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CDPモジュール11「生物多様性」設問を読み解く

CDP2025では「生物多様性」テーマはスコア対象外であるにもかかわらず、日本企業の6割以上が本テーマに回答している。生物多様性関連の設問で構成されるモジュール11では、生物多様性の目標設定や、それを実現するための戦略・指標について問われている。本稿では、CDPモジュール11の構成とIUCNガイドラインとの関係を整理しながら解説する。なお、2026年4月に公開されたCDP2026のモジュール11に大きな変更はなく、「生物多様性」は引き続きスコア対象外である。

目次

  1. CDP2025「生物多様性」テーマの回答状況と設問
  2. モジュール11の概要
  3. モジュール11とIUCNガイドラインの整合
  4. CDP生物多様性を回答するために

1.CDP2025「生物多様性」テーマの回答状況と設問

CDP2025に回答した日本企業2,059社のうち、6割以上にあたる1,307社が「生物多様性」テーマの設問に回答している。「気候変動」、「水セキュリティ」、「フォレスト」と異なり、「生物多様性」はスコア対象外であるが、同じくスコア対象外の「プラスチック」テーマへの回答社数(527社)と比較すると、「生物多様性」への関心の高さがうかがえる。
「生物多様性」テーマには、他のテーマと同様にCDPのモジュール1~6および13に共通設問に加え、生物多様性に特化したモジュール11が設けられている。モジュール11の設問数は多くなく、GHG排出量や水の排出量のような数値回答を求める設問もないが、生物多様性方針の有無や、企業の拠点・事業活動が生物多様性にとって重要な地域の近くに所在するかどうかを把握しておく必要がある。

2.モジュール11の概要

モジュール11では、生物多様性に関する取り組み、生物多様性指標の活用状況、事業活動が生物多様性に与える影響などについて回答が求められている。具体的には、生物多様性方針など生物多様性に関するコミットメントのために報告年に実施した活動(設問11.2)、その活動をモニタリングするための生物多様性指標(設問11.3)、生物多様性にとって重要な地域やその近傍での事業活動と、その影響および緩和策(設問11.4、11.4.1)で構成されている。

2-1.設問11.2:生物多様性関連のコミットメントを進展させるために、貴組織は本報告年にどのような行動を取りましたか
設問11.2では、企業の生物多様性関連の目標を達成するために、報告年に行った活動について問われている。これは後述するIUCNの「企業の生物多様性パフォーマンスの計画策定及びモニタリングのためのガイドライン」(以下、IUCNガイドライン)の「ステージ2(生物多様性に関するビジョン、目標、目的を策定し、それらを実現するための主要な戦略を設定)」の内容と整合している。
11.2の回答項目「生物多様性関連コミットメントを進展させるために実施した行動の種類」についても、CDPガイダンスにおいてIUCNが示す「保全活動分類スキーム」が出典として示されており、例えば、選択肢の「土地/水の保護」は法的に保護される区域の確立や拡張するためにとられた対策、「種の管理」は収穫や貿易の管理だけでなく、種の回復や生息域外保全(動植物園や研究機関など、野生の生息地以外の場所で絶滅リスクのある種を保全する方法)等が含まれている。

2-2. 設問11.3:貴組織は、生物多様性関連活動全体の実績をモニタリングするために、生物多様性指標を使用していますか
設問11.3の生物多様性指標についても、IUCNガイドラインの「ステージ3(企業レベルでのデータ集約を可能にする、連動する中核指標の枠組みを開発)」と整合しており、これについては後に詳述する。

2-3. 設問11.4:報告年に、生物多様性にとって重要な地域内またはその近くで事業活動を行っていましたか
設問11.4では、生物多様性にとって重要な地域またはその近くでの事業活動の有無が問われており、続く11.4.1では、当該地域の詳細だけでなく、事業活動が当該地域の生物多様性に悪影響を及ぼす可能性や、講じられた緩和策とその詳細についての回答が求められている。
回答項目の「選択された地域内で実施された緩和策」では、「用地選定」、「プロジェクト設計」、「業務管理」、「生物多様性オフセット」などが選択肢となっており、これらの選択肢はミティゲーションヒエラルキー※の「回避、最小化、回復、オフセット」の考え方に準じて設定されている。
※開発や事業活動による生物多様性への負の影響に対して、「回避(Avoid)」「最小化(Minimize)」「回復(Restore)」「相殺(Offset)」の順で対処する優先順位の枠組み

3.モジュール11とIUCNガイドラインの整合

モジュール11の一部の設問は、IUCNガイドライン(「企業の生物多様性パフォーマンスの計画策定及びモニタリングのためのガイドライン」)の要件に沿う形で設定されている。生物多様性パフォーマンスとは、生物多様性へのマイナスの影響を回避・低減し、プラスの効果を増大するような取り組みの過程とその成果のことである。

IUCNガイドラインは、リスク分析や目標設定、指標開発のためのガイダンスではなく、「優先度の設定→計画策定→モニタリング」というサイクルで行う、企業全体の戦略策定をふまえた「結果重視マネジメント」のアプローチに焦点が当てられている。具体的な内容は、生物多様性に対する企業の影響を理解し、優先度の高い種・生息地・生態系サービスを特定する「ステージ1」から、生物多様性に関するビジョン・目標等を策定し、それらを実現するための主要な戦略を設定する「ステージ2」、企業レベルでのデータ集約を可能にする中核指標の枠組みを開発する「ステージ3」、データを収集・共有・分析し、そこから学習し適応していく「ステージ4」の内容で構成されている。

モジュール11とIUCNガイドラインの整合のポイントとして、モジュール11の設問11.2および11.3については、IUCNガイドラインの特定のステージに基づいていることがCDPガイダンスにも明記されている。また、設問11.4および11.4.1では、生物多様性にとって重要な地域またはその近隣における事業活動とその影響が問われているが、IUCNガイドラインにおいては、対応の優先度の高い種や地域を特定する「ステージ1」がこれに関連している。ここでは、これらの設問のうち生物多様性指標を取り扱う設問11.3と、IUCNガイドラインの内容との整合について解説する。

設問11.3「貴組織は、活動全体のパフォーマンスをモニタリングするために生物多様性指標を使用していますか」では、企業が生物多様性の目標に対する進捗状況を追跡し取り組みの成功を評価するための指標の使用について回答が求められており、IUCNガイドラインの「ステージ3」の要件と一致している。
IUCNガイドラインの「ステージ3」では、生物多様性に影響する企業活動領域の中で、企業の目標に対する進捗状況や戦略の実現状況を示す、モニタリング可能な「指標」の設定方法について解説されている。ガイドラインで示される指標の種類には、圧力(Pressure)、状態(State)、対応(Response)、恩恵(Benefit)がある。

これらはガイドライン内で「セオリー・オブ・チェンジ」に沿って説明されている。「セオリー・オブ・チェンジ」とは、長期的な目標を達成するために必要な複数レベルの戦略、アウトプット、成果、影響の間の論理的な因果関係を記述したもののことで、下図のように示すことができる。

連動する指標の枠組(IUCNガイダンスよりブライトイノベーションにて作成)

図:連動する指標の枠組(IUCNガイダンスよりブライトイノベーションにて作成)

これらと対応するのが、設問11.3の回答項目「生物多様性パフォーマンスをモニタリングするための指標」の選択肢となっている、「状態と便益(IUCNガイドラインの「恩恵」)の指標」、「外部圧力の指標」、および「対応の指標」である。「圧力」、「状態」、「対応」、「恩恵」の4種類の指標は、個別に独立して考えるものではなく、この「セオリー・オブ・チェンジ」の重要な要素として考えることとなる。また、科学的に信頼でき、定性的または定量的に測定が可能であり、一貫性があることなどが指標の条件となっている。

このように、本ガイダンスでは生物多様性に対する個々の取り組みというよりも、企業が生物多様性をどのように戦略として組み込み、実効的な指標を使用して、必要かつ適切な対応を講じているかについて解説しており、モジュール11でもこのガイダンスに沿った取り組みを実施して、回答することが望ましい。

4.CDP生物多様性を回答とその先にあるネイチャーポジティブ実現のために

「生物多様性」は2026年もスコア対象外であるが、これまで述べてきたように、回答するためには、自社の企業活動と関わる環境のうち、生物多様性にとって重要な地域の近くにあるかどうかなど現状を把握し(ステージ1)、生物多様性に関するビジョン・目標・目的を策定、そしてそれらを実現するための主要な戦略を設定(ステージ2)、指標の枠組みを開発(ステージ3)が求められている。
先述した通り、モジュール11と整合しているIUCNガイダンスは企業が自社の事業活動による生物多様性への負の影響を回避・低減し、保全・回復への正の貢献を拡大することを目的として、目標設定・指標・モニタリングの枠組みを示すものである。このような企業の取り組みは、世界目標である、昆明モントリオール生物多様性枠組と、それを国内で実行するための日本の基本計画生物多様性国家戦略2023-2030の目標である、ネイチャーポジティブ実現のために有効な手段となるため、CDPの回答のためだけではなく、自社の生物多様性の戦略を考える上でも、ガイダンスに沿った取り組みを実践することが望まれる。

【参考資料】
02_CDP-Award-Japan_Takuya_Harada.pdf
Guidelines for planning and monitoring corporate biodiversity performance | IUCN Library System