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TCFD提言とは(2/2)

前回の「TCFD提言とは(1/2)」では、TCFD提言の背景及びTCFD提言への対応の必要性について概説した。
今回は、TCFD提言が求める開示推奨事項の概要について解説する。

1.TCFD提言が求める開示情報

TCFD提言では、企業が気候関連の「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4項目についての情報を開示することを求めている。各項目に関する開示推奨事項のポイントは下記の通り。


ガバナンス
投資家は、企業の取締役会や経営者が気候関連課題を重視し、経営課題に組み込んでいるか否か、組み込んでいる場合、どのような形で組み込んでいるか、モニタリングはどのような形で行われているかについて関心がある。そのためTCFD提言では、気候関連リスク・機会に対する取締役会による監視体制及び経営者の役割、及び気候関連課題は重要な経営課題であるとの認識に関する開示を推奨している。

開示のポイント
①取締役会が気候関連課題について報告を受けるプロセス、議題として取り上げる頻度、監視対象
②経営者の気候関連課題に対する責任、報告を受けるプロセス(委員会等)、モニタリング方法


戦略
投資家は、気候関連課題が企業にどのように影響するか、それに対してどのような戦略が策定されているかといった情報を中長期的な企業の業績予測に活用する。そのため、TCFD提言では、気候関連リスク・機会とそれが及ぼす影響や、シナリオ分析(2019年11月11日及び12日の記事を参照)で特定した影響やレジリエンスの説明を推奨している。

開示のポイント
①短期・中期・長期のリスク・機会の詳細
②リスク・機会が事業・戦略・財務計画に及ぼす影響の内容・程度
③関連するシナリオ(例:2℃、NDC(Nationally Determined Contribution, 国別約束草案達成シナリオ)、BAU(Business as usual, 現行のままのシナリオ))※とそれに基づくリスク・機会及び財務影響、それに対する戦略・レジリエンス
※既存の関連シナリオをそのまま採用するケースと、各社の状況等をふまえて一部追加・調整するケース有り


リスク管理
投資家が企業を評価する際、気候関連リスク・影響・戦略に加え、それらが企業内で適切に管理されるための仕組みの構築状況も重要な評価視点である。そのためTCFD提言では、気候関連リスクを特定(抽出)・評価・管理するプロセスと、それが企業全体のリスク管理体制の中にどのように統合されているかの説明を推奨している。

開示のポイント
①気候関連リスクの特定・評価プロセスの詳細、重要性の決定方法
②重要な気候関連リスクの管理プロセスの詳細、優先順位付けの方法
③全社リスク管理の仕組みへの統合状況


指標と目標
気候変動対応のマネジメントの観点で、企業が気候関連のリスク・機会をふまえてどのような目標を設定しているか、目標に対する実績・パフォーマンスをどのようにモニタリングし、どのような結果になっているかは重要な評価視点である。そのためTCFD提言では、企業がリスク・機会の特定・評価・管理に用いる指標や目標、それに対する実績、地球温暖化の主要な要因とされる温室効果ガス排出量の開示を推奨している。

開示のポイント
①気候関連リスク・機会の管理に用いる指標
温室効果ガス排出量(GHGプロトコルに従い算出したScope1、2、3排出量)
③気候関連リスク・機会の管理に用いる目標及び実績


2.TCFD提言に則った情報開示媒体・方法

情報開示媒体
TCFD提言では、上記1.で述べた開示推奨事項について、基本的に、法定開示媒体での情報開示を推奨しているが、より厳密には、開示媒体について下記の通り示している。

・「ガバナンス」及び「リスク管理」については、全ての企業に対して法定開示媒体(例:有価証券報告書、事業報告)での開示を推奨。
・「戦略」及び「指標と目票」については、事業活動において気候変動課題が重要か重要でないかにより異なる。重要である企業には「ガバナンス」及び「リスク管理」と同様に法定開示媒体での開示を推奨している。重要でない場合も、年間売上高が10億米ドル(約1,100億円)以上の企業は将来的に気候変動の影響を受けると考えられるため、年1回以上発行される公式な企業報告書(例:サステナビリティレポート、CSRレポート、統合報告書)での開示を推奨している(必ずしも法定開示媒体でなくても良い)。年間売上高が10億米ドル未満の企業については、TCFD提言の中で特に開示推奨事項に関する記載がない。

情報開示の傾向
TCFD提言が求める内容を的確に開示する企業の事例はまだ少ないものの、TCFD提言を考慮した開示を行う企業が増えている。現状、企業が開示を行う場体として、主に下記の3つが挙げられる。
①法定開示媒体(例:有価証券報告書、事業報告)
②法定開示媒体以外の公式な企業報告書(例:サステナビリティレポート、CSRレポート、統合報告書)
TCFD提言対応に特化した報告書


2020年1月時点では、多くの企業が上記②のパターンで開示を行っている。まずは②での開示から始め、①での開示への移行を計画している企業が増えている。③の例としては、Eni S.p.A.(イタリアの石油・ガス会社であり、イタリア最大の事業会社でもある)等が挙げられる。開示様式については、2020年1月6日時点では、特に定められたものはなく、各企業に委ねられており、各社各様の開示内容となっている。
現状の企業の開示情報の課題としては、「戦略」の部分の開示推奨事項である、「気候関連リスク・機会に伴う実質的な財務影響」を的確に開示する企業は限定されていること、同じく「戦略」の部分の開示推奨事項である「シナリオ分析」について、実施事例がまだ少なく、かつTCFD提言対応において初めて実施した企業が多いことから、現時点では初歩段階の内容である場合が多いこと、及び分析の範囲や深さが企業によってまちまちであること等が挙げられる。但し、現時点で、既にシナリオ分析を行い、その結果を開示していること自体、先進的な取り組みといえる。シナリオ分析については、参照する既存の各シナリオ(当カーボンアドバイザー2019年11月12日の記事「気候シナリオ分析の進め方(2/2)~気候シナリオ分析プロセスの概要」参照)の指標・パラメータが限定されていること等もあり、初めてシナリオ分析を実施する企業にとって、参照できる情報が少なく、実施の障壁となっている場合が多い。公開シナリオの充実等、シナリオ分析の基礎情報の更なる充実が今後望まれる。
TCFD提言への対応を推進する際には、まずは、TCFD提言の開示推奨事項と、自社の開示情報や取組みとのギャップ分析(差異分析)を行うことが必要である。その上で、下記を検討・整理・明確化し、着実に遂行していくことが望まれる。
・ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標のそれぞれの開示推奨項目について、次回の報告では、どのような内容をどの開示媒体で開示するか(次回の報告では、TCFD提言に完全に準拠することが困難な場合、年々改善していく)
TCFD提言の開示推奨事項を満たすためには、どのような追加的な取組み・体制構築が必要であり、それらをどのタイムスケールで実施・改善していくか


尚、特に「戦略」の中の、「気候シナリオ分析」を実施したことがない企業が多いため、新たな実施が必要となるケースが多い(「シナリオ分析」については、当カーボンアドバイザー2019年11月11日の記事「気候シナリオ分析の進め方(1/2)~気候シナリオ分析実施の際の準備事項~」及び11月12日の記事「気候シナリオ分析の進め方(2/2)~気候シナリオ分析プロセスの概要」参照)。


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