企業の事業活動は、購入や販売を通じてサプライチェーンで繋がっており、そこに大きな削減ポテンシャルが存在する可能性があるが、事業者自らの温室効果ガス(GHG)排出量の把握だけでは削減ポテンシャルが明確にならず、サプライチェーン・マネジメントによる排出削減のインセンティブが働かない。そのため、排出量の把握・管理のためには、自社の排出量に加えてサプライチェーン上流・下流における温室効果ガス排出量把握することが重要である。
『今さら聞けないGHG算定【GHGプロトコル+Scope1,2算定編】』では、GHGプロトコルの概要、Scope1とScope2の算定方法を紹介した。今回はそれ以外の排出量であるScope3の算定方法について、環境省の「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン (ver.2.6)」をベースにポイントを整理し、Scope3の上流と下流それぞれのカテゴリについて、2回わたりGHGプロトコルとの違いなどを含めて説明する。後編となる本稿では、Scope3のうち下流のカテゴリであるカテゴリ9から15について解説する。
目次
- はじめに
- 2.Scope3算定
2-1. カテゴリ9 輸送、配送(下流)
2-2. カテゴリ10 販売した製品の加工
2-3. カテゴリ11 販売した製品の使用
2-4. カテゴリ12 販売した製品の廃棄
2-5. カテゴリ13 リース資産(下流)
2-6. カテゴリ14 フランチャイズ
2-7. カテゴリ15 投資 - まとめ
1.はじめに
企業活動は、自社からの温室効果ガス(以下、GHG)排出のみならず、サプライチェーン上流・下流におけるGHG排出に大きな影響を及ぼしている。多くの企業では、サプライチェーン上流・下流におけるGHG排出量(Scope3排出量)が、自社からのGHG排出量(Scope1,2排出量)を大きく上回るため、企業のScope3排出量の削減に対する社会的圧力が増している。そしてScope3排出量の削減のためには、サプライチェーン上流・下流におけるGHG排出量のタイムリーかつ的確な把握が重要であるため、その算定の必要性が急速に高まっている。Scope3は、自社以外の間接排出を対象に15のカテゴリに分類され、各カテゴリで算定方法が異なる。例えば、購入製品の排出量は供給者ごとの物量データに基づき算出するほか、出張や通勤における排出量の場合は、移動距離や交通費から推計する。これから算定を始める企業にとっては、すぐに全てのカテゴリを算定することは困難であるため、環境省のガイドライン等を参考に、算定可能な範囲から少しずつでも算定を進めることが推奨される。
2.Scope3算定
Scope3の算定対象は、Scope1、Scope2以外の間接排出であり、自社事業の活動に関連する他社の排出である。GHGプロトコルでは、Scope3を15のカテゴリに分けて算定することとしており、それぞれのカテゴリにおける算定方法や留意点を以下にまとめる。
表 Scope3カテゴリ一覧
|
カテゴリ |
算定対象 |
|
上流 |
1 |
購入した製品・サービス |
原材料・部品、仕入商品・販売に係る資材等が製造されるまでの活動に伴う排出 |
2 |
資本財 |
自社の資本財の建設・製造に伴う排出 |
|
3 |
Scope1,2に含まれない燃料およびエネルギー関連活動 |
他者から調達している燃料の調達、電気や熱等の発電等に必要な燃料の調達に伴う排出 |
|
4 |
輸送、配送(上流) |
①報告対象年度に購入した製品・サービスのサプライヤーから自社への物流(輸送、荷役、保管)に伴う排出 |
|
5 |
事業から出る廃棄物 |
自社で発生した廃棄物の輸送、処理に伴う排出 |
|
6 |
出張 |
従業員の出張に伴う排出 |
|
7 |
雇用者の通勤 |
従業員が事業所に通勤する際の移動に伴う排出 |
|
8 |
リース資産(上流) |
自社が賃借しているリース資産の操業に伴う排出(Scope1,2で算定する場合を除く) |
|
下流 |
9 |
輸送、配送(下流) |
自社が販売した製品の最終消費者までの物流(輸送、荷役、保管、販売)に伴う排出(自社が費用負担していないものに限る) |
10 |
販売した製品の加工 |
事業者による中間製品の加工に伴う排出 |
|
11 |
販売した製品の使用 |
使用者(消費者・事業者)による製品の使用に伴う排出 |
|
12 |
販売した製品の廃棄 |
使用者(消費者・事業者)による製品の廃棄時の処理に伴う排出 |
|
13 |
リース資産(下流) |
賃貸しているリース資産の運用に伴う排出 |
|
14 |
フランチャイズ |
フランチャイズ加盟者における排出 |
|
15 |
投資 |
投資の運用に関連する排出 |
<算定対象>
販売した製品の最終消費者までの物流(輸送、荷役、保管、販売)に伴う排出
※自家物流や自社施設での排出はScope1 またはScope2にて計上。
※自社が輸送費用を支払い、輸送を発注している場合はカテゴリ4で算定。
※物流センターや荷捌き場のような短時間で荷物が通過していく通過型物流拠点(トランスファーセンター)や流通加工を含む物流センターでの荷役、保管は算定対象外とすることも可。
※全ての業種・事業者において消費者までの流通を把握することを前提としつつ、実態を把握することが困難な場合には、いくつかの場合に分けて算定する。
<算定方法>
【国内輸送】:算定・報告・公表制度における特定荷主の算定方法を適用して算定
※海外輸送については、トンキロ法等を用いて算定。
※GHGプロトコルでは、輸送方法ごとの支出金額に基づく算定も認められている
(式)(燃料法)CO₂排出量=燃料使用量 × 排出原単位
(式)(燃費法)CO₂排出量=輸送距離/燃費 × 排出原単位
(式)(トンキロ法)
トラック:CO₂排出量=輸送トンキロ×トンキロ法燃料使用原単位×排出原単位(単位発熱量×排出係数×44/12)
鉄道、船舶、航空:CO₂排出量=輸送トンキロ×トンキロ法輸送機関別排出原単位
【物流拠点や販売拠点での荷役、保管、販売】
・エネルギーの使用に伴う排出:
(燃料) (式)CO₂排出量=燃料使用量 × 排出原単位(=単位発熱量×排出係数×44/12)
(電気) (式)CO₂排出量=電気使用量 × 排出原単位
・冷凍空調機器使用時の冷媒の漏えいによる排出:フロン排出抑制法の算定方法を適用して算定
※上記の算定が困難な場合には、商品量(容積またはパレット数等)から換算して算定。
<算定対象>
自社で製造した中間製品が自社の下流側の事業者(第三者の中間加工業者や最終製品製造者等)において加工される際に発生する排出
<算定方法>
①販売先の事業者から加工に伴う排出量データが入手できる場合
(式)CO₂排出量=中間製品の加工に伴う排出量(CO₂以外のガスも含む)
②販売先の事業者から加工に伴うエネルギー消費データを入手できる場合
(式)CO₂排出量=中間製品の加工に伴うエネルギー消費量 × 排出原単位
③販売先企業から上記のデータが入手できない場合
(式)CO₂排出量=中間製品の販売量 × 加工量当たりの排出原単位
<算定対象>
販売した製品(システムやサービスを含む)の使用に伴う排出量
※製品が販売された年に、その製品の生涯(例:耐用年数)において排出すると想定される排出量をまとめて算定する。
- 直接使用段階排出(必須)
・家電製品等、製品使用時における電気・燃料・熱の使用に伴うエネルギー起源 CO₂排出量
・エアコン等、使用時に6.5ガス(非エネルギー起源の温室効果ガス)を直接排出する製品の使用における6.5ガスの排出量
間接使用段階排出(任意)
・衣料(洗濯・乾燥が必要)、食料(調理・冷蔵・冷凍が必要)等、製品使用時に間接的に電気・ 燃料・熱を使用する製品のエネルギー起源CO₂排出量
<算定方法>
直接使用段階の排出量
例)エネルギー使用製品
(式)CO₂排出量=燃料の使用に伴うCO₂排出量 + 電力の使用に伴うCO₂排出量 + 6.5ガスの CO₂換算排出量
※その他(燃料・フィードストック、GHG含有製品、間接使用段階)の排出量は、『サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン』を参照。
<算定対象>
自社が製造または販売している製品本体および製品に付す容器包装の「廃棄」と「処理」に係る排出量
※製品がリサイクルされる場合の算定対象範囲は、リサイクル後のフローの全てを算定範囲とするのは現実的に不可能なため、一定の範囲で区切ることが必要(リサイクル準備段階まで、リサイクル処理プロセス全て等)。
<算定方法>
①廃棄物種類別の処理方法等の実態把握ができる場合
(式)CO₂排出量=廃棄物種類・処理方法別の廃棄物処理・リサイクル量 × 廃棄物種類・処理方法別の排出原単位
②廃棄物種類別の処理方法等の実態把握が困難なもの
(式)CO₂排出量=廃棄物処理・リサイクル費用(量) × 排出原単位
<算定対象>
自社が賃貸事業として所有し、他者に賃貸しているリース資産の運用に伴う排出
※当該排出が自社の Scope1、2の算定対象の場合を除く。
※他者から賃借しているリース資産はカテゴリ8で算定。
<算定方法>
①リース資産ごとのエネルギー種別の消費量が把握できる場合
(式)CO₂排出量=エネルギー種別の消費量 × エネルギー種別の排出原単位
②リース資産ごとのエネルギー種別の消費量が不明の場合
(式)CO₂排出量=エネルギー消費量 × エネルギー種別に加重平均した排出原単位
③上記方法による算出が難しい場合
(式)CO₂排出量=リース資産の規模等を表す指標(延床面積等)×平均的な排出原単位(単位面積当たりの排出原単位等)
※GHGプロトコルでは、賃借者から収集したScope1、2排出量に基づく算定も推奨されている。
<算定対象>
フランチャイズ加盟者(自社とフランチャイズ契約を締結している事業者)におけるScope1、2排出量
※Scope1、2に含めて算定している範囲を除く。
<算定方法>
算定・報告・公表制度における算定方法に準じて算定(『温室効果ガス排出量算定・報告マニュアル』を参照)
※同制度にない排出活動を算定する場合については、『サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン』の1.1 直接排出(Scope1)の考え方を参照
<算定対象>
投資(株式投資、債券投資、プロジェクトファイナンスなど)の運用に関連する排出量
※Scope1、2に含めて算定している範囲を除く。
※主として民間金融機関(商業銀行など)向けのカテゴリではあるものの、該当する企業は算定することを推奨。
<算定方法>
①被投資者から得た投資別のScope1およびScope2の排出量を投資持分比率に応じて(按分して)積み上げて算定
②経済データを用いて投資からの排出量を推計
3.まとめ
今回は、環境省の『サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン』を参考に、Scope3排出量の下流カテゴリ9から15の主たる算定について解説した。Scope1、2と異なり、カテゴリに分けて算定するなど少しの時間と労力をかけて算定する必要があるが、今後はその算定を求められる機会が増えることが予想されるため、環境省のガイドライン等を参考に、算定できるカテゴリから少しずつでも算定を進めることが推奨される。
【関連記事】
今さら聞けないGHG算定【GHGプロトコル+Scope1,2算定編】
今さら聞けないGHG算定【Scope3算定編・前編】
【参考資料】
環境省ウェブサイト
全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト
環境省グリーン・バリューチェーンプラットフォーム
環境省 サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン(ver.2.6)
GHG Protocol Corporate Value Chain (Scope3) Standard
———————————————————————————————————————————————————————————
本稿は、『【無料ウェビナー】今さら聞けないGHG算定(Scope3算定編)』の概要です。
※ウェビナーは終了しています。
【無料ウェビナー】今さら聞けないGHG算定(Scope3算定編)
日時 2024年12月6日(金) 14:00~14:45
場所 オンライン(Zoom)
受講料 無料
———————————————————————————————————————————————————————————
株式会社ブライトイノベーションは、企業の環境情報開示支援、気候関連課題への対応、サーキュラーエコノミー構築など、環境・サステナビリティ分野のコンサルティングサービスを提供しています。
以下のフォームより、お気軽にご相談・お問合せください。
またX(旧Twitter)では世界の脱炭素経営とサーキュラーエコノミーに関するニュースをタイムリーにお届けしています。
ブライトイノベーション 公式X