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生物多様性条約(CBD)とは?企業担当者が押さえるべき基礎知識

近年、急速な都市化や産業の発展、気候変動などによって、生物多様性は深刻な危機にさらされている。こうした状況を受けて、国際社会は持続可能な開発を目指し、生物多様性を保全するための取り組みを進めている。その中で重要な役割を果たしているのが生物多様性条約だ。本稿では、生物多様性条約の基本的な概要、設立の背景、具体的な目的やその国際的な枠組みについて解説する。

目次

  1. 生物多様性条約(CBD)とは
  2. 生物多様性条約の設立背景
  3. 生物多様性条約の3つの目的
    3-1.生物多様性の保全
    3-2.生物多様性の構成要素の持続可能な利用
    3-3.遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分(ABS)
  4. 生物多様性条約の仕組みと国際的な枠組み
    4-1.締約国会議(COP)
    4-2.愛知目標の策定と評価
    4-3.昆明・モントリオール生物多様性枠組
  5. まとめ

1.生物多様性条約(CBD)とは

生物多様性条約(Convention on Biological Diversity, CBD)とは、生物多様性の保全とその持続可能な利用、さらに遺伝資源の利用から生じる利益の公正な分配を国際的に推進することを目的とした国際条約だ。この条約は1992年の地球サミットで採択され、1993年に発効した。生物多様性とは、地球上の様々な生物の多様性を指し、遺伝子、種、生態系のレベルでの多様性を含む。生物多様性の保全は、生態系の健全な機能を維持し、食料、水、薬品などの資源を提供するために不可欠だ。生物多様性についてのさらなる基礎知識については、生物多様性とは何か?その重要性と理解を深める基礎ガイドを参照されたい。
生物多様性条約は、生物多様性の損失が地球規模で深刻化する中で、各国が協力してその減少を食い止めるための枠組みを提供する。条約の締約国は、国内の生物多様性戦略を策定し、実施することが求められている。また、生物多様性の保全と持続可能な利用に関して、科学的・技術的な協力や技術移転の促進、能力構築や情報交換、教育、意識向上にも焦点を当てている。生物多様性条約は、環境保全における重要な基盤を形成し、持続可能な発展の実現に寄与している。条約の枠組みは、定期的な締約国会議(COP)を通じて見直し・更新され、条約の目的を達成するための新たな目標や計画が策定されている。

2.生物多様性条約の設立背景

生物多様性条約の設立背景は、20世紀後半における地球規模の環境変化と、それに伴う生物多様性の急激な損失の認識から始まる。産業の発展や人口増加による自然環境への圧力が増す中で、多くの種が絶滅の危機に瀕し、生態系のバランスが崩れる事態が頻発している。このような状況に対して、国際社会は一刻も早い対応が必要であると考えるようになった。1980年代には、国際的な議論の中で生物多様性の重要性が強調され始め、科学者や環境活動家がその保全の必要性を訴えた。これにより、各国政府は生物多様性の保護を優先課題として捉えるようになった。
この流れを受け、1992年のリオデジャネイロにおける地球サミットでは、生物多様性条約が公式に採択された。地球サミットは、環境問題に関する国際的な合意を形成する場として機能し、生物多様性条約の採択はその一環として位置づけられた。
こうして生物多様性条約は、地球規模の環境問題に対処するための国際的な枠組みとして、各国の協力と共同行動を促進するために設立された。条約の成立は、生物多様性の重要性とその保全の必要性を世界的に認識し、具体的な行動をとるための基盤を提供するものとなった。

3.生物多様性条約の3つの目的

生物多様性条約の目的は、多様な生物資源を保全し、それらを持続可能な形で利用するとともに、その利用から生じる利益を公正かつ衡平に配分することにある。これらは条約の3つの基本的な柱として位置づけられ、国際社会が協力して生物多様性の危機に対応するための指針となっている。

3-1.生物多様性の保全

生物多様性の保全は、地球上の生物の多様な生態系を維持し、自然の健全な機能を保つことで、人間社会と自然環境が調和して共存できるようにすることを目指している。生物多様性が保全されることで、生態系はその機能を持続的に果たし、食料や医薬品原料の供給、気候調整、水資源の浄化などの生態系サービスが提供されることで、人々の生存にとって不可欠なサービスを提供し続けることができる。生物多様性の保全には、陸上および海洋の生態系の保護、絶滅危惧種の保護、遺伝的多様性の維持が含まれる。これらの活動は、保護区の設置や管理、持続可能な土地利用、違法な野生動物の取引の防止、外来種の管理といった取り組みを通じて実施される。

3-2.生物多様性の構成要素の持続可能な利用

生物多様性の構成要素の持続可能な利用は、生態系の健全性を維持しつつ、人類の経済的および社会的ニーズを満たすために重要な取り組みだ。この概念は、自然資源の利用が将来の世代にとっても持続可能であることを確認することを目的としている。持続可能な利用は、資源の過剰採取を防ぎ、生態系の回復力を高めるための管理手法を導入することにも重点を置いている。具体的には、漁業、森林管理、農業などの分野での持続可能な実践が含まれる。これにより、生物資源の利用が環境に与える影響を最小限に抑えつつ、社会経済的な利益と生物多様性の長期的な保全を両立させることがを可能になる。

3-3.遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分(ABS)

遺伝資源の利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分(Access and Benefit-Sharing, ABS)は、生物多様性条約の3つ目の主要な目的として位置付けられている。遺伝資源は、医薬品や農業、工業製品の開発に利用される動植物の遺伝子情報を指す。これらの利用は研究や産業活動において重要な役割を果たしている。しかし、遺伝資源はその提供国の貴重な自然資産であるため、適切な利益配分が求められる。ABSは、遺伝資源を提供する国とそれを利用する企業や研究機関との間で利益を公平に分配するための仕組みを提供する。さらに、ABSは科学技術の進展を促進するだけでなく、持続可能な開発目標の達成にも寄与する。国際的には、ABSの着実な実施を確保するための手続きを定める国際文書である名古屋議定書がABSの具体的な枠組みを提供しており、その実施により、多くの国が遺伝資源の利用と利益配分に関する国内法を整備している。

4.生物多様性条約の仕組みと国際的な枠組み

生物多様性条約は、多様な生態系とその構成要素を保護し、持続可能に利用するための国際的な枠組みを提供している。この条約の仕組みは、主にCOPを通じて運営され、各国が協力して生物多様性の喪失を防ぐための戦略を策定する。2010年に名古屋で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(以下、COP10)では、生物多様性の損失を防ぐため、2020年までの世界目標として愛知目標という具体的な目標が設定され、各国がそれを達成するための努力が求められてきた。そして2022年には、新たに昆明・モントリオール生物多様性枠組が採択され、2030年までの目標が設定された。生物多様性条約の枠組みは、各国政府だけでなく、民間セクターや市民社会も巻き込み、生物多様性の危機に対処するためのグローバルな連携を促進している。

4-1.締約国会議(COP)

COPは、締約国会議(Conference of the Parties)の略で、多くの国際条約で加盟国の最高決定機関として設置され、締約国間での協力や情報交換を促進する場として重要な役割を果たしている。生物多様性条約に基づくCOPは通常2年ごとに開催され、各国の代表が集まり、生物多様性の保全や持続可能な利用に関する新たな方策を議論している。会議では、取り組みの実施状況の評価、目標の設定、新たな協定の締結、技術的支援の提供などが行われる。COPは、条約の目的を達成するための政策や計画を策定するだけでなく、各国の取り組みを促進し、国際的な協力を強化する役割も担っている。さらに、先進国と開発途上国の間での技術移転や資金支援の枠組みについても議論が行われ、これにより、各国が持続可能な発展を達成するための基盤を強化している。

4-2.愛知目標の策定と評価

愛知目標は、生物多様性の損失を食い止めるため、2010年に名古屋で開かれたCOP10で採択された20の目標群だ。これらの目標は、2020年までに達成すべき具体的な行動指針として設定されており、生態系の保全や持続可能な利用、遺伝資源の公平な分配など、多岐にわたる分野をカバーしている。愛知目標の策定は、世界中の生物多様性の現状を改善するための重要なステップであり、各国がそれぞれの国内政策に反映させることで、国際的な協力を促進した。しかし、地球規模生物多様性概況第5版(GBO5:Global Biodiversity Outlook5)によると、目標年である2020年の時点で、完全に達成に至った目標は一つもなかった。報告によると、目標の達成度には地域差があり、特に資金や技術支援が不足している開発途上国では進捗が遅れていることが指摘されている。これにより、生物多様性の保全に向けたさらなる努力が求められ、新たな国際的な枠組みの必要性が強調された。愛知目標の達成度を評価することにより、今後の生物多様性保全に向けた課題と機会が明確になり、次のステップへとつなげる貴重な教訓が得られた。

4-3.昆明・モントリオール生物多様性枠組

昆明・モントリオール生物多様性枠組は、生物多様性の保全に向けた国際的な取り組みとして、2020年以降の新たな目標を設定するために2022年に採択された。この枠組は、生物多様性の損失を食い止め、自然と人間社会の調和を促進することを目的としている。具体的には、「自然と共生する世界」という2050年ビジョンを掲げ、2030年ミッションとして、2030年までに世界の陸地と海洋の30%を保護地域に指定することや、生態系の持続可能な管理を強化することが掲げられている。さらに、遺伝資源の利用から得られる利益を公平に分配するための仕組みを整え、開発途上国の能力構築を支援することも含まれている。
この枠組は、生物多様性の危機に対する国際的な協力と連携を強化し、各国が共通の目標に向けて取り組むことを促進する。また、持続可能な開発目標(SDGs)との整合性を図り、気候変動や土地劣化、海洋資源の持続可能な利用など、関連する環境問題への包括的なアプローチを提案している。さらに、科学技術の革新や資金の確保、教育と意識向上を通じて、生物多様性の価値を広く認識させることも重要視されている。

TCFDシナリオ分析の実施

図:昆明・モントリオール生物多様性枠組における2050年ビジョンとグローバルゴール、2030年ミッションとグローバルターゲットの概要
(出典:環境省)

5.まとめ:生物多様性条約の重要性

生物多様性条約は、地球上の生命を守るために国際的に協力して取り組む重要な基盤だ。人間活動による急速な環境変化や生態系への影響が深刻化する中で、私たち一人ひとりがこの条約の意義を理解し、行動に移すことが求められている。特に企業担当者にとっては、自社の活動が生物多様性にどのような影響を与えるのかを考慮し、持続可能なビジネスモデルを構築することが重要だ。生物多様性条約の理解を深めることは、地球環境への貢献だけでなく、企業の社会的責任を果たす一助となる。そして、この条約を理解することは、私たち一人ひとりがどのように地球環境に貢献できるかを考えるきっかけにもつながる。企業や個人が生物多様性の重要性を認識し、持続可能な活動を実践することが求められている。

【参考資料】
生物多様性条約(CBD)について|WWFジャパン
Convention on Biological Diversity
生物多様性条約|環境省
生物多様性条約(生物の多様性に関する条約:Convention on Biological Diversity(CBD))|外務省
生物多様性条約|経産省
昆明・モントリオール生物多様性枠組 ─ ネイチャーポジティブの未来に向けた2030年世界目標 ─|環境省