2022年4月1日、プラスチック資源循環促進法(以下、プラスチック新法)が施行された。本稿では、日用品・消費財メーカー、小売店、飲食店といった製造・販売事業者等によるプラスチック使用製品の回収・再資源化を可能にする自主回収・再資源化事業について解説する。なお、法律の概要については、本サイトの2月8日の記事「プラスチック新法」の概要と分別収集の手引きのポイントをご覧いただきたい。
企業にとってのベネフィットは?
環境対応は企業の成長戦略(攻め)と生存戦略(守り)の両側面から重要なテーマとなりつつある。企業は消費者、投資家を意識し、SDGsへの積極的な取り組み、統合報告書による非財務情報の開示などESG投資を呼び込むための対応を強化している。製造・販売事業者等による自主回収・再資源化事業は、企業による店頭回収などの自主的取り組みを通じてプラスチック使用製品の回収・再資源化を促進する仕組みである。企業は自社事業に関連したプラスチック使用製品の資源循環に取り組むことで、サステナビリティ・環境対応に積極的な企業とのイメージを高めることができ、ブランディングや企業価値の向上につながることが期待できる。
誰が対象になるのか?
環境省の定義では、事業の対象は「プラスチック使用製品を自らが製造・販売し、又は販売・役務の提供に付随してプラスチック使用製品を提供する事業者(製造・販売事業者等)」となっている。
ここでポイントとなるのが、メーカーなど製造業だけでなく、販売だけを行う「小売店」や役務の提供に付随してプラスチック使用製品を提供する「飲食店」などの「サービス業」も含まれる点である。なお、回収や再資源化事業のすべてを他社に委託してプラスチック使用製品の自主回収等を行う場合も対象となる。また、複数の事業者で共同して計画の認定を申請することもできる。
環境省ウェブサイトの先行事例
業種 | プラスチック使用製品 | 取組主体 |
製造業 | つめかえパック | 兵庫県神戸市 |
歯ブラシ | ライオン | |
サービス業 | 化粧品容器 | ロフト |
おもちゃ | 日本マクドナルド | |
ペットボトル | セブン&アイ・ホールディングス |
対象となる「プラスチック使用製品」とは?
プラスチック使用製品とは、「プラスチックが使用されている製品」のことであり、製品全体に占めるプラスチックの割合(重量比や体積比など)が決まっているわけではなく、一部でもプラスチックが使われていればこれに該当し、一般廃棄物と産業廃棄物の両方が含まれる。ただし、産業廃棄物に該当する場合は、廃棄物処理法に則りマニフェストあるいは電子マニフェストでの管理が必須となる。なお、他社が製造・販売・提供したプラスチック使用製品でも、自主回収を行うプラスチック使用製品と合わせて回収・再資源化を行うことが効率的な場合は対象に含むことができる。
どんなことが可能になるのか?
本事業は、プラスチック使用製品の製造・販売・提供事業者が自ら製造・販売・提供したプラスチック使用製品を自主回収・再資源化する計画を策定し、主務大臣の認定を受けることで廃棄物処理法の業許可を不要とし、店頭回収等を促進する仕組みである。一般廃棄物、産業廃棄物の区分にとらわれず、プラスチック使用製品を回収できるところが利点の一つである。また、本制度の認定の範囲内であれば、各市区町村から許可を受けずとも市区町村をまたがって広域での回収が可能になる。
出典:環境省
申請、認定、報告の流れ
本事業による申請から報告までの大まかな流れと認定の基準は以下のとおりである。
① 事前相談(経産省、環境省などの窓口)
② 申請(申請書類一式の提出)
③ 審査(標準処理期間は3か月)
④ 認定(認定の有効期限なし)
⑤ 報告(前年度の実施状況の報告書を毎年6月30日までに提出)
<認定の基準> ① 基本方針との適合性 ② 再資源化の促進に資するものとして省令で定める基準との適合性 ③ 申請者の能力に係る基準との適合性 ④ 運搬施設(車両等)に係る基準との適合性 ⑤ 処分施設に係る基準との適合性 ⑥ 申請者の適格性 |
どのような取り組みが求められるのか?
計画認定のためには、プラスチック使用製品を回収するだけでなく、それらの再資源化に取り組む必要がある。環境省によると、ここでいう再資源化とは「使用済プラスチック使用製品等の全部又は一部を部品又は原材料その他製品の一部として利用することができる状態にすること」と定義されている。つまり、企業が選択できる再資源化の手法としては、マテリアルリサイクルかケミカルリサイクルのどちらかとなり、熱回収のみの計画は認定の対象とならない。その上で、収集したプラスチック使用製品を相当程度(性状等を踏まえ個別に審査)再資源化することが求められる。
なお、気を付けなければいけないのが、再資源化により得られた物(ペレット等)の利用先は、「原則として国内で製品等に加工(マテリアルリサイクルの場合は成形等の可塑化を行う)する製造事業者等」に限られる点である。つまり、再生ペレット等の販売先は国内に限られ、海外に向けて販売することはできない。その他、再資源化の実施率として、プラスチック使用製品の種類ごとの回収量や、再資源化により得られた物に占めるプラスチック使用製品の割合などの把握が求められる。また、再資源化により残渣が生じる場合は、その処理の委託先及び処理方法についても申請書に記入し明らかにする必要がある。
本制度は企業が動脈物流を用いてプラスチック使用製品の効率的な回収・再資源化を可能にするものであり、自社が製造・販売・提供するプラスチック使用製品の資源循環を目指す企業にとってはメリットのある制度である。プラスチック新法を、法的拘束力のない、自社事業と関係性の低い制度と捉えるのはもったいないといえる。企業としては、これを自社のサステナビリティ・環境対応を推進する好機と捉え、追い風としていきたいところである。