Carbon &
Circular Portal

カーボン&サーキュラーポータル

CARBON &
CIRCULAR
PORTAL

カーボン&サーキュラーポータル

各国で開示要求の異なるサステナビリティ報告に備える

世界的に規則や法律として開始された企業向けのサステナビリティ報告は、会計報告とは異なり、各地域で国際的な統一基準を採用していないだけでなく、報告データの特性が異なっており、非常に分かりづらい内容となっている。一般的に、専門家以外は各国の開示要求の詳細を十分に把握しておらず、何をすべきか、どのようなデータを収集する必要があるのかさえ理解している人が少ないのが現状である。
そのため本稿では、まずその基本中の基本を理解できるよう、日本よりも先に義務化が進んでいる米国と欧州のサステナビリティ報告義務の違いに焦点を当てながら、情報を整理していく。


目次

  1. 「会計基準」と「サステナビリティ報告基準」の違い
  2. 米国と欧州のサステナビリティ報告義務
  3. 米国と欧州の報告内容の主な違い
  4. 他のサステナビリティフレームワークとの連携
  5. 日本で予定されるサステナビリティ報告義務
  6. 解説

1.「会計基準」と「サステナビリティ報告基準」の違い

会計基準は既知のとおり、財務諸表を作るための基準である。財務諸表には、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書などがあり、長年運用され、数値やデータを集計する「処理のための方法論」が明確になっており、誰もが理解しやすいものとなっている。一方で、サステナビリティ報告基準は、環境、社会、ガバナンス (ESG) について、企業がどのような方針や目標を設定し、それらをどのように管理しているか、また進捗はどうであるか、という側面での報告が必要となり、会計報告のような、単純な「結果」の処理とはそもそもの性質が異なるのである。

一般的にサステナビリティ報告では、1)炭素排出量、2)エネルギー消費量、3)廃棄物管理、4)従業員福利厚生、5)コーポレートガバナンス等について、それぞれにポリシー(政策)や目標が定められており、定量的な指標によって各々の開示要求に従い、進捗を報告しなければならない。

2.米国と欧州のサステナビリティ報告義務

米国
米国では、米国証券取引委員会(SEC)が、2024年3月6日に気候関連の開示規則を発表した。2025年1月1日から会計年度が始まる対象企業に段階的に適用され、最初の報告は2026年からとなる。最初は、時価総額が700百万ドル以上の「大規模早期報告者 (LFA)」が対象となり、段階的に対象企業が拡大する。また、米国は、気候変動による報告義務以外にも、原料の調達におけるFEOC規制(懸念国規制:Foreign Entity of Concern)やNPRM(規則制定案通知)等が次々に発表されており、業種によってはサステナビリティ報告と同レベルでこれらの規制を正確に理解する必要がある。

欧州
欧州では、サステナビリティ報告指令(CSRD)がすでに2024年から発効しており、最初の報告は2025年から始まる。対象企業はおよそ50,000社にまで拡大され、EU域内で売上が1億5,000万ユーロ以上のEU域外企業も将来は対象となる。CSRDでは、既に報告基準となるESRS(EUサステナビリティ報告基準) が発行されており、気候変動だけでなく、汚染物質、水、生物多様性、資源循環、社会、ガバナンス等、多様な報告が義務化されている。

3.米国と欧州の報告内容の主な違い

報告範囲
SECは、主に気候関連リスクと温室効果ガス(GHG)排出に焦点を当てており、資源循環、水資源、生物多様性等は報告義務に含まれていない。しかし、ガバナンスに関しては細かな規定がある。また、特に留意したい点としては、米国特有の裁判対策として「セーフハーバールール」を考慮することである。これは、義務化はされていないが、SECの規則では推奨されている。
※セーフハーバールール:
特定の状況下、または一定の条件などの基準を満たした場合には、違反や罰金の対象にならないとされる範囲である。今回のSECの開示報告では、以下のような例が含まれる。
・GHG排出削減戦略
再生可能エネルギー源への移行計画
・気候関連目標達成までのタイムライン
・気候シナリオにおける予測される財務的影響
・シナリオ分析で特定された潜在的なビジネスリスクと機会
・内部炭素価格設定: 企業の内部炭素価格設定、トン当たりの価格
・内部価格の意思決定上の役割
再生可能エネルギー導入目標
・気候中立またはネットゼロ排出の達成までのタイムライン

一方、CSRDの開示要求項目は、環境、社会、ガバナンス(ESG)問題を含む、より広範な持続可能性のトピックとなり、最大で1,140以上の報告用データの収集が必要であり、作業は膨大なものとなる。
CSRDの特徴は、二重の重要性である「ダブルマテリアリティ」を採用していることである。
これは、報告するデータについて、企業が重要であるかそうでないかを評価する際、企業の活動が人々や環境に与える実際または潜在的な影響と、持続可能性の問題が企業の財務実績、地位、発展にどのように影響するのか、という2つの重要性を評価する必要があるということである。

例えば、企業が行う事業活動における生物多様性の開示要求に対して、企業は、その要求事項に従い、「自社の事業が生物多様性に与える影響」と、「生物多様性に対する目標とそれを達成するための行動が、企業の財務に及ぼす影響」の2つを定量的に評価して開示する必要がある。CSRDが難解といわれる理由の1つは、こうした影響評価を行う際に、企業は、評価そのもののプロセスが有効である事を示さなければならない点である。これらは、CSRD特有の開示要求であるため、内容を十分に理解する必要がある。

排出量
SECは、Scope1、Scope 2温室効果ガス排出量のみの開示を義務付けており、Scope 3については、企業活動が重大な影響を環境に与える場合のみ開示するよう要求している。
CSRDは、Scope 1、2、3すべての排出量の報告を義務付けている。
なお、双方ともに、Scope 2に関してはロケーションベースとマーケットベースの両方を分けて報告する必要があり、さらに、米国と欧州では、グリッドの排出係数の参照基準が一部異なる部分もあり、詳細な内容を把握する必要がある。

ガバナンス開示の範囲
SECの気候開示規則は、主に気候関連のガバナンス問題に焦点を当てている。企業は以下を含む内容を開示する必要がある。
・気候関連リスクの取締役会による監視
・気候関連リスクの評価と管理における経営陣の役割
・取締役会への報告プロセス

CSRD は、開示範囲が広く、様々な ESG トピックをカバーしている。
代表的な例として、企業は以下について報告する必要がある。
・全体的な持続可能性のガバナンス構造
・ESG問題に対する取締役会と経営陣の責任
・持続可能性をビジネス戦略と意思決定プロセスに統合する
・持続可能性に関するポリシーとデューデリジェンスのプロセス
・重要性評価の基準

4.他のサステナビリティフレームワークとの連携

SECの規則は、気候関連ガバナンス開示に焦点を当てた気候関連開示タスクフォース(TCFD)の枠組みを主に参照している。
CSRD は、持続可能な金融開示規則 (SFDR)やEUタクソノミーを含む複数のフレームワークに準拠している。そのため、SFDRやEUタクソノミーを参照する要求事項も含まれている点に注意する必要がある。

5.日本で予定されるサステナビリティ報告義務

日本では、2025年3月末までにサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が日本版のサステナビリティ開示基準の最終版を公開する予定である。現在の予定では、東京証券取引所に上場する時価総額が3兆円以上の企業が最初の対象となり、2027年3月期までの内容を、2027年4月期に報告することが必要となる。その後、時価総額に応じて段階的に対象企業が拡大する予定である。

6.解説

日本では数年後にSSBJが始まることから、一部の大手上場企業がサステナビリティ報告基準に関心を持ち始めている。しかし、対象企業の報告内容の一部はサプライヤーからのデータを必要とするため、影響は、サプライチェーン全体に及び、上流、下流のバリューチェーン全体にも影響が出る。米国では、SECルールだけでなく、セーフハーバールールへの準備、FEOCやNPRM等の規制への対応も必要となる。欧州では、複雑なCSRDの開示要求だけでなく、2024年に発効したエコデザイン規制により、商品によっては、デジタルプロダクトパスポート(DPP)への情報開示や、電池規則、自動車リサイクル法の改正に伴う製品の情報開示が必要となり、総合的な観点からサステナビリティ報告の準備をする必要がある。また、企業によってはGRIスタンダード(グローバル・レポーティング・イニシアチブ)やTNFDへの対応、さらに、継続して行っているCDPへの対応も同時進行で行う必要があり、大きな負担となる可能性がある。

それらに対応するためには、高度な専門知識に加え、いかにコストを抑えながら効率的にデータ収集を行うことができるかを理解するためのノウハウが必要である。

【関連記事】
EU企業サステナビリティ報告指令(CSRD)概説

———————————————————————————————————————————————————————————
株式会社ブライトイノベーションは、企業の環境情報開示支援、気候関連課題への対応、サーキュラーエコノミー構築など、環境・サステナビリティ分野のコンサルティングサービスを提供しています。
以下のフォームより、お気軽にご相談・お問合せください。

無料相談申込フォーム
お問合せフォーム

またX(旧Twitter)では世界の脱炭素経営とサーキュラーエコノミーに関するニュースをタイムリーにお届けしています。
ブライトイノベーション 公式X