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EU企業サステナビリティ報告指令(CSRD)概説

EU企業サステナビリティ報告指令(CSRD)が、EU非財務報告指令(NFRD)に代わり、2024年1月1日から段階的に導入される。
CSRD の報告内容の細かな規則は、2023年7月に採択されたEUサステナビリティ報告基準(ESRS)を利用することとなる。ESRSには、CSRDに基づいて企業が提出するサステナビリティ報告の規則と要件が細かく規定されている。

企業経営者にとってのCSRD導入後のポイントの1つは、ESRSを満たす報告書を作成しなければならない負担である。過去の報告と異なる点は、企業のバリュー チェーン全体での影響を評価し報告することである。将来、気候に関しては、企業が受けるリスクだけでなく、企業が気候に与える影響を評価することが必要となる。報告内容に温室効果ガス (GHG)のスコープ3排出量と全体の削減目標が入ることは、その 一例である。

欧州政府がCSRDを採用した理由は、持続可能性の高い基準の設定と、報告の透明性の向上のためである。消費者と投資家は、企業の持続可能性への取組と環境に与える影響を知る権利がある。しかし、CSRD以前の報告ではそれらが不十分との批判が続いていた。NFRDによる報告では、利害関係者が重要だと考える情報が省略されることがしばしばあり、誤解を招く情報の記載や、グリーンウォッシングの頻発といった問題を抱えていた。

本稿では、企業がCSRDで行う必要のある報告の概略とポイントを示した。ESRSの具体的な内容までは記載していないのは、ESRSには広範かつ詳細な要求事項が規定されており、さらに企業の規模や事業内容により報告する内容や時期が異なるためである。CSRDの報告書の作成にあたっては、事前にESRSを理解した専門家との十分な協議が必要である。

〈目次〉

  1. CSRDの報告内容
  2. CSRDの対象企業
  3. 解説

1.CSRDの報告内容

CSRDの報告の基準となるESRSには12の項目があり、2つの上位(総合)基準と、10のトピック別の基準で構成されている。概要は、以下のとおりである。

    • 持続可能性に関するすべての事項に適用される2つのESRSの横断的な基準

  • ESRS 1 – 一般要件 
    環境、社会、企業統治(ガバナンス)に関して、その影響、リスク、機会について開示する領域と、最低限の要件がリスト化されている。例えば、企業統治、戦略又はビジネスモデル、リスクと機会の管理、会社の目標に関する情報のそれぞれは、必ず含まれる必要がある。

    ESRS 2 – 一般開示
    持続可能性に関する開示要件が規定されており、バリュー チェーンの範囲情報も提供する必要がある。企業統治(行政・経営・監督機関の役割、インセンティブ制度、デューデリジェンス、リスク管理)、戦略(ビジネスモデル、ステークホルダー、リスクと機会)、重要業績評価指標についても規定されている。

  • 以下は、10の各トピックスに関する基準である。項目ごとに詳細な基準が定められている。膨大な量となるため、各トピックに関しての詳細は省略するが、将来、「ESRS E1 -気候変動」の基準の中で、スコープ3を含むバリューチェーン全体におけるGHG排出量と将来の削減目標を報告する必要が生ずる点は、留意すべき点といえる。
      •  

      ◆環境基準
       ○ESRS E1 – 気候変動
       ○ESRS E2 – 汚染
       ○ESRS E3 – 水と海洋資源
       ○ESRS E4 – 生物多様性と生態系
       ○ESRS E5 – 資源利用とサーキュラーエコノミー

      ◆社会基準
       ○ESRS S1 – 自社の従業員
       ○ESRS S2 – バリューチェーンの労働者
       ○ESRS S3 – 影響を受けるコミュニティ
       ○ESRS S4 – 消費者とエンドユーザー

      ◆企業統治基準
       ○ESRS G1 – 事業活動

       

      2.CSRDの対象企業

      すでにNFRDの対象となっているEU規制市場の上場企業については、2024年1月1日からCSRDが適用され、最初の報告書は、2025年に提出しなければならない。
      NFRDの対象となっていない企業のうち、EU規制市場に上場している企業で、かつ以下の3つのうち2つを満たす企業は、2025年1月1日から適用され、最初の報告書は、2026年に提出しなければならない。

          1. 純売上高 5,000 万ユーロ以上(*1)
          2. 純資産2,500万ユーロ以上(*2)
          3. 従業員250名以上

      注:10月17日、欧州委員会は2024年の作業プログラムを発表し、(*1)は、当初の4,000万ユーロから5,000万ユーロに、(*2)は2,000万ユーロから2,500万ユーロにそれぞれ引き上げられた。

      上記以外の上場中小企業および該当するその他の事業所については 、2026 年 1 月 1 日から適用され、最初の報告書は、2027 年に提出が予定されている。上場中小企業の報告では簡素化された基準の使用が許可されており、詳細は、ESRSを確認する必要がある。

      さらに、グループ全体のEU域内の純売上高が1億5,000万ユーロを超えるEU域外企業のうち、以下のいずれかに該当する企業は、2028年1月1日から適用となる。

          1. 子会社に、EU企業かつ大企業の範囲に入る企業がある
          2. 子会社に、EU規制市場に上場している中小企業がある
          3. 純売上高4,000万ユーロ超のEU域内の支店がある

       

      世界的な影響

      CSRD は EU の指令だが、EU 内に拠点を置く海外企業にも適用される点が特徴といえる。
      例えば、複数の子会社を海外に持つ日本企業(日本にグローバル本社と登記している企業)は、その子会社の 1 つがEU 内にあり、条件に当てはまる場合には、 CSRD による報告書を作成、提出する必要がある。

      内外両方への影響評価

      CSRD は、報告や評価における「ダブルマテリアリティ(double materiality)」の原則が適用されている。ダブルマテリアリティとは「内側と外側」や「両方の観点」などを意味する言葉で、具体的には、企業が気候変動により直面する「リスク」だけでなく、企業が気候や社会に引き起こす可能性のある「影響」も分析・評価し、その情報を開示することである。

      報告書の標準化

      CSRD では、企業の持続可能性データを標準化されたデジタル形式で提出することが求められる。現在多くの異なる形式で溢れている企業のサステナビリティ報告書は、この標準化により、一定の形式で提供される事になる。この措置により、消費者や投資家は、企業の報告をより容易に比較することが可能となる。

      報告書の保証

      報告内のデータは「限定的な第三者保証」の対象となる。具体的には、監査人が、基準で定められた特定のデータを評価及び保証することである。例えば、第三者による「会計証明」を義務付けており、事前に保証を提供する第三者機関と協議する事が効率的に報告書を作成するポイントとなる。会計証明には、炭素会計も含まれる場合がある。必要なデータ、プロセス、統治を最初から適切に導入することが、余計な負荷の低減に繋がる。

      スコープ3 GHG排出量

      CSRDでは、スコープ3の排出量を報告することが求められる。スコープ3のGHG排出は、企業のバリューチェーンにおける上流と下流の活動から発生するため、測定が難しいことで知られており、それらを測定しデータ化するプロセスの構築は容易ではない。そのため、できるだけ早くプロセスの構築に取り組み、確実にESRSの要件を満たす必要がある。報告時期や範囲は、ESRS S1に規定されている。

       

      3.解説

    • CSRDの狙いは、企業のバリューチェーン全体を、ESGとダブルマテリアリティの原則によって「再構築させる」ことである。報告書作成の負担はいうまでもなく、実際にバリューチェーンの再構築が必要となる場合があり、事業の収益性に直接的な影響が出る可能性が高い。

      例えば、スマートフォンやEVの電池に利用されているコバルトは、世界の鉱石生産量の50%以上をコンゴ民主共和国が占めている。コンゴ民主共和国の鉱床での採掘活動は、劣悪な労働環境に伴う人権問題だけでなく、犯罪行ためとなる児童労働が盛んに行われている。SCRDのバリューチェーンにおける人権遵守規定から、ある企業が問題のある鉱床を自社のサプライチェーンから外そうとした場合、他の供給者の選択は限られ、さらに価格面で圧倒的に不利なものとなる。調達の変更で発生するコスト増を顧客、しいては一般消費者が受け入れるかなど、より複雑な問題が発生する。
      企業にとってこうした例は、将来無数に出現する頭の痛い問題である。
      CSRDは、EUに営業拠点を持つ域外企業も対象としている点が特徴であり、EU域内で活動している全ての企業は、まずは、その内容を十分に理解する必要がある。

      【参考資料】
      企業サステナビリティ報告に関する欧州委員会のウェブページ

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