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欧米で横行するグリーンウォッシング:規制の遅れと企業への環境圧力

グリーンウォッシングとは、企業や営利団体が、根拠が不十分であるにもかかわらず、自社の製品やサービスについて「環境に配慮している」という印象を故意に消費者に与える、またはそのような誤解を招きかねない情報を発信・提供する行為のことである。

現状、消費者は、企業が発信する情報がグリーンウォッシングにあたるかどうかを調べる手段をほとんど持たず、また、企業によるグリーンウォッシングについて追及するにあたり、消費者側にどのような権利が存在するのかについても、曖昧な状況が続いている。

企業のプレスリリースやウェブサイトに掲載される情報を報道する機関や団体も、詳細な追跡調査や事実確認を行っておらず、ほとんどが企業からの発表をそのまま拡散しているだけであることも、消費者に誤解を招く要因の1つとなっている可能性がある。


また、欧州の様々な団体が過去半年間に発表した企業によるグリーンウォッシングに関する調査レポートは、ほとんどメディアに取り上げられることがなく、注目を集める機会がない状況が続いている。これも、グリーンウォッシングを横行させるもう1つの大きな要因となっている。

しかし、2022年に入り、欧州の複数の調査機関によって公開された、多国籍企業によるグリーンウォッシングの詳細な調査結果は、驚くべき内容の連続であった。


複数の機関による「グリーンウォッシング」調査結果

①「NET ZERO STOCK TAKE 2022」(Net Zero Tracker(英国)、他)
2022年6月、「NET ZERO STOCK TAKE 2022」というレポートが発行され、欧州の各方面で注目されている。このレポートは、英国の団体であるNet Zero Trackerを主としていくつかの欧米のシンクタンクが協力して作成したものである。
このレポートで注目すべき内容は、フォーブス・グローバル2000にリストアップされている世界の大企業の実態である。レポートでは、これらのうち「ネットゼロ宣言」をしている企業は702社に留まり、さらにその取り組み内容には「重大な欠陥」があることを指摘している。具体的には、456社は目標の最低基準を満たしておらず、また、およそ40%の企業は炭素削減策を具体的に実施しておらず、カーボンクレジットによるオフセットに依存しているということが、調査結果として示されている。加えて、排出量算定の適用範囲を報告している企業のおよそ60%は、スコープ3の排出量を部分的にしか含めていないか、もしくはまったく設定しておらず、スコープ3のすべての排出量を削減目標に入れている企業は、わずか38%に過ぎないことが報告されている。
レポートでは、企業による「ネットゼロ宣言」に伴う具体的な取り組み内容には信頼性が不足しており、実態のない状態でネットゼロの動きだけが広まっていることは問題であるとしている。それにより、消費者側に「偽装による誤ったネットゼロ情報」が流布される可能性も指摘している。

上記Net Zero Tracker以外の機関でも、今年に入り続々とグリーンウォッシングに関する調査結果が公表されており、「環境先進企業」とされる企業による、実態とはかけ離れたグリーンウォッシングの状況が明らかにされている。

②「Corporate Climate Responsibility Monitor 2022」(Carbon Market Watch(ベルギー)およびNew Climate Institute(ドイツ))
2022年2月、炭素市場分析と気候変動に対する政策活動を行うベルギーのNGO団体であるカーボン・マーケット・ウォッチ (Carbon Market Watch)は、気候変動の研究とプロジェクトを支援するドイツの非営利目的有限会社であるニュー・クライメート・インスティテュート(New Climate Institute)と共同で、気候変動及びグリーン誓約活動で「先進的」と認識されている、多国籍企業25社の実態を調査したレポートを公開した(Corporate Climate Responsibility Monitor)

レポート内の表現を借りれば、調査結果は「驚くべきもの」であった。
気候変動に対して積極的に活動していると広く認識され、先進的な取り組みを公表し、「持続可能性」を広く宣伝しているこれらの企業は、実際には様々な制度の「抜け穴」を利用したり、データの省略や、炭素排出量が多い年を取り組みの開始年に設定することで意図的に将来の削減率を大きく見せるなどして有利にしたり、独自の誤った気候変動対策を行うなど、さまざまな「グリーンウォッシング」のトリックによって、消費者や規制当局に誤解を招く「グリーン誓約活動」を行っている、というのである。

レポートでは、これらの企業は将来の温室効果ガス排出ネットゼロを公約しているが、多くの場合、実際のところ公約にある数十年後の削減率は、平均でわずか40%程度に留まる可能性があることを指摘し、企業やブランド(屋号)の実名を挙げている。

また、「企業に対し気候変動対策の圧力がかかるにつれて野心的な主張が行われるようになったが、多くの場合、それらは実体を欠いており、消費者と規制当局の両方を誤解させる可能性がある。比較的うまくやっているとされる企業でさえ、誇張している」と伝えている。

③「Licence To Greenwash : How Certification Schemes and Voluntary Initiatives Fuelling Fossil Fashion」

(A Changing Markets Foundation(オランダ))
2022年3月には、市場を持続可能なものにするために活動するオランダの財団であるチェンジング・マーケット財団(A Changing Markets Foundation)が、英国とヨーロッパのファッション業界におけるグリーンウォッシングを調査したレポートを発行した。

同レポートは、「グリーンウォッシングの許可書:認証スキームと自主的イニシアチブが化石ファッションをどのように促進しているか」というタイトルが付けられている。
レポート内では、昨今のファッション業界の急速な発展は、石油化学製品である合成繊維によって達成されており、過剰消費、雪だるま式に増加する廃棄物、広範囲にわたる汚染、グローバルなサプライチェーンにおける労働者の搾取などの数々の問題を引き起こしている事実が強調されている。レポートでは、これらの業界構造から生みされるファッションを「化石ファッション」と呼んでいる。
調査の結果、分析された46のブランドのうち60%が、環境への取り組みについて誤解を招く、または単に虚偽の主張をしている、と報告されている。グリーンウォッシングを行っている企業の中には、有名ファッションブランドもいくつか含まれており、レポートでは全て実名を公表している。
本レポートの全文は、下記リンクより入手が可能である。
Licence to Greenwash: How certification schemes and voluntary initiatives are fuelling fossil fashion

④「The Asset Managers Fueling Climate Chaos」(Reclaim Finance(フランス)、他)
2022年4月には、金融機関による気候変動対応について研究するフランスのリクレイム・ファイナンス(Reclaim Finance)他NGO3団体が共同で、世界の大手投資及び資産運用会社30社が化石燃料プロジェクトに投資している額、もしくは化石燃料プロジェクトで所有する資産額の詳細を調査したレポートを公開した(THE ASSET MANAGERS FUELING CLIMATE CHAOS)。

調査対象の世界的な投資・資産運用会社30社のうち25社は、 2050年までに気温上昇を1.5℃以下にし、2050年温室効果ガス排出ネットゼロに向けた投資を支援するための組織「ネット・ゼロ・アセットマネージャーズ・イニシアチブ(NZAM)」のメンバーである。
調査の結果、調査対象の30社が行っている新規の石炭プロジェクト開発のための資産合計金額は820億ドル(約10兆円)、石油およびガス会社(とその新規プロジェクト)に持つ資産は4,680億ドル(58.5兆円)にのぼり、気候変動対策をアピールしながらも、投資慣行を根本的に変更しようとはしておらず、石炭、石油、またはガスへの投資を削減していないと分析し、その実態を明らかにした。
レポートでは企業を実名で公表しており、さらに点数によりランク分けをしている。詳細は、レポート15ページ目に記載されている。


このように、複数の機関によるレポートで、欧米の気候変動及び持続可能性に対する活動を先進的に行っている(とアピールしている)企業の多くが、現実には、各社が主張するほどの活動を行っていない可能性が示されている。
これには、政策当局による厳しい規制や罰則がまだ整備されていないことと、消費者を含む第三者が実際に企業の活動を詳細に検証する手段を持たない、という背景がある。

対応が急がれるグリーンウォッシングの「規制」

2021年10月、英国政府は増え続ける企業のグリーンウォッシングに対応するために、消費者向けにグリーンクレーム(グリーンの主張)のガイドラインである「Green claims code for shoppers」を発行した。これは、野心的な脱炭素や持続可能性に関する目標を発表している企業に対して、消費者が、企業の取り組みに実態が伴っているかどうかを確認できる旨を規定したものである(Guidance: Green claims code for shoppers)。

また、欧州政府は、「製品とビジネスの環境パフォーマンス–主張の実証(Environmental performance of products & businesses – substantiating claims)」というイニシアチブを立上げ、規制に向け、欧州委員会による事案採択の段階に入っている(Environmental performance of products & businesses – substantiating claims)

一方で、企業が金融機関から投資や融資を受ける際のESGに関する条件や適格要件については、現状、世界的な統一ルールがなく、多国籍企業は複数の市場にある所在地でそれぞれに適用されるルールに従わなければならない。現在も、EU(欧州政府)、SEC(米国証券監視委員会)、ISSB(国際サスティナビリティ基準委員会)が、異なるルールを提案している。これらは企業側にコスト増を招くだけでなく、企業はより良い条件を得るために、グリーンウォッシングを行う傾向にあることが指摘されている。規制当局はこの問題を解決すべく動いてはいるが、現状の改善には時間がかかることが懸念されている(参照:Analysis: Overlapping rules to curb greenwashing may only add to company frustration(ロイター))。

解説
現在、英国及び欧州についてはグリーンウォッシングの規制に向けて具体的に動いているが、現状は比較的緩やかな規制に留まっている。そして、その他の地域では対応がほとんど進んでいない。
また、企業は、顧客、市場、金融機関からの気候変動と環境への対応圧力が増す中で、野心的な目標を、具体的に裏付けされた技術や事業戦略のロードマップが完全でないままで公表に踏み切らざるを得ないという実状がある。

実際に、世界中で多くの企業が「ネットゼロ宣言」を行い始めているが、どのような技術を用い、どの分野で何トンの温室効果ガスの発生を抑え、どの時点でどれほどの投資が必要か等、具体的なことがほとんど示されておらず、ただ、流行りの目標値と期限が掲げられているものが大半である。これは単に、将来の世代に負担や責任を背負わせているに過ぎないのである。
グリーンウォッシングは、次世代への負担をより大きくするだけの、現在のトップマネージメントによる怠慢な施策であり、欧州以外の様々な地域でも、今後、早急に対応をする必要があるのではないだろうか。