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TNFDを取り巻く最新動向2025

世界経済フォーラムが2025年1月に発表した「グローバルリスク報告書2025」において、今後10年間の長期的リスクランキングの第2位に「生物多様性の喪失と生態系の崩壊」が入り、これまでで最も順位が高く、気候変動に並ぶ重大なグローバルリスクであることが改めて示された。
2022年12月、生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択され、それ以降、各国の規制強化や国家戦略の改訂を背景に、企業の自然関連課題への対応の必要性が増している。日本国内では、2023年3月に「生物多様性国家戦略2023-2030」が閣議決定された。本戦略において、企業には自然関連の情報開示が求められ、TNFD 賛同団体数が目標指標の1つに設定されている。こうした動きに伴い、TNFD提言に沿った自然関連課題の開示を行う企業が増えている。本稿では、国内におけるTNFD関連の最新動向や、企業に求められる対策などを解説する。

目次

  1. 2025年現在の国内におけるTNFD対応企業数の動向
  2. 開示に向けた各種ガイダンスの活用方法
  3. 他のイニシアティブやフレームワークとの連携
  4. 企業がこれから始めるべきTNFDの対策

1. 2025年現在の国内におけるTNFD対応企業数の動向

国内で開示を宣言する企業は幅広い業種で増加している。TNFD提言に賛同し、今後開示に取り組む意思決定をした企業は、TNFDの公式ウェブサイトにて登録することができる。TNFDの最終提言は2023年9月に公表されており、その後、開示を予定している日本企業は増加し続けている。2025年7月時点で、TNFDアダプター(提言への賛同・開示表明企業)は日本が世界最多の178社であった。これは2024年10月時点の133社からも増加している。
178社のうち、金融機関等を除いた日本企業142社の傾向としては、土地改変や資源転換に関わる業界が多かったが、幅広い業界で開示が予定されている。具体的には、多い業種の順に、エンジニアリング・建設サービス(12社)、不動産(10社)、加工食品(9社)、自動車部品、化学品(各8社)であったが、登録された企業の業種は国内だけで 41業種あった(全77業種中)。

2. 開示に向けた各種ガイダンスの活用方法

TNFDはTCFDとの類似点も多いが、自然への依存・影響の評価や、地域固有の生態系・生物多様性リスクを重視するなど、独自の要素が加わっている。下記に記載するTNFDのガイダンスをはじめ、公開されている環境省のガイダンス等が参考となる。
環境省は「ネイチャーポジティブ経営推進プラットフォーム」を立ち上げ、企業向けのワークショップ・勉強会を開催している。また、生物多様性の保全等に取り組むための基本的指針をまとめた「生物多様性民間参画ガイドライン」や、開示に向けた実践的な解説、特にシナリオ分析については他社事例なども記載されている「サステナビリティ(気候・自然関連) 情報開示を活用した経営戦略立案のススメ実践ガイド」などのガイダンスを公開している。これらのガイダンスは、国内外の動向や、企業がどのような活動から始めればよいか、実務や事例も交えて解説されており、開示をこれから始める企業にとって有用な資料となる。

TNFDも開示のために様々なガイダンスを発行しており、全般的な開示ガイダンスだけでなく、LEAPアプローチやシナリオ分析、バイオームに関するガイダンスの他、業種別のガイダンスも順次公開されている。2025年1月には新たに「アパレル・繊維・靴」、「飲料」、「建設資材」、「エンジニアリング・建設」・「不動産」、そして6月には「漁業」、「海運・クルーズライン」、「水道事業」の業種別ガイダンスが新たに追加され、これにより業種別ガイダンスは全16業種となった。各業種別ガイダンスでは、バリューチェーン特有の自然関連課題や、LEAPアプローチ導入のための具体手法、業種別の固有指標などが詳細に解説されており、該当する企業は、特にLEAPアプローチを行う際に、参考資料として活用できる内容となっている。

【環境省のガイダンス】
・これから開示を検討する企業にとって、全体の流れも分かるガイダンス
 「生物多様性民間参画ガイドライン
・開示の準備段階で事例などが参考になるガイダンス
 「サステナビリティ(気候・自然関連) 情報開示を活用した経営戦略立案のススメ実践ガイド
【TNFDのガイダンス】
 Publications – TNFD

3. 他のフレームワークやイニシアティブとの連携

TNFDはTCFDCDPなど、先行する主要なフレームワーク・イニシアティブとの整合性を重視した開示枠組となっており、TCFD提言に沿った開示やCDP回答をすでに実施している企業にとっても、TNFD提言への対応が容易となる。
具体例として、TNFDはTCFDと同様に4つの柱(ガバナンス、戦略、リスクと影響の管理、指標と目標)で構成されているため(図1)、気候関連課題と自然関連課題に並行して取り組みやすい共通の基盤がある。また、気候関連と自然関連のリスク・機会は密接に関連し、一方の課題への対応が他方に影響を与えるトレードオフ(例:ダムの建設など)も存在するため、TNFDは気候関連課題と統合して開示することを推奨している。
2024年にはCDP質問書が大幅に改定され、TCFD・TNFDなど他の国際的枠組みとの整合性が強化された。バリューチェーンマッピングなど、TNFDに関連した設問も新たに追加されている。なお、TNFDとCDPの質問の関連性は公式ウェブサイトなどで確認可能である。

TNFD開示提言
図1 TNFD開示提言の4つの柱。TCFDと同じ構成である一方、自然に関する依存や影響、優先地域に関する開示等、TCFDにない要素が加わっている。(出所:Getting started with adoption of the TNFD recommendations)

4. 企業がこれから始めるべきTNFDに関する取り組み

TNFD提言には、自然関連の依存・影響や地域性など、TCFD提言にない要素も追加され、推奨される開示内容すべてに対応するには多くの準備やコストがかかる。一方、TNFDは最初から全ての企業が全ての項目を網羅して開示するとは想定しておらず、実際、TNFDのグローバル調査によると、最初の開示で「指標と目標」の開示を予定している企業は半分程度であった(図2)。また、ガイダンスにも「段階的な開示」や「一部のみの開示」も推奨されており、これから開示を検討する企業は、一部の活動や拠点のみを対象とするなど、まずは自社にとって可能な範囲でスタートすることが重要である。

TNFD調査
図2 TNFD が実施したグローバル調査によると、推奨する4つの柱の14の開示提言項目のうち、7項目を開示するという回答が平均的であった。(出所:Getting started with adoption of the TNFD recommendations)

例えば、自社拠点に絞り、「ENCORE」や「WWFリスクフィルター」等の公開ツールを用いることで、自社活動による自然への依存・影響を把握できる。依存・影響の特定は、生態系の劣化や規制強化時のリスク発見につながり、将来の規制やリスク対応、レジリエンス向上の基盤となる。
自社の活動や拠点による、自然関連のリスク・機会が特定できれば、次はシナリオ分析による精度の高いリスク・機会の特定や対応策の検討が可能となる。また、バリューチェーン上流まで対象範囲を広げることで、調達のリスクも把握することができる。
これらのことから、初年度の開示は一部のみを対象として、徐々に開示範囲や精度を上げていくことが現実的である。

【参考資料】
生物多様性国家戦略2023-2030(令和5年3月31日閣議決定)
TNFD Adopters – TNFD
自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)に対する拠出について | 報道発表資料 | 環境省
ネイチャーポジティブ経営推進プラットフォーム|環境省
Correspondence between TNFD Disclosure Recommendations and CDP’s 2024 Questionnaire

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