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欧州が実践するサーキュラーエコノミー【第3回】

第1回では、サーキュラ―エコノミー(CE)を実践するために必要な要素が規制、資金、技術であり、それらが果たす役割について解説した。特にCEへの移行は、二次原材料市場の有無が大きな要因であることを説明した。 
第2回では、CEに関連するEUの法制度について詳しく解説した。 
第3回では、具体例として、3つのCEモデル企業を紹介する。新興企業としてCEに成功した企業、官民が参画し資金も技術も投入したがCEモデルとして期待したほど成功しなかった欧州プロジェクトの企業、さらに、既存のリサイクル事業をCEモデルに差別化し一定の成功を収めた企業である。 
それらの事例を引用しながら、CEにおける成功と失敗の要因について分析する。

〈目次〉

  1. 製造業のCEは世界規模では期待したほど成功していない
  2. 事例① 新興企業のCE成功事例
  3. 事例② 成功例といえない事例
  4. 事例③ 既存のリサイクル事業をCEに特化し一定の成功を収めた事例
  5. 解説

1.製造業のCEは世界規模では期待したほど成功していない

2024年7月18日、英国の再生可能エネルギーコンサルタント大手のWood Mackenzie(ウッド・マッケンジー)が調査報告書を発表した。ウッド・マッケンジーは、世界の製造業のCEへの移行は、これまでのところ、ほとんど実現していない、と結論づけている。
https://www.woodmac.com/press-releases/circular-economy-not-fulfilling-promise/

EUでは規制を整備し、二次原材料(サイクル材料)の使用の義務化やプラスチック包装税など野心的な規制を次々に制定してきた。しかし、ほとんどの製造業はCEモデルに移行ができていない。

その最大の理由は、企業が既存のバリューチェーンをCE型に変える事で「競争力が維持できない」からである。CEに事業モデルを移行しコストダウンを図る、または増加するコストを吸収できる付加価値を市場や顧客に提供できる事例は、極めて少ない。

そのような中で、以下の3つの事例は、企業がCEへ移行する際に考慮するべき重要な要素を明らかにしているため、参考となると考えられる。


2.事例① 新興企業のCE成功事例

英国Toast Brewing社
【成功した要因】
 ・廃棄材(原料)が十分に確保できるサプライヤーと長期で契約している
 ・二次原料(リサイクル加工原料)の潜在的販売先が多数存在している
 ・英国には、最終製品(クラフトビール/地ビール)の大きな市場がある
 ・リサイクル材料を使う事で「グリーンプレミア」としての差別化を図る事が可能であった
 ・製品の付加価値が上がり、顧客への訴求力が増した
 ・グリーン化以外にも環境慈善団体に利益の一部を提供する事で「グリーン」と「社会貢献」という製品及び企業のイメージを確立した

英国のToast Brewing社は、大手のパン製造販売店(企業)や食品加工工場などから排出される「余剰のパン」を利用してビールの原料を製造販売する新興企業である。原料は、主にサンドイッチを製造する時に発生するパンの耳の部分や製造時に出るカット後のパンの残渣等を原料として利用している。自社原料を使い、クラフトビール(地ビール)の醸造も行っている。

同社は、企業を立上げた当初、公的な助成金を利用してパンをビール醸造用の原材料として使用可能なパン粉にする開発と、それを使ったビールの醸造テストを行った。生成するパン粉はコンパニオンと呼ばれ、ビール醸造時に大麦麦芽と混ぜるために、醸造所がすぐに使える状態の製品にする開発が行われた。コンパニオン開発後も、助成金によるビール醸造のパイロット事業を行い成功させた。

その後、200万ポンド(約4億円)の投資を確保し、地ビール醸造所の設立へと事業を拡大し、自社で原料を使ったクラフトビールのブランド化を成功させた。さらに、50以上のビール醸造所との提携関係を築き、コンパニオンの供給先数を増やしていった。

以上のことからToast Brewing社の事業成功の要因は 、主に2 つあると考えられる。

1つ目は、余剰パンを原料として利用することで原料調達コストを大幅に下げたことである。

2つ目は、廃棄物の削減に取り組む環境慈善団体に資金を提供し、他の醸造所と協力して業界の中Toast Brewingのブランドを確立したことである。

その基礎となったものは、パンを麦芽大麦と同様に発酵可能な状態の「コンパニオン」に生成する技術開発である。コンパニオンは、他の醸造諸でも直ぐに利用可能であるため、利用が急速に拡大した。

食品廃棄物の防止、麦芽使用量の低減による環境アピールは、製品の付加価値を上げる要素となった。他の醸造所でも利用され、元々クラフトビール市場が有った英国での市場開拓を容易にしたのである。コンパニオンの大麦麦芽への混入量は、醸造所が自由に設定できるため、クラフトビールの味への影響も軽減することが可能であった。

新規参入の場合、市場を確保(創出)することは困難で時間を要するが、材料供給網の確保、技術開発、既存市場の活用、製品の差別化によるブランドの確立と競争力確保、の全てがほどよい程度に集約され、成功した例である。


3. 事例② 成功例といえない事例 

オランダPSLoop社
【期待した程成功しなかった要因】
 ・元々、リサイクルPS/EPS(ポリスチレン)の二次材料市場は世界中で存在しない
 ・バージン材がリサイクル材よりもはるかに安い
 ・実現の可能性の精査よりも、廃PS/EPSの埋め立て量・燃料化の軽減を優先した
 ・実用化には多くの疑問はあったが半官の研究所でリサイクル技術が開発され、政治的に進められた。収集運搬からリサイクル工程全体でのコストが高すぎることは、事前に分かっていた

2017年11月、欧州では、主に建築資材で使われるポリスチレン (PS/EPS/XPS)をリサイクルするために、70社を超えるメンバーが参加した組織PolyStyreneLoop (PSL)がオランダで設立された。この組織は、臭素難燃剤(HBCD)を含むPS/EPS/XPSのリサイクルの欧州共同実証プロジェクトを行うために組織されたものである。

PLSは、官民合わせて合計1,430万ユーロ(約24億3,000万円)を集めた欧州のCEでは最大級のプロジェクトである。

参加メンバーを主体に360万ユーロ、EU の資金援助プログラムであるLIFE Programから270万ユーロ、オランダのゼーラント州から100万ユーロ、RABO銀行から450万ユーロ、オランダの国立基金から250万ユーロを調達した。

しかし、5年のプロジェクト期間を経て2024年初頭に終わったPLSは、PSLoop社となり民間企業としてスタートしたが、巨額な資金と5年の歳月をかけた割には、広がりを見せることなく、単発の細々とした事業で継続することとなった。

このプロジェクトの核となったものは、ドイツのフラウンフォーファーIVV研究所が開発したCreaSolv®という技術である。CreaSolv®は、廃プラスチックを特殊溶剤(A溶剤)で溶解し、A溶剤をさらに過熱した別の溶剤(B溶剤)と混ぜることで対象物のPS物質を沈殿させ、沈殿した物質から不純物を除去することにより、純度の高いPS残渣を回収するものである。

実験室レベルではある程度効率の良いリサイクル方法であったが、実際の廃棄物には多くの不純物があり、さらに溶剤に反応しにくい有機物も含まれるため、量産時には実験室程の効率が得られなかった。さらに、計画では再利用する高価な溶剤の再利用率の低さ、エネルギーコストの上昇、非常に軽量な廃PS材の収集・運搬コストがかさみ、再生材はバージン材に比して大幅に高くなり、プロジェクトの提携先以外への販売の可能性は、ほぼない状態であった。巨額な資金は、運営費として利用され、利益は何も残らない状況であった。

プロジェクトは、ドイツ、オランダ、そしてEU政府の協力のもと多数の参画企業を集めて大々的にスタートしたが、5年間の実証実験後にはドイツのGECグループが所有することで終わり、それ以上の発展はないままである。

この事例の特徴は、CEにおける失敗事例の典型的なものである。

世の中の「困り事」である廃PS/EPS/XPSの極めて低いリサイクル率が、背景には存在していた。

新しいリサイクル技術の開発により、その「困り事」を解消しようとした高いモチベーションがあった。それ自体は素晴らしいことであるが、そのモチベーションが現実可能性の精査を蔑ろにして進められ、結果として巨額な資金と5年の歳月を掛けた単なる実験で、ほぼ終了したのである。その後、CreaSolv®技術が他でも採用されたケースはほとんどない。


4. 事例③ 既存のリサイクル事業をCEに特化し一定の成功を収めた事例

米国 TerraCycle社
【一定の成功を収めた要因】
 ・リサイクルが困難な廃棄物のみをリサイクルし完全に材料化するという新しいリサイクルビジネスモデルとして大企業や自治体の要望に応えた
 ・リサイクル困難な廃棄物を比較的高価な処理料を徴収することで、徐々に利益を出した
 ・リサイクル技術そのものは既存の選別技術を利用しており、革新的なものはほとんどない
 ・利益を自社の利害関係者が組織する環境財団への寄付とすることで、節税効果とイメージアップを図り、資金管理を有利にした
 ・一部のNGOからは事業モデルの環境負荷に疑義があり訴えられたが、第三機関によるLCA調査で、同社のビジネスモデルは環境負荷が低レベルと評価された

TerraCycle(テラサイクル)社は、リサイクルが難しい廃棄物のリサイクルを専門とする米国のリサイクル企業で、現在、世界20ヵ国で事業を運営している。

ビジネスモデルは、提携する企業や団体に回収ボックスを設置したり、産業廃棄物を提携先から回収したりする一般的な廃棄物管理会社とそれほど変わらない事業モデルである。

同社の差別化は2つある。

1つ目は、回収する廃棄物が、主にリサイクル困難な有害/非有害廃棄物に特化し、ほぼ全てをリサイクル材料化ていると宣伝していることである。

2つ目は、それらの廃棄物について、処理プロセスから生成再生材の活用までを事前に評価して比較的高額な料金を決めていることである。

収集した廃棄物は全て再利用すると保証することにより、環境を重視する多国籍企業や地方自治団体は高い処理料金を払っても、自社の宣伝効果で相殺できる。そのため、TerraCycleのパートナーには、複数の大手のたばこ会社、ロレアル、ペプシコ、P&G、クローガー、世界最大の廃棄物管理会社スエズなどが含まれている。

環境を重視する欧米の大手企業は、自社が環境汚染を引き起こしているというイメージを嫌うため、TerraCycle社の事業モデルを一定程度利用する価値があると判断している。

TerraCycleの創業者や役員は、河川や海洋廃プラスチックを削減する「テラサイクルグローバル財団」を立上げ、同財団がTerraCycleの利益の寄付先の1つとなっている。利益の多くを節税対策の高い慈善団体への寄付していることも、同社の特徴である。


5. 解説

CEで企業が一定の成功を収めるためには、いくつかの要素がある。
1つ目は、二次原材料市場があるか、または比較的容易に創出できるか
2つ目は、二次原材料を使うことで製品やサービスのコストダウンまたは付加価値を高めることができるか
3つ目は、CEにより環境負荷低減を通じた「社会貢献」をどのように宣伝可能か
である。
それらを見極めたうえで現実可能性の調査を行うことが肝要と考えられる。

Wood Mackenzieの報告書では、欧州でもCEの実現がほとんど達成されていない、という結論となった。実は、CEが成功しない本当の理由は、上記以外に、社会意識と投資家にあると考えられる。

投資家は、企業を評価する時に「ESG」を表面上は評価するが、実際には企業業績が悪ければ、いくらESGの評価が高くても評価はしない。市場でも、株価は下がり企業評価も上がらないというのが現実である。社会や投資家の意識が変化するまで、企業のCEへの移行には、想像以上の長い道のりが待っていると考えられる。

CEの理想的な成功とは、CEによって財務的に企業業績が上がり、投資家を満足させ、その業績により社会的にも評価を得ることである。

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