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欧州が実践するサーキュラーエコノミー【第2回】

第1回の記事では、サーキュラーエコノミー(Circular economy、以下CE)を実践するために必要な要素について、規制、資金、技術それぞれの概要を解説した。
第2回となる本稿では、CEに関連するEUの法制度の全体構造を説明する。

〈目次〉

  1. 欧州のサーキュラーエコノミー(CE)関連規制の構造
  2. EU持続可能な製品のためのエコデザイン規則
  3. EU廃棄物枠組み指令
  4. EU廃棄物輸送規則
  5. EU包装及び包装廃棄物規則
  6. 解説

 

1.欧州のサーキュラーエコノミー(CE)関連規制の構造

欧州政府のCE関連規制は、モノを製造する前のデザイン(設計)段階におけるものと、モノが使用済みとなった後の段階の以下の2つに大別できる。

  • 1)製品を製造する前の設計段階で行われる規制:「EU持続可能な製品のためのエコデザイン規則
    2)使用済み製品の規制:「EU廃棄物枠組み指令

    また、上記を頂点とした、使用済み製品毎の各種「規則(*1)」や「指令(*2)」によって階層化されている
  • (*1)「規則」とは、EU加盟国が統一して遵守する法的拘束力のある規制
  • (*2)「指令」とは、要求事項に従い加盟国が国毎に法律を制定するもの

 

2.EU持続可能な製品のためのエコデザイン規則

この規則は、通称「エコデザイン規則」または「ESPR (Ecodesign for Sustainable Products Regulation)」と呼ばれている(以下、ESPR)。
ESPRの特徴は、消費者向けの製品に限定されず、EU 内で市場に投入または使用される事実上すべての製品を規制する点である。つまり、鉄鋼やアルミニウムなどの中間製品も規制の対象となる。除外されるものは、食品、飼料、医薬品など、一部の製品に限定されている。

ESPRは、以下のとおり「性能要件」と「情報要件」の2つで構成されている。

  • ・性能要件には、耐久性、信頼性、再利用可能性、アップグレード可能性、リサイクル可能性、修理可能性、エネルギーと資源の効率、リサイクルされた内容物の含有量、懸念物質(危険物質や廃棄不可能な物質)の存在、水の使用量と水の効率的な使用、などの要求事項がある。
  • ・情報要件では、新たに導入する「デジタル製品パスポート(Digital Product Passport、以下DPP)を利用する。DPPには、性能要件で指定され、公開すべき製品の持続可能性情報を記録する必要がある。さらに、製品に取り付けるラベル表示も情報要件に含まれる。

これらの要件は、「EU企業持続可能性デューデリジェンス指令」で定められた要件と齟齬がないように、情報をリンクさせる必要が生じる。そのため、企業にとってはやや複雑な作業が要求されることになる。

それぞれの要件の詳細は、業種ごとに、一定期間内に欧州委員会が委任法(*3)として2次法で定めることになる。
(*3) 委任法とは、欧州委員会規則や欧州理事会規則等であり、議会の採択や理事会の合意といった通常の法律制定の手続きを経ず制定する法律である。委任法は、主に、政治的な判断に影響の無い、専門性の高い技術的な要素を規制する場合に用いられる。

ESPRにより、製品は、リサイクル性やサプライチェーンの持続可能性を考慮して設計することが義務付けられる。そのため、ESPRは、CEにむけた画期的な規則として位置付けられている。

 

3.EU廃棄物枠組み指令

 EU廃棄物枠組み指令 (WFD:Waste framework directive、以下WFD) は、EUにおける基本的な廃棄物管理の原則を定めており、全てのEU廃棄物規制の最上位の概念を記している。基本理念は以下の3つである。

  • 1)廃棄物の削減
  • 2)汚染者負担
  • 3)生産者の責任の拡大

これらを主体に、有害物質の特定、副生廃棄物の分類および廃棄物処理における基準についても網羅している。

2023 年 7 月 5 日、欧州委員会より改正案が提示され、食品と繊維の管理を主とした廃棄物管理の厳格化と拡大生産者責任 (EPR)を採用した。特に繊維に関しては、収集、選別、再利用、リサイクルに関してEPRが拡大され、循環的な製品を設計するよう奨励している。

WFDの下には、産業や製品毎に規則や指令がある。
ここでは、5月20日に発効した「EU廃棄物輸送規則」と現在欧州理事会で暫定合意にまで至った「EU包装及び包装廃棄物規則」を例に、CEにどのような影響を与えているのかを説明する。

 

4.EU廃棄物輸送規則

EU廃棄物輸送規則(WSR: Waste Shipping Regulation、以下WSR)は、元々「指令」であったものが、今回の改正により「規則」に格上げされた。
特徴は3つあり、いずれも世界初の試みとなっている。

特徴1:「リサイクル処理されたスクラップ」と「使用済み製品(廃棄物)」の定義を明確に分けていない。これにより、リサイクル処理後のスクラップを資源として、域内で再活用する事を推進する。

現在、例えば、使用済み製品をリサイクル処理して得られる銅のスクラップは、世界中で国境を越えて自由に売買されている。しかし、実際には銅分が30%程度のものから99%のものまであり、銅分以外の1%~70%は輸入された国で燃焼処理や埋立処理されるケースが多い。従ってリサイクル処理後のスクラップを廃棄物と分ける事は、環境汚染の輸出になるという問題が世界中で起きてきた。リサイクル処理されたスクラップはどの程度まで本来の目的である「リサイクル材」として定義できるかは、今後、委任法によって定められる予定である。

特徴2:廃棄物と処理されたスクラップをEU域外に輸出する場合、原則としてOECD加盟国に限定する。また、輸入国で輸入されたものについて、適切な処理が行われていることを第三機関が証明する必要が生じる。OECD加盟国以外への輸出は例外的に輸出国の環境当局が許可し、さらに輸入国で適切に処理されると証明された場合のみ、輸出が許可される。

特徴3:廃棄物を追跡するためのデジタルプラットフォームが用意される。

現在は概要しか示されていないが、廃棄物の種類と移動に関する情報をEUで一元管理する計画である。

WSRは、EUの廃棄物輸送を大きく変える規則であり、域内でのリサイクル処理と生成物であるリサイクル材を利用せざるを得ないという状況を、規制が作り出すことになる。

 

5.EU包装及び包装廃棄物規則

EU包装及び包装廃棄物規則(PPWR: Package and Package Waste Regulation、以下PPWR)は、包装材として使われるプラスチックの使用量とプラスチック包装の設計を大幅に変え、循環性を高めるために作られている。現在は立法過程が完全に終了していないため、現在のままの条文が全て採用されるかは定かではないが、ここでは、PPWRの概要と、PPWRの特徴がCEに貢献する点を中心に解説する。

PPWRは、以下の3つを骨子としている。

  1. 包装廃棄物発生量の削減
  2. リサイクルの促進
  3. EU全体で統一されたルールの採用

上記1.の指針である「包装廃棄物発生量の削減」に基づき、以下が義務化される。

  • 1.1 一人当たりの包装廃棄物の量を2018年比で2030年までに5%、 2035年までに10% 、 2040年までに15%削減する。
  • 1.2 2030 年 1 月 1 日までに梱包を最小化し、輸送、電子商取引の梱包の空きスペース率は最大 50% とする。製品が実際よりも大きいと誤解させるパッケージ(二重壁、偽の底など)は禁止となる。

上記2.の指針である「リサイクルの促進」は、特にCEへの移行を目指す以下の規制が含まれている。

  • 2.1 EU内のすべての梱包材は、2030年までにリサイクル/再利用/たい肥化を可能とする。 (注:「リサイクル可能」の定義は、今後、2次法で明確化される)
  • 2.2 規制発効から 3 年後、お茶/コーヒーのバッグとカプセルおよび果物や野菜に貼られた粘着ラベルは、堆肥化可能な包装を利用する。
  • 2.3 すべての包装は、将来付属の法律で定義されるリサイクル設計基準に準拠する。
  • 2.4 包装は、A から C までのリサイクル可能性のパフォーマンスで格付けられ、その格付けに基づき、企業は、拡大生産者責任に応じて課金を受ける。
  • 2.5 電子商取引を含むその他の輸送用包装については、2030 年までに少なくとも 40%、2040 年までに少なくとも 70% の再利用可能な包装を使用する必要がある。
  • 2.6 2030 年までに以下のプラスチック包装のリサイクル材の最小含有量を義務付ける。
    • 2.6.1 PET 製の「接触に敏感な」パッケージの 30% 。他のプラスチック素材で作られた「接触に敏感な」パッケージの 10% 。(注:「接触に敏感な」とは、具体的には食品や医療用に準じた品等の包装を指す)
    • 2.6.2 使い捨てプラスチック飲料ボトルの 30%、その他のプラスチック包装の35%。
    • 2.6.3 2040年には目標が引き上げられる。

上記3.の「EU全体で統一されたルールの採用」については、特に包装のラベルや表示で以下を含む統一基準が設けられる。

  • 3.1 材料構成
  • 3.2 EU統一の分別指示(ゴミ箱にも適用)
  • 3.3 再利用可能な包装にはQRコードを義務付け

PPWRは、CE実現に向け非常に厳しい規制となっており、商品包装の設計や輸送にまで、大幅な変更を企業に迫ることになる。

 

6.解説

上記で挙げた規制以外にも、EUではCEに関連する法律として、使い捨てプラスチック指令、ビニール袋指令、電池規則、電気電子機器廃棄物指令、バーゼル条約、産業排出指令、廃棄物統計規則、使用済み自動車指令(規則へ改訂予定)等がある。

欧州におけるCEに関する規制の特徴は、製品を製造する業者に対し、持続可能性要件を課し始めたことである。製造業者は、エコデザイン規則によって製品設計に「持続可能性要件」を満たす義務が生じ、サプライチェーンのスタートから製品が廃棄されリサイクルされるまでを考慮しなければならない。従来の「エコデザイン」とは、主に製品のエネルギー使用量や使用材料に焦点が当たっていたが、その範囲が大幅に拡大することになる。

一方で、製品が使用済みとなり廃棄された後にも、CEの規制がきめ細かく盛り込まれている点も特徴といえる。

廃棄物や処理されたスクラップを域外に輸出するハードルが高くなったことで、域内でのリサイクルを促進せざるを得ない状況が生まれる。また、PPWRのように、他の個別の廃棄物規則(電池規則や使用済み自動車規則)でも、新製品にリサイクル材料を使う割合を義務化することで、CEを強制する内容となっている。

これら一連の規制が相互にリンクすることで、欧州では規制によるCEの義務化の流れを創り出しており、「規制がなければCEは実現しない」という現実を反映している。

EU域外の製造業者にとっては、EU規制に合わせたサプライチェーンとその他の地域へ販売する製品のための2つのサプライチェーンを持つことは、事業のコスト増を招き、大きな負担となる。そのため、EUのCE関連規制は、結果的にEU域内に製造業を回帰させる保護的な側面を持ち合わせるという点は、留意すべきである。

リニアエコノミーは、グローバリズムにより過去30年で急拡大し、世界経済を大きく成長させてきた。しかし、その代償は、自然破壊、環境汚染、ひいては気候変動を引き起こすという負の遺産を人類全体にもたらしている。リニアエコノミーからサーキュラ―エコノミーへの移行は、そうした負の遺産を元に戻すための、一連の規制の具現化に他ならない側面がある。

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