向けても取り組んでおり、リアルタイムのガイダンスやナビゲーション支援、文脈に応じた解説を行う仕組みの実装を進めている。具体的には、設問中の専門用語の意味をその場で説明したり、未回答の必須項目を画面上で明示したりする機能などが検討されている。こうした支援ツールにより、回答担当者の事務負荷を軽減しつつ、作業効率と回答品質の両方を高めることが期待される。

4.まとめ:CDP2026に向けた実務対応のポイント

2025年の結果と規制環境の動向、そして2026年質問書・スコアリングの変更点を踏まえると、CDP2026で高評価を獲得するためには、単年度の回答準備ではなく、通年を通じた計画的な対応が重要になる。本稿のまとめとして、CDP2026年サイクルに向けて企業が押さえるべき実務上のポイントを以下に整理する。

4-1.2025年のスコアからのギャップ分析

まずは2025年のスコアリングレポートを起点に、自社の弱点モジュール・設問を特定し、失点要因や未実施項目を整理する
特にエッセンシャルクライテリアの未達や、上位レベル(Management/Leadership)の評価基準のボトルネックとなっている設問を明確化し、優先順位を付けることが有効である

4-2.方針・体制・データ基盤の強化

ギャップ分析で抽出した重点領域について、単なる回答テキストの修正ではなく、方針・体制・プロセス・データ収集の変更等、「実態の整備」が必要なものは早期の対応着手が求められる
具体的には、気候移行計画の策定、リスク・機会評価のバリューチェーン全体への拡張、取締役会・経営陣の気候関連のインセンティブの組込み、第三者検証・保証の導入などが挙げられる

4-3.2026年変更点の早期把握と情報収集

CDPガイダンスやメソドロジー、各種セミナー・ウェビナー等を通じて、2026年の質問書変更点やスコアリング方針を早期に把握する

4-4. ドラフト作成とレビューの高度化

回答ドラフトは一度で完成させるのではなく、複数回のドラフト作成とレビューサイクルを前提にスケジュールを組む
レビューでは、自社の最新の取り組みが反映されているか、評価基準・エッセンシャルクライテリアを満たしているか、未回答・不整合な設問が残っていないかといった観点から、第三者の視点も交えたチェックを行う

以上のプロセスを通じて、CDP回答は単なるスコア獲得のための作業から、自社の環境戦略とガバナンスを定期的に点検・更新するマネジメントサイクルとして位置づけることができる。
CDP2026をその起点として活用できるかどうかが、今後の不確実なESG環境下におけるサステナビリティ経営の成熟度と競争優位性を左右すると言える。そのため、企業はCDP2025質問書および国際的なサステナビリティ情報開示の基準を参照しながら、環境課題に対する自社の取り組み内容を早期に再検討し、CDP2026回答に向けて準備をすることが望ましい。

【参考資料】
Charting the Change: Disclosure Data Dashboard – CDP
Preparing for CDP’s 2026 disclosure cycle