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TNFD(ベータ版v0.4)の概要と動向 (1/3)

2017年に公表されたTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言は、大きな影響をもたらした。全世界で4400社以上(2023年4月時点)の企業等が賛同し、気候変動関連のリスク・機会や温室効果ガス排出量など、同提言のフレームワークに沿った気候変動関連情報の開示は、年々拡大してきている。気候変動の観点を組み入れた企業経営は、大企業を中心に今や常識になりつつある。

TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)提言は、このTCFD提言の「自然」版である。すなわち、企業の自然関連の「ガバナンス」、「戦略」、「リスク・影響の管理」、「指標・目標」についての情報開示のフレームワークを提示することを主目的としている。気候変動と同様に、今後は「自然」の観点を組み入れた企業経営が広がることが見込まれており、TNFD提言への対応は、企業経営上の重要事項になると考えられる。

そこで、本ウェブサイトでは、TNFD提言対応を検討している日本企業向けに、本稿を含め3回に渡り、TNFD提言への対応の意義、TNFDフレームワークの概要等を簡潔にご紹介する。

Ⅰ 企業がTNFD提言に対応する意義

企業にとって、TNFD提言に対応する意義は、主に下記1.~3.の3点と考えられる。

1. リスクマネジメントの強化
第一に、リスクマネジメントの強化である。
企業は、事業活動を通じて自然に影響を与えるとともに、自然資本(生物多様性、森林、土壌、水、大気など)がもたらす生態系サービス(農水産物、大気・水の浄化や貯留機能など)の恩恵を受けて事業を営んでおり、自然に何らかの形で依存している。そのため、昨今の自然資本の急速な減少及び生態系サービスの喪失は、企業経営・社会経済上の重大なリスクとして、認識が広がってきている。例えば、世界経済フォーラムによるレポート「The Global Risks Report 2023」は、今後10年のグローバルリスク深刻度ランキングにおいて、気候変動関連のリスクに次ぎ、「生物多様性の喪失及び生態系の崩壊」を4位、「自然資源の危機」を6位に位置付けている。
以上のように、自然関連リスクのマネジメントは、持続可能な企業経営に不可欠となってきており、TNFDフレームワークの活用はその有効な手段の1つと考えられる。

2. 対外的な評価の維持・向上
第二に、対外的な評価の維持・向上である。
上述の自然関連リスクに対する認識の拡大に伴い、自然関連リスク・機会及び対応戦略を含めた企業の自然関連情報に対する投資家等の関心も高まりつつある。CDPが2022年から気候変動の質問書に「生物多様性」の設問群を加えたことは、この動きと軌を一にしている。
以上のような背景から、企業が自社の自然関連情報を的確に開示することは、対外的な評価を維持・向上するうえで重要になってきている。自然関連情報開示の枠組みを定めたTNFDフレームワークに沿った開示が、今後国際的に求められていく可能性が高い。

3. 法令やルールへの対応
第三に、法令やルールへの対応である。
欧州の企業サステナビリティ報告指令(CSRD)では、企業に義務づけるサステナビリティ情報の開示要求事項の1つとして、生物多様性・生態系に関するリスク・機会などの自然関連情報が組み込まれており、TNFD提言との整合も図られている。
我が国においても、TCFD提言のフレームワークが有価証券報告書の掲載事項に実質的に採用されたことなどを踏まえれば、今後、TNFD提言対応をはじめとする自然関連情報の開示に関し、何らかの政策的な誘導や規制が導入される可能性はあると考えられる。

Ⅱ TNFDの最新動向

TNFD提言は、本年9月に公表される予定であり、現在準備が進められている。提言は複数の文書で構成される予定であるが、メインの文書となるのが「自然関連リスク・機会のマネジメント及び情報開示に関するTNFDフレームワーク」である。

本年3月、同フレームワークのベータ版(=試行版)の最終バージョン(v0.4)が公表された。今後、パブリックコメントを反映のうえ、9月のTNFD提言のメイン文書として、確定版がリリースされる予定である。

次稿では、ベータ版最終バージョンを元に、TNFDが推奨する情報開示の概要をご紹介する。

【参考資料】
TNFD ウェブサイト
TCFD ウェブサイト
「生物多様性民間参画ガイドライン(第3版)―ネイチャーポジティブ経営に向けてー」(2023年4月、環境省)

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